2、空気変化
私自身奏叶くんの立場だったらどうなんだろうと想像しちゃいます。多分奏叶くんと同じ震えて過ごすかな?妹愛溢れるお兄ちゃんってイメージが付き始めると思います!
足早にお互い自分の部屋へ向かう。
弁当箱を出し、僕はリビングにあるキッチンへ向かった。
(今日は何も聞こえなかった。何故だ。父さんは今日家にいるはずだが……)
そう考えながらもキッチンでお弁当箱を洗う。
父さん。そう、僕の父親。僕はあいつが嫌いだ。
「おにぃちゃん」
ハッとする。
「どおしたの?顔色悪いよ?雨だったから風邪ひいちゃった…?」
心配そうに僕の顔をみる音羽は何故か泣きそうな顔に見えた。
(優しい。音羽は優しい。)
僕は音羽の優しさに涙が出そうになった。
「何でもないぞ!ほら音羽、宿題終わらせたらゲームやろうぜ!」
その言葉に音羽の表情がパッと変わる。
「ほんとー!!お兄ちゃんとゲームできるの久しぶりだなぁ音羽ね!あれやりたい!」
と言い音羽ゲームが置いてある棚からカセットを持ってきた。音羽の大好きなゲームだ。キラキラと輝かせる音羽の表情に僕は安心する。
(あーあ、俺は相当シスコンだなぁ)
可愛くて堪らない妹を目に、僕も一緒に宿題を始めた。
「きゃはは!お兄ちゃん負けー!」
楽しそうに笑う音羽と一緒に僕も笑った。
こんな日々が毎日であってほしいと僕は心の中で願う。
気づけば時計は18時を指していた。帰宅してから約3時間。時間忘れて過ごしていた。あわてて僕は夕食の支度をしようと急いだ。
────ガチャ
玄関とドアが開く音に僕は背筋が凍った。
(帰ってきたんだ)
僕は急いでキッチンへ向かった。リビングのドアが開く。
父さんだ。
「あ、パパー!」
音羽は父さんに駆け寄り、嬉しそうにしがみついた。そんな明るい展開とは裏腹に僕は心臓の鼓動がうるさい。
(今日は仕事だったのか?いや仕事着じゃない。ならなんだ?出かけてたのか、でも僕は聞いてない────)
「奏叶」
父の声に我に返る。
「はい、父さん」
「なんだ、まだ準備してなかったのか」
その言葉に冷や汗が出る。
「急いで作るから。先お風呂どうぞ」
僕の言葉に、父からの応答がない。
(まずい、まずい、まずい、まずい、まずい…)
返答の待っている間が、とても長く感じる。
「そうだな」
父さんは音羽を下ろして、風呂場へ向かった。
風呂場のドアが閉まったと同時に僕は力が抜ける。まるで魂が抜き取られるように…そんな僕の様子を音羽はどう思ったのだろう。そう思いながら、音羽の目線が僕に向いていることに気づきながらも、僕は夕食の準備を始めた。
「いただきます」
何とか父が風呂から上がる前に夕食を作り終えた。作り置いておいたハンバーグだ。
僕の恐怖は終わらない。ふと横に座る音羽の方へ目を向けた。美味しそうにパクパク食べる姿に思わず聞いた。
「美味しいか?」
すると妹は僕の方に顔を向けこう言った。
「うん!やっぱりお兄ちゃんのハンバーグは世界一!音羽、お兄ちゃんの作るご飯全部好き!」
僕は固まってしまった。いい意味でだ。僕は嬉しさを言葉て表すのが苦手だ。そのせいか、僕は音羽の頭を撫でることしかできなかった。
「奏叶」
父からの呼びに僕の笑顔が消える。
「はい、父さん」
「お前、最近勉強はどうなんだ?テストが近いんだろう。」
低い声が僕の心臓をまたうるさくする。
「今回は僕、苦手な分野多くて──」
ガタンッッッ!!
その音に僕も音羽も父を見た。
「奏叶、夕食終わったら父さんの部屋に来なさい。」
硬直している僕に父さんは言った。真っ直ぐな父さんの目はまるで獲物を狩る狩猟のように見えた。
「はい、わかりました」
いつもの返答、いつもの展開、あぁ…またやってしまったと僕は自分の言葉に後悔した。お腹が空いてるはずなのに、美味しいはずなのに、何故かハンバーグがただの味のない肉の塊のように感じた。