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情景は、ねじ曲がり

 決して敵わぬ天才がいた。いくら努力を積み重ねても、決して届かぬ遠い存在がいた。

 術師というのは狭い世界で、例え接点がほとんどなくても、目立った者はあっという間に噂が広がる。それが名家の人間なら尚更だ。境野仁はそんな人間だった。

 雷伝もまた術師の家系であることから常日頃、仁の噂は聞いていた。自分と近い年頃の人間が、大人を圧倒する実力をもっている。

 そんなある日、仁と共に仕事をすることがあった。


 圧倒的だった。

 価値観がひっくり返る。名門、境野家の男はここまでやるのか。否、違う。この男が規格外なのだ。その日から、俺は仁についていった。年の差など関係が無かった。俺は魅せられたのだ。彼に。


 ある日、彼は俺の前からいなくなった。人々は語る。術師として禁忌を犯したと。東の果ての都市へ左遷され、公僕の犬として生涯を終えると嘲笑っていた。

 その時の気持ちを今でも忘れられなかった。俺は、笑っていた。心底安心したように。


 俺は自分を理解していなかった。本当は気づきたくなかった気持ち。俺はずっと……あの男に嫉妬していたのだ。妬んでいたのだ。でもそんな気持ちを見せたくないから、親しいふりをして、目を逸らしていた。

 どんな場所でも自身を貫き、孤高の存在として頂きに立っていたあの男の生き方が、とてつもなく羨ましかったのだ。


 それから逃げるように、仁の不得手なことばかり身につけることにした。そうすれば仁と比較はされない。仁のできないことを俺はできる。それが俺のちっぽけな自尊心を満たしていた。



 息を整える。眼前には死んだと思っていた仁がいる。何の因果か、今こそ自分の力を試す時が来たのだ。


 「はぁ……はぁ……無駄だ仁!既にアバロンは召喚された!!お前にやれぬことを俺はやった!!止められるかこれを、この災厄を!!無理だ!!お前は何も出来ない、雷伝蓮悟によって無様に敗北するんだ!!」


 既に目的は達成している。アバロンの召喚。アーサーは敗北したが、それでもなおアバロンは健在。であるならば次ならアーサーがいずれ生まれる。万に一つ、仁に勝機はない。

 だというのに、なぜそんな表情を見せる。絶望に落ちた顔を何故見せない?


 「アバロンは未だこの星に降臨していない。その理由はこの星の防衛力を恐れているから。そうだろう?」

 「そうだ!だがいずれそれも限界が───。」


 空気の読めない着信音がした。連のスマホだ。仁は連にスマホを見るように促す。ザリガニからの連絡だった。


 「えっ……。仁、これって……。」

 「説明してやりな今、外で何が起きているか。」

 「あ、あぁ……ザリガニからの連絡だ。アバロンの撃退に成功した。そちらは戦いに専念してくれ、だそうだ。」


 ───は?

 アバロンを……撃退……?何を言っているんだ?冗談、はったりにしてはもっとまともな事を……辺りを見回すと行き場を失ったメルリヌスが溶けて消えていっている。


 「アバロンは元々、人類の祈りに応えて降臨した存在だ。奴の目的は『永遠の安息、安寧による支配』人々の想いに応えて強くなり、降臨する。だからお前はVR機器を使い多くの人々を洗脳したんだろう。」

 「そ、そうだ!かつてアバロンが降臨したときの資料を照らし合わせて……同じ条件を作り出した!」

 「だからザリガニはな、それを利用してVR機器をとおして洗脳をかけ直すプログラムを構築し、人類を逆洗脳……まぁ洗脳解除プログラムを流したんだよ。今や正気に戻った人類は、アバロンを異形の怪物としか見ない、畏れ、恐怖、嫌悪感、アバロンの最も嫌う感情。無理やり召喚されアーサーも失ったアバロンからすりゃ、無理に降臨する価値もないってことさ。奴は今、未知数の敵による攻撃も受けたことだしな。」


 こいつは何を言っているんだ。

 プログラムを構築?このネタがバレてからまだ一時間も経っていない。洗脳プログラムを解析し構築したにしたって早すぎる。IT分野に疎いと知っていたが、こんな荒唐無稽なことを言い出すとは思わなかった。アバロンが撤退したのは……そう、何か別の原因が。


 「いるんだよ、蓮悟。世の中には俺やお前には想像もつかない、とてつもない才能をもった奴らが。俺やお前が逆立ちしたって敵わない。こうやって世界は回っていくんだ。これが人類なんだ。新しい世代が次々と生まれていき、新たな世界の扉を開いていく。彼らの道を導くのが俺たち大人の仕事なのさ。」


 違う。誰だこいつは。仁はそんなことを言わない。仁は孤高で、誰よりも強く、一人誰にも到達し得ない領域を開拓し続けた。決して、他者の力に頼るなど、しない。


 「ザリガニだけじゃねぇ、バルカンにメスガキ、それに連。俺は多くの人と出会い、助けられ、支えられた。救われた。どうだ蓮悟。俺の仲間はすげぇだろ?」


 見たことのない笑顔で、まるで子供が自慢するかのような笑顔で、仁はそう答えた。


 「巫山戯るなッッ!!!」


 肩を震わせ怒鳴る。これ以上、そんな妄言は聴きたくない。


 「俺はお前が妬ましかった!お前のように強くなろうとひたすら磨き続けたッ!何もかもお前に近づくために!!だというのにそれはなんだ!?これはなんだ!!?なぜそんな顔ができる!!!お前は負けたんだ!!!死んだんだ!!!死ねば終わりだ!!!!!お前と俺に……何の違いがあるというんだ!!!!?」

 「……ただ巡り会えた出会いが違っただけ。それだけだよ。」


 雷伝は振り返ると常に一人だった。仁は一人で何もかもしていた。そう思っていた。だから自分もそうでなくてはならないと。余計なものを削ぎ落とし、仁に少しでも近づこうとし続けた。だが現実は違っていた。仁には確かに信頼している仲間がいた。

 まるで喜劇、勘違いの道化だ。俺の人生は……何もかもが独りよがりで……。いや……まだ一つだけ確かなことがある。


 「……まだだ。まだ俺がいる。俺がいる限り何度もアバロンは喚び出す。」

 「だろうな。」


 雷伝は構える。それに応えるように仁もまた構えた。お互い、武器もアタッチメントも術式も捨てて、徒手空拳で。

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