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龍星会、三連の禍津星

 かつてこの星には後に人類と呼ばれる獣たちがいた。彼らはそらより飛来したアドベンターにより、その脳を乗っ取られ、寄生された。この星には外敵を排除する性質がある。その力は絶大で、いかなる強力なアドベンターといえどただでは済まされない。故に原生動物に寄生することで、その目を欺くことを選択したのだ。

 だが疑問がある。そのような手段でこの星に乗り込んできたのは本当に一柱だけなのか?答えはノーである。そのアドベンターは原生動物に寄生する手段はとらなかった。驚くべき方法で星の敵性反応を退ける。それは、岩石と一体化して隕石として飛来すること。目論見は成功した。成功したが……計算外のことが起きた。着地地点は海の底だったのだ。この星の七割弱は海。意識しなければ海に落ちる可能性が高い。こうしてそのアドベンターは海の底で、じっくりと機会を伺った。この星を支配する、絶好の機会がくるまで。


 洛神から放出される薬物トライビクター。これは厳密には薬物ではない。超小型アドベンターなのだ。海に散布されたそれは、次々とこの星の生命体に寄生していく。かつてアバロンが、したのと同じように。ただしその力は極めて弱い。生命の持つ代謝能力によって体外に数日もすれば排出される。だが問題は、排出されたところでトライビクターは消失しないことだ。巡り巡って、自然界を循環し、星を巡る。

 既にこの星の多くが、トライビクターに満ちていた。それは即ち、親玉である超弩級大型アドベンター、シャングリ=ラの活動を意味する。この星の抑止力は、自身の防衛に専念し、異物に対する反撃機能を失っていた。


 「今こそ復活だ!我らが龍星会の!真なる龍星会の復活のとき!!」


 玄武は笑いながら叫ぶ。そして肉体は変容していく。玄武は既に、超高濃度のトライビクターを体内に摂取し続けている。それは即ち、かつて連が見た光景、人類の変容。新たなる王の誕生。この時点で、連だけが知っている異常現象。

 連は剥がれた外壁を叩き壊し、持ち上げる。そして玄武に思い切り投げつけた。


 「仁!あれは今のうちに食い止めなくてはまずい!!」


 そう仁に事の重大性を伝えようとした瞬間、投げつけた外壁は、突然横から謎の力により吹き飛ばされる。振り向くとそこには、既に王がいた。かつて相まみえた、アバロン=アーサーと同じ圧力を感じる怪物。既に誕生していた。


 「白虎!朱雀!そう、我々は成り果てるのだ!新たなる王に!クク……ククク……残念だなぁ、そこのクソガキも、生贄にするつもりだったのだが、まぁ良い……三つもあれば上出来だ!!」


 玄武の身体が闇に包まれる。そして闇は剥がれ落ち、新たな姿に生まれ変わる。その名をシャングリ=ギルガメシュ。かつてこの世界に君臨した、シャングリ=ラが生み出した、王である。


 この星には奇妙な文明が存在する。それらは突然、歴史に出現し、そして歴史から消失した。正確な記録はほとんど残っておらず、僅かなものだけ。真実は、シャングリ=ラが深海から送り出した、アドベンターに変わりない。いずれも、矮小な器に収めた不完全なものであったため、苦戦こそしたものの、当時の人類と星に撃退された。

 だが此度は違う。十分な器を用意して、作り出した王。そう、アバロン=アーサーと同じように、原生生命体を利用した傑作。


 「遅い、待ちわびたぞ。アシェル、ハカーマニシュよ。」


 シャングリ=ギルガメシュが愚痴るように二人の王を見つめる。彼らもまた同じく、シャングリ=ラにより生み出された王、シャングリ=アシェルとシャングリ=ハカーマニシュである。その力は同じく、単独で世界を全人類を死滅させる力を有している。圧倒的な存在感。対峙するだけで身が竦む思いだった。


 「"前回"とは異なり、この身体は使いやすくてな。色々と試していた。馴染む。我が主は本気のようだ、あの時の雪辱を晴らすために。」

 「アガルタへの接続を済ませた。数万年ぶりの再会だ。」


 そう、シャングリ=ラは双星のアドベンター。二つで一つ。この星に落下したのは二柱なのだ。その名をアガルタ。シャングリ=ラと共に、落下し今この海底に水深10000メートルに息を潜めている。いずれシャングリ=ラとともに、あることを願って。

