落ちぶれた神様に攫われた私
神様っぽくない神様と前向きな女の子のお話です!完成させることを目指して頑張った話です。拙い文章ですが楽しんでもらえると嬉しいです!
「えっと頼まれてたのはこれぐらいかな〜後は帰り道で食べる用のアイスっと」
スマホで母と妹に頼まれてたものを確認しながら自分が食べる用のアイスをカゴに入れた。
しとしとと雨が降る梅雨のこの時期何か冷たいものが欲しくなるのは何故だろうと考えながらコンビニのレジで会計をする。
買い物を終え、コンビニを出て左の住宅街に出る歩道を歩いていると前から深くフードを被った背の高い男性が歩いてきた。
聞こえはしないがブツブツと何か独り言を言っている。
ちょっと怖いな……早く通り抜けよ
ラッキーな事に周りはまだ夕暮れ時でそんなに暗くなかった
人もちらほら歩いていて交番もすぐ近くにある。
怖いけど通り抜ければ安心安心〜と私の心は凄く油断していた。
予定通り男は私を通り過ぎてホッとして私もさて家に帰ろう!と思った時
目の前にはさっきの男が立っていた
な、なんで!?どうして!?
通り抜けたよね!?今さっき!!後ろに行った筈なのにどうして私の目の前にいるの?!
驚きと恐怖でピシッと固まる、そんな私の手を男は掴んできた。
「い、いゃ……」
か細い、蚊の鳴くような声しか出なかった。
で、でも!幸い今はまだ夕暮れ人通りも少なくないし嫌がってたら誰かが通報してくれるかも!
そう思い男から手を振りほどこうとする
だが男の腕は一切動く気配がない
え!?何この人石でできてるの!?それぐらい硬いよ!?
諦めるな私!そろそろ誰かが気づいてくれるはず!
と、前からスーツを着たサラリーマンと手を繋いでいる親子が歩いてきた。
この距離なら近い!ちっちゃい声でも届くはず!
そう思い手を振り払おうとしながら
「誰かたすけて……」
と口に出した。
……だがサラリーマンも親子も私たちを見る事なく通り過ぎて行った。
え?どういうこと?今のなら確かに嫌がってるの見えたはずだし声もどうにか聞こえたはずだよね?
まるで私なんか見えてないような感じで過ぎ去っていった。
汗がだらだらと流れてきた。
するとまた前から人が歩いてきた。
お巡りさんだ!!丁度いい!
私はまた精一杯腕を離そうとするがやっぱり全然動かない。どうなってるの!?
お巡りさんが私たちの横を通った時、私は全力をだして
「助けて!お巡りさん!!」
そう言った
言った
はずなのに
又もやお巡りさんは私の声なんか姿なんか見えてないように過ぎ去って行った。
どういうこと?
私皆に見えてないの?
涙目になりながら男を見上げる。
151cmと背の低い私からすると首が痛くなるほど背の高い男だ。
フードから飛び出る髪の間から覗く瞳はギラついていた。
男はやっと口を開いた
「着いてこい」
「……っ」
その声は耳に低く響いた。
思わずビクッと身を震わせる
どうせ私が助けてって言っても誰も聞いてもくれないし見てもくれない……というか見えてない?その悲しい事実にもう抵抗する気も早くも無くなっていた。
私殺されるんだきっと…………
「ここだ……」
涙ぐみながらくいっと男に引っ張られる方に足を動かした。
数分は歩いた
不思議な事に男が行く道は進めば進むほど人が少なくなっていき建物もなくなっていった。
あぁこれは本当に私を殺す気なんだ……酷いことして殺す気なんだ……
そんな悪いことを考えながら歩いた。
ピタっと男が足を止める
突然の事で思わずわふっ!っと男にぶつかってしまう。
ふんわりと男の匂いがした。
石鹸とかそんな感じの匂いじゃなくて雨の日の匂いの様な……ってそんな事悠長に考えてる場合じゃない!!私は今からこの男に乱暴されて殺されるんだよ!?
「着いたここ……」
着いたと男が言った。
さて、私はどんな所に連れてこられたのですかね?とチラリと見るとそこはボロボロの神社だった。あれ?近くに神社なんてあったっけな?
