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未来の記憶と謎のチートスキルで人生やり直し物語、学生に戻ったと思ったらそこは、何かが違う異世界だった件  作者: ホワイトモカ2号
それは澄みきった空に浮かぶ穏やかな雲のような
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暗躍する亡霊、地図なき旅の始まり

 大学は仕事で何度も来たことがあるので慣れたもんだ。目立つ風体なのは自覚しているので、変装して、俺は大学にやってきた。構内には学生らしく青臭いガキが……おっと俺も彼らと同じ二十代。そんなことを言っているとおじさん臭いと言われてしまう。さて、ザリガニの情報から天満月は天体力学を専攻していることが分かっている。つまりそういう建物を探せば良いのだ。ただ奴が亡霊だと分かっているので目立つ動きは避けたい。


 「地図を見るとこの辺りだな……。」


 なので素直に、地図を見て向かった。奴は大学教授だ。当然個室も与えられていて、ゼミもある。ゼミってのはまぁ要するに大学教授を担任とした小規模なクラス分けみたいなもんだ。違うところはそのクラスでやることが教授の性格で大きく変わるということだな。

 個室のドアを見るとスケジュールが貼ってあった。離席中とある。行き先は……分からない。


 「あの……天満月先生に何か用ですか?」


 ゼミの生徒だろうか、学生に話しかけられたので、俺はそうだと答えると、学生は先生は食事に言っていると答えた。俺が礼を言うと学生はゼミ室に向かっていった。俺は式神を飛ばす。学生にくっつけて、ゼミの内部へと式神を侵入させた。天満月が亡霊なら気づかれる可能性は高いが、それまでの間、情報を集めさせてもらおう。俺は食堂へと向かった。

 食事時はとっくに過ぎているので食堂は閑散としていた。今はどちらかというとカフェタイムだ。天満月は……いた。女性と同じ席で何か会話をしている。術を使うとバレる可能性があるため、俺は自身の聴覚のみで聞き耳を立てた。


 「神社に設置した召喚法陣だけど、起動を確認したわ。お疲れ様。」

 「それはよかった。それで、もう一つの方だが……。」

 「安心して、既に召喚術式の方は渡しているから。私たちの目的を果たすまであと少しね。」

 「こちらも準備は進めている。よろしく頼みますよ。」


 話を聞くと、レンの召喚については女が主犯のようだ。更にそれとは別に新たな召喚を企んでいる。レンの真相解明も大事ではあるが、新たな召喚が行われるのを指をくわえて眺めるのも、まずい。俺がどうすべきか悩んでいると女は立ち上がり出口へと向かっていく。すかさず写真をとった。少なくとも写真さえあればザリガニならあの女の素性を特定できるはずだ。



 「というわけで、亡霊が何か企んでいるのは明白だぞ。公安は動けるのか?」


 公塚と連絡をとった。亡霊は裏社会で有名といえば有名なのだが、結局何がしたいのか不明で、しかも犯罪をしているという証拠がない。奴らが行おうとしているらしい、召喚だって別に違法行為ではない。だが……レンのことを考えると反社会的というか……異世界の存在を喚び出す行為は非常に危ういのだ。レンは今のところ無害、善性の魂の持ち主であったが、そんな存在ばかり喚ばれる保証がないし、召喚の通り道、異次元空間に巣食う邪悪な存在もいるのだ。過去何度か戦ったことがあるが、極めて凶暴だったし、実力も相当だったので並大抵の奴なら出会った時点で殺される。


 「公安としては亡霊は今のところ監視対象ではないので難しいな。無論、犯罪を行おうとしているわけでもないので動けない。」


 返答は予想どおりだった。俺は電話を切る。公安の手を借りるのは無理だ。俺だけでなんとかしなくては……。



 女の素性調査、写真の解析を依頼するためにザリガニの住み家へと戻ってきた。一日に二回も来るのは珍しいことだ。そもそもこんな臭いところに何度も来たくないのだが。


 「あーこれは時間がかかるよ仁、この女、変装をしているね。あぁ仁がよくやる変装術式とかいうのじゃないよ。特殊メイク……科学的変装だ。」


 女の見かけ、そして場所から女大生と思ったがその見立ては当てにならないということらしい。特殊メイク、近くで見れば俺もその程度は見破れるのだが、警戒しすぎたのが裏目に出たか。時間がかかるのは仕方がない。改めてザリガニに解析と調査を依頼した。


 「いやだねー。」


 意外な言葉だった。いつもは二つ返事で受けてくれるザリガニが断ったのだ。まさかそんなに難しい依頼だったのか?写真写りが悪いとか?


