無限戦場、破壊しつくす者
変形し続けた合体警備員はその動きを止めた。時間にしては一瞬だった。だが、その歪な、だが機能的な動きに見惚れていた。それは巨大な重火器だった。見たことのないもの。デザイン。モデルは何か、製造は?バルカンは手にとる。
「いい感触だ!こいつは期待できるぞぉ!!」
バルカンはトリガーを引く。瞬間、弾薬がばらまかれる。銃口から見える閃光と激しい銃声が硝煙とともに響き渡る。ただの銃ではない。これがバルカンのアタッチメント。
「説明してやるよ!俺のアタッチメントは俺が壊したものは全て重火器になる能力!そしてその威力は……!素材によって変動する!!」
合体警備員をもとにした重火器はとてつもない威力だった。それだけではない。先程破壊された警備員も既に重火器となっていた。こちらは固定自動機関銃。センサーに反応し、銃弾をばらまく。
「ふ、伏せろ!全員伏せろ!防御アタッチメント展開!!」
異常に気づいたジルはすぐに指示を出す。だがお構いなしに発砲を続ける。フロアは一瞬にして戦場のように硝煙の臭い染み付き、大量の銃痕と薬莢で埋め尽くされた。
「き、きんもちぃぃ~!」
俺たちはそれを黙ってみているわけにはいかなかった。ここは室内。当然跳弾でこちらにも弾丸がくる。警備員たちを貫く強力な重火器の乱射。必死に当たらないように防ぐ。
「あんのクソパパ……!あとでぶん殴る……!!」
ルナは怒りに震えていた。よく見ると少し軍用スーツが破れている。戦いによるものではない。バルカンの銃弾が跳弾してかすったのだ。
「は、はは……とんでもないアタッチメントだが弾切れのようだな!要するにお前の格闘技で破壊されなければ良いというわけだ!わざわざ説明したのが仇となったな!」
ジルは冷や汗をかきながら、叫んだ。とんでもない能力だった。いやそれ以前にこんな滅茶苦茶をする相手を見たことがない。仲間を完全に無視した乱射。イカれている。だがそれも終わり、冷静に対処を。
「言っただろ?『俺が破壊したものは皆、重火器になる。』」
「は?」
フロア全体が変形を始める。倒れた警備員たちが変形を始める。多種多様の重火器となりて、残りの警備員とジルに照準が向けられた。
「よしお代わりだ!いくぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「馬鹿なのかお前は!!!!?」
最早、戦いではない。アタッチメントにより作られた重火器はあたりを破壊する。そして破壊した場所から更に重火器が生まれまた破壊しつくす。こうして重火器は無限に生えてきて生えてきて、まるで永遠の戦場だ。無限の弾薬庫だ。英雄もクソもない。こんな常識外れの能力、どんな精神構造してたら身につくのだ。
「た、退避!退避ー!!」
ジルは後ずさりする。付き合ってられない。ジェンと合流する。こんなアホと付き合ってられるか。
「逃さんよ!警備員ちゃん!!」
無理だ。開けた場所。相手はこの部屋全てを重火器に変える。銃弾から人は逃げられない。明白だ。無慈悲にもいくつもの銃口、砲門がジルに向けられ、集中砲火を浴びせる。最早一方的だった。銃弾、砲弾、爆弾、炸裂弾……ありとあらゆる兵器が一斉にジルに向けられる。容赦の欠片もない攻撃。ジルは最早、死体の判別すらできないレベルにミンチにされた。
「くっさぁ……マジで臭い!信じられない!!落ちんのかよこれ!!」
全てが終わった焦げ臭いフロアでルナはバルカンに愚痴を言う。
「えぇ……助けにきたパパへの第一声がそれ……?レン酷くない?」
「た、助かりまし……助かったよバルカン……でも確かにこれはやりすぎというか。」
フロアを見回す。もう滅茶苦茶だ。侵入もクソもない。これだけ派手に暴れたら誰でも気がつく。
「あー……まぁ仕方ないじゃん?こうしないとヤバかったろうし。よし急げ急げ!こうしている間に機密情報なくなるかもだぞ~!」
バルカンは階段へ向かい走っていった。俺たちも追いかける。ルナはずっと俺の横で父親への不満をここぞとばかりに俺に吐き続けていた。
社長室までは驚くほどなにもなかった。これまでの道のりでセキュリティが厳しかったのも、このためだろう。これまでとはうって変わり、立派なドアがあった。プレートには社長室。鍵はかかっていない。俺たちは意を決して中へと入る。
「……ん?なんだ君たち。アロハにオフィスに……ライダースーツかなそれは?ボロボロだけど……。」
アルバイン・シュタイナーが一人、デスクで作業をしていた。こんな深夜になっても社長室で一人残業をしていたのだ。俺たちの格好があまりにも統一性がなく、奇妙だったので、事態をまるで理解していない様子だった。だが俺と目が合い、表情が変わる。
「おや、君はあの時の若者!しかしなぜ学生の君が我が社に?隣の女の子は初見だね。あの時いた女の子たちとは別のガールフレンドかい?青春だね。」
「覚えてくれてたのか!?」
「勿論!未来ある若者の顔は覚えているよ。それが私の……エンターテイナーの仕事だからね。」
深夜に侵入してきた俺たちにシュタイナーは何一つ疑いの眼差しを向けずニッコリと爽やかな笑顔を浮かべた。なぜだ?なぜそんな表情ができる?