赤い鳥居は所々塗料が剥げていて中にある賽銭箱も割れて真っ二つになってしまっている。
周りには草木がまだらに生えていて手入れされてない事が分かる。
その奥に神様が祀られているだろう御社殿って言うんだっけ?そういうところ。
そこも屋根は穴が空いていて壁の板もボロボロだった。
まぁ、確かに人目も少ないしどころか人なんてこないだろうし殺すには最適なのかしら。
今から殺されるであろう人間の感情としてはおかしいほど私は落ち着いていた。
先程あった男に対する恐怖心も何故か少し落ち着いている。
今なら男と話せるかもしれない!話したらどうにか和解して見逃してくれるかも!
と、男をあまり逆撫でしないよう優しくなるべくフレンドリーを意識して話しかけた。
「えと……ここの神社は何かあるんですか?」
「………………」
男は無言でじっと私を見つめると神社の中に足を進めた。勿論私を引っ張って
うああああああん!話しかけたの失敗だった!?それとも嫌な事言っちゃった!?心の中で泣きながら男について行く。
男は鳥居を過ぎ賽銭箱を越え御社殿の襖を引き中へと入った。
中は予想してたよりも綺麗にされていただがやはりボロいところが目立つ。
天井から空見える〜
上を見上げているとやっと男が手を離し声をかけてきた
「そこ……好きなとこ座って」
「え、あ、はい」
私は言われたまんま御社殿の中のなるべく綺麗な所に腰を下ろした。
何故か男も隣に座る。
な、なぜだ。
殺す前のトークでもしようと言うのか
無言で悶々と悩んでいたら
「俺この神社の神様なんだよね」
唐突に
ほんと唐突に男は言い放った。
私は神社とか神様とかそういう話は好きだ。
だって2次元を思わせるから
それに大体そういうの信じてる。
ちっちゃい頃から神様はいるものだと思って生きてきた。
だが、とは言っても今日会ったばかりのしかも不審者にそう言われても信じれない。
思わずじぃっと男を見つめると
「信じてないねその顔」
男は指をパチンと鳴らした
瞬間体が硬直したように動かなくなった。
手を動かそうとしても立ち上がろうとしても全然動かない。
え?本当に??ぐぎぎぎぎ!やっぱり 体は動かない!
ほ、本当に神様?
男を見つめて動かない体で、だが心の中で驚いていると男が被っていたフードをとった。
少しだがボサボサした顎ぐらいある髪の毛がさらりと流れる。
長い髪の間から覗く双眸は青くてとても綺麗だった。
というか男自体がすっごくイケメンだった。
思わぬ役得……役得と言っていいのか?これ
と思いながらも男を見ているとつーっと涙が流れた。
体が動かないって事は瞬きも出来てない状態で目が乾燥してしまっているのだ。
「やっぱり、泣くほど怖かった?」
いや違うんです。目が乾燥して涙が出ただけです……というかもうこれ解いてー!!目が段々と痛くなってきた!
パチンとまた男が指を鳴らした
「……っは!!……うっ、動く!」
流れた涙を拭い瞼を擦る。
いいーーっ!やっとで瞬きできる!
思う存分瞬きしながら痒かった足もかいといた。
またいつ体を動かなくさせられるか分からないしね!!
「泣くほど怖かった?大丈夫……今は何もしないから本音で答えていいよ」
男が口角を上げ、美しいと思う程の微笑みを見せながら言った。
だが私は男の顔を脳内に焼き付けながらもこの質問の答えを考えていた。
まるで乙女ゲームの選択肢。
言えばヤンデレ系攻略対象の一歩間違えれば死というENDが待ってる選択肢。
これは簡単に答えられない。
というか神様なんだから私の心とか読めてる?
今んとこそんな素振りは無いけど……
本音で……本音でって言ってるくらいだから本当の事、言った方がいい、よね?
私はもし心を読まれていた時の事も考えて事実を言うことにした。
「えと、ですね。涙を流したのは体が動かず目が乾燥したからであって……怖いのは、最初怖かったんですけど何でですかね?今はそんなに怖くなくてですね……」
必死に男に説明していると男はぷっと笑いだした
「はは……っ!あっはははは!!やっぱ面白いあんた、目付けてた甲斐があったよ。大丈夫魂見たら本当の事言ってるって分かるよ」
唖然。
唖然して私は男を見た。
お、面白い??目を付けてた!?魂見たら本当の事だって分かる?
