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未来の記憶と謎のチートスキルで人生やり直し物語、学生に戻ったと思ったらそこは、何かが違う異世界だった件  作者: ホワイトモカ2号
それは澄みきった空に浮かぶ穏やかな雲のような
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現れた世界、希望満ちた世界

 「ねぇねぇ仁~、わたしたちのこと、考えてくれた?」


 先程から馴れ馴れしく俺に腕を絡めようとするメスガキは龍星会のメスガキだ。名前は覚えてない。龍星会の頭領の曾孫娘で……おっと公塚の話だと、こいつが頭領になったんだったか?ともかく、昔こいつの曾祖父……つまり頭領を目の前でボコボコにして、半殺しにさせた上に土下座をさせてから、やたらと俺に懐き、こうして性的アプローチを隙きあらばしてくる。年齢差分かってんのか?


 神社で少年を見つけて俺はそいつを保護することに決めた。意識は未だ戻らない。担いで事務所に連れて行っても良かったのだが、ただでさえ人相の悪い俺がガキを担いでいたら職質される可能性が高い。だからこうして龍星会に連絡して車を用意してもらったのだが……このメスガキがついてくるのは聞いていない。


 「おい、このメスガキに連絡するなって言ったよな?」


 運転席を蹴る。運転しているマフィアは情けない声をあげた。


 「か、勘弁してください仁さん……。仁さんから連絡があったことを報告しなかったら一族郎党拷問した上で殺すって言われてるんです……。」

 「ほー、俺よりこのメスガキの方が怖いって言いたいわけか。いい度胸だな三下。」


 すいませんすいませんと壊れた機械のようにひたすらつぶやき続けた。言っておくが俺はクズが嫌いだ。チャイニーズマフィアなんてそんな代表みたいなもんだろ?だから一切の容赦はしないし、潰すつもりでいる。……まぁ前も言ったとおり小遣い稼ぎがなくなるのは少し残念だけどね?


 「きゃはは!仁、やめなよぉ~こいつ超びびってんじゃん。いい年した大人なのに笑えるぅ!ねぇそんなやつより、わたしとお話しようよ!ねぇもっとこっち見てよぉ。」


 メスガキの下品な声を無視して、俺は少年を見る。未だに意識が戻らない。息、脈があるのは確認している。また脳に異常もない。つまり今の状態は眠っている……そんな状況に近いはずだ。先程からメスガキが騒がしいというのに目を覚ます様子がない。


 「ねぇねぇ、これから仁の事務所に行くんでしょう?わたしぃ……着替え持ってきちゃったの。いいよねぇ?ね、仁?」


 俺の事務所は歓楽街の中にある。無明の旦那……先代の頃は静かな場所だったらしいんだが、このアホどもが街に住み着いてから、一気に開発が進み、こうネオンライトが眩い騒がしい街へと変貌した。一応俺の事務所近くには店を出すんじゃねぇと脅しをかけたが……まったく旦那もこれを見たら……意外と喜ぶかもな。年の癖にこういうの大好きだったわ。今は亡き無明の旦那のことを思い出すと、思わず頬が緩んだ。


 「きゃぁぁ、い、今笑ったよね仁!わたしの話、楽しかったの?もっと話そっか?あ、それともお泊りOKってこと?わたしたちの未来、ようやく考えてくれ」

 「仁さん、着きました。お連れさんはどうします?」


 事務所へと到着した。ようやくこのメスガキと距離を置けて嬉しい。俺は少年を抱えて車の外に出た。当たり前のようにメスガキがついてくる。


 「あ、あのさ仁……わたしこんなだけど……色々勉強してるから……絶対満足させられるよ?えへへ……嬉しいなぁ。」


 俺は事務所に入ろうとするメスガキを蹴飛ばして勢いよくドアを閉じてカギを締め、三重結界施錠法術を展開しといた。電気を点ける。散らかっているがここが俺の事務所、マイホームだ。少年をベッドにそっと寝かせる。


 「悪かったな少年、メスガキがうるさくて安眠もできなかったろ。もう大丈夫だから、まぁ……とりあえずはゆっくり休めや。」


 アロマを焚く。リラックス作用のあるものだ。女みたいな趣味だって?アロマは立派な法術の媒体なんだよ。まぁ俺はそんな使わないが……少年の疲れ果てた顔を見ると、持ってて良かったと思う。こいつには疲労回復、快眠、ストレス軽減の効果がある。少年の身体はまるで長い旅をしてきたかのようにボロボロだった。何があったのかは分からない。だが……俺は少年を助けたかったのだ。だってこいつの魂があまりにも穢れなく……そしてその本質……底にあるのがあまりにも……俺に似ていたからだ。生き別れの兄弟を見つけたようで、放っておけなかった。