 地面が揺れる。外壁が剥がれむき出しとなったシャングリ=ラの肉体はアガルタを捕まえ一体化した。数万年の時を経て、二つの柱は一つとなったのだ。

 浮上していく。今こそ蹂躙のとき、三人の王とともに、世界を穢す。


 「祝祭だ、王の誕生を祝う記念日だ!フハハハ!!アシェル、ハカーマニシュよ!余は気分が良いぞ、よもや貴様らとともに戦う時が来るとはな!!しかし……ゴミがいるようだな。」


 ギルガメシュが俺たちを見る。瞬間、世界が凍りつく。重たすぎる圧力が俺の胸を締め付ける。───殺される。そう感じた。


 (見つけた。)(今こそ悲願を。)(何をしている。)(お前は我々の仲間ではないのか。)(許すな。)(殺せ。)(憎い。)(なぜ。)


 まただ。またあの声が、俺を呼んでいる。アバロンの時と同じだ。


 「あ、ああ……ああぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


 それは俺の中に入ってくる。分からない、分からない記憶。いやこれは想い。かつてこの星を目指した者たちの怨嗟、宇宙!そらを巡る開拓者たちの復讐の呼び声が!!

 

 「落ち着け連、その声に耳を貸すな。お前は、お前であればいいんだ。」


 気がつくと声が止み、周囲に仁の護符が展開されていた。まるで何かから護るように。


 「ほう、これは珍しい。ゴミだと思ったが、一人……我々と同じ者がいるぞ……否、それはおこがましいか。我らは所詮、王とは言え尖兵。だがあれは、おお何と恐ろしい、そして輝かしい。純粋な肉体、魂。そして僅かではあるが、見えるぞ。我らが主と同じ力を。小僧!名乗ることを許可しよう、我らに殺される前にその名、覚えてやろう。」


 三人の王の一人、ギルガメシュが俺に興味を示したのか、見つめている。先程見せた殺気は一時的とはいえなくなった。他の王もまた同じ心境なのか、黙って俺を見ていた。


 「耳を貸すな連……何とか隙を作るぞ。連中は確かに強力な存在だが……七星剣ならやれる。」


 七星剣とは仁の持つ最終兵器。その力は神すら打ち砕く必滅にして必勝の剣。確かにあの武器なら、奴らを殲滅できるだろう。しかし……。


 「七星剣ってもう使えるのか?最近使ってたけど。」

 「最近っていつ?」

 「一ヶ月くらい前。」


 仁は黙り込む。そして無言でムォンシーを抱きかかえた。


 「まだ手はある、たった一つ残された手がな……。逃げるぞぉぉぉぉ!!」


 仁は走り出した。信じられない早さだ。俺も急いで追いかける。後ろをみると三人の王は仁王立ちのままだ。俺たちのことは眼中にないということか?いや……。


 「仁!防御しろ!!攻撃来るぞ!!!!」


 俺と仁の後ろに結界魔法陣が出現する。それと同時に、巨大なエネルギーが飛んできた。周囲を吹き飛ばすそれは、まるで嵐が通り過ぎたかのようだった。だが幸い仁の防御が間に合い無事だ。態勢を整えて、俺たちは逃げる。ただ全力で。


 「む、あれを耐えるか。ただのゴミではないようだ。誰が追う?」


 後ろでそんな不穏な会話が聞こえた。


 「仁!これからどうするんだ!あいつらは!追いかけてくるぞ!!」

 「まず結論から言うとあいつらを倒すのは無理だ!それは分かるよなぁ連!スケールが桁違いだ!ったくとんだ化け物だぜあいつら!だがお前の言いたいことも分かるぜ!放っておけないよなぁ!!?」


 ならばどうすれば良いのか。簡単なことだ。あいつらは尖兵。ならば本体を叩けば良い。即ち、この洛神本体……。悠久の時を超えて一つとなったアドベンター、シャングリ=ラ=アガルタである。無論、それもまた至難の技。だが……今のところシャングリ=ラ=アガルタからの攻撃はない。恐らくまだこの星の防衛反応を警戒しているのだ。尖兵はともかく、本体が動けば感づかれると。畏れている。