今の私はきっと頭の上に?を生やしているだろう問題発言ばかりだぞこの男。人間だったらもし私が無事だったとして通報したら即逮捕だぞ。
「あんたの名前……教えてよ」
「な、名前ですか?」
どうしよう知らない人に名前教えるなとか親に言われてるけど今そんな状況じゃないよね。
「五月 あめです。さつきは五月って書いてあめはひらがなであめ」
「へぇ〜変わった名前だね。でも親近感湧くかも……おれの名前、刻時雨っていうんだよね。ほら時雨の最後って雨って書くじゃん?」
刻時雨って言うのか……!この男は
中々かっこいい名前じゃないか確かにちょっと神様っぽい名前かも……雨が付くっていうのも親近感湧くって分かる感じがする。
「あめって呼んでいい?というか呼ぶけど」
どうぞお好きに呼んで下さいな、と心の中で思う。
ん?では私はこの人……ではなく神様なんだよなぁ。だったらこの神を何と呼んだらいいんだろうって私は会話する気満々かー!一人でつっこんでいると
「俺の事は刻時雨って呼んで、あめ」
とけるような笑顔で刻時雨が言った。
勿論心のカメラで撮りアルバムにその笑顔を仕舞った。
無駄に顔が良い……!!この神は!
こんなに顔が良ければ私なんかよりもっと可愛い子が生贄?嫁?としてくるはずなのに。
漫画とか小説では定番よね神様の生贄とか嫁にされた少女が神様と幸せに暮らすの。
いいなぁ私も憧れちゃうわ……生贄とかちょっと怖いと思うけど。
この神も出会いがあんなんで無ければなぁ
どうしてこんな事したんだろ
やっぱり私を殺すためなのかな……
しゅんと神を見ていると
さらっと神が私の髪をすくいとった。
神が髪とかダジャレじゃないよ?
「あめは魂見なくても表情で分かるね……今しゅんとしてるでしょ」
まぁ、それは殺されるかもしれない身ですので。多少神の美貌にときめいても安心はできないですね。
ちゅっと神が私の髪に口付けを落とした。
思考が止まる。
そして今神がした事を思い出して
顔が真っ赤になる。
「ふふっ凄い顔真っ赤。……安心して別にあめを殺したりはしないよ。」
「え、じゃあ何で私を拐ったりしたの?」
殺したりしないと聞いて自然と言葉が出た。
殺しが目的ではない……なら何故私を拐った?そういえばさっき私に目を付けてたとか言ってたような。
不思議に思い刻時雨の言葉を待っていると
「道でたまたま見かけたとき。綺麗な魂だと思ったんだ……その日はそれで終わったんだけどまた見たくなって次の日あんたの家を特定して後ろから着いて行ったんだ」
やっぱ神様は魂が見えるのか〜
てか私の魂綺麗なのか……悪い事も考えたりするけどな……今日のバイト先の客嫌なやつだったな〜タンスの角で小指百回ぶつければいいのにとか。
いやいやそれより特定!?
神様だから……簡単にできるのか?そんな事
「次の日も次の日もそのまた次の日も見れば見るほど惹かれてって……そんな時他の子と歩いてるあめを見つけて笑顔でその女と話してるとこ見たら…………絶対に手に入れたくなって」
ヤンデレ……
ヤンデレやこの神
「今日はその衝動がとうとう抑えられなくなって……俺の神社に連れてきた。ごめん強引な事して」
刻時雨がしょぼんとする。
幻覚か犬の耳としっぽも見えるようだ。
というかその顔でそんな表情しないで〜!!!
私の母性が!ヤバい!!
神が可愛く見えてくるじゃんか。
やってる事ストーカーと不審者だけども。
「…………一人はもう耐えられなくなって。俺、寂しくて……ごめん、あめ嫌いにならないで」
涙目で訴えてくる刻時雨。
ズキュンとハートに矢が刺さったような気がした。
待って……待ってそんな顔しないで
きゅっと刻時雨が私の服の裾を掴む。
強引ヤンデレ系と思ってたらわんこ属性かぁーっ!!