「おかしいと思わないのか、こんな深夜に社員でもない人がやってくるなんて。」
「おかしいね。恐らく君たちは侵入者。侵入の手引きをしたのはそこのガールフレンドとアロハのおじさんかな。」
「ならどうして。」
「社長というのはね、人を見る目がないといけないんだ。でも君たちからは何だろう、悪意は感じられない。私を殺害し社長室にあるお宝を狙う強盗には見えない。もし違うのなら、それは私がそこまでの者だったということだけさ。」
それは俺たちも同じだった。どうしても彼が、アルバイン・シュタイナーが今回の騒動のきっかけを作ったように見えない。それは社長業からなせるカリスマ性に騙されているのか……俺たちは真意を図りそこねていた。
「社長、騙されてはいけません。彼らは金庫に侵入し機密書類を強奪、警備員を殺害しています。産業スパイかあるいは某国の特務員か……。」
出入り口から声がした。その瞬間、俺の身体をリング状の物体が締め付ける。バルカンやルナも同じだ。警備員がやってきてアタッチメントで拘束したのだ。俺たちがしたことを報告している。
「ふむ……わっ本当だ。経営戦略部と営業部の金庫が開けられてる。ノーパソも持ち出されているな。場所は……ここか。君たちが今持っているんだね。」
警備員が俺たちとシュタイナーの間に割って入った。だがそれをシュタイナーは引き止める。
「ジェン、彼らの拘束を解いてくれないか。話がしたい。」
「できません。彼らは侵入者です。」
「……仕方ないな。ジェン、彼らを拘束しているアタッチメントを解除するんだ。」
「……!」
俺たちを拘束するアタッチメントが解除された。ジェンと呼ばれた警備員は何が起きたのか理解できないといった表情をしている。
「どうしてこんなことをしたいんだい?教えてくれないか。」
「社長!!」
それはまるで我が子に語りかける父親のようだった。この人は信用できる。全てを話しても良いんじゃないか。そんな魔性の魅力を持つ。今までとは別ベクトルに規格外の魔人。そのカリスマ性はあっという間に俺たちの心を掴んだ。
「良いんじゃないの、話しても。どうせバレてんだ。この際、開き直るのも大事じゃない?」
言いよどむ俺にバルカンは背中を押すように話す。俺はそれを契機にシュタイナーに事態の説明をした。洗脳装置について……同級生がおかしくなったことについて……。俺の言葉をシュタイナーは時折、頷きながら真摯に聞いていた。
「なるほど……単刀直入に言うと私はそんな話を知らない。洗脳?そんなことエンターテイナーとして最もやってはならないことだ。」
「しかし実際に……。」
「もうやめましょう社長!こいつらは適当なことを言って人の良い社長を騙しているだけです!!今、ここで始末します!!」
警備員割り込み、アタッチメントを展開する。先程のリングが七つ出現した。そして有無を言わさず、そのリングは展開し攻撃の構えを……。
シュタイナーの手がジェンの肩に乗せられていた。
「ジェン、もしも我が社の製品が卑劣な使い方をされているのであれば……それは決して許されないことだ。総力をあげて食い止める必要がある。なぜならば私はエンターテイナーで社長だからだ!」
シュタイナーの宣言にジェンはあっけにとられたがすぐに距離をとる。俺たちからも、シュタイナーからも。
「どうしたんだいジェン、そんな離れて。」
「喧しい、ここまで間抜けだと思っていたが、はっなるほどな。大企業の社長だけある。運が良いだけなのか、計算づくなのか。」
ジェンのアタッチメントは七つの自由に収縮拡大するリングを召喚することにある。ただのリングではない。リングを通過したエネルギーはリングの性質同様、自在に増幅、減衰できるのだ。即ちエネルギーの流れをループさせることで、時間さえあれば無限のエネルギーも引き起こせる。ジェンは銃弾を六発放った。
まずは都合が悪くなれば口封じにシュタイナーを殺害する。それが特別警備員任務の一つ。リングの中央で加速し続けた弾丸は空を穿つ光弾となって貫く。轟音とともに放たれた加速エネルギーは社長室を半壊させた。
「残念だよジェン、君は私の敵なんだな。」
隣にシュタイナーが立っていた。気づかなかった。能力は知られていなかったはずだ。完全な不意打ちだったはずだった。その上で躱したというのか、俺の能力を。
「くっ……!」
不意打ちは失敗。ならば正面から倒す。ジェンは空手の達人でもある。リングを縮小させ拳、肘、膝の直前に待機させる。こうすることで、それぞれの当身技はリングにより強化され絶大な威力となる。本領発揮するのは遠隔からの支援砲撃だが、決して接近戦でも劣ることはない能力だと確信していた。
「言ったはずだよジェン。私はエンターテイナー!であるならば、人々の笑顔を奪う陰謀に負けるわけにはいかない!そう、なぜならば私は社長でエンターテイナーだからだ!」
正拳突きはかわされ、眉間辺りに紫電が走る。正体が分かった。電気……シュタイナーは何らかの手段で自身に流れる生体電気を操作している……。反射神経は生体電気によって動いている。シュタイナーは既に攻撃に対して生体電気に命令をくだしていた。超反応による自動回避。そしてそれを攻撃に転じることで、生体電気のシャットダウン。まるでKOされたボクサーのようにジェンの意識はブラックアウトした。
「部下が騒がせたね。君たちの言うことを信じよう。それで、何が知りたい?」