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激突、大地を揺らすものたち

 潜水母艦洛神。龍星会が秘密裏に建造していた超大型原子力潜水艦。それは一つの都市機能を内包しており、洛神の中で一生を過ごすことすら可能だ。またその外壁も極めて強固であらゆる攻撃を寄せ付けない。まさに動く要塞、動くシェルター、動く国家なのだ。


 「聞けば聞くほど、一介の学生が手を出せるもんじゃないな……。」


 ハオユの説明を聞いて頭を抱える。こんなもんどうやって相手すれば良いんだ……。


 「兄貴、勘違いしてますぜ。一介の学生じゃない。兄貴には元龍星会の皆がついてますよ!」

 「頼もしい限りだけど……うん……訂正するよ……俺たちで手を出せるもんじゃない……。」

 「そんな弱気なぁ!」


 そういえばこうして協力関係になるのは以前、弦を倒しに行ったとき以来だ。あのときは陸続きだったからどうにでもなったけど……今回は海の底……どうしようもない。


 「お前、まだいたのか。」


 俺とハオユが作戦会議をしていると公塚がやってきた。隣に座る。


 「洛神をどうにかできないかなぁって。」

 「一般人のお前が考えることではないだろう。もっとも……我々公安もどうすれば良いのか見当もつかないが……。」


 三人寄れば文殊の知恵というが、現実はそう、うまくいかない。三人揃って頭を捻るが何もいいアイディアが出ないのだ。


 「き、公塚警視!よろしいでしょうか、大変であります!」

 「どうした、そんなに慌てて……あぁ彼らなら気にするな、話せ。」


 公塚は俺たちに目配せをして、報告を促す。あまり報告内容に期待していないのだろう。


 「は、はい!それがその……内閣総理大臣がお見えになりました!!」

 「はぁ!?」


 内閣総理大臣とはこの国の行政のトップ。即ち最高権力者に位置する。ただ、この国は独裁国家ではなく、組織の腐敗を避けるため権利を分立させた制度をとっているのだ。警察機関は対外的には行政機関の一部として機能しているが、その権限は独立性が強く、内閣総理大臣といえど、その決定権は持たない。

 ……というのが一般的な話だが、現実問題として、やはり内閣総理大臣相手なのだから忖度する必要はあって……要するに今回のような重大事件に対して視察してこようものなら、最高責任者自ら、総理を出迎えるのもまた通例の一つなのだ。


 「くそっ!現場は忙しいのに、支持率稼ぎか?馬鹿総理が……ッ!」


 公塚は相当苛ついていた。当然である。洛神の対策方針が決まっていないところへの総理の視察。当然事件への対策、方針が問われるだろう。そこへ『まだ検討中です。』と答えられるか?無理だ。警察の威信丸つぶれ、無能のレッテルを貼られるだろう。

 当然、公塚に落ち度はない。時間の問題……というより空気の読めない総理の問題。たまにいるのだこういう、働いていますアピールをする総理が……。マスコミ受けだけ良い総理。そういう奴は決まって我々現場からの評価は最低最悪なのだ。


 「おまたせしました総理。言ってくだされば送迎致しましたのに。」


 調査本部として建てた仮設テントの中に入る。総理は周囲を見渡している。調査資料や鑑識のとった写真を眺めていた。彼こそがこの国の内閣総理大臣。観籠英世みかごえいせい


 「いや構わないよ公塚くん。私は挨拶も不要だと言ったのだがね、やれやれそれが逆に嫌味のように聞こえたらしい。」


 白々しい。貴様の立場を考えれば自明の理だろう。どこに内閣総理大臣が視察に来て挨拶をしない責任者がいる。


 「現場の状況は聞かせてもらった。洛神……と言ったか?原子力潜水艦……マフィアというのは怖いな、そんなものまで持っているのか。」

 「お言葉ですが総理、それはまだ未確定情報です。元龍星会の証言のみで裏は取れていません。」


 無論、言葉とは裏腹に公塚はハオユの言葉を信じていた。警視としての直感。ここ最近、聞いている漁師の失踪事件も兼ねて、龍星会絡みの話は聞いている。頭目であるムォンシーが、既にマフィア内で孤立していて、一部の側近を除いて人望などもうないということも。

 だが、それとこれは別。未確定情報であるのも事実だし、下手に捜査情報を総理に話すと、余計なことを口出しかねない。勿論、それに従う義務は我々にはない。だが"内閣総理大臣の意見"を無下に扱うことができないのも事実なのだ。


 「いいや、未確定ではない。確定だ。奴らは間違いなく、原子力潜水艦規模の戦力を保有している。」


 ───何を言っているんだ?