このやろう!どんだけ属性持ってるんだ!私を萌え殺す気か!?
リアルで萌えるとかないと思ってたけど、ほんとにあるんだね?!こんな事!いや相手神だから半リアル??なんだ?
訳分からなくなってきたところでふと、出会った時に気になっていた事を聞いた。
「そういえば、刻時雨が私の腕を掴んでた時周りの人に私が見えてないような私の声が聞こえてないような様子だったけどあれは刻時雨の仕業?」
刻時雨は目を伏せてぼろぼろと涙を流した。
えっ!?えっ!?なぜ泣く?!
「ご!ごめん!何か悪い事聞いた!!?」
思わず刻時雨の背中をさすってあげると涙は止み刻時雨は可愛らしい笑顔を見せた。
ヤバい。可愛い……
だがまたしゅんとした顔に戻る。
「あの時はごめん。あめ必死に逃げようとしてたから怖がってたから神術であめの姿と声聞こえないよう隠してた」
神術……神の技的な何かか。
隠してたかぁそっかこれで謎は解けたが刻時雨のヤンデレ疑惑度が上がってきた。
というか私を拐ってる時点でもうヤンデレだけどね。
いや私を好きではないからヤンデレでは無いのか?あれ?でも手に入れたくなってとか言ってたよね?子供がおもちゃを欲しがるようなもの??分からない分からなくなってきたよおぉ!
刻時雨は私を手に入れたくなったって言った。
でも好きとは言ってない……うーん。
難しい!難しい事だぞこれは
刻時雨は私の事をどう思ってるんだろ……
あれ?私何で拐った相手にどう思われてるとか気にしてるんだ?
でも、一回気になったら凄く気になる……。
聞いてみていいのかな。
いやいや変な女だと思われる
いや?刻時雨も変わってるから案外気にしないかも?
勇気をだして口に出してみた
「刻時雨は……私のこと、どういう風に思ってるの?そのやっぱり生贄とか……そういうの?」
私の質問に驚いたように刻時雨は目を見開き悩むような動作をした後口を開いた。
「今の俺はもう落ちぶれた神様だから生贄とかもらってもどうにもならないよ」
落ちぶれた神様……?
どういう事なんだろう……深掘りしていいのか悩み返答に困っていると刻時雨は自身の事をぽつぽつと語り出した。
その昔百年以上も昔雨を降らせる神様として刻時雨は生まれた。小さい神社の神だったが近くの村の人達には雨の少ない乾季に多いに喜ばれ供物を備えられた。刻時雨も村の人達に応えようと神の力を使って雨を沢山降らせた。生まれた頃の刻時雨はまだ子供の神様で人の子の姿に化けては村の子達と沢山遊んだ。自分の力で喜ぶ村人達を見るのが刻時雨にとってとても嬉しい事だった。
だが何年か経ったある時、村を大洪水が襲った。それは村の人も少なくない数が死に大きな災害となった。村人達は刻時雨の怒りだと思い残っていた僅かな供物を捧げた……
「俺は何もしてないのにね。自然災害だったんだあの大洪水は」
だが、災害は刻時雨が神として何百年かの間に何回も起こった。勿論刻時雨は最初の洪水の時から村人達を守ろうと雨を止ませようと何度もした。だが小さな神社の雨を司る神とはいえ力が弱く降ってくる大きな雨の力には勝てなかった。だけど諦めず刻時雨は何度も何度も止めようとした。
そしていつしか刻時雨の神社のある周辺の村は呪われた村と噂されるようになった。
村の人は呪いの怖さに他の村に移り住み供物は捧げられなくなり神社を掃除する人が居なくなり刻時雨を神と崇める人もいなくなった。神にとって人から崇められるのは神の力そのもの……崇める人がいなくなれば力も段々弱くなってくる。
刻時雨は自分の弱さと大洪水から村人を守れなかった事を悔やみ悲しんだ。
力があれば助ける事ができたのに……
刻時雨は一人ぼっちになった。
誰も自分を見てくれる人がいない
一緒にいてくれる人もいない
