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令嬢の社交界、綺羅びやかな境界

 「おぅおせぇじゃねぇか境野。聞いたぞ、何か柄の悪いやつと付き合いあるんだって?やっぱあたしと同じ不良じゃねぇか。」


 遅刻してきた俺に高橋が笑いながら冗談交じりに今朝の話を振ってきた。適当に誤魔化しながら教室を見渡す。伊集院は……相変わらず席に一人でいる。


 「伊集院、話がある。二人きりでだ。早く来い。」


 突然の俺の誘いに混乱する伊集院だったが、できれば早く済ませたい。無理やり人気のない空き教室へと連れて行った。その姿を高橋たちは唖然と見ていた。どういうことだと。


 「あ、ま、また……あの二人がそんな……っす……。」


 軽井沢だけがその事情を知っていた。無論、間違った方向でだが。何か知っているのかと高橋に詰め寄られるが答えられない。その時、スマホの通知が来た。誤魔化すようにスマホを見ると、サドウからの指示だ。


 『伊集院も監視しろ。』


 その伊集院が境野と一緒に行ったわけなんすけど……軽井沢もまた逃げるように教室から退散する。そんな演技をして境野と伊集院をこっそり追いかけていった。

 ネームプレートも無い小部屋。元々は理科準備室として使われていたらしいが、改築により理科室が変更になってから謎の部屋として残り続けているのだ。準備室の名残か固定された机とパイプ椅子がある。


 「なっ、な、なんなの!?急に教室であんな目立つことをして……つ、ついにケダモノの本性を見せるのね!!きっと今朝からその思いを募らせて私を見た瞬間、欲望の限界が来て無理やりこんな人気のない部屋に押し込んで……!だ、駄目よ!物事には段階が」

 「伊集院、今はマジメな話がしたいんだ。少し、冷静になってくれないか?」


 俺の本気の表情と声のトーンに気圧されたのか、少し照れくさそうに頬を染めながら「わ、わかったわよ……。」と言って生唾を飲み込み黙り込んだ。


 「いまさら言われても何も思わないけどね?でもそうね、確かに直接口にするのは大事なことだわ、さ、さぁどうぞ。」

 「あぁ……お前サドウって男の名前知ってるか?」


 ─────は?伊集院は返答に困った。あまりにも予想外というか、まったく知らない男?の名前が出たからだ。だが少し考えれば、分かることだ。冷静になれというのはつまりそういうことだ。


 「わたしの彼氏を自称する男でもいたの?きっとそれは自称彼氏くんね、私みたいな美少女がそう簡単に男と付き合うわけないじゃない!」


 伊集院は得意げに答えた。伊集院の交際経歴などはどうでもいいが、その反応だとサドウについて何も知らないらしい。


 「サドウってのは、マフィア相手に喧嘩を売りつけてるやばい奴だ。そしてヴィシャの仲間でもある。そいつが伊集院のことを調べていた。」

 「な゛ん゛で、今そんな話をする゛の゛よ゛!!」


 伊集院がただでさえ大きな目を見開いて俺の両肩を掴みすがるように叫んだ。


 「え、まずかったか?やばい話だし普通に緊急だろこれ。」

 「そうね……そうね……。そうだけどね……。」


 そして俺は先程のサドウの話を伊集院にした。高速道路の怪物に絡めて話をしているということも。


 「前、話をしたことね……あいつなら普通にやりかねないと思うわ。でも私は知らない。あんな汚らわしいことに関わりたくないし。」


 やはり伊集院は覚えがないみたいだ。その件はこれ以上は追求しようがないだろう。しかしサドウはどう思うか。どう見てもあれは無茶苦茶をやるタイプだ。協力するなんて言ってたが、果たしてどこまでが正しいかどうか……。マフィア相手に平気で喧嘩を売る連中だ、伊集院なんて当然……いや待て。伊集院は本人も言ってるしヴィシャも知っていたはずだ。伊集院家のことに関わっていないと。では狙うのは妹の方ではなく兄ではないか……?