 ならば今、この瞬間。世界がトライビクターに満ちるまでの僅かな間こそが勝機なのだ。


 「こいつは楽園、楽園級アドベンター!こいつにはどこかコアとなる部分がある!そこに致命的なダメージを与えれば、消滅するはずだ!さっきの連中とともにな!」

 「本当なのかそれ!?どこでそんな情報を!!?」

 「無明のおっさんが言ってたんだよ!今はあのおっさんを信じるしかねぇ!!」


 ───無明。そういえば無明仁と名乗った仁は何者だったんだ。仁やムォンシーは何か知っているのか?今、関係ない話だというのに、何か胸騒ぎがした。無明について聞き出そうとした瞬間、背後から悪寒を感じた。奴らが追いかけてきたのだ。あれは、三人の内、一人。ギルガメシュと名乗る王。片手には剣……ではない。長い得物。例えるならそれはボートのオールを彷彿させる長く棒状で平べったいもの。形状はオールと異なり歪曲している。


 「どこへ行く、異郷のものよ!余の質問を無視するとは、例え貴様といえど不遜であろう!?」


 得物を振るうと、周囲障害物を無視して叩き壊す。強大な膂力の為せる技か、それともあの得物の武器としての機能か。


 「仕方ねぇ……!連!ここは俺たちが食い止める!時間を稼ぐ!その間にお前は探すんだ、このアドベンターのコアを!!」


 仁は俺の背中を押す。瞬間、身体に羽が生えたかのように軽くなった。確かにどちらかが食い止めなくては話にならない。いずれ追いつく。だがそれは……。


 「仁!頼むから無理はするなよ!!」

 「分かってるよ!それに敵はこいつだけじゃねぇからな!!」


 仁の覚悟を無下にはできない。俺は加速した。振り返らず、ただ前へ。


 あっという間に遠くへと加速していく連に対し、ギルガメシュは構える。あの程度なら届く。問題はここがシャングリ=ラ=アガルタの中だということ。あまり力を出しすぎては傷つけてしまう。力を制御し……。


 「矮小すぎて見えなかったぞ。貴様、まじない師の類か?風情が余を止めるなど、無礼千万極まることを知れ。」


 周囲の空間が歪んでいる。恐らく今射出しても、軌道をそらされ正確に連に届かない。この男……仁という男は空間を操作できるようだ。だがその程度、大したことない。そんな使い手は、数万年前に腐るほどいた。

 轟音がした。ギルガメシュが手持ちの武器を振り払ったのだ。振るうだけで周辺は破壊され、吹き飛ばされる。それは剣と呼ぶには奇妙な形状であるが、ギルガメシュの持つ武器。名は鎌形剣ムルガム。


 確かに振り払ったはずだ。男と抱えていた童女もろとも。だが手応えはまるでない。その男と童女は無傷で立っていた。

 仁の術式である水鏡。それはあらゆる物理攻撃を無にする。


 「なるほど、少しは楽しませてくれるようだな?精々足掻けよまじない師。」


 武器を構える。その価値が多少はあると、僅かな時間で感じたのだ。


 「悪いなムォンシー。本当はお前も逃したいんだが、お前単独じゃあレンには追いつけない。それなら……。」

 「良いよ仁、それに逃げるなんていや。私だってこいつがどれだけ強いか分かる。それでも、仁だけよりも私がいる方が、勝率は高いはずだから。」


 仁は微笑む。そのとおりだ。正直、こいつを倒せる手段が未だに見えない。だから手札は多いほうが良い。子供をこんなことに巻き込むのは少し罪悪感はあるが、水鏡が使える分、レンよりも俺の傍のが安全なはずだ。


 「待ちなよ、僕もいるよ。三人だ。二人きりで戦うなんて許さないよ仁。」


 仁のスマホから突然声がした。ザリガニだ。いつの間にハッキングをしたのか。


 「ふ、ふぅ~ん!ザリガニちゃん?あんたはレンのサポートについたほうがいいんじゃない?きっと迷子になるよ?」

 「既に艦内に大きな熱源をいくつか探知していて、地図を送付済みさ。あとはナビに従って走ればいい。お前こそ、少し仁から離れた方がいいんじゃないかな?近いよ。」


 二人はスマホ越しにいがみあっている。懐かしい光景だ。この光景を守るために、やはり俺はここで終わるわけにはいかない。今度こそ、失わないためにも。


 「分かったザリガニ!サポートは頼むぞ!三人で王様退治と行こうじゃねぇか!!」


 二振りの銃を取り出す。どこまで通用するかは分からないが、可能な限り足止めをする。レンが必ずこの洛神を落とすことを信じて。


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