「俺はそこから落ちぶれた神様になった。人の目に映らないよう人に化けるのを止めこのボロボロの神社で一人ずっと長い間眠ってたんだ……眠るのって楽だよね何も考えずにいい夢を見てられた楽しかったあの日を思いだして。
でも十年前ふと起きてみたんだ……世界は変わってた。人も大分変わって色んな魂がいて大半は濁ってたけど。車!あれ凄いよねまるで馬ぐらい早く走る、スマホだっけあれで遠く離れてても連絡できるって便利な世の中になったね。
そんな時ね綺麗な魂の色をした女の子を見つけたんだ。可愛い笑顔で笑って、犬に吠えられてびっくりして、泣きながら帰ってた時もあったなぁその子を見ていると心が温まって…………あれ?あめ泣いてる?」
気付くと大粒の涙が頬を伝っていた。
「だって……刻時雨ずっと一人で……何も悪い事してないのに一人で頑張ってて、凄くて」
ひっくひっくと流れてくる涙を手で拭う。
涙は止んでくれない。
私の心は刻時雨の事でいっぱいだった。
最初は怖かった殺されるかと思ってた
けど話してみるとヤンデレなとこがあったりわんこみたいな可愛いとこがあったり意外と寂しがり屋でよく泣いたり綺麗な笑顔を見せたり……辛い過去があったり
「凄い……凄いよ刻時雨」
「ねぇあめさっきの十年前の綺麗な魂をした女の子を見つけたって話覚えてる?」
「あの犬に吠えられてびっくりしてた子?」
「当たってるけど覚えてるとこがそこなんだ」
ふふふっと刻時雨は笑った。
「あの女の子ね……あめの事なんだよ?」
「え?」
衝撃の事実に驚愕する。
刻時雨は私の魂を綺麗って言って目を付けてたって言ってたけどまさか十年前からだとは……
十年前って事は私が十歳の時?
犬に吠えられてびっくりしてたってのは私の事!?
「俺ね……多分あめを初めて見た時から……あんたの事好きだったんだ」
「ろ、ロリコンか〜!!」
「ろりこんって何?」
ま、まさかロリコンも持ってるとは……!!
って待って
刻時雨最後何て言った?
「わ、私の事を好き……?」
「そうだよ」
「うわっ……!!」
どさっと刻時雨に押し倒された。
急な事に思考が停止する。
え?私押し倒されてる?男の人に?いや神様だから男神?
目には綺麗な刻時雨の顔が映る。
整った顔立ちに綺麗な瞳の色天井から差し込む夕日の色で髪の毛はきらきらとしている。
「こういう意味で好きなんだけど……分かる?あんたちょっと鈍そうだから」
「……っ!」
好き……
と言われ胸がとくんとする。
今まではどこか冗談でしょとか、変わってるお前面白いから好きという感じで思ってた。
だけど……初めて男の人に好きって言われた。
鈍そうと言われ確かによく鈍いと言われる私だがここまでされては分かる。
「……う、そ。じゃない?」
「嘘じゃない。十年も……俺からしたらたった十年だけどその間ずっとあめが俺の存在する理由だったんだ」
「存在する理由……?」
「あめと一緒にいたいって思ったら力が湧くんだ。あめの傍であめをずっと見てたいって思ってたから俺は落ちぶれても消えずにここにいるんだ…………あめ、好きだよ、あめ……」
ぎゅうっと刻時雨が抱き締めてくる。
これでは私の心臓のばくばくが聞こえてしまう。
「あ……と、刻時雨!」
「ふふ、あめ凄くどきどきしてる」
刻時雨が顔を私の首筋に埋める。
刻時雨の温かい息が首に触れてさっきよりもずっと早く心臓が脈を打つ。
この胸の鼓動の早さが刻時雨を好きと言っているようで頭がくらくらする。
だがどきどきしてる事は刻時雨にはもうバレてるようで今更隠す事なんてできない。
「ねぇあめ……あめは俺の事どう思ってる?」
刻時雨が首筋に顔を埋めたまま囁く。
今まで感じたことの無いくすぐったさに体の底がウズウズする。
刻時雨をどう思ってるか?
