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眼前に立つ、世界を灼き尽くす大火

 かつて人と共に歩むことを決めたアドベンターがいた。原始世界で、その者は人と出会い人の美しさを知った。人の素晴らしさを知った。故に人に寄り添い、助け合い、この過酷な世界で生き抜くことを誓った。

 それはいつしか忘れられ、神話として残り続ける。そのアドベンターは人の魂に溶け込み、いつまでも見守り続けた。境野連のいた世界にアドベンターはいない。否、一柱のアドベンターと共に戦った英雄たちによって、アドベンターを斃し尽くしたのだ。

 境野仁は知らなかった。連の魂に、そのようなものが眠っていることなど。思いもよらなかった。魂の再構築。連に遺した仁の技が、よもやこのような形になるとは。連に溶け込んだ仁の魂とともに、悠久の果てに溶け込んだ、とあるアドベンターの魂もまた、姿を表そうとしていた。


 そのアドベンターの行動原理は唯一つ。何万年という時間が経ったとしても変わらない。忘れない。かつて交わした約束。我々のともを、なかまを、かぞくを護る。ここはどこだ?我らが盟友を苦しめるのは誰だ?我らの敵はどこだ?


 「「お前か。」」


 アバロン=アーサーと目が合う。境野連の口から、この世のものと思えない声が聞こえた。そして何かがアバロン=アーサーを貫いた。否、貫いたのは騎士王だけに及ばず。世界を貫いた。炎の槍。


 「がぁぁッ!!ぐっ……なっ……なん……だ……!!」


 貫いた肩が燃える。燃えていく。それは炎のようで炎ではない。だが例えるのならば魂を焼き尽くす原初の炎。あのアドベンターは炎だ。肩を引きちぎる。最早、肩から先は死んでいた。あの炎に魂ごと焼き尽くされた。

 

 世界を焼き尽くす炎。星を貫きそらへと突き抜けたそれは、今なおその残照が大気を燃やす。アバロンは即座に異変を察知。アーサーとの交信により事態を把握する。そして初めて認識した。この星には今、"敵"が二柱いることに。燃える一部分をパージ、アーサーと同じように対処する。消えぬ炎。それはアバロンすら燃やし尽くす業火。


 アバロン=アーサーは即断した。目の前のあれは最早、境野連に非ず。我々の存在を脅かす、打倒すべき相手であると。聖剣の制限を解除する。アバロン=アーサーの持つ聖剣はアバロンとの交信装置。聖剣を通じて、アバロンと連携をとる。それはアバロンが放つ星の支配、尖兵の王に与えられた特権。

 聖剣がより一層輝きを増す。アバロンとの交信装置、それは単純に連絡をとるだけではない。本来であれば放つことのできないアバロンの力を限定的に放つことが出来る最終武装。本来それは、この星の王に放つものだった。───だが、出し惜しみはできない。目の前の敵は、全てを出し尽くさなくては勝てないと、アバロン=アーサーは判断したのだ。


 「コール!カリボール、リブルヌス、トヴルッフ、ヴールッハ!楽園の使徒よ、今その全霊を以って我が祝福、我が慈愛を受けるが良い。これは我が父、我が祖が放つ全霊の一撃。名をエクスカリバー!!」


 剣は振るわれる。アバロンのエネルギーを溜め込み、そして放出。圧倒的な光の渦。迎え撃つのは境野連、否、未だ名を知らぬアドベンター。


 境野連は不敵な笑みを浮かべた。そして現れるのは炎の渦。あらゆるものを飲み込み、蹂躙する。畏れの象徴。光と炎が衝突する。この世のものではない規格外のエネルギーの衝突。余波で辺りは吹き飛ばす。それは神話の戦いであった。


 しかし戦いの決着は一瞬でつく。光と炎の渦がぶつかり合うが、均衡していたのは一瞬。炎は光さえも飲みこみ、辺りを吹き飛ばした。先に膝をついたのはアバロン=アーサーであった。それを境野連は無表情で見つめる。路傍のゴミを見るような目で、アバロン=アーサーを見下ろす。騎士王といえど所詮は尖兵、真の王に敵う道理はない。境野連の背後にいるのは一端とはいえアバロンと並ぶ王そのもの。力を限定的にしか行使できないアーサーに最初から勝ち目など無かった。全力の一撃を放ったにも関わらず、境野連は未だ余力を残しているように見えた。


 「「ゴミが。我らが同胞を傷つけた報い、その程度で済むと思……ぐっ……。これ……は……。」」


 アバロンは見た。敵は”二柱”。そう、それは決して境野連に潜むアドベンターの味方とは限らない。この星の持つ防衛本能が動き出す。アバロンが降り立たない最大の理由。この世界は既に奴の領域。下手に動くことが出来ない、地の利が向こうにある。

 境野連の身体が、炎が分解されていく。灰になっていく。知らぬ症状。初めての経験。いや、太古に一度だけ出会っている。このような姑息な手段をとるものを。多くの犠牲を出して、かの英雄が、偉大なる勇士が打倒した悪魔の名を。


 「う、ううぅ……ぁぁぁああああぁぁッッ!!!」


 叫ぶ。獣の慟哭のようだった。最初からこれが狙いだったのだ。漁夫の利。奴は我々が潰しあい、疲弊したところを虎視眈々と狙っていたのだ。だがそうはいかない。今、ようやく、全ての事情を知った。彼が、境野連が、どういう経緯でここに至ったのか。


