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亡霊
───沈んでいく。
かつて楽園を目指していた人々がいた。この広大な世界で、いつか辿り着くであろうと信じて。
楽園はそこにあった。人々は歓喜し楽園へと向かう。
彼らは知りもしