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そしてあの空はいつまでも蒼く

 「おお!同志!!お主もこのホテルにいたのでござるか!!まさかの再会に拙者喜びで見が悶そうでござるぞ!!」


 シンカと呼ばれた殺人鬼は心底嬉しそうに目を輝かせ境野に駆け寄った。まるで旧来の友人のように。それは異様な光景だった。境野はなぜ、こんな男と知り合いなのだ。境野と目が合う。


 「高橋、これは何だ?何があったんだ?」


 高橋は今までの出来事を説明した。シンカが逃げる私たちの前に立ちはだかったこと。そしてフロアを斬り刻み、皆殺しを示唆したこと、事実コトネと東郷が斬られていることに。境野は高橋の説明を聞いてコトネに駆け寄った。苦しそうにしているが意識はあるようで、境野に文句を吐いているようだ。

 境野はシンカを睨みつける。睨みつけられたシンカは先程の態度から急転し、しおらしい態度をとっている。


 「ど、同志……そんな目をしないでほしいでござる!拙者この者たちが同志の友人だとは知らなかったのでござるぞ!!サドウに頼まれてただけでござる!!ござるぞぉ!!」


 そして膝をついて両手をついて頭を下げていた。戸惑いを隠せない。まるでさっきの殺人鬼と姿が一致しない。境野はわかったからもう頭をあげてくれと言って、シンカの肩を叩いた。そして瓦礫を片付けてパーティーの来賓たちを集めた。そして説明をする。もうここから出られるということ。だが、今日のことは自首をするということだ。当然、来賓たちはブーイングの嵐だ。自首なんてしたら全てが終わる。


 「いや、同志それはおかしいでござるぞ?拙者の仕事はここにいる者たちを皆殺しにすることでござる。」


 後ろで控えていたシンカの言葉に一瞬にして静まった。緊張感が走る。


 「お前はサドウの仲間なのか?一体お前たちは何が目的なんだ。」

 「ワイルドハント、それが拙者たちの属する組織名でござる。目的はただ一つ、亡霊を討ち滅ぼすこと。そこにいる連中を殺せば、この街にいる亡霊が何らかの反応を示すだろうと思い推参した次第で候。」


 そしてシンカは空を指先でなぞる。なぞったその先にキラキラと光り輝くなにかが見えた。そして空を掴む。空間が歪み、何かが現れる。あれはシンカのアタッチメントでは……ない。まったく別の禍々しい力を感じた。


 「同志よ、お主と出会えた幸運はかけがえのないものでござった。だがそれはそれでござるぞ、拙者自身の使命を果たすためならば修羅となる覚悟は済んでいるでござる。」


 光り輝く剣が現れた。それは眩く、そして不気味にまるで脈打つかのように点滅をしていた。一つの生命であり宇宙のようだった。シンカの腕を掴む。これは振るわせては駄目なものだと直感した。


 「駄目だ、それ以上は絶対に駄目だ。この人たちは悪人だが無闇やたらと殺していいものではないだろう。お前もサドウと同じで、殺戮を楽しむ狂人なのか?」


 悍ましく輝く光の剣はゆらゆらと蠢いている。獲物を求めるかのように。シンカは俺の言葉に少しばかり目を伏せて答えた。


 「……同志には恩義がある。その恩義に報いて、この場は引くでござる。だが一度だけでござるぞ。次、同志やそこにいるものたちを同じ場面に遭遇した時は……容赦なく斬り殺すでござる。」


 そして突風が突然吹いた。風と共にシンカも悍ましき剣も消えていた。

 来賓たちはその言葉の意味を瞬時に理解する。つまり自首をしなければこの殺人鬼がどこまでも追いかけて殺しに来ると。そして次々と自首をするという声があがった。


 「そ、そうだそもそも発端は伊集院弦だ!全部あいつが悪い!!奴はどこにいるんだ!!」


 誰かの言葉があがった。弦の姿は確かにここにも見られない。てっきり下に向かったと思ったのだが……。だがいないものは仕方ない。先程の言葉は言い訳のようだが事実である。あれだけの組織を構築し、殺人などの実行犯は全て伊集院弦であり、重ねた罪の重さはここの来賓たちとは比較にならないだろう。故に逃走するのは仕方ないのかもしれない。


