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崩れ落ちる楽園、狂い始める世界

 突如、出現した闇の光はコアユニットを貫き破壊した。コアユニットからはまるで血液のように、黒い液体が溢れてきている。


 「ギ、ギルガメシュ!!あの馬鹿ものがぁぁぁぁ!!」


 アシェルは叫びながら爆散した。どうやら今の攻撃はギルガメシュの仕業のようだ。自爆したと見て良いのだろう。しかし、コアユニットからは黒い液体が溢れてはいても、稼働を止めたわけではないように見える。鈍い光を放ち、なお脈動している。止めるには……トドメの一撃が必要だ。


 「ここまでしてやられるとはな。異界の使者よ。ここまでは筋書き通りか?」


 ハカーマニシュと呼ばれた王が立っていた。だがその姿はボロボロだった。俺たちと戦っていなかった分、まだ存在を保てているのだろう。俺は身構えたが、既に戦う気力はないらしく、ただ俺と話がしたいだけのように見えた。


 「いや違う。懸命にやってきて、それがたまたまこの結果に繋がっただけだよ。」

 「そうか。無策でここまでやられたというのなら……最早言い訳のしようもないな。最後に問わせてくれ名もなきアドベンターよ。貴様はこの後、どうするつもりだ。エデンとカナンに対して、どう戦うつもりなのだ。」


 エデンとカナン。またその名前だ。何のことかまるで分からないが、今なら聞いていいはずだ。俺は問いかけた。エデンとカナンというのは何なのか、こちらこそ教えて欲しいと。その質問に、ハカーマニシュは目を丸くし、そして笑う。


 「エデンとカナンを知らない。迂闊だったな。ならば先に我々はそれを聞くべきだった。もしも話していたのなら、このような結末にはならず、お前とは協力関係でいれたかもしれないというのに。心してかかるといい。その二柱は既にこの世界の支配者。我々外来種とは根本的に異なるのだから。」


 ハカーマニシュは意味深なことを呟いた。どういうことだと問いかけようとしたその瞬間、爆散した。アシェル同様死亡したのだ。


 疑念は残る。だがまずはコアユニットをなんとかしなくてはならない。俺の炎では外皮を焼くだけだった。先程の一撃のような強い一撃……真っ先に思いついたのは、アーサーを灼いた炎の槍だった。アーサーとアシェルは同格といってもいい。にも関わらず、俺が無自覚でうった炎の槍を、肩を掠めただけで激痛に悶え、引きちぎるという選択をとった。それは恐らく、奴らにとって極めて有害で、患部を切り離すしか対処がないのだろう。それを直接、コアユニットに打ち込めば……倒せるはず。

 俺はイメージした。あの時の記憶をもとに。作り出すのは焼き尽くす炎ではない。ただ一点、貫く炎の槍。何人にも負けない、世界を貫く必滅の槍……。心臓が跳ね上がる、魂が震える。俺の中の何かが俺の願いに応えようと脈動する。

 そう、幸いにもここはシャングリ=ラ=アガルタの内部。つまり何をしても……"奴"の邪魔は入らない。

 精神に何かが混ざる感覚がした。自我が焼かれていく感覚。それでも止めない。今、ここで俺がこのコアユニットを破壊しなくては、世界そのものが終わってしまうから。その時、何かが俺の中に入ってくるのを感じた。それはそう答えた。


 (此度は共闘しよう、支配の大火よ。)


 強い嫌悪感。俺の魂の破片が、全力で拒否反応を示す。だがそんな気持ちとは裏腹に目の前には炎の槍が具現化していた。ただ少し以前見たのと異なり、炎だけではなく、何か眩い光を感じた。確信をした。よくわからないものだけれど、これならばコアユニットを完全に破壊できると。俺は目標めがけて発射する。炎の槍はコアユニットに突き刺さった。瞬間、周囲にヒビが入り隙間から強い光が溢れる。そして炎が爆発的に巻き起きた。コアユニットは爆散し、黒い液体が周囲を満たす。

 コアユニット破壊と同じタイミングで、地面が揺れ始めた。洛神が滅びようとしている。当然だ。洛神とは即ちシャングリ=ラ=アガルタのこと。コアユニットが破壊されれば自然と機能を失う。


