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6、出会い


思わず立ち止まった僕。音羽が不思議そうに僕を見てきた。

「おにぃ、ちゃん?」

音羽からの問いかけにハッとなり、僕は静かに中に入る。音羽にも「静かにな」と一言言い、靴を脱ぎ、リビングへ向かう。

扉を開けると、案の定父さんの姿があった。

「た、ただいま父さん。今日は早いんだね」

「パパぁ!」

「奏叶、音羽、おかえり。2人も早いな」

「うん、今日職員会議だから」

「そうか」

父さんは立ち上がり、玄関へ向かった。

「どこか行くの?」

「あぁ、少し出かけてくるよ」

「僕たち、このあとファミレス行くんだけど、父さんは……?」

間が空く。僕はその"間"に少し怯えた。

「そうか、俺はいい。2人で言っておいで。お金いるだろ、じゃあ」

そう言い、父さんは僕に5000円を渡し、家を出た。


僕は少し、視線を感じた。


緊張の走った時間が終わり、ホッと一息つく。

「おにぃちゃーん!音羽、準備おっけー!」

僕が父さんと話している間に、手洗いうがいも済ませ、出かけるとき用のお気に入りの鞄を持ち、僕に報告してくれた。

「そんな急がなくても大丈夫なのに」

僕はクスクスと笑いながらも、ニコニコ笑顔で、如何にもこれから楽しみですっという感じの音羽を見て、思わず頭を撫でる。そして、さっきまでの緊張も収まっていた。でもさっき父さんの話しているときに感じた視線のようなものは何だったのだろうかとも思いつつ、そんなことは忘れる。

「僕も準備してくるから、リビングで待ってて」

「はーい!」

元気の良い返事をして、リビングのソファでテレビを見始める。


僕は制服を脱ぎ、私服に着替える。たまに幻覚を見るかのように、手が血に染まっているように見える気がする。

(こんなときにまで……)

僕は一生、この辛さから抜けられないのかもしれない。


待っている音羽を待たせまいと、僕は準備を急いだ。



「おまたせ音羽、遅くなってごめんな」

「……あ、ううん!大丈夫!」

テレビを見てたせいだろうか、いつもならすぐに返事をするのに、今回は返事が遅かった。

(こんな細かいところまで気になるようになっちゃったんだな、僕……)

良い事なのか、悪い事なのか、それすら分からない。

テレビを消し、音羽は玄関へ向かう。自分の靴を履き終えたのか「はーやーくー!」と呼ばれる。

「はいはい」

と僕は返事をし、靴を履く。すると横から音羽が僕の靴紐に手を伸ばす。

「今日も結ぶのか?」

「うん!やる!」

音羽は、小3になってから紐を結ぶようになった。靴紐やリボン、僕の高校の制服のネクタイでさえも結ぼうとする。

自分でやりたいお年頃なのだろうかとも考えたが、僕自身なんだか嬉しかったから、音羽が結びたいと言ってきたときは結ばせている。

ふと音羽の髪を見ると、さっきと髪型が変わっていた。

「あれ、髪、変えたのか?」

丁度靴紐を結び終えた音羽はまた嬉しそうにニコニコする。

「うん!三つ編みっていうんだよ!」

「音羽は器用だな〜、靴紐ありがとな」

そして、いつも通り頭を撫でる。サラサラの髪。どこか懐かしさも感じた。

「よし!行こう」

「うん!」

玄関のドアを開け、外に出る。鍵をかけ、僕たちはファミレスへ向かった。




「いらっしゃいませ〜何名様ですか?」

「2人です」

「ご案内致します。2名様ご来店でーす」

「いらっしゃいませ〜」


お店あるあるの挨拶に少し肩身が狭くなる。

席に案内され、窓側の席に座る。

「ご注文お決まりになりましたら、ボタン押してくださいね〜」

「はい、ありがとうございます」

店員さんが去って行った。

早速メニューを開き、デザートの面を音羽に見せる。

「パフェはー、これかな?」

音羽は、沢山のデザートメニューに目を輝かせる。

「これも美味しそう!あ、これ音羽の好きなフルーツ!んーどれも美味しそうー!」

2枚あるメニューの1つを音羽に見せている間、僕は何を食べようかとメニューを開く。

(ご飯は家で食べるし、やっぱり軽いものだとデザートか?)

