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灼けた白牢、悪魔の光

 気がつくと授業も終わりショートホームルームを待つだけだ。時間の流れは早いものだ。まぁ水泳の授業後ほとんど寝ていたのだが。


 「ようやく起きたのかよ、お前ずっと寝てたろ。」

 「いや……悪いと思ったんだがつい眠気が……。」


 珍しく寝ていたことを高橋に咎められる。そんな真面目な印象がなかったので意外だったが、非は完全にこちらにあるので反論もできない。


 「ま、まぁいいけどよ……それよりさ、今週の土日空いてるか?ほ、ほら最近暑くなったしプールにでも……。」


 俺が泳げないのはさっきの授業で知っただろうにどうしてそんな残酷なことを……。と思ったが別にプールなんて泳ぐことばかりではない。浮き輪をもって浮かぶだけでも十分楽しめるし、サキたちも気晴らしになるな。


 「いいな、サキにも言っておくよ。後は誰を誘おうか?夢野やコトネ、剣は勿論として俺的にはやはり男女比が気になるから無限谷やうるさいかもしれないが陽炎あたりも……。」

 「…………あ、うん。そうだな!そのくらいで良いんじゃねぇのか、あはは……あは……。」


 気の抜けたような笑みを浮かべ高橋は答えた。やはり陽炎は誘わない方が良いのだろうか……この間、女子から凄く嫌われてるって言われてたしな……。高橋も女子であることには違いないもんな……。

 そんな話をしていると別教室に移動していた夢野とコトネが戻ってきて話に入ってくる。


 「ふ、ふふ……プール……個人で……?そ、そう!確かに暑くなったからその時期ではあるわね……いや待って……わたし……水着持ってないわ。」

 「わ、私も他人にプールに誘われるなんてうまれて初めてなのでスクール水着しか持ってないです……。い、いいんですよ私みたいなオケラは学校指定の水着で十分ですよね……。」


 ちなみに俺も学校指定以外は持っていない。水着なんて何でも良いだろうと思ったのだが彼女たちにしては大きな問題だったようだ。


 「なら放課後、これから水着買いに行くか?土日まで時間はあるしよ。」


 高橋の提案に二人は頷いた。じゃあ俺は一人まっすぐ家に帰るか。服の買い物に付き合わされるのは軽井沢との一件で正直疲れるのが目に見えている。


 「そ、それよりもあんた泳げないだなんて、どういうことなの?ゆ、夢野と二人きり、これからずっと水泳の時は一緒にいるつもりなの?」

 「なんか筋肉量が多いから浮かない体質らしい。プールのときは浮き輪でぷかぷか浮かぶつもりなんでそこんところはよろしくお願いします。」

 「あ、あんたねぇ、そういうことを言っているんじゃ」


 コトネが何かを言いかけた瞬間、クラスで悲鳴が聞こえた。全員が声の方向へと視線を向ける。クラスメイトの一人が倒れて横になり、咳き込んでいる。口元には少し血が見えた。


 クラスメイトはざわめきだす。それは昨夜みたアイドルと同じ光景だった。先生が勢いよく戸を開けて駆け寄り、何があったのか生徒に話を聞き始めた。

 とは言っても特に話すこともないようだ。風邪気味だったのか咳き込んでたのが、突然鼻血を出して倒れて、咳も止まらなくなり吐血もし始めたということだけだ。

 緊急事態ということでショートホームルームは中止、即座に帰宅するよう言われ、俺たちは学校を後にした。


 「なんつーか……ああいうの見せられると現実味を帯びてくるな……。」


 心なしか今日は救急車のサイレンをよく聞くような気がする。テレビの中だけのことだと思っていたことが、現実世界に侵食してくる感じがして、嫌な気がした。


 「まぁ折角早く帰れたんだし、このまま水着選びに行くのもありなんじゃない?」


 コトネの言葉に高橋は同意し、そのまま街の中心部、服飾店が立ち並ぶ歓楽街へと足を進めた。


 「それじゃあ俺はこれで」

 「お前も来るんだよ。」


 先手をとり立ち去ろうとしたところを、肩を捕まれ有無を言わされず連れて行かれた。軽井沢といい、なぜ服を買うのに他人を付き合わせるのか。俺は水着なんて学校指定のもので良いのに。理不尽な仕打ちを受けながらも拒否できない空気にずるずると引きずられ、結局俺も買い物に付き合わされたのだった。


