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イレギュラー、見知らぬ誤算

 「あ、おかえりお兄ちゃん。磯上先輩が何かお兄ちゃんに用事があるからって待ってもらってたの。」

 「剣はいないけど、こうして六班でプライベートに集まるのは初めてか?新鮮な感じだな。」

 「そ、そういえばそうですね……剣さんは……まぁ仕方ないとして、磯上さんも何かと忙しそうでしたし。」

 「正直、私は別にいてもいなくてもどちらでもいいけど……レン、何か用事があるんでしょ?」


 皆、当たり前のように磯上と話をしている。何を言っているんだ。理解ができない。先日、敵対したばかりなのに。どうして……?いや考えられることは一つだった。


 「磯上、お前……人の心に何か作用する能力を持ってるな?」

 「あぁわかるか?だけど境野は違うんだな、まぁ想定のはんいな」


 気がつくと、俺は磯上を殴っていた。殴り飛ばされた磯上は家具に激突し転がる。


 「磯上!てめぇ!!」

 「何やってんだ、境野!!」


 高橋に後ろから羽交い締めにされる。皆が俺を驚きの目で見てる。


 「お前と磯上は友人じゃねぇか?突然どうしたんだ!?いきなり殴りつけるなんてどうかしてるぞ!!」

 「お、男同士のスキンシップって奴なの……?それにしては派手っていうか……。」

 「伊集院先輩、そんなのないですよ常識的に考えて。お兄ちゃん、流石に今のはないよ。謝ったほうがいいよ。」


 皆が俺を非難の目で見ていた。全員が俺と磯上は友人関係だと思っている。いや……この態度だと皆も磯上とそれなりの友好関係があるような言い方だ。まるで旧知の間柄のような……。

 だからってここで止められるわけない。磯上の目的は人類の殲滅。関係ない。今ここで確実に倒す。これ以上、被害を出さないためにも……!

 拳を振るう。トドメの一撃。だがそれは空振った。磯上が突然消えたのだ。

 どこにいったのかと周囲を見渡すと、後ろにいた。隣に誰かいる。あれは……。


 「東郷……!?どうしてお前が!!」

 「フハハハハ!久しぶりだな境野!どうしてだと!?我々東郷財閥は亡霊と同盟を結んだだけのこと!しかし無様だな!磯上殿のアタッチメントにより仲間から非難の目で見られるとは!」


 東郷は俺の姿を見て高笑いをしていた。奴のアタッチメントは触れたものをテレポートするもの。磯上の瞬間移動はあいつの仕業か……!

 しかし解せないことがある。なぜ東郷財閥が亡霊の手助けをするのか。理由がない。だってそれは……人類殲滅の片棒を担ぐことなのだから。考えられるのは一つ。磯上のアタッチメントは洗脳、恐らく長い時間をかけてやるもの。まだ影響を受けてる時間が短い、高橋たちは完全に磯上の味方となっていないが、東郷は完全に洗脳され、損得勘定すら出来なくなったのだろう。


 「磯上……!どうして皆を狙う!俺だけで良いはずだ!高橋たちは関係ないだろう!」

 「ん?あぁ勘違いしてるよ境野。俺はこれ以上、そいつらに何かするつもりはない。ただ邪魔をされたくないだけだ。俺は静かに見たいのさ。人類の滅びを。蚊の羽音が聞こえたら、誰だって不愉快だろ?」


 磯上は構える。俺をここで倒す気だ。計画の支障となると見て。そちらがその気なら助かる。皆には男同士の喧嘩ということで誤魔化そう。もっとも……磯上を殺してでも止めないといけないかもしれないが。


