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霞む真実、虚構の家族と奇妙な日常

 静かな公園のベンチで二人、俺と仁は静かに座っていた。力を与えた、彼は確かにそう言っていた。聞き間違いではない。そして記憶の欠落とも。俺の知らないところで何かがあったのだ。信じられないような表情を浮かべる俺に仁は気づいたのか、話を続ける。


 「安心しろ、俺はお前の味方だよ。」


 そう言ってタバコを吸い、また咳き込んだ。味方には見えない。殺気にもとれるあの空気を出していた相手に何を信用しろというのか。俺は警戒の色を解かなかった。


 「ケホッ……ハァハァ……ふぅ……俺のことなら癖みたいなものだ、職業病というか、つい相手に威圧感を与えてしまう。だがなレン、本当に警戒すべき相手は俺のような素直な奴じゃない、狡猾で欺瞞に満ちた相手というのは笑顔で相手の懐に潜り込んで刃物を刺すのさ。」


 まぁ記憶がないなら俺をいきなり信用しろというのは無理な話だがな、そう補足して立ち上がった。


 「今日はお前に伝えたいことがあって来ただけさ。亡霊が動き出した、気をつけろ。」


 そして仁は夜の街へと消えていく。亡霊という謎の言葉を残して。まだ聞きたいことはある、記憶の欠落とは何が欠落したのか、亡霊とは何か、俺に味方する理由は何か。だがいつの間にか仁を見失い、俺は夜の街に一人取り残されていた。無明仁、彼の名刺を手元に残したまま。

 すっかり遅くなってしまった。仁の言う亡霊とはなんなのか、信頼に値するのかは分からないが、気をつけるに越したことはないだろう。それに名刺もある。住所電話番号もあり、いざとなればこちらに向かうのもありだろう。俺は自宅のドアを開けていつもどおり帰宅した。


 「随分と遅かったじゃない、何をしてたの?」


 母さんは俺が帰ってくるなり、不機嫌そうに尋ねる。時間は20時、確かに黙っているには若干非常識だったかもしれない。


 「ごめん、ちょっと友達と遊んで遅くなった。ご飯は?」

 「何で連絡しなかったの?」


 日暮れまでには帰るつもりだったのだが、仁に捕まったから……というのが本当の話なのだが、果たしてこんな話が通じるのか疑問だ。だが隠すつもりもないし正直に話す。


 「何かよく分からない探偵に突然話しかけ」

 「誰?」


 最後まで言い切る前に母さんは質問を続けた。しかし質問の意味が分からない。誰と言われても探偵としか言いようがない。俺は食卓につき夕飯をとろうとする。


 「だから探偵だよ、仁っていう。なに母さん探偵に興味あるの?」


 俺がそう答えると、母さんは憑き物が落ちたように俺の正面に座った。そこからは母さんとはいつもどおり、他愛のない世間話で終わった。食事が終わり部屋に戻る。部屋に戻るとそこにはサキがいた。俺のベッドに座っている。


 「お前、勝手に人の部屋に入るなよ。」

 「いいじゃん、お兄ちゃんもあたしの部屋に勝手に入ったんだし。」


 朝のことか。確かにそうだがそれは起こすために仕方ないじゃないか。俺は椅子に座って名刺から仁の探偵事務所の住所を確認する。もし近いようなら時間のあるときに寄れる。


 「お兄ちゃん何調べてるの?」

 「住所。」

 「住所って誰の?」

 「気になるお店みたいなもんかな。」

 「一緒に映画を観てた人は誰?」

 「あれは同級生の───。」


 俺は振り向いた。


 「見てたのか。」


 サキは俺のベッドに寝転がり、俺の布団を抱きまくらのように抱いている。


 「いつから見てたんだ?」

 「夜の街で笑いながら手を振ってたところからかなぁ。」


 それは───映画を見終えてスイーツバイキングに行き、ゲームセンター、カラオケに行った最後の話だ。つまり、最初から最後まで見ていたということだ。


 「覗き見は感心しないな。」


 俺はため息を吐いた。周囲には誰もいないと思ったが、どこに隠れていたのか。


 「あのあと何処に行ってたの?」

 「どこってそのまま帰ろうとして……公園に行ったけど。」

 「嘘だよね、あのあと街にいたじゃん。」


 サキは寝転がりながら、俺とは視線を合わさないで指摘する。確かに街にいたのは事実だが、それは公園のあとだ。嘘はついていない。


 「確かに街にも行ったけど、それは公園に行ったあとだよ。なんだ、あのあとの行動全部知りたいのか?公園行って、街に行って、あとはそのまま家に帰ったんだよ。」


 返事がない。ごろごろと寝転がるのもやめてじっとしている。相手にするのも面倒になったのでスマホの画面を見る。探偵事務所の場所はどこだろう……繁華街の中か、学生服で行くと補導されそうだな。なら電話をするのが一番だろう。俺はスマホに無明探偵事務所の電話番号を登録した。メッセージが届いた。リサからだ。あれからどうだった?と心配してくれている。無事であることを伝える。


 「おい、いい加減に」


 ベッドのサキを引っ剥がそうと視線をうつしたが、いない。どこに行ったんだ。


 「リサさんって確かバロンで一緒だった人だったよね、違う人だね。」


 後ろから声がしたので振り向くとサキがいた。目を離したのは一瞬だった。


 「その人と会ってたの?」

 「いや、だから公園行って街行って帰ったって言ってるだろ。」


 何故か伝わらないことに苛立ちのあまり、つい声を荒らげてしまう。


 「……そうなんだ、ごめんねお兄ちゃん。おやすみ。」


 サキは俺の部屋から立ち去っていった。ドアが閉まる。


 『本当に警戒すべき相手は笑顔で相手の懐に潜り込んで刃物を刺す。』


 何故か突然、仁の言葉がフラッシュバックした。


 「……馬鹿な。」


 俺はカバンから教材を取り出して今日の復習と明日の予習を始めた。まるで考えたくないことから気を逸らすかのように。

 風呂に入って歯も磨き、電気を消して床に就く。


 「ん……。」


 チクリとした。痛みのもとを見ると仁に貰った名刺があった。そういえば名刺を見ながらスマホで住所を探していたら、サキが突然後ろにいたから慌てて落としたんだ。ベッドに紛れていたのか。今更机に戻すのも面倒くさい。これは仁との唯一の接点だし無くしてしまいたくもない。なので、絶対になくさないように枕元に置いておくことにした。寝相でぐしゃぐしゃになるかもしれないが、俺はそんな悪い方ではないと思う。

 今度こそ俺は眠った。沈むように……。

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