 メスガキと呼ばれた少女は仁に蹴飛ばされ、そのまま道路の水たまりに転がっていた。部下が「大丈夫ですか!?」と手を差し伸べるが、それを無視し一人立ち上がる。そして差し伸べた手がありえない方向へと曲がった。部下は苦悶の表情を浮かべ悲鳴をあげた。


 「大丈夫だぁ!?大丈夫なわけねぇだろうがボケか!!?」


 そんな部下を少女は容赦なく蹴り上げる。更にもう片方の腕もへし折れる。


 「お前、何、私と仁の会話に割って入ってんだこらぁ!?おかげで仁が折角機嫌良かったのに、機嫌損ねて私に八つ当たりをしただろうが!?分かってんのかこらぁ!!?仁と私は今日結ばれる予定だったのにてめぇが邪魔したんだぞおいこらぁ!!?」


 更に部下の足も歪に曲がっていく。ボキボキと鈍い音を立てて折れていく。部下は「すいませんすいません。」と涙を流しながら少女に懇願した。だが、少女は許さなかった。最後に首の骨をへし折る。部下は壊れたおもちゃのように動かなくなった。


 「はーっ……はーっ……。はっ!仁の前ではお淑やかにいるつもりだったのに!み、見られてないよね……?」


 事務所を見る。窓には……誰も立っていない。仁のことだから私が心配で窓から眺めてると思ったけど、そんなことは無かった。というか窓にも結界が張られている。あれは侵入できない。いつもそうだ。夜這いしようにも厳重に施錠するのだ。仕方ない。今日は大人しく帰ろう。少女は座席に戻る。仁の座っていたところに鼻を押し付ける。仁の匂いがする……幸せだ……。


 「おい、いつまで寝てんだ、早くしろ。」


 少女が呼びかけると、先程全身の骨を折られて絶命した部下が立ち上がり運転席に乗った。


 「おっと、首の位置を戻し忘れた。」


 カキコキッと音を立てて、部下だったものの首が180度回転する。流石に首が180度後ろ向いてる奴が運転席にいたら警察も声をかけざるをえないだろう。だから念のため元に戻しておいた。車は動き出す。目的地は龍星会の本部。少女は若くしてその頭領。それは決して、血筋だけによるものではない。




 朝、事務所で一人でコーヒーを飲む。昨夜すぐに知り合いにお願いして、少年の身元を確認した。境野連。本家筋の人間かと警戒したが、関係がない。たまたま同じ名前の境野家の少年だった。戸籍や住民票を見る限り、極々平凡な三人家族の長男だった。なので家まで送り届けてやったのだが……。どのみち、色々と気になることがあるので、父親に事情を説明して後日話をする約束をとりつけた。無明探偵事務所の境野さんと言えばそれなりに評判はある。これも普段の行いの成果だ。更に目つきの悪さは伊達メガネで何とかクリアした。


 「よし、メール送信完了。」


 聞いていた連絡先に今日会う約束をした。相手は少年だ。自分の人相が悪いのは自覚しているので、ビッシリとスーツで、髪型も決める。多少はマシになるはずだ。当然オーデコロンも忘れない。タクシーを予約していた時間が来た。俺は外に出て龍星会の車に乗る。


 「ねぇねぇ仁、どうしたのそんな格好決めて、わたしに会うのが嬉しくて、おしゃれしたの?いつもの仁も素敵だけど、そんな格好も素敵……でもオーデコロンはいいかなぁ……あ!センスが悪いとかじゃなくて、わ、わたしは仁の匂いが好きだから!ねぇ仁~これからどこ行こう?あのねぇ、わたし欲しいものがあるんだぁ、そこでかわいい服が」


 「おい運転手、そこを右だ。そうそう、悪いな。地図渡せばこんな手間かけなくて良かったんだが、用意し忘れてたわ。あとこのメスガキのナビは全部無視しろ、少しでも聞いたら今すぐ頭を吹き飛ばすぞ。」