 「あーちょっと待ちたまえ。磯上殿。今、なんと?人類の滅び?どういうこと?」

 「宣言のとおりだよ?人類を滅ぼすんだ。俺たちの手で。」

 「はっはっはっ。磯上殿。馬鹿言うな。人類が滅んだら俺たちも滅ぶじゃないか。」

 「……?そのつもりだが?」


 東郷の表情は凍りつき、黙り込む。そして深呼吸をした。


 「……マジで言ってる?」

 「しつこいよ。本当だって。」


 磯上の肩に手を東郷は乗せた。そしていつものように自身に満ちた顔で磯上を見る。


 「いや、そんなことしたら我々財閥も全滅してしまうだろうがァッー!!」


 そして思い切り磯上を殴りつけた。磯上は信じられないといった表情で東郷を見ている。


 「くそっどういうことだ。テレポートさせようと思ったのに移動できない。お前のアタッチメントはワカメを生やす能力ではないのか磯上!!」

 「どういうことだ。はこちらのセリフだよ。お前何で俺を殴った?」

 「はっ!馬鹿かお前は!人類を滅ぼすとか言ってる電波野郎に手を貸すわけがないだろう!この東郷……いや。」


 東郷の姿が消えた。気づくと俺の後ろにいる。


 「この東郷とこいつがお前の野望を打ち砕こう!覚悟するがいい!!」


 今の一撃で東郷は磯上を倒せないと判断した。故に即座に今この場で可能性のあるもの……すなわち、境野の後ろに隠れたのだ。


 「……分からない。お前はワカメをたくさん食っていたはずだ。あんなにガツガツと。なのに何故そんな態度がとれる?」

 「……あぁなるほど。変な気がしたと思ったがあのワカメが能力のトリガーというわけか。そうだな、あのワカメを失うのは惜しい!とても美味しかったです。通販サイトでナンバーイーストという者がレビューしてるのは見てくれたか?あれは私だ!星5評価で毎日食べている。あぁワカメ茶も良かったな、茎ワカメをこう調理して……。」

 「そんなことは聞いていない!!お前は俺のワカメを確かに食べた!!なのに何故なんだ!!」


 ワカメを食べることで精神作用するアタッチメント……と考えられる。確かに皆は磯上の作ったワカメを食べている。サキについては……お茶……ワカメ茶を飲まされていたのだろう。同時に安堵もした。俺もワカメを食べたがあれに強力な洗脳効果を感じなかった。おそらくは……その効果に強弱を付けられるのだろう。少なくとも磯上が言っていたとおり、高橋たちに手を出すつもりがないというのは本音なのだ。

 突然手を握られた。見ると東郷だった。俺を見ている。


 「え、何突然気持ち悪いんですけど。」

 「貴様ァー!!私の能力を忘れたのか!!!!」


 なるほど、そういうことか。おれは何もない空間に向けて殴りつける。瞬間世界が飛ぶ。磯上の真横に飛んでいた。そのまま拳が磯上に叩きつけられる。不意の攻撃に磯上はまた吹き飛ばされ転がる。

 だが手応えはない。何かの能力であることは間違いない。恩恵……だろうか。


 「感じたか境野。奴は何らかの手段で攻撃を無効にする術をもっていることに。」


 最初に思いついたのは有栖川のような自動防御スキルに似たもの。だが違う点がある。手応えはないが、確実に磯上本体は吹っ飛んでいるということだ。つまり防御は完全なものではない。


 「まずは東郷、お前からかな。」


 瞬間光るものが見えた。糸のように見えた。突然東郷が悲鳴をあげる。東郷の腕が切断され、血を吹いていた。


 「な、な、なんだ!何が起きたというのだ境野!何とかしろ!!」

 「東郷、お前の能力はその手で触れることが条件なのは知っている。もう片腕も貰うよ。」


 また光るものが飛ばされる。次は見逃さない。俺は見た、宙空に高速で射出された植物の種子を。植物の中には種子を爆発するように飛ばし分布を広げるものもいる。あれが東郷の腕に食い込み、一瞬にして成長したのだ。肉体を引きちぎるほど、急速に。

 ならば簡単だ。種子を確認した瞬間、俺は周囲に炎を展開した。空間を覆い尽くす炎。種子であるならはこれで機能を失う。

 磯上は驚愕の表情を浮かべていた。炎に対してではない。俺に対してでもない。その視線の先、東郷に対してだ。


 「腕は確かに飛ばしたはず。東郷、お前もしや……最初から我々の洗脳を解いていたのか。いや……そもそも、効いていなかった……ということか。」


 東郷の手が俺の背中に触れる。俺はまた飛ばされ磯上の近くに移動する。考えている暇はない。殴りつけても駄目だというのなら……俺は思い切り磯上を掴み、遥か上空へと放り投げる。天井を貫き、磯上は遥か彼方へと飛んでいった。

