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見えぬ友人、奇妙な呪いと夜の帳

 微睡みの中、俺はふわふわと浮いていた。ここはどこだろう、まるでマシュマロに包まれたような……。


 「───きて!」


 不愉快な音がする。俺は近くのものを抱きしめる。ああ気持ちがいい、ずっとこんな時間が続けばいいのに……。


 「いい加減起ーきーろー!!」


 突然腹部に衝撃が走った。俺は反射的に目覚めて身体を起こす。一体何だ、何があった。辺りを見回すと……自室だ。眠ってた……のか?視線を下ろすとサキがいた。


 「なにやってんだお前?」

 「お兄ちゃんを起こしにきたのよ……。」


 俺が反射的に起き上がったせいで頭をぶつけたらしい。頭をさすっている。悪いことをした。サキに謝って着替えたらすぐにリビングに行くと伝えた。

 しかし寝ていた……こんな快眠をしたのは久しぶりかもしれない。頭がすっきりして、快適だ。今日はいいことがありそうだ。そうだスマホ!俺はズタズタになったスマホを……。


 「あれ……?」


 スマホはいつもどおりで傷なんてついていなかった。昨日は幻覚でも見たのだろうか。


 「おはよう、珍しいじゃないレンがサキに起こされるなんて。」


 母さんが朝食の配膳をしていた。サキも母さんの手伝いをしている。俺はテレビをつけると朝のニュースをしていた。


 「そういえば母さん、昨日はどうして帰らなかったの?」


 帰らない理由を聞いてなかったので世間話がてら聞いてみた。


 「……え?昨日?家にいたじゃない、どうしてそういうことをいうの?」


 母さんは不思議そうに俺を見つめた。いやサキが帰ってこないって言ってたじゃないか。事実、昨日は母さんがいなかったわけだし。サキを見てどういうことだと抗議の言葉を送る。


 「ちょっとお兄ちゃん、私に振らないでよ。ほら、お兄ちゃんも言ってるじゃん。昨日いなかったって。私だけじゃないでしょ。」


 どうやらサキも母さんのことについて同じ質問をして同じ回答を受けたらしい。母さんはというと何も分かっていないようで戸惑っている。


 「え、え……いやだ……二人してからかってるの?もう、そんなことすると悲しいわ。」


 俺とサキは目を見合わせた。理由は分からないが、これ以上、この話に踏み込むのはやめようと。きっと母さんは昨日、子供には話したくないことをしていて、それを言いたくないがために誤魔化しているんだとそう思うことにした。

 サキと一緒に外に出るとチャイナドレスの女性がいた。ユーシーだ。俺は驚き声をかけるが、ユーシーも俺を待っていたようだった。


 「昨夜は大変だったわね、けど一人で対処したあたり流石というところかしら。でも心配だからこれを渡しておくわ。」


 訳の分からないまま、何かを渡された。それは御札のような……お守りだろうか。


 「お守りであってるわ。本当はそれ、札束を請求する代物よ?仁のものに比べると弱いけど……それでも仁が亡くなった今、私のほうが効き目があると思うわ。」

 「さっきから何の話をしてるんだ?」


 俺は意味がわからないのでユーシーに聞くと仁の名刺を見せてと言われた。ポケットを漁る。名刺が見つからない。おかしいと思って全部取り出してみると、仁の名刺が十字に破れていた。


 「時間が過ぎたのか、強力な呪いにあたったのか、どちらかは分からないけど、仁の術はもう破れてたのよ。だから昨夜、襲撃があったわけ。」


 ユーシーの話だと、昨夜電話の様子が明らかにおかしかったこと、突然電話が切れたことから、急いで俺の家に駆けつけていたらしい。だが駆けつけてきた時には既に邪悪な気配はなくなっており、家も消灯していた。つまり俺が撃退に成功して、ぐっすり休んでいると思ったのだ。その後は念のため一晩ここで見張りをしていたという。

 ユーシーは事情を説明すると寝不足は美容の敵だからと言ってバイクに乗り走り去っていった。襲撃……?なんのことだろうか。昨夜来たのはよく分からない中年の男だけだが……。


 『これで借りは返したよ、俺の友人。』


 あれは盗聴器と盗撮器のことだと思ったが、ひょっとして友人であるらしい謎の人物が俺を守ってくれたのか?友人と聞いてクラスメイトを思い出すがこんなことをする人物が思いつかない。これも記憶の欠落が問題なのか……?


 「チャイナドレスでバイクに乗るなんて凄いなぁ、というかお兄ちゃんのどういう知り合いなのさっきの人。」


 登校中、サキがユーシーのことについてしつこく聞いてきたが、俺の頭の中では友人で頭がいっぱいだった。

 ───朝の学校、まだ登校者が少ない中、伊集院は人気のない物置に潜んでいた。


 「こ、これで報告は終わりです……昨日は報告ができなくて、すいませんでした……。」

 「ふむ、これといった情報はないね。君が連絡をしないのは珍しいからスマホでメッセージを送ったら怒涛の言い訳を送ってきたので笑ったのだが、それに見合っていない。」


 無線機のあいつは明らかに怪しんでいる。それだけではない、昨日はついこいつとのことを境野たちに話してしまった。心臓がバクバクする。一体どんな罰を受けるのか、めまいがするし、吐き気もする。


