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動き出した陰謀、迫る悪意

 朝になった。何故かとても気分がいい、爽やかな気分だ。しかしそんな気分もカーテンを開けると吹き飛んだ。


 「なんだこれ。」


 窓に手形がたくさんついていた。何なんだこれは。なぜこんなことに?


 「お兄ちゃんおはよー。」


 ガチャリとノックもなしに入ってきてビクッと身体が跳ねる。サキだ。


 「ちょっと、驚きすぎでしょどうしたの?」

 「お、お前こそ何で突然入ってくるんだよ。」


 サキは既に着替えており、寝巻き姿ではなかった。


 「何言ってるの、こうして妹が起こしに来たっていうのに、そんなに変なこと?」


 それが当たり前のことのように、表情ひとつ変えずにサキは答えた。


 「この手形はお前の仕業なのか?」


 窓を指差す。さしたのだが……手形が消えていた。


 「お兄ちゃん、何してるの?手形って?」


 きょとんとした顔でサキは首をかしげる。


 「い、いや……なんでも……ない……。」


 俺の様子を不思議がっていたサキだがそれ以上は言及しなかった。リビングに下りるといつもどおり母さんが朝食と弁当を作っていた。弁当を受け取りカバンに詰め込む。朝食の配膳が済むまで朝のニュースでも見る。朝食を食べる。学校へと向かう。いつもどおりのサイクルだ。だというのに奇妙なことが立て続けに起こるせいで、どうも調子がおかしい。『亡霊が動き出した。』亡霊って窓に手形がつく怪奇現象のことなのか?よくわからない。だが同時に思い出す。この世界は異世界であるということに。アタッチメントなんてものがある世界、窓に手形が突然付いたり消えたりするのも不思議なことではないのかもしれない。

 教室に入ると二階堂が駆け寄ってきて無事だったかと心配そうに話しかけてきた。そういえば高橋に殴られるって話だったな……なにも無かったことを報告すると二階堂は胸を撫で下ろす。


 「境野くんと高橋さんが何もなくて良かったよ、実は遅くなったが打ち上げをしようと思ってね。今更ではあるが我々2班6班同盟の勝利のさ。」


 そう言って二階堂は手帳を取り出した。俺の予定を確認したいらしい。特に予定が入っていない俺はいつでも良いと答えた。そして遅れてやってきたリサや無限谷、軽井沢、陽炎に磯山や伊集院にも同じように聞いている。栗栖と夢野は既にいたようだ。一際大きな戸の音がした。高橋だ。相変わらず目立つ。


 「あ?何見てんだお前ら。」


 そして相変わらずの調子で教室へ入っていくが、俺を見ると一声、おはようさんと挨拶をして席に座った。


 「た、高橋くん!君の予定も知りたいのだが!!」


 あぁ?と二階堂を威嚇する高橋だったが滅気ない二階堂はメモ帳にスケジュールを書き込んでいた……。

 昼休憩になり、またいつも通り弁当を取り出す。相変わらずハート型なのだからコソコソとしないといけない。そして当たり前のように夢野は正面に座っていた。涙を流しながら。


 「何で泣いてるんだよ……。」


 ハンカチを手渡す。夢野は涙を拭いて鼻をかんだ。そして俺に返す。洗ってから返してくれ。


 「伊集院さんをお誘いしたんです……今度こそ友達になろうと……。でもそうしたら私のような人と一緒にいたくないって……そうですよね私みたいなゴミが思い上がりましたよね……こんなクズムシには、境野さんくらいしかいないんですよ……。」

 「そりゃあ、酷い。」


 見回すと確かに伊集院がいない。いつもいないということは、別クラスに友達でもいるのか食堂で食べているのだろうか。まぁ別に昼休憩にいなくなるのは伊集院に限った話でもないわけだが。


 「でも打ち上げには誘われてるんだろ?」

 「境野さんも来るんですよね……来なかったら……し、死にますから……!」


 軽い脅迫をスルーして箸を進める。今日はいい天気だ。明るいうちに無明探偵事務所に行けば補導もされないだろうか。いやその前に電話だな。俺はスマホを取り出して登録した電話番号に電話をかけた。着信音がしばらくの間なって電話が出る。