 「レン!大丈夫か!……ってうわ何だこれ、おいレンこの黒い液体ちょっとやばいやつだぞ!触れて平気なのか!?」


 振り返ると仁がいた。俺は大丈夫と答え駆け寄る。仁曰く、この液体は猛毒。呪詛の塊、トライビクターを数千倍も濃縮したようなものらしい。ホテルでの事件でもそうだったが、どうやら俺にはトライビクターに対する耐性があるらしい。その理由は恐らく……そっと自分の胸に手を当てた。


 「急いでここから脱出するぞ。レン、お前がここまでやってきた乗り物はなんだ?急いでそれに乗り込み脱出するんだ!」

 「あー仁……それなんだけど……。」


 ここまで来た経緯を説明すると仁は頭を抱えた。あまりにも非常識的すぎて笑っていた。

 それでも何とかならないかと、やけくそでブロッサムフラワーがあるところまで向かう。そこにはハオユが待っていた。


 「あ、兄貴!大丈夫でし……げぇっ!?仁!?それに帮主バンズウ!?」


 仁は龍星会のメンバーからは酷く恐れられているのを忘れていた。ただそれはそれとして、今はこの緊急事態を何とかしなくてはならない。

 ハオユは俺と分かれてから一端、ブロッサムフラワーに戻り修理をしていたようだ。というのも洛神の様子が以前と異なること、あったはずの緊急脱出艇が壊れていたことから、生還する方法を模索していたのだ。

 だが……故障自体は大したことなかったが、肝心の燃料がないのだ。


 「というわけで洛神の燃料を拝借しようと思ったらこの騒ぎですよ!」

 「いや、洛神に燃料はないよハオユ。」


 洛神とは大型アドベンター。即ち一つの生き物なのだ。故に燃料など最初からない。発電施設もアドベンターのエネルギーを活用した独自のもの。あえて燃料と呼べるものがあるとするなら調理用油くらいだった。ごま油で動力は動かない。当たり前だ。


 全員が諦めかけていたその時だった。何かが洛神内に突っ込んできた。それは小型潜水艦。


 「全員無事か!早く乗りなさい!!」

 「ちょ、そ、総理危ないから早く戻ってくださいよ……。」


 観籠総理が、危険を顧みず軍隊を率いて自ら迎えに来てくれた。後から聞いた話だが、ザリガニがSOSを出して、ずっと俺たちの位置をナビゲートしてくれていたらしい。だから途中でザリガニの通信がなかったのだ。潜水艦に全員乗り込む。そして壊れゆく洛神を、いやアドベンター、シャングリ=ラ=アガルタを窓から眺めながら、ようやく終わったと一息つくのだった。


 トライビクターとはシャングリ=ラ=アガルタが放った超小型アドベンターである。即ち本体の死亡とともに、トライビクターもまた自然と死滅していった、中毒者たちの症状も改善され、全ては元通りになるだろうという見立てだ。

 陸上に戻った俺たちは多国籍軍からの大歓迎を受けた。英雄だ!救世主だ!皆が口を揃えて言う。そんな熱狂的な雰囲気に思わず恥ずかしながらも、悪くない気持ちだ。


 「境野くん。彼らは別に大げさではないよ。君は間違いなくこの世界の危機を救ったんだ。はは、これは真っ先に助けに来た特権かな?改めて礼を言おう。ありがとう、君の……いや君たちのおかげで救われた。さぁみんな!英雄たちの凱旋だ!!今日は国同士のしがらみぬきに、楽しもう!」


 その日はお祭り騒ぎだった。髪の色が、目の色が、肌の色が違うたくさんの人々が笑いながら飲み交わしている。俺は何度も知らない人たちに絡まれた。家族や恋人と思わしき写真を見せて、俺を抱きしめるものもいた。言葉は分からないが皆、感謝の言葉を伝えているのが分かる。皆、不安だったのだ。世界中にバラまかれた毒薬が、大切な人の身体を蝕んでいくのが恐ろしくて仕方なかったのだ。