そりゃあ最初会った時は怖いと言う気持ちだけだった。関わったらヤバい逃げなきゃいけない対象。だけど結局捕まって……私なりの精一杯の抵抗はしたけどそれも虚しく刻時雨に手を掴まれ歩いた、その時間が私を落ち着かせたのか不思議と殺されると思っていても恐怖に飲み込まれたりパニックに陥る事もなかった、どころか目的地の神社に着いたら刻時雨と普通に話す事ができた。
話していくうちに刻時雨という一人の存在を知っていった。濡れたような黒髪に深く青い瞳の美しい見た目をした落ちぶれた神様。辛い過去のあるだけど色んな顔を私に見せてくれたり一人ぼっちが嫌だったり私を小さい頃から目を付けてたって言ったり……神様だけど人間味の溢れたそんな神 。
あなたは私をどう思ってるのか……刻時雨はわたしが自分の存在する理由と言ってくれた。
名前を呼んで好きって言ってくれた……
私は刻時雨の事を……
「好き……なのかもしれない」
「え……」
ふと口に出した言葉に私自身よりも刻時雨の方が驚いていた。
刻時雨が体を離し私を見つめる。
震えた手で私の頬を少しカサついた大きな手が触れる。
「俺、あめに嫌な事いっぱいしたのに……?」
「……ふふ、好きなのに嫌な事するの?」
まるで子供みたいな刻時雨の言葉に小さく笑う。
もうその顔は涙を目にいっぱい溜めて今にも泣き出しそうだ。
私より大きくて神様なのに何でこんなに泣き虫なんだろうと心が暖かくなる。
そうだ……
私は出会いとか関係なく私をずっと見てくれて私を好きでいてくれて私を隠しちゃったりする、そんな刻時雨が
「好き……私も好きだよ、刻時雨」
「あ……め……」
とうとう刻時雨の目からぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちた。
ふわっと雨の匂いがした。
天井を見るとオレンジ色の光に輝いて小さな雨粒たちがさらさらと降っていた。
ぽつぽつと刻時雨の涙か雨なのか分からない雫が私に落ちていく。
「あめ……嘘じゃないよね。いや、嘘じゃないって魂を見たら分かるんだけど……本当に……」
「嘘じゃないよ。もし嫌いだったら多分刻時雨が手を離した時に逃げてるよきっと」
「あめもう一回抱き締めていい?」
「どうぞ」
私はにっこり微笑んだ。
よいしょっと刻時雨に押し倒された時に仰向けになっていた体を起こし座っている刻時雨の前で手を広げる。
「おいで刻時雨……」
優しくそう言えばがばっと刻時雨が私を抱き締める。
ふふふと笑いが止まらない。
まさか、コンビニに行って不審者に攫われてこんな事になるなんて予想もしてなかった。
人生ほんと何があるか分からない。
ぎゅうっと刻時雨が抱き締める手に力を込める。
「俺、心配なんだ……今あめは俺を好きって言ってくれたけどいつか…………俺を置いてっちゃわないか」
「ん〜確かに。神様と人間だから寿命の差はあるかもね」
「え……それは……」
刻時雨が悲しい顔をする。
先程まで私を抱き締めていた手を私の両腕に移し……ふるふると小刻みに震えるその手をゆっくり握る。
「じゃあ約束するよ、私が生きている間私はずっと刻時雨の傍にいて好きで……ううん……愛してあげる。」
自分で言ってて照れながらはにかむと刻時雨は悲しそうに笑ってくれた。
「俺も……あめの事愛してる。ずっとずっと愛する……俺より先にいっちゃったら追いかけていく」
おっと、ここでヤンデレ発言か!!
でもそれも何か愛しくなってきたな。
「あめ……」
「…………っ」
刻時雨の顔が私の顔に近づく。
涙と雨に濡れた色っぽい顔が段々と距離を短くしていく。
水に濡れたいい男だっけか?
恥ずかしくて目を伏せたいけどそれが出来ないほど美しい。
鼻先が触れてちょんと唇に刻時雨の唇が当たったと思ったら深く口付けられてしまった。
初めてのキスにどうすればいいか分からず息を止めているとくすっと刻時雨に笑われてしまった。
このォ……私は初めてなんだぞ!!