 東郷の様子を見ると、磯上が驚いた理由が分かった。両腕がある。確かに切断された片腕が何事もなく。


 「上空に放り投げるのはいいが境野、どうするのだあいつを。いいか、人類殲滅など断じて許さんぞ。磯上印のワカメが手に入らなくなるのは痛手だがそれは我慢する。買い溜め分をビンテージもののウイスキーのように少しずつ……む?」


 いくつもの光り輝く糸があった。即座に理解した。これは種糸。ワカメの……。


 「東郷気をつけろ!まだ終わっていない!!」


 種糸は急激に膨張し巨大な植物となった。まるでそれは童話にでてくるような、現実に存在しないような巨大な植物。ワカメと呼んで良いのかすら怪しい。

 巨大な植物から枝のようなものが生えてくる。とてつもない勢いで建物の壁を貫き破壊する。まるで無数の槍のようだった。植物を伝って磯上が戻ってくる。


 「驚きだよ東郷!お前が!境野と一緒になって俺に立ちはだかるなんて……なぁ!!」


 地面から無数の植物が生えてくる。それはただの植物ではない。その全てが俺たちを拘束するもの。ワカメなどという次元ではない。


 「狼狽えるな馬鹿者!私を誰だと思っている!ふん……懐かしいなあの試験。あの時もこうして奴のワカメに足をとられたのが致命的だった……だが宣言しよう!この私に同じ手を使うなどと!!境野!!このワカメを早くちぎれ!!早くしろ!!」


 自信満々に東郷は俺に助けを求める。そりゃあ確かに、この程度なら千切れるが……俺は半ば呆れながら東郷の足元に駆け寄る。その時、東郷の手が俺に触れる。上空だ。上空に飛んだ。


 「これで良い、奴がワカメを生やすのは分かった。であるならば、狭い室内にいるのは駄目だ。そしていくら縛り付けようと、テレポートすれば問題ないのだ。あの時だって……時間があれば対処できていたのだ!分かるだろ境野!!」

 「お、おうそうだな……。」


 空中にいればワカメに縛られることはない。それは事実だ。だが俺の主な攻撃は打撃。地面がなくては踏みしめることが出来ないので威力が激減する。そして何故か東郷のアタッチメントが磯上には通じない。つまり俺たちは、防御することは出来ても攻めの一手に欠けているのだ。


 「おい……!なにやってんだよお前ら!ケンカだからって自分の家を半壊させるのはやりすぎだろ……!」


 磯上の能力により自宅は半壊した。たまらず高橋たちは外に出てきたのだ。俺たちはその様子を上空から見ている。


 「な、なんなんすかこれ!?あーしがアイス買いに言ってる間に……いや、これ……磯上の……亡霊!!?」


 下から軽井沢の声がした。そういえばあいつはあの場にいなかった。とはいえあいつも磯上のワカメは口にしている。状況は高橋たちと同じだろう。


 「軽井沢か。元とはいえ亡霊なんだ、少し俺の手伝いをしてくれないか。」

 「なっ……どういうことだ磯上、手を出さないって!」

 「六班や境野の家族にはな?わからないのか、友としての情けでもあったんだよ。軽井沢何をしている。お前の能力で東郷を拘束しろ。いま時点であいつが一番厄介だ。」


 軽井沢の周囲に何か粉末状のものが舞い始めた。おそらくは微小の植物片かワカメの種子か……体内に摂取させることで洗脳の強さを高めるなら、確かにこうして直接、能力を駆使して取り込ませれば一瞬にして洗脳できるだろう。軽井沢は磯上の能力を知らない筈だ。今も何が起きているのか理解できず、体内に磯上のワカメを取り込み続けている。


 「駄目だ軽井沢!逃げろ!既にお前の周囲で能力が発動しているッ!!」


 俺の叫びに上空に俺と東郷がいたことに、気づいたのか軽井沢は見上げた。驚きの表情だった。何に驚いたのか、既に磯上に洗脳され、敵がすぐそこにいたことに対してなのか……。