 「いやー凄いっすね……中々話しかける機会がなくて困ったもんすよ。」


 代わる代わる挨拶をしてくる人たちの流れがようやく落ち着いて、俺はみんなと話せるようになった。トライビクターの影響はもう皆、完全に抜けているようで平然としている。


 「潜水艦に乗り込むなんて無茶しやがって、いやでも鼻が高いぜ!クラスの皆にいい土産話ができたな!」


 高橋は肩を組み片手にワイングラスを持っている。ブドウジュースらしいが雰囲気は出ている。それから皆からは質問責めだった。潜水艦の中はどうだったかだの……。そういえば楽園級アドベンターとの遭遇は二回目なのだが、皆には話していなかった。俺は今までの戦いを振り返りながら話しながら、戻ってきた日常を噛み締めていた。


 「よお、英雄さん。随分とモテモテだな。男女問わず……まぁMVPらしいから仕方ないか?」


 振り向くとルナとバルカンがいた。ザリガニに呼ばれて来たらしい。聞くところによると、トライビクターの影響は喫茶店の方でも酷かったが、そこはバルカンやルナなだけあって、暴力をチラつかせ、一歩も暴漢を寄せつかせなかったらしい。皆はルナとは初対面の筈なので軽く紹介した。

 彼らが呼ばれた理由は一つ。仁がいると言われたらしい。それを聞いて真っ先に飛んできたのだ。


 「また私のこと忘れてたら、今度は顔が変形するくらいボコボコにしてやるつもりさ。」

 「えぇ……そこは感動の再会、お互い涙を流して抱き合うとかじゃないのか?」

 「我が娘ながらおっかねぇなぁ。でもレン、そいつは違うぜ。男ってのはそんな涙を流さねぇんだよ。まぁ見てな?大人の男同士の付き合いを見せてやるよ。」


 二人はそう言って周囲を見渡す。仁もまた今回のヒーロー。人に揉まれて中々見つからないのだろう。仕方なしにパーティーの料理を口にして批評してる。


 「バルカン……?」


 パーティーの喧騒の中、それはハッキリと聞こえた。声の方に向くとそこには仁が立っていた。


 「仁……?お前……本当に……。」


 バルカンはまるで信じられないような様子で、確かめるように少しずつ仁に近寄る。


 「馬鹿野郎、生きてるんなら連絡くらいよこしやがれ。」

 「悪いな、ずっと圏外だったんだよ。」


 そして二人は黙って抱きしめあった。


 「ルナさん、また無視されてるけど良いの?」

 「……分かってて聞いてるだろお前。あんなイチャつかれたら、私も流石に横入りできねぇよ。はぁ男同士の友情って奴かねぇ?まぁパパや仁の珍しい姿が見れたから良いけど。」


 二人は顔を歪め、涙を流しながら、それでも口には出さず、ただ無言で力強く抱きしめていた。そこには俺たちからは分からない、決して立ち入ることのできない、深い絆があるのだと感じた。


 こうしてパーティーは夜遅くまで続き、皆その日は立場も国籍も性別も関係なく、大いに勝利を堪能していたのだった。



 ───早朝。観籠総理は電話にて各国の首脳、外交官や司令官等との挨拶がようやく終わり一息ついていた。パーティーには多くの国の人々がいた。今回の事件は世界に脅威を与えたが、無事解決ができた。これもあの青年のおかげだ。とても誇らしく思う。あのような若者がいる限り、我が国は安泰だろうと……そう思いながら仮眠をとろうとした、その時だった。


 「み、観籠総理!大変です!!」


 側近が慌てた様子で入ってきた。仮眠をとることは伝えている。にも関わらず来たということは、よほどの重大事件だと察した。側近を落ち着かせるように、穏やかな声で何があったか説明を促す。


 「ぼ、暴動です!!我が国の各地で……暴動が起きています!!!」



 都市が燃えている。暴徒が火を付けたのだ。建物のガラスが次々と割られる。人々が略奪を始めたのだ。叫び声と悲鳴が入り交じる。暴動に大義はない。まだ今のところは。これは種火だ。少しずつ広がっていく大火災への。

 全ては計画通り。ムォンシーの計画が失敗するのは目に見えていた。もとよりあんな子供など信頼していない。亡霊最後の騎士は不敵に笑う。計画は成した。後は特等席で見守るだけ。世界の終わりを。世界が滅ぶ様を。そのとき、君はどういう表情を見せてくれる?境野連。

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