 「心音が随分と高いね、そんな緊張してどうしたんだい?君と私の仲じゃないか。」


 何が君と私の仲だ、ふざけやがって。殺してやる。いますぐにでも飛びかかりたい衝動を抑える。


 「まぁとはいえ、君の言い訳長文は笑わせたし、罰は軽めで良いかな。こうして遅れたけれども報告はしてくれたのだから。」


 そいつはいつもどおりだった。おかしい、他の人にお前のことを話したんだぞ?殺されてもおかしくないのに、なぜこんな緩いのだ。


 「あ、あの……報告が遅れてしまっただけで罰を受けるんですか……。」


 これは賭けだ。相手の反感を買うのを承知で、伊集院は賭けに出た。


 「……ふむ、"だけ"か。君は自覚がないようだね。確かに報告が遅れただけだが、それは基本的なことで大事なことだよ?やれやれやはり罰を与えて正解だったね。」


 ドサドサっと突然音がした。音の方を見る。箱だ。これを開けろということだろう。丁寧に包装を破って箱を開ける。中には……。


 「うっ……!!」


 吐き気を抑える。そこには無惨にもバラバラにされた女性の死体の一部が入っていた。


 「片付けはよろしく頼むよ伊集院くん、君もそれの仲間入りしないことを心から祈っている。」


 無線が切れた。死体を見る。これは昨夜殺害された女性の遺体で、見つかっていない部位だ。わざわざ報道させるために死体を残し、私の反応を楽しむために残った死体を送りつけたのだ。いつもそうだった。突然現れる贈り物という名の嫌がらせ、得体の知れない能力。だから自分のやることは全部見られていると思っていた。だが───吐き気を抑えながら、あいつに気取られないように伊集院は内心喜びに満ちていた。


 あいつは、境野たちに存在を知られたことに気がついていない!!


 伊集院の目に希望という光が灯った。あいつを倒す、引きずり下ろして今までの償いをさせる。その布石が整いそうなのだから。

 ───授業中やたらと視線を感じる。振り向くと伊集院がこちらを見て息を荒くしてニヤついていた。凄く気持ちが悪い。何か用事があるのかと思いきや、遠巻きで見ているだけで近寄ろうともしない。それは昼休憩も同じで、俺たちが食事をしているのを遠くで一人こちらを見ながら弁当を食べていた。いつもはどこかに行くのに珍しい。高橋は伊集院が気になるようで昨日のことを話さないでいいのかとしきりに話すが、どうも向こうの様子がおかしいのだ。


 「さぁカラオケに行くわよ。」


 放課後、伊集院がチャイムが鳴ると同時に席を立ち俺の席に詰め寄ってきた。瞳孔が開いていて息が荒い。興奮しているようで頬が紅潮している。そして俺の手をとり有無を言わせぬ様子で引っ張るのだ。


 「おい、お前何してる。」


 明らかに様子のおかしい伊集院を見ていたたまれなくなったのか、高橋が伊集院を止めようとしてきた。俺もいやほんとだよと高橋に同意しつつ引っ張りに抵抗した。


 「はぁ?私みたいな美少女にカラオケに誘われるんだから、こいつは喜んでるのが分からないの?これだから不良は人の気持ちがわからないのね。」


 まるで当然のことのように伊集院は俺を見て同意を求めた。少なくとも喜んで向かうならその引っ張る手に委ねるものだと思うのだが。とりあえず俺はいやまったくと断った。


 「な、な、なんなのあんた……私の誘いを断るの?おかしいでしょそんなの……まさか同性愛者……?いやそれなら高橋や夢野と付き合うはずないわ、わ……分かったわ。身体ね!このケダモノ……確かにわたしはその二人よりも貧相な身体付きかもしれないけど……それで女を評価するなんて最低だわ……!こ、このクズ野郎……!」


 伊集院はまるでなにかに取り憑かれたかのように、とんでもないレッテルを俺に貼り続ける。一体、俺に対してどんな認識を持っているんだ。呆れているのは俺だけではなく高橋も同じだったようで「とっとといこーぜ」と、カバンを持って外へと向かっていった。俺もついていく。


 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!わ、わたしをまた無視するの!?捨てるの!?昨日、あれだけのことをしといて!!あの時の傷がまだ私いたむのよ!!責任取りなさいよ!!」


 普段は物静かな伊集院が突然叫びだしたので、クラスメイトの視線が集まった。取り乱した様子で俺の両肩を掴み、すがるように「もうあんたしかいない。」だの「見捨てないで……。」だの懇願されている俺を見て、一体どういう目で見られるだろうか。少なくとも好印象ではないだろう。


 「わ、分かったよ……カラオケに行けばいいんだろ?昨日のところ?わかったからこの手を離してくれ。」


 俺は根負けし、伊集院についていきカラオケにいくことにした。


 「ほ、本当?本当に本当に??」


 しつこく確認をしてくる伊集院に俺は何度も頷いた。しょーがねぇなぁと高橋はぼやく。夢野も既に準備が整っているようだった。


 「いや、あんたたちは良いわよ、どうせ足手まといなんだし。」


 伊集院は今までの媚びた声から一転冷めた声で高橋に言い放つ。


 「境野、やっぱこいつ思いっきりぶん殴るべきだと思うぞ?」


 高橋は笑顔で俺に対し抗議の文句をつけた。これから一緒にカラオケに行くというのにギスギスとした空気にしないで欲しい。ヒヤヒヤとした気分で伊集院の発言にフォローを入れながらカラオケ店へと向かった。

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