 「コトネ、ごめん……弦は逃してしまった。」


 苦しそうにお腹をさするコトネに頭を下げる。


 「ふ、ふん……まぁいいわよ。あいつを伊集院家から追い出しただけで十分だわ。それよりも、ほら抱きなさいよ。お腹痛くて立つのも辛いのよ。」


 両手を伸ばして、早く抱きかかえろと言わんとばかりのコトネにため息をついて仕方なく抱き上げる。外に出るとトラロープでホテルに近づけないようにされており、警察や消防隊、マスコミだらけだ。来賓たちは俺たちを見上げて、すっかり肩を落とし、出頭していった。中には警察官僚もいて警察官を困惑させている。


 「すげぇな、滅茶苦茶人がいる。やっぱり分かれて良かったな。」


 俺たちはホテルの最上部にいた。今にも崩れそうな瓦礫の山だ。コトネの力で道が作られる。別の建物への血液の道。建物へ建物へと移り、俺たちはセントラルホテルから離れていった。日の光に照らされ少しずつ崩れていくホテルが、悪夢の終わりを告げているようだった。 

 こうして伊集院家の闇は白日の元に晒され、一大ニュースとなった。勿論しばらく国は大混乱、ニュースは大盛り上がりだ。だがそれも束の間……失職した人たちの後釜にはすぐに代わりの人材が入り、事件もいずれ忘れ去られる。それが例えどんな痛ましいものであっても。





 「ハァ……ハァ……。」


 サドウは一人這いずり回るように逃げていた。境野連、あいつはやりすぎだ。関わると殺される。ヴィシャを殺したのもあの男じゃないか?サドウはマゾヒストである。被虐されることに最上位の快楽を感じ、そのためにあらゆる手段を講じる。今回も弦を徹底的に追い詰め、ご褒美をもらうために頑張ったというのに、境野のせいで台無しだ。限度というものがある。あれは愛ではなくただの理不尽な暴力だ。


 「ハァ……あっ……。」


 サドウの前に一人の男が立っていた。その姿にサドウは歓喜する。神様、私になんというプレゼントをしてくれたのでしょうか。いやきっと境野という悪魔から逃げだしたご褒美だろう。そう、目の前には伊集院弦が立っていた。


 「サドウくん、楽しかったかな?私のパーティーを邪魔して。お陰でもう台無しだよ。」


 俺の名前を覚えてくれている!それに喜び、拳銃を取り出して撃ち込んだ。だが弾丸はそれて当たらない。そうだったね弦ちゃん。君を愛するにはナイフでって言ってたよね。


 「一つ聞きたいんだが、私の隣りにいた少年は何者かな?ホテルを半壊させるあの能力、看過できない。」


 弦は少し曲がったネクタイを"右手"で直しながら更に問いかけを続ける。


 「げ、弦ちゃん浮気するの!?あ、あたしという愛人がいて!!!」


 舌を出して涎を垂らし股間を……弦は目を逸らしてため息をついた。下劣な男だ。


 「教えてくれたら、君をたっぷりと愛してあげるよ。」

 「へ、へへ……へぇ~!でもねぇあいつは、境野は俺も知らないんだよ!!だってあいつは!!何もない人間なんだから!!!!」


 そしてサドウは能力と仮初の恩恵を展開し弦に襲いかかる。瓦礫はまるで蛇のように蠢きだし、弦の周囲を囲む。そしてサドウの能力により弦の愛を受け入れる体勢は十分である。弦に向かい駆け出して、飛び込む。


 「弦ちゃぁぁ」


 サドウは突然破裂した。まるで内部から爆発したかのように。


 「そうか、つまりなにも知らないということなのだな。」


 そして弦は闇に消える。いや、闇へと戻っていった。彼の居場所はもとより闇。亡霊は亡霊らしく表舞台から姿を消すのだった。

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