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約束の時は来たり、王の帰還

 ───何をされた?何を食らった?

 雷伝は困惑していた。自分の恩恵は無敵だと過信していた。だというのに自分は今、倒れて空を見上げている。まさかいるのか、奴が。奴がまた俺を……!


 「う、うおぉぉぉぉぉぉぉおお!!」


 叫び声をあげて、無理やり脳を覚醒させ雷伝は立ち上がる。そして術式を展開した。まず治療術式、そして探索術式。どこにいる、やつはどこに……!


 「逃げるか卑怯者ッ!出てこいッ!俺はお前よりも強い!!優秀だ!!」


 脇腹に突然衝撃が走った。まただ。また理解不能の攻撃を受けている。一瞬姿が見えた、あれは、あの男は。アルバイン、アルバインだと!?

 リバーブロー、ボディーブロー、立て続けにシュタイナーは雷伝を殴り続ける。奇妙なのはそのステップ、立ち回りだった。確かに動きが極めて素早い。だというのに、何故か捉えられない。雷伝もまた同じだ。まるでかまいたちを相手しているようだった。"目の前にいるはずなのに、そこにいない"。


 あらゆる生物は目に見えるもの全てを脳で完全に処理していない。必要なもの不要なもの取捨選択をして、自動的にフィルタリングされていく。シュタイナーのアタッチメントは生体電気を操作する能力。それは即ち生体電気の流れを把握することを意味する。

 即ちシュタイナーは意識の範囲外から相手に立ち回ることが可能なのだ。そこにいるのに、そこにいない。矛盾を成立させる。無意識化の極地ともいえる。


 「ちょこまかと……しゃらくせぇ!!」


 雷伝は恩恵を開放した。周囲一体に巻き起こすスパーク。逃げ回ろうが関係ない。辺り一面を消し炭にすればそれで終わる……はずだった。

 雷伝の恩恵は電気と一体化する。それは極めて強力な能力である。一体化した電気は自身の手足のように操ることができる。それは自分の身体なのだから当たり前のことだ。だが勘違いしてはならない。自身の身体のように操れるだけで、決して電気を支配しているわけではないのだ。


 「ごっ……はぁ!!」


 スパークの放出は悪手だった。シュタイナーはおろか連たちすら無傷。簡単なことだった。シュタイナーのアタッチメントは生体電気を操作する。生体電気、それは生命に流れる微弱な電気を意味する。だが……決して微弱な電気を操る能力ではない。電気と一体化した雷伝は、それ自身が強大な生体電気なのだ。

 即ち、最悪の相手。だが雷伝は知らない。目の前の男のアタッチメントが、そういう能力であるということに。


 「は、はぁ……はぁ……ふ、ふざけるな……何が起きている……こんな……こんなことが……。」


 恩恵が通じない。術式を使おうにも相手が見えない。何者だこいつは。何故こんなやつがいる?なぜ?境野連とともにいる?


 「何者なんだお前はよぁ!!」

 「ラスタ社、代表取締役アルバイン・シュタイナーだ!!!」


 渾身の一撃を顔面に叩き込む。雷伝の鼻は折れ、歯は折れ血を吐く。


 完全なイレギュラーだった。雷伝は痙攣し倒れ込んでいる。勝利したのだ。しかし……。


 「アバロンは止まらない……!」


 今なお、そらを埋め尽くすアドベンター・アバロンは健在している。当然だ。あれは雷伝と関係がない。雷伝は喚び出しただけのもの。いわば前座でしかないのだ。


 「む、あの男を倒せば終わるのではないのか……君たちはあれが何か知っているのか。」


 俺たちはシュタイナーに説明する。あの恐ろしき怪物、アドベンターのことを。説明している間にも人々は犠牲になっていく。


 「あれが生物……だと……。」


 シュタイナーの能力は自身に対してか、対象に手で触れる必要がある。加えて生体電気を操作するというだけで対象の行動を自在にできるわけではない。例えるなら先程の雷伝がそうだ。雷伝を殴りつけることが出来たのはあくまで、生体電気を操作できる副産物として生体電気そのものとなった雷伝に触れることができたからである。それも一瞬。操作できるのは触れている間だけなのだ。

 対生物には無敵の能力ではないのだ。自身の無力さにシュタイナーは悔やんだ。


 「おい見ろ!あいつまだ意識があるぞ!!」


 ルナが指をさす。その先には雷伝が息を切らして屋上にある貯水槽に寄りかかっていた。


 「はぁ……はぁ……おじさんの勝ちはかわりないさ……そこの社長はわけがわからなかったが……はは……最後のときを見届けるよ。もう俺にも止められない……アバロンはこの星を侵略するまで止まらない。」


 満身創痍の姿で、それでも狂ったように口角を歪め雷伝は笑っていた。

 そのときだった、蛾が、メルリヌスたちが俺たちに向かって降りてきた。


 「おいおい、どうするんだこれ、あんなになるのはゴメンだぜ。」

 「んなこと言ってちゃっかり屋内に逃げてるんじゃねぇよパパ!レン、社長!お前らも早くこっちに!ここはまずい!!」


 俺たちは屋上出入り口へ走り出す。バルカンの判断は正しかった。メルニヌスは人工物に無力だった。コンクリートの壁に遮られ、それ以上は何もしない。だが……。


 「な、なんだお前ら!やめろ!やめろ!!!」


 俺たちという苗床を失ったメルニヌスたちは全て、雷伝へと向かっていった。もはや満身創痍となった雷伝は抵抗ができず、大量のメルニヌスにとりこまれる。メルリヌスが集まる集まる。雷伝の姿は最早見えない。蛾に埋め尽くされ、振り回していた手首は動かなくなった。なんだ……なにが……起きて……。


 「ぼさっとするな連!お前もああなるぞ!!」


 呆然とする俺をルナは無理やり引っ張り、屋上出入り口のドアを閉める。覗き窓から、メルニヌスに包まれる雷伝が見えた。


 「やばい、やばいぞ。あれ、何かよくわからないけど、とんでもないことが起きようとしている。」


 俺の腕を掴むルナの手を振り払い俺はドアを開け雷伝の元へと走り出した。


 「雷伝ッ!!お前はまだ生きているのか!!!」


 閃光が走った。眩い光。それはまるで太陽のようだった。雷伝を中心に強烈な閃光が。俺はたまらず目をつぶった。

 その瞬間、闇に包まれた世界は光に満ち溢れた。深夜だというのに昼間のようで、天を埋め尽くすアバロンの姿が明らかとなる。それは一面の花畑。逆さ吊りの楽園だった。そして中央に巨大な塔が建っている。鐘がなった。それは、新たな王の誕生の祝福の鐘だった。


 視界が戻ってきた。昼!?俺は辺りを見回す。その異様な光景に俺の脳は混乱していた。そうだ雷伝、奴はどうな……視点を戻すと絶句した。


 「ら……いでん……?いや……お前は……なん……だ?」


 それは最早、雷伝ではない。魂がまったく別のものへと変貌を遂げていた。

 それは超弩級巨大アドベンター・アバロンの生み出した支配の使徒。

 アドベンターの王、偉大なる支配者、外宇宙の超越者。

 その名をアドベンター・アバロン=アーサー。アバロンが放った、この星を侵略する最終兵器。彼らを知るものはこう伝える。星を蹂躙する、楽園の騎士王。

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