と思いながら刻時雨のキスに答える。
ファーストキスはレモンの味とか言うけど、私のファーストキスは涙と雨の味だ……。
どんどん深くなっていく刻時雨のキス流石にちょっとこのままいくのは恥ずかしくなって顔を離そうとするが私の後頭部に回した刻時雨の手がそうはさせない。
ヤバい……!
どうしようこのまま私の処女も奪われてしまうの?!
そう思った時だった……
「おーいお二人さん、イチャイチャするのもいいけどここもう閉めるからね。そろそろ降りてってね〜」
「「!!」」
突然かけられた声に刻時雨と私は驚いてばっと体を離す。
そこには鍵を持った小太りのおじさんが居た。
「若いっていいねぇ」と私達に声をかけ終えると階段を降りていった。
え……!人居たの!?いつからって…………あれ?
「ここ……神社じゃなくなってる?」
周りを見渡したらさっきまではボロかった神社が何処かのビルの屋上みたいになっていた。
空は晴れてて幾つもの星が見える。
「まさか……いや、そんな」
「どうしたの?刻時雨」
目をまん丸くしておじさんが去った方を見る刻時雨。
「神社のある神にとっては神社は力を現しているんだ……さっきまではあった俺の神社の気配と残りの少ない神力が無くなった……なのに俺は存在してる」
「どういうこと?刻時雨」
訳が分からず刻時雨にどういうことかと聞くと刻時雨は私の目を見つめて
「俺……神じゃなくなってるんだよ。確かにさっきまでは俺の許可した人間にしか俺の姿は見えないよう術をかけてた……それがさっきの男はあめだけじゃなくて俺にも声をかけていった」
「えと、それはどういうこと?刻時雨は神様じゃなくなって」
「人間に落ちたんだ……!!!」
がばっと刻時雨が抱き着いてきた。
人間に落ちた?!
どういうこと!?
混乱してる頭を頑張って整理しようとするが弱い私の頭は上手く動いてくれない。
「神は力を無くすと自我を無くし神界へと帰るか神力が無くなり人間へと落ちるんだ」
「って事は……刻時雨がさっき言ってた人間に落ちたってのは」
「そう……!!あめと同じ人間になれたんだ!これであめと同じ時を過ごせていける……!あめと一緒に歳をとれる」
「そうなんだ……じゃあ私が先にいくことはないんだね……」
あははと二人で笑い合う。
嬉しい……ずっと刻時雨と一緒にいられるんだ。
刻時雨と家族になれるんだ
「はっ!ちょっと待って今何時!?」
「ど、どうしたの?あめ」
「私!お母さんと妹に買い物頼まれてたの!」
近くを見渡すとコンビニの袋とスマホが落ちていた。
良かった!
一安心してコンビニの袋とスマホを拾う。
中を見てみると私が食べようと買ったアイスは溶けていた。
神社に居た時も時間は過ぎていたんだ……
「あ!それと刻時雨は人間になった?んだよね。だったらどうするの?えと、寝るとことか」
「ん?それはあめの家に行くよ?だって……あめと同じ人間になれたんだから人間に習ってあめの両親にあめをお嫁に下さいって言う」
「えぇ!!今日会ったばかりなのにもう両親に挨拶するの?!」
「俺は十年あめ見てきたから話すの今日が初めてでも会うのは初めてじゃない」
「そういうものなのかなぁ?」
私の両親に挨拶をすると意気込む刻時雨と手を繋ぎながらビルの屋上を降りる。
下ではさっきのおじさんがいて恥ずかしながらも失礼しましたと帰ろうとした時おじさんが呼び止めた
「ここにはね、昔雨を司る優しい神様が住んでいた神社があったんだよ」
驚きに立ち尽くしていた私の手を刻時雨が引っ張って早く帰ろうと急かした。
私はおじさんにもう少し話を聞こうとしたけどおじさんはもう既にビルの鍵を閉めその場を後にしていた。
刻時雨の事を知っている人いたんだ……
「あめ……今日は夜這いにくるから待っててね」
「……っ!」
イタズラな笑顔を浮かべる刻時雨にきゅうっと胸を掴まれる。
私は繋いでる手に力を込め「うん」と言った。
一人ぼっちだった神様は一人の少女と出会い幸せに暮らしました。
閲覧ありがとうございました!!神様の名前は刻時雨って言います