 「はい、こちら無明探偵事務所ですが。ご用件をお伝え下さい。」


 女性の声がした。事務の女性だろう。


 「境野連と言えば伝わると思うんですけど仁さんいますか?」

 「申し訳ありません、仁は外出しております。ご伝言があれば承ります。」


 俺はこの間の話の続きがしたいということを伝言に残し電話を切った。同時に戸が大きく音を立てた。


 「くそっ、寝過ごした……購買ほとんど売り切れてたわ。境野メシに……って根暗何してんの?」


 高橋がやってきた。夢野は顔面蒼白ではわわと声を立てている。俺の隣へとどかっと座り込み、パンを取り出して食べ始める。


 「お前ら、仲良かったの?全然そんな見えねぇけど。お、境野それくれよ。」


 俺の弁当のおかずを手に取ると口の中に入れる。抗議をしようとすると高橋がちぎったパンを俺の口の中に入れてきた。甘い。


 「んでよー、委員長が打ち上げしようってんだけど、もう聞いてるよな?境野はいつってて答えたんだ?」


 当たり前のように会話に入ってきて話を進めてきたが、幸い共通の話題なので臆せず答えた。他愛のない話だ。二階堂のこと、打ち上げがどんなになるかなど、恐らく夢野に気を使っていたのだろうが、夢野にも分かる共通の話題をふっていたが、肝心の夢野は魂が抜けたように動かなかった。


 「な、なんか悪いな、また放課後、話の続きしようや、あと今度はどこいくよ?またカラオケとかで良いか?」


 そういえば遊びの約束を今日もしてた。探偵事務所に行くつもりだったが……別に高橋と一緒に行っても良いだろう。


 「行きたいところがあるんだ、面白くないかもだけど。」


 分かったと答えて高橋は手を振って去っていった。戸が閉まる。俺は夢野に声をかけた。夢野は覚醒したように元に戻った。


 「……ひどすぎませんか……。」


 夢野が恨めしそうに俺を見る。何でだよ。俺が何をしたというのだ。


 「と、と、友達の私を差し置いて高橋様と一緒に遊ぶなんて……いや私なんてダニと一緒にいても楽しくないから仕方ないですよね……死にたい……。」

 「そんなことないから!そんな言うなら放課後、夢野も一緒に来ればいいだろ!」


 俺の言葉に夢野はキョトンとして目を輝かせた。


 「わ、私なんかが一緒に……?放課後一緒に……?いや……幻聴ですよね、きっと……死にたい……。」


 すぐに目を伏せる夢野に対して何度も何度も言い聞かせる。ようやく俺の言葉が通じたのか夢野は不器用に笑いながら満足そうにしていた。しかし高橋と一緒にいて大丈夫なのか今更ながら不安だ。ずっと固まってたもんな……。



 ───最近2年連中が騒がしい。何でも東郷が転校したそうだ。噂では総合能力試験で6班に無様を晒したからだという。6班のメンバーは磯上、剣、境野……境野の名前を聞くと痛む拳がより疼く。かつて拳を破壊され、ギプスを粉砕されてから……境野には勿論、リサにも関わろうとしなかった。だというのに、嫌でも耳に入る。腹の底が燃え上がるようだ。

 そう、彼はかつてリサと争っていたところを境野に介入され、結果大怪我を背負ってしまった男だ。名前を久枝ひさえだという。彼は今、鉄向てつむかいという卒業した先輩のところに顔を出していた。先輩は暴力団にも声をかけられている札付きの悪で、暴力を振るうことに何の抵抗も持たない。刃物も常に携帯していて、ケンカで刺したことなんて何度もある。要求は手痛かったが今日学校に来るらしい。ざまあみろだ。俺は嬉々として校門へ向かった。先輩がくる前に境野が逃げ出さないために。

 放課後の時間になり、忌々しい境野の姿を確認する。生意気にも女二人を連れて下校するようだ。だがこれは好都合だ。女の前で情けない真似を見せてやれる。


 「先輩、あいつバカみたいに握力が高いから気をつけてくださいよ。」


 到着した先輩に境野の情報を教える。粉砕したギプス、恐らくあいつは怪力のアタッチメント。ならば先輩の敵ではない。


 「かわいい後輩のために一肌脱いでやるんだ、感謝しろよおい?」


 先輩は既に刃物に手をかけている。必要であれば抜く気だ。先輩はバカであるが、実戦になれば極めて狡猾で冷静だ。加えて先輩のアタッチメント……初見殺しの技には誰にも勝てない。例えそれが理不尽な暴力であってもだ。

 境野は気づかずに校門へと近づいてきた。俺のことも覚えていないだろう。そして校門を横切った瞬間挨拶をかましてやる。


 「「よう、良い身分じゃねぇか。」」


 先輩の柄の悪い声が重なった。何だ?先輩が二人?気づくとそこにはスーツの男が立っていた。


 「ん?なんだこの柄の悪そうな……レン、こいつとデートの約束でもしてたのか?」


 それは暴力が立っているようだった。見るだけで胸が締め付けられる。目つきは猛禽類のようで、整った髪こそは紳士的だが、先輩と同類であることは明らかである。

 その男の名は無明仁。まるで世界に落ちた異分子のように、俺たちの前を横切り境野に手を振った。

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