1、静か
春か夏か分からぬこの季節。そんな時にしとしとと降る雨はぬるく感じた。地面に広がる水溜りに、まるで子供のようにバシャっと飛び込みに行く。履いている靴がジワジワと濡れていく感覚は、とても気持ち悪い。そんな時、車が横を通った。
「うわっっ!」
僕は濡れた。帰り道だったのが不幸中の幸いだ。しかし、雨が振る中、通行人がいるのにも関わらずスピードを出てきたあのトラックを僕は睨む。
「まぁこんなの…いつものと比べれば……」
僕はそう呟き、また歩き出した。
「おにぃちゃーーん!!」
声の聞こえた方へ体を向けると、そこには妹の姿があった。満面の笑みで手を振っている。丁度、妹も学校帰りなのだろう。手を振る妹の方へ、僕は少し足早に歩き出した。
「音羽は相変わらずでけぇ声」
そう僕は言った。すると音羽は僕の顔を見てこう言う
「褒めてるのか馬鹿にしてるのか分からない!」
僕にとっては褒め言葉だ。なぜなら僕は声が小さい。音羽のような明るさも、元気さも、活発さも、勉強も運動も…僕には何もない。ひたすら音羽が羨ましかった。
他愛もない会話を交わすうちに家に着いた。僕は深呼吸をする。静かに鍵を開け、恐る恐るドアを開ける。静まりかえる家の中に耳を傾ける。
「よし、いいぞ音羽」
コクンと頷く音羽を先に家の中へ入れる。僕は後ろを振り返り、唇を噛み締めた。僕は後ろを振り返り、唇を噛み締めた。まるでこの景色を見るのが最後かのように。そして僕は静かにドアを閉めた。