 「なぁなぁ仁、僕ねーなんかさっぱりしたい気分なんだよなぁ。あーでもだるいなぁ。」

 「……とっとと水着に着替えろ。」


 初めてザリガニと出会った時。その風体はまるでホームレスのようだった。その卓越した能力から様々な組織に狙われ、逃げ回り続ける日常。安息の地などなく、ゴミ回収ボックスの中で眠ることも少なくはなかったという。だから俺は、その姿があまりにも放っておけないので、事務所の浴室に無理やり連れ込んで洗ってやった。ついでにボロ布みたいになってる服ではなくちゃんとした着替えも用意してやったのだ。そして今の関係に至るのだが……。癖というか習慣は抜けないのだろう。結局与えた安息の地はこんなくっせぇ魔窟にしちまい、風呂にもろくに入らない。なので俺が定期的に洗ってやってるのだ。

 浴室に入るとザリガニは既に準備万端だった。風呂用の椅子に座っている。艶のある黒い長髪……そういえば聞こえは良いがこれは脂だ。触るとべとべとする。


 「ったく浴室周りは綺麗なんだな、カビ一つ生えてねぇ。」

 「当たり前だよ仁、ここは仁と僕が使う場所なんだからいつでも使えるように綺麗にしておかないと。」


 それは立派な心構えだが、それならついでに自分の身体も洗ってほしい。とりあえずお湯をかけてシャンプーをかけた。


 「ひゃ、仁~お湯をかける時は言ってくれよ。」


 へいへいと答えながら髪を丁寧に洗うがまったく泡が立たない。排水口に流れるお湯は何か少し黒い。シャンプーの蓋を外して直接頭にぶっかけた。ようやく泡が立ってきた。こいつと出会って知ったことだが、汚すぎると並大抵の量では泡が立たないのだ。知りたくもない知識だった。更にリンス、トリートメントを使用して髪のケアをする。その後、髪をゴムで結び次は身体を洗うのだ。尻くらいまで伸びた長髪なもんだからこうしないと洗えない。ザリガニの身体にボディソープを全部ぶっかけた。


 「うぇぇ、ぬるぬるする……。」


 これもシャンプー同様、大量に消費しないと泡が立たないからだ。その量はタオルに染み込ませる量を超過しているので、こうして直接ぶっかける。これもまた初めて知った知識だった。本当にどうでもいい知識だ。腋、足の裏、うなじは特に念入りに磨いた。こいつの臭いポイントのスリートップだからだ。まぁ一番汚いところが別にあるんだが、流石にそれは本人にやらせる。

 浴室から上がりタオルで身体と髪についた水気を優しく拭き取り、ドライヤーをかける。本来ならこのあとしばらく保湿をしときたいが、そこまで付き合いきれないので用意していた椿油で髪を仕上げた。


 「仁はやっぱり、僕を洗うのが上手いよ、どうかな?探偵なんてやめて僕専属の洗い師?にでもならないかい?養ってあげるよ。」


 前世でどんな悪徳を積んだら、こんな悪臭漂う部屋で専属として付き合わなければならないんだ?俺がここまでしてるのはザリガニのザリガニ臭を少しでも解消するためであって、決してこいつ自身のためにやっているわけではない。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ザリガニはいつもの部屋へと戻って……。


 「あぁぁぁ!!ザリガニお前、髪を上げろ!!あと靴下履け!!おま……せっかく綺麗にしたのにこんなくっせぇ部屋で汚れる!汚れる!!」


 珍しく慌てふためく俺を見ながら、ザリガニは無邪気に笑っていた。



 

 巨大な山脈があった。この国に存在する最高峰の山脈。龍賀野るがの山脈と呼ばれるその山脈には突き上げるような稜線や、3000mをゆうに超えた標高を持ついくつもの山々。圧倒的大自然がそこにあった。

 人類は逞しいもので、山頂付近こそは難しいものの、麓付近では住居が作られ、温泉も湧くことから観光地としても有名である。冬以外にはケーブルカーも稼働しており、山頂に行くこと自体も難しくはない。

 だがそれはこの山の表の顔。あくまで開発された場所に限る。未開発の土地はむき出しの大自然が残っており、少し油断をすれば大自然の洗礼を浴びることになるのだ。つまり……今の俺たちのように。


 「おいレン、バルカン!!大丈夫か!!」


 そこは断崖絶壁、底は霧で何も見えない。それが逆に底が知れない、まるで奈落の底のような印象を与えた。ケーブルカーが脱線し、斜面を滑り落ち、間一髪でケーブルカー自体は崖の上で止まったが、俺たちは外に投げ出された。ケーブルカーが引いていた荷物が今、崖の下で振り子のようにゆらゆらと揺れている。それを支えているのが、ケーブルカーに繋がれていたロープのようなもの。荷物の中身は定期的に山頂付近に運ばれる生活用品や研究物だ。重たい機械や大量の水が積み込まれていて、重量は結構なものだ。

 そして俺はそんなロープを今、手につかんでいる。俺はマシな方だ。バルカンは更に下の方、ゆらゆらと揺れる荷物の上にいる。


 「大丈夫だ仁!!今、登るー!!」


 バルカンはロープを握り器用に登り始める。俺もいつまでもぶら下がったままだと体力が持たない。急いで登らなくては。ロープを握りしめ上へ上へと進む。まったくこんな肉体労働は探偵のすることじゃないぜ!

 突然、ゆさゆさと音がした。これは……地震だ。非常にまずい。嫌な予感しかしない。


 「待って、待って待って。もう少し踏ん張れ!頑張れ、お前ならいけるって!!」


 上を見て返事のない相手に激励を飛ばす。落ちなかった荷物が少しずつ、こちらに顔を覗かせてきた。少しずつ……少しずつ……まるでカウントダウンのように。そして俺の激励は無意味に終わり、重力に従い巨大な荷物が落下してきた。


 「やばいやばいやばいって!ラァァァク!!!!」


 俺の真正面に巨大な荷物が、視界が埋まる。あぁやばすぎでしょこの展開は!!

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