 閑静な住宅街だった。境野家はごく一般的な家庭。マフィアを近づけるのは迷惑だろうし、俺の評判も落ちる。少し手前で車を止めさせて、あとは徒歩だ。ついてこようとするメスガキには催眠術をかけて強制昏睡させてトランクに詰め込んだ。


 「ちょっとそこで待ってろ。あとこれから乗せるのは一般人だから、お前も一般人の振りをしとけ。」


 事前にマフィアには比較的人相の良い奴と注文している。レンを迎え、車で繁華街へと向かった。車内でレンはしきりに話をしたげだったが、俺は指に手を当てて黙らせた。あくまで秘密の話だということだ。適当な喫茶店を見つけたので、そこに入るよう指示した。レンを先に店内に入らせる。


 「おし、もう帰っていいぞ。」


 マフィアの頭を掴む。記憶操作。今日のことは全て記憶になかったことにしてもらう。俺は更に催眠術でマフィアに暗示をかけた。龍星会本部に安全運転で戻る暗示。マフィアはぼーっとしながらも運転席に戻り、車を出した。メスガキにかけた催眠は三十分後くらいに解けるようにしたから丁度良いだろ。



 「で、お前は異世界からやってきたチート能力持ちってわけか。」


 レンの説明を聞いて俺は笑う。だってそうだろ?自分は別の世界の人間で、この肉体も別人なんだって言われたら笑うしかない。

 そんな俺の心情とは裏腹にレンは顔面蒼白、とんでもないことになってしまったと頭を抱えてしまったという顔をしている。


 「安心しろレン、お前の肉体はお前だけのもんだよ。その肉体は普通の身体じゃない。感じなかったか?怪力だったり強い瞬発力を。」


 レンの身体はまるで、用意されていたかのように細工が施されていた。その一つが異常とも呼べる肉体強度。通常の人間を遥かに超える筋肉量……というより細胞の作りそのものが異なる。ベースは人間で内臓は全て人のものだが……それを覆う肉、骨は人とはかけ離れている。俺の説明に、釈然としていないようだ。


 「そんな顔すんなよ、笑うなってのが無理な方だぜ。」


 レンはまるで捨てられた子犬のようだった。肉体の持ち主を奪ってしまった……その罪悪感はなくなったとしても突然見知らぬ世界に来たのだ。不安が無いはずがない。


 「あの……さ……こんなこと言える義理はないのかも知れないけど……元の世界に戻れないのかな。」


 酷く心細い声だった。だから俺ははっきりと答えてやった。


 「安心しな。頼まれたからにはしっかり仕事をこなす!それが一流の探偵ってやつよ!いやそれ以前の問題だ、兄弟、お前が誘われたこの世界は狂気に満ちてるかもしれないが、それでも折角の人生だ、楽しく行こうぜ。」

 「兄弟……?あんたと俺が?何でだ?確かに苗字は一緒だけど。」

 「あ?兄弟が気に入らない?なんでだよ!似たようなものじゃねぇか!……仕方ねぇ、ガラじゃないんだが……それなら相棒……相棒と呼ばせてもらうぜ!心配すんな、俺とお前ならやれるさ、なんせ俺たちは───。」


 初めて出会った時、あの神社の境内でレンと出会った時。レンの肉体には強力な催眠術式が構築されていた。それは自身の認識を歪めるもの。そしてレンの周りに蟻のように群がってくる化け物ども。術式は全て分解した。群がる化け物どもは皆殺しにした上で、レンに対し隠密結界を付した。周到に用意された肉体。

 俺は知ったのだ。理解してしまった。俺と似た魂を持つこいつ。いや、似ているという次元ではない。瓜二つだった。魂の形は人によって異なる。同一のものなどありえない。考えられることは一つ。


 ───平行世界、パラレルワールドの類。こいつは俺だ。もしもの世界の、平和な世界で生まれた俺自身だ。召喚法陣、召喚石……全ては仕組まれたものなのかは分からないが、最後のピースは俺自身だった。俺自身を依代にした召喚。俺自身を召喚するのだ。この上ない依代だ。だから……レンがこの世界に彷徨った原因の一因は俺にあるのだ。召喚を企んだクソ野郎の正体はいずれ突き止めるとして……俺はその責任を、果たさなくてはならない。


 「俺たちは、兄弟よりも深い絆で結ばれた相棒だからな!」


 なんだよそれ───。レンは俺の言葉を聞いて、初めて笑った。

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