 公塚がそう思った瞬間、部下が血相をかえてやってきた。


 「警視!警視!!大変です!!大変なんです!!!!」

 「なにごとだ、今は総理の視察中だぞ。静かにしろ。」

 「はぁはぁ……視察ではありません!総理は視察に来たのではないのです!!!外を見てください!!!!」


 公塚はテントから顔を出す。───絶句した。


 「公塚くん。だから言ったのだ、挨拶など不要だと。」


 外には装甲車が、戦車が、戦闘ヘリが、そして突撃銃を持った人たちが……そうこれは軍隊。軍隊がいる。

 内閣総理大臣は行政機関の長である。そしてもう一つ、緊急事態時には軍隊の最高司令官としての機能もあるのだ。警察とはまったく異なる。指揮権全てを有し、あらゆる軍事活動に対して、あらゆる承認を無視して、内閣総理大臣の独断で行使することが可能となる。

 その権力は、能力は、警察機関を遥かに超える。だがそれでも、最高司令官として君臨するのは首相官邸で指揮するのが一般的だ。言うならば、ここは最前線。


 「既に各国と連携し軍船をいくつか出撃させソナーにより探知している。結果、原子力潜水艦規模の人工物を発見した。」


 公塚は冷や汗を垂らす。こんなことがありえるのか?確かに大事件ではあるが、だからといって軍隊の介入など……。


 「現地警察機関と協力、連携し捜査を進めることについても、既に発令済みだ。そして全ての中心であることがここであることも確認した。……よくここまでたどり着けたな公塚くん。君のような有能な警官を持って私は誇りだ。」

 「……ッッ!総理!ここは最前線です!!わかっているんですか!?軍隊が出動する意味が!?最高司令官として行動する意味が!!?ここにいることがどういう意味を持つか!!?」


 最高司令官として君臨する。それは響きは良いが、逆に言えば"軍隊の行動全てに責任を負う"ということに繋がる。しかもここは最前線。「知らなかった」「部下の報告がなかった」などという言い訳は通じない。いや、それ以前に軍隊として出動するということは後々、市民団体や野党からの出動の是非についての議論、非難が待っている。また仮に軍隊として出動する価値のある現場だとすると、そこは命がけの戦場。文字通り、命を賭して戦える覚悟のある者だけが立てる場所なのだ。


 「公塚くん。君は見たのだろう。この薬に苦しんでいる者たちを。都市では地獄だったよ。治安は崩壊し、秩序は失い、弱者は怯え、暴力に狂った世界。」


 知っている。ここに来るまでに、何度も見てきた狂った世界。目の前で助けを乞う人々を、歯ぎしりを立てて無視し、この現場に直行したときの不甲斐なさを。俺は知っている。


 「国民が、目の前で苦しみ、絶望に沈み、助けを乞うているというのに、黙って指を加えている総理がどこにいるッ!私は内閣総理大臣であるッ!!全身全霊を持って、我が国の治安と安穏の為に尽くすのが使命だッ!!そのためならば俺の命は何一つ惜しくはないッッ!!」


 最高司令官が現場に来るメリットは大きい。それは情報伝達、指令の高速化。迅速に、現場状況に応じて対応できる。今回のような例外のない非常事態ならばその効果は大きい。


 「安心したまえ公塚くん!私がここに来たからには、君たちを縛るものはなにもない!全て報告し、最善と思う行動をしなさい。君は最高責任者として、今後の作戦を立案しろ!無論、軍隊の戦力を考慮した上でだ!」


 こんなイカれた内閣総理大臣がいるのか。公塚は唖然としていた。こんなの全てが終わったら内閣総辞職不可避だろ……。この男は……自分に酔いしれているのか?正義の味方気取りか……?そんな薄っぺらい気持ちは、すぐに化けの皮が剥がれるものだ。

 そう思った矢先だった。爆発音がした。皆が騒ぎ始める。何が起きたのだ。


 「ちっ、奴らめ。周期が短くなったな。いよいよ本気というわけか。」

 「奴ら?周期?総理、何のことですか!?」


 今までこんな爆発はなかった。この総理は……何を連れてきた?


 「言ったであろう?原子力潜水艦規模と。龍星会が所有する原子力潜水艦級潜水母艦洛神。あれには対地ミサイルが積まれている。それが今、迎撃システムによって目標が反らされたのだ。」


 ───馬鹿な。この男は……既に戦場に立っていた。最初からずっと、命を懸けていた。甘く見ていたのは俺の方だ。原子力潜水艦級ならば……当然武装していると考えるのが自然だ。故にこの総理は軍隊を率いて、俺たちのところに応援に来たのではないか!

 両頬を叩く。この男は、観籠みかご総理は信用できる。そして希望はできた。軍隊ならば、原子力潜水艦とも戦える。


 「分かりました総理、軍司令官を紹介してください。調査情報と今後の方針について話をします。それと……。」


 紹介したい重要参考人が二人いる。そう伝えた。

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