 「伊集院、お前の兄……弦って言ったか。そっちが狙われるかも。」


 俺の考えを伊集院に伝えたが、伊集院は兄に対して無関心だ。挙げ句の果てに殺されてしまえば良いという始末。だがそれ以前に伊集院家の警備は厳重で近づくことすら出来ないようだ。ならば直近で兄の警備が薄くなる時はないかと聞くと少し考えて答えた。


 「そういえば近々パーティーがあるわね。内々でやるものよ。その時だけは招待客の警護もあるし警備が薄くなるといえば薄くなるかも。はぁ……私も参加しないといけないから憂鬱だわ……。」


 絶対それじゃないか、襲撃してくるタイミング。俺は何とかそのパーティーに参加できないか伊集院に頼み込む。


 「あ、あのね!聞いてた!?内々のパーティーなのよ!?それに招待するって、あ、あ、あなた意味が分かってるの!?」


 顔を赤らめて伊集院は俺の参加を断る。だがそんなことで俺は滅気ない。


 「いや、それにさっきも言ったがサドウってのはマフィア相手に暴れまわる連中だ。主目標は兄でも妹の伊集院が狙われる可能性もゼロじゃないぞ。」


 俺の言葉で伊集院は事態を把握し顔を青ざめた。ヴィシャの悪夢がまた再来する。そのことがフラッシュバックしたのか取り乱す。


 「わ、分かったわ!何とかねじこむから!!そ、それよりも私をちゃんと守ってくれるんでしょうね!!」


 勿論だと俺は答える。サドウと目的は一緒かもしれないが、知人に被害を撒き散らすような危険人物なら、やはりわかり会えない。それに……伊集院には悪いが、サドウが動くということは少なからずとも亡霊の存在を考慮しているのではないかとも思う。手がかりが何もない今、サドウの動きに注視するのは悪くない選択だと思う。一石二鳥という奴だ。


 「というか、妹の伊集院って何よ、わかりにくいわね。」


 落ち着いてから、突然伊集院がそんなことを言い出した。そりゃまぁ確かに伊集院兄と妹がいるんだから紛らわしいのは事実だ。


 「じゃあ次からコトネって呼ぼうか?」

 「ふ、ふーん……じゃあ私はレンって呼ぼうかなぁ。」


 別に良いけど、何だその対抗意識は……。そういえば二人きりなのでついでに手提げ袋に入れた体操服とストッキングを突き返す。こんなタイミングしか返す機会が無いのだ。体操服を確認するコトネだったが、ストッキングも入っていた。


 「ふふ、おっちょこちょいね、忘れ物よ。」


 ストッキングを取り出して俺に手渡そうとするが、俺は断った。


 「いや、それは返すよ。」

 「か、返すってどういうことよ!ま、まさかあなたの欲望のはけ口として汚されたこのストッキングを私に使えというの!?な、なんて変態なの……い、いいわ……み、見てなさい……私があなたの変態的欲求に従う姿を……ど、どうせ何に使ったか教えるつもりはないんでしょう!?何に使ったかも分からないものを私の純潔な身に纏わせて……自分色に染め上げてやるってことなのね……!へ、変態とは思ってたけどここまで変態だとは思わなかったわ……!」


 そして頼んでもいないのにストッキングを脱ぎだして、俺が返したストッキングを履き始める。


 「うぅっ……レンの欲望が脚を包んでるのを感じる……こ、これで満足なのかしらこの変態……!いいこと……あなたのそんな変態的欲求に付き合ってあげるのは私だけしかいないんだから、もっと大切にしなさいよ……!!」


 付き合えなどと言った覚えはないのだがなぁ……そして手元にはまた先程脱いだストッキングがある。無限ループじゃないかこれ。体操服と違い小さく折りたためるので雑にポケットに突っ込んだ。


 「そういえばパーティーってどこでやるの?」

 「セントラルホテルよ、ドレスコードもあるから……学生服も私たちのようなパーティーでは駄目ね、用意しておくから当日は早めに来るのよ。」


 学生服じゃ駄目なのか。そして内心舌打ちをする。金持ちのパーティーって自宅でやるイメージがあるから、こっそりこの返すと別のものが返ってくる呪いのアイテム(ストッキング)を返却しておこうと思ったのに。



 部屋の外、軽井沢はずっと見ていた。会話は聞き取れないが、二人の様子は最初混乱していた伊集院、それを真剣な顔つきでなだめる境野、そして頬を染めて黙り込む伊集院、と思いきや突然境野に迫り叫ぶ伊集院、そしてうなだれたかと思うとまた普段の様子に戻り突然ストッキングを脱ぎ始めて境野に渡されたストッキングを履き、脱いだものを境野に渡していた。

 (?????)

 わけが、分からない。愛の告白が始まりそうな雰囲気までは理解できるけど、そこから先は……なに……?わからん……。とりあえずサドウに報告した。『伊集院と境野はストッキングを交換してた』と……。我ながら端的に綺麗にまとめた報告だ。境野たちに見つかる前にそうそうと退散しますか。

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