 灰化は突然進行を止めた。それは星の外敵を殺す殺戮装置。であるならば対策は簡単で、星の生命に擬態すれば良い。もとい、境野連は最初からそうだった。有栖川が用意した肉体。巧妙にその本質を隠す器。境野連に潜むアドベンターは、最低限のことは成したと考え、後の全てを委ねた。


 突如、動きを止めた境野連。それはアバロン=アーサーにとって好機だった。聖剣の力は使い切り失われた。だが、それでも今の無防備の状態なら殺せる。聖剣を握りしめ隙だらけの境野連をたたっ斬ろうと踏み込んだ。

 しかし、聖剣が思うように動かない。見ると大量の護符が張り付いていた。動きが鈍化している。これは境野連の力ではない。もしや……!境野連の姿を、魂の在り方を見つめ直す。自然と口が溢れる。なぜだか分からない。だが酷く懐かしく、そして酷く強い思いが駆け巡った。


 「お前……仁か……!?」


 何者だ。仁とは。俺は、何を言っている?


 その目には仁と連、両方の魂が宿っていた。溶けて消えるはずだった仁の魂の欠片は再構築され、連の中に眠っていたアドベンターにより表層へと浮き上げられる。二つの魂が混ざり合い、まったく別の存在がアバロン=アーサーの前に立ちはだかる。


 やるべきことはなぜだか分からないが理解していた。理屈では説明ができないが、そうするべきだと身体が自然と動く。炎の槍に貫かれ、絶大なダメージを負ったアバロン=アーサーであるが、その圧倒的な力は未だ健在。だが、一箇所致命的な弱点が露出している。放たれた炎の槍は魂を焼き尽くすもの。咄嗟の判断で肩を引きちぎり延焼を防ぎ、引きちぎった部分は再生し最早、一見傷跡を感じさせない。

 しかし炎の槍は確かに燃やし尽くしたのだ。アバロン=アーサーの魂、アドベンターとしての存在を。その肩部には、メルニヌスに寄生される前の人間として雷伝の魂が露出していた。


 「覚悟しろ。これが恐らく連、お前に対して俺のできる最後の手向けだ。」


 ───そんな言葉が、聞こえた気がした。


 「万象の理に基づき命じる。命の経脈をここに。永遠の都を此処に打ち立てる。烙印結界術式起動。」


 境野連を中心に新たなる空間が構築される。それは亡霊が使うKBFとは似て異なるもの。KBFのオリジナルとなったもの。烙印結界。術者が持つ業、内面、深層世界を具現化する結界術式。

 気がつくと草原に立っていた。ススキの草原。ところどころに岩場が見える。岩場には小さな風車が突き刺さっていた。遠くには朱色の鳥居がいくつか見える。そして目の前には男性の人影が一つ。見覚えがあった。


 「仁……?」


 俺の言葉に男は眼前の敵を見据えたまま静かに、ゆっくりと答えた。


 「この結界は剥き出しの自分をさらけ出すもの。魂を露出させる。複数の魂を有しているのならば、それは自ずと分離し、表に出る。あれを見ろ。」


 指差した先には、アバロン=アーサーがいた。両膝をついて、苦しんでいる。肩が膨張し今にも弾けだしそうだ。やがてそれは限界を迎えた。無数のメルニヌスが弾け飛び、一人の男が出てくる。雷伝蓮悟だった。

 本来、メルニヌスによりアドベンターと化した者は助からない。だが、境野連の炎の槍により、そこに綻びが生まれた。そしてその綻びは烙印結界により完全なる分離に繋がったのだ。


 「はぁ……はぁ……アバロンを……我らが盟主の降臨を……。」


 もっともメルニヌスにより汚染された記憶はそう安々とは戻らない。記憶が混濁している。どこまでが雷伝蓮悟で、どこまでがアーサーなのか。

 しかしやるべきことは分かっている。目の前の男を倒す。雷伝は構えた。目の前の敵を倒すために。

 連は警戒し前に出る。だが仁の腕に遮られた。


 「こいつは俺がやる。そうでないと、終わらねぇよ。」


 この世界は魂と魂のぶつかり合い。肉体の差は微々たるものだった。アタッチメントも使用できない。どちらが強い思いを持つか、それだけだった。


 「アバロン……アバロン……。」


 雷伝はぶつぶつと呟きながら構えを解かず少しずつ前に出る。何がために、何故俺は前に出るのか。何故、目の前の男を見ると、胸が熱くなり、前進しなくてはならないと思うのか。


 「オラァ!!」


 そんな隙だらけの姿を思いっきり仁はぶん殴った。防御すら取れず、まともにその鉄拳を食らった雷伝はぶっ倒れる。目の焦点はあっていない。


 「おいおい、どうしたよ。集中できてねぇんじゃねぇのか。立てよ、お前はまだやれるだろう蓮悟ぉ!」


 ───覚えていたのか。俺のことを。眼中にすらないと思っていた。記憶が逆流する。自分が何者なのか再認識する。そうだ、俺は、俺は……この男を……境野仁を……。


 「ふざけんじゃねぇ……俺ぁ……こんなところでてめぇに負けるわけにはいかねぇんだよ仁!!」


 不用意に近づいてきた仁の腹部に思い切り拳を叩き込んだ。仁はうめき声をあげるが、それもつかの間、両拳を握りしめ、雷伝の後頭部を叩きつけた。

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