 


 研修医なんてクソ喰らえだ。研修という名は付いているが、患者からしてみれば医者のはしくれ、頼りになる存在。そう見えているかもしれない。だが現実は逆だ。研修という名目であらゆる雑事をやらされる奴隷のような扱い。しかも薄給なのだ。医者と言えば高給取りの印象が強いかもしれないがそんなことはない。家賃光熱費を支払って僅かに残ったお金でどうやって生活するか頭を抱えるなんて日常茶飯事だ。禁止されているバイトをこっそりするなんて当たり前。そうでなきゃとても生活が成り立たない。


 そんなわけで今日も寝ずに夜勤をしているわけだ。研修医の睡眠時間なんて2、3時間は当たり前だ。こんなブラック環境あるか?責任もクソもない。

 運の悪いことに今日は救急搬送が多かった。医者がいなければ皆、研修医の僕を頼る。やめてくれ、僕をそんな目で見ないでくれ。僕だってあんた達と変わらない、まだひよこも良いところの新人なんだから。


 「おい研修生、しっかりしろ。こいつは……症状からして最近流行りの奇病だな。受け入れ拒否だ。他所へ回せ。」


 救急車に乗せられた若者が見える。僕と同い年くらいだろうか。折角病院についたのに受け入れ拒否……どれだけの絶望だろうか。でもこれはよくあることなのだ。"未知の奇病"それはつまり、病死する可能性が高いということ。どの病院も死人なんて出したくない。評判だけじゃない、死亡手続きで事務も煩雑化するし、金にもならないのだ。───それでも。


 「あ、あの先生……い、今の人……こっちを見ていました……。」

 「ん?聞かれてたのか。まぁ気にするな。今のところ例の奇病は死亡率100%。例のアイドルもすぐに亡くなったらしいからな。そんな爆弾、うちに抱えられないよ。」


 この国の医療に道徳なんてない。医者になる一番の才能はどれだけ心を殺し、非常になり、嘘を平気でつけるかだ。恨めしそうにこちらを見る人の姿が脳裏から離れない。


 「先生!また急患です!!」


 看護師の一人が叫びながらやってくる。


 「またか。おい研修生、言っただろう。例の奇病の急患なら全部受け入れ拒否だ。分かりやすい症状なんだからお前でも出来るだろうに……。」


 悪態をつきながら急患受付に向かう。"謎の奇病"についてはまだ政府は取り扱いを定めていない。従って急患の場合、症例を医師が見た上で受け入れ可能かどうか判断しなくてはならないのだ。勿論、受け入れるつもりは皆無。これはアリバイ作りだ。ベッドの空きはある。にも関わらず受け入れをしなかったのは、あくまで医師が診察した結果、当院では手が余ると判断したという事実作りのため。


 突然警報音が鳴り響いた。全員に緊張が走る。何の音か僕は分からない。だがそれは異常事態なのは明白で先生は焦りだし、看護師は走ってどこかへ向かっていった。


 「消毒急げ!受け入れは……クソッ!!全員装備を整えろ!!今から厄介な患者を"受け入れるぞ!!"」


 先生は叫んだ。今まで頑なに拒否していたのにどうして。それに装備って一体。


 「研修医!!早くしろ!!お前も出番だよ!!!」


 焦った顔で怒鳴り散らす。慣れたものだが、これはいつものパワハラとは違う。緊迫した医療現場で一刻も早く、一時の時間も惜しい時に出る態度だ。しかし、僕には何のことか未だ分からない。


 「あ、あの!すいません先生!自分初めてなんですがこの警報とは!装備とは何のことですか!!」


 先生は他の看護師や救急隊員に怒鳴りながら指示をしていた中、僕の言葉に目を丸くしてしばらく、ほんの少し沈黙をしたあと叫んだ。


 「放射線被ばく患者だ!推定クラスA!!」


 その夜、テレビは同じ話題の緊急ニュースで埋め尽くされた。奇病の正体が明らかとなった夜だった。

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