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穢れた真実、向き合う現実

 夢を見た。昔の夢だった。学校の夢だ。今までのことは全て悪い夢だったんだ。異世界転生?馬鹿馬鹿しい。そんな非現実的なことがあるはずない。周りを見渡す。皆、授業を真面目に受けていた。高橋と目が合う。高橋は微笑んで、また黒板に目を向ける。

 あぁ、これは違うんだ。高橋が向けた微笑みは、俺に向けるものではない。俺にその資格はないんだ。辺りを見回す。俺の記憶はとうにこの世界に馴染んでいて、見知ったはずの学校なのに、クラスメイトはみんな……この世界の人たちだった。異分子は俺だけだ。あぁ……そんな目で、俺を見ないでくれ……。

 気がつくと俺はベッドの上にいた。脂汗をかいていた。記憶を整理する。弦の言葉と恩恵がきっかけで、俺の正体が分かって、夢野に抱きつかれて、鈍い痛みを感じたところまでは覚えている。


 「め、目が覚めたんですか?か、身体は大丈夫ですか!?」


 俺は身体を見回した。特に問題はない。腹部の痛みは何だったのか気になり見てみると、四角い絆創膏のようなものが貼られていた。注射をした時とかによくやる奴だ。そうだ、俺はあの時、夢野に何かをさされて、身体の中に何か薬品のようなものを注入されたんだ。それに、俺のことを騙していたと謝っていた。


 「夢野は一体、何を知っているんだ。俺のことを前々から知っていたのか?」


 夢野は語った。自分の能力が薬物により制限されていることとそれにまつわる過去を。そして剣と秘密裏に協力関係を結び、俺に対して度々薬を投与していたことを。

 驚きしかなかった。俺の知らないところで、夢野は一人、戦っていたことに。あの怯えた小動物のような態度の裏に、そんな過去があったということに。そして同時に、俺の心は悲しみに満ちていた。俺はそんな夢野の努力を知らず、一人何も知らず、馬鹿みたいで。夢野が俺に近づいたのは、薬を投与するため。それは同情からだろう。


 「そうなのか……すまない夢野、今までそんなことをしてたのに気が付かなくて。気持ち悪かっただろう。俺のような……。」


 夢野の能力はあらゆる未来を見通し、好きな未来を選択できる。だが夢野はこの時、そのことを説明しなかった。自由自在に、個人の感情すら支配できる能力。知られたら見る目が完全に変わってしまうのが目に見えているからだ。良心が傷ついた。それでも隠したかったのだ。今の関係で居続けたかったから。ただこの時、能力を使わなかった。この境野の返答意思に介入することは三秒間で十分可能である。その理由は一つ。使わなかったのではなく使う必要がなかったのだ。


 境野連は、夢野の見たあらゆる未来で、一度も夢野に対して暴力は勿論、怒りをぶつけることすらしなかったからだ。ただ、自分の不甲斐なさを責めて、悲しんでいた。夢野の能力を使えばその悲しんだという未来も消すことが出来る。だがそれはしない。そんなことをしてしまえば、私はもう彼にどんな顔をしてたてばいいか分からないから。


 いや違う。そこには打算的なものもあったのではないか。"私に同情してくれれば、これからも友達でいてくれる。"そんな感情があったのではないか。悲しみ目を伏せる境野を見て胸が締め付けられる気分になる。だから心の中で反復するのだ。私が能力を使わなかったのは、彼の境野連の心の在り方にまで干渉したくないからと。


 「しかし、そうなると悪意ある何者は、俺が標的……ということになるんだな。そのためにまず周りの親しい人物を襲った……。」


 それなら軽井沢が襲われた合点もいく。だが懸念事項としては、そもそも軽井沢と俺の交流はほとんどの者が知らない筈だ。能力で監視していた弦くらいだ。空を見上げる。弦を殺害した天の光、星の目。あれが何者かの能力だとしたら……俺の行動は全て筒抜けだった可能性がある……?

 これからのことについて考えていると、高橋やユーシーも部屋にやって来た。大丈夫かと問われ、俺はもう大丈夫だと答える。


 「そうかよ、なら遠慮はいらねぇな。」


 高橋は俺の胸ぐらを掴み殴りつけた。


 「返せよ!境野を!!全部夢野に聞いたぞ!!お前が境野の身体を乗っ取った別人だってことも!!」


 怒りのこもった拳だった。殴られて、痛みはないはずなのに、胸の痛みが疼く。更にもう一発殴ろうとする高橋をユーシーが止める。


 「放せよ!あんただって悔しくねぇのか!こいつは今まであたし達を……!」

 「頭を冷やしなさい、彼だって知らなかったことなのに。今、責めても何の意味もないわ。」


 ユーシーの言葉に高橋はやり場のない怒りをあらわにし、近くのくずカゴを蹴飛ばす。そして部屋から立ち去っていった。


 「彼女はあなたがあなたになる前からの知り合いだったのかしら、気持ちは分からなくもないけど、傷は……やはりあの程度ではつかないのね。」


 ユーシーは高橋に殴られた俺の頬を見る。本気で殴っていただろうに、傷一つついていない。それを見てユーシーは一人納得していた。


 「ユーシーは……俺のことを何とも思わないのか……。」

 「思わないわ。だって仁は今のあなたを信じていたんだもの。」


 即答だった。ユーシーにとって俺の人物像はあくまで今の俺自身……言われてみるとそれは確かにそのとおりである。俺の過去を知る人間ではないのだから。


 「それよりも無事なら早く起きて頂戴、ただでさえここを調べるのに忙しいのに、彼女の介護までするのはごめんだわ。」


 俺は立ち上がりユーシーに案内されると、その先にはコトネがいた。完全に気分が落ち込んでいる。欠損した四肢は……再生していた。


 「彼女の能力、失われた手足くらい再生させることができるみたい。それじゃあよろしくね。」


 そう言ってユーシーは俺に全てを任せて立ち去っていった。亡霊のいたこの屋敷について細かく調べるのだという。

 コトネの様子を見る。傷ついた身体こそは癒えていたが、その目は虚ろだった。無理もない。もう一度信じてみようと思った兄に、真正面から裏切られたのだから。今の彼女にどんな言葉をかければいいのか分からない。それは彼女に起きた出来事があまりにも惨いというだけでなく、俺自身、今まで彼女を騙していたという罪悪感からだ。

 コトネと俺の存在に気がついたのか、目が合う。俺は反射的に目を逸してしまう。今の俺に正面から見つめる度胸がなかった。


 「今、なんで目を逸らしたの。」


 突然肩を掴まれてコトネに迫られる。その声は震えていた。


 「答えなさいよ。」


 コトネの目には涙が滲んでいた。憔悴しきった心で、振り絞るように俺に問い詰める。


 「分かるわ、私を嘲笑っているんでしょう。あんなのを信じた、馬鹿な女だって。あまりにも憐れで見てられないんでしょう。」


 下手に取り繕うことは逆に彼女を傷つけるだけだと確信した。だから俺は正直に話す。俺自身のことを……。


 「そんなのどうでもいいじゃない、レンの昔のことなんて知らないし……。」

 「みんな来て!変わったものを見つけたわ!!」


 突然ユーシーが乱入し俺たちを集める。そこに高橋は既にいない。一人で帰ったようだ。

 ユーシーは弦が普段使っていたと思われる部屋を調べていた。本棚を調べていると、そこが隠し扉となっており、地下への道を見つけたのだ。

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