 「ふざけんなっ!協力なんてするわけないじゃないっすか!あんだけのことをして……なんであーしが境野っちを傷つける手伝いをしないといけないんすか!!」


 瞬間、世界が沈黙した。無音の世界。東郷は口をぱくぱくしている。言葉が出ないようだ。俺も同じだ。磯上の方を見る。瞬間、全てを理解した。この周囲の音……空気振動が全て収束し、磯上に叩き込まれている。軽井沢のアタッチメントは音の可視化と具現化。だがかつて俺は彼女が亡霊となったとき、音を攻撃として叩きつけられていた。

 音とは即ち空気の振動。振動に指向性を持たせ、その全てを磯上に叩き込められている。それは高周波振動となって磯上の肉体、周辺のワカメを崩壊させる。振動は物質の結合を破壊し、分解する。如何なる強固なものでも。

 いつまでも続くかと思った無音の世界は終わりを迎えた。軽井沢の限界が来たのだ。汗を流し、息を切らしている。俺たちは軽井沢の近くに転移した。


 「軽井沢!お前大丈夫なのか!?」

 「はぁ……はぁ……大丈夫っす……よ……ていうか何してるんすか……東郷と二人で戦ってるなんて……どういう理屈っすか。」


 奇妙な組み合わせに軽井沢は思わず笑う。能力の行使による疲労なだけで問題はなさそうだ。しかし……。


 「どういう理屈だ……?軽井沢……お前……なぜ俺の能力が通じない。東郷は大体理解した。だがお前は別だ。矮小の存在だった。なぜお前がそこに立っている。そちら側に立っている。」


 軽井沢の能力を受けた磯上は身体をズタボロにしながら満身創痍の状態でやってきた。効いている。俺たちには出来なかった磯上への攻撃が、軽井沢は出来るのだ。


 「なぜ?そんなことも分からないんすか?ワイルドハントのみんなを殺して、境野っちも傷つけて……なんであんたなんかに従わないといかないんすか!」


 軽井沢は理解していない。自分が磯上の能力を無意識化に打ち破っていることを。故に磯上はただ不気味だった。この女は何かがおかしい。境野とも剣とも東郷とも違う。何か別の手段で能力を無効にしている。そして厄介なことに本人はそれを自覚していない。


 「くそっ……東郷といい突然のイレギュラーばかりだ。何なんだこいつら。悪いな境野。本当はここで決着をつけたかった。お前はここで殺したかった。それが俺がお前にできる一番の友情だと思ってた。でも無理だ。その女はわけがわからない。下手に手を出して……計画が狂うのはごめんだ。本当に悪いな境野。」

 「フハハハハ!怖気づいたか磯上よ!だが仕方あるまい、これが我々の力だ!!命乞いをするなら許してやらなくもないぞ?おい軽井沢!疲労は飛ばしたから大丈夫だ!いまのを何度も打ち込んでやれ!!」

 「なんであんたに命令されないといけないんすか……ってあれ本当だ?疲れがとれてる……。」


 東郷のアタッチメントは触れたものをテレポート、吹き飛ばす能力。ただしそれは物質、生命に限らない。概念すら吹き飛ばすのだ。怪我をした事実、病気、疲れ……そういったこともテレポートさせる。即ち彼の能力の本質は永久機関。東郷がいる限り、人は無限に戦い続けることができる。不滅のアタッチメント。その力は当然、磯上の洗脳能力すら吹き飛ばす。


 「またな境野。この先は本当に見せたくなかった。お前には綺麗なままでいてほしかった。エデンとカナンの、醜い戦いを知るのは、俺だけで良かった。」


 磯上の肉体が少しずつ散っていく。植物の種子のように風に流され飛んでいく。磯上の意味深な言葉が気になった。この先とは……一体何が起ころうとしているのか……。


 「ニュースだ……!東郷、俺の家に来てくれ、ニュースを見るぞ!」


 今、亡霊がしていること。それは国家の転覆。その先に何があるのか、俺は知らなくてはならない。訳の分からない様子で嫌々ついてくる東郷を引っ張りテレビをつける。家が半壊したが幸いテレビはつながっている。テレビでは緊急ニュースが続いていた。


 「新政府は新司法を立ち上げ、旧政府犯罪者を裁判にかけることが決定しました。公判はすぐにでも開始する予定です。」


 新政府による裁きの時が来た。そして裁判を受ける犯罪者たちの名前がリストアップされる。その中には観籠元総理の名前もあがっていた。

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