久しぶりのファミレスで、僕は少しテンションが上がる。

「決まった!これ!あとジュースも!」

僕が悩んでいる間に、決まったらしい。音羽の指さすものは、まさかのパフェではなくパンケーキ。

「あ、あれ?パフェは?」

僕は動揺する。

「こっちの方が美味しそうだったから!」

よく見るとパンケーキにはいちごが乗っていた。音羽のいちごが好きだから妥当の判断だろう。

「じゃあ、僕はこれかな」

「あれ?おにぃちゃんパフェにするの?」

「うん、チョコだし」

内心、僕はやっぱりパフェ食べたいと言い出すだろうとも思い、パフェをチョイスした。まぁあとは僕がチョコ好きなだけで……


ボタンを鳴らし、注文をする。待っている間にドリンクバーへ向かう。

音羽はまだ背が低いのと、危なっかしいので、ドリンクバーのボタンを押す時は台を使うか、僕が抱っこする。

音羽が選んだのはオレンジジュース。コップを取り、ボタンを押そうと手を伸ばす。すると横から音羽より小さい男の子がこっちを見ていた。

「あ!僕のオレンジジュースー!」

取られると思ったのか、少し涙目になっていた。泣き出しそうなことを悟り、僕が謝ろうとすると、「すみません!」と"母親らしき人"から声をかけられる。

「りっくん!皆で飲むものだから、大丈夫だよ」

りっくんという男の子は、理解したのか涙を出さずコクンッと頷く。

音羽に目を向けると、流石に固まっていた。

「音羽、大丈夫だよ」

音羽を慰めていると、りっくんの"母親らしき人"が声をかけてきた。

「すみません!すみません!」

ペコペコと謝ってきた。

「いやいや、大丈夫ですよ。気にせずに」

と言い、お互い飲みたいジュースを注ぎ、席に戻った。

持ってきたジュースをゴクゴクと飲む。喉が渇いていたせいか、メロンジュースの炭酸の刺激に眉間に皺がよる。

すると隣の席に、さっきの男の子の"母親らしき人"が座る。あれっと思った僕は思わず顔を向ける。

子供が先に気づき「さっきの人〜」と指さしてきた。

すかさず"母親らしき人"に「コラッ」と怒られる。

「さっきはすみませんでした…まさか隣の席だったなんて」

「あぁ、僕もびっくりしました。偶然ですねぇ」

「ご兄妹なんですか?」

「はい。僕の妹です」

「そうなんですね〜さっきは驚かせちゃってごめんね」

"母親らしき人"は音羽に向けて謝る。

「…大丈夫ですよ!その子は何歳なんですか?」

音羽の大人びた対応に僕は少し驚いた。

「あぁ、この子今5歳なの。年長さん」

だろうなとも思いながら話を聞く。

「貴方は何歳なの?」

「私は9歳!小学校3年生!」

「わぁお姉さんだねぇ、りっくんお姉さんだよ〜」

「りっくんのお名前聞いてもいいですか?」

「この子は理太(りた)あなたは?」

「音羽!こっちがお兄ちゃん!」

急なふりに驚きつつも「奏叶です」と自分の名前を答える。

「2人とも素敵なお名前ねぇ」

ニコニコする"母親らしき人"。音羽が口を開く。

「あなたはお母さん?」

"母親らしき人"は少し不思議に思ったのか、頭の上にハテナが見えた。

「えぇ、りっくんのお母さんです。めぐみです」

母親と聞いた音羽の顔は少し怖かった。


そうこうしているうちに、頼んでいたメニューが届く。

念願のデザートに目のキラキラが止まらない音羽。パクパクとフォークをすすめる音羽は幸せそうだった。

隣の席に座っているめぐみさんが「かわいい〜」と音羽を褒めてくれた。

「おにぃちゃん!パフェも!」

案の定、僕のパフェに目をつける。予想通り過ぎて笑った。


あっとゆう間に僕達は食べ終わり、席を立つ。

「よし、帰るか」

隣をチラッと見るとめぐみさんとりっくんに手を振られる。

「またどこかで会えたら」

そう言って、会計をし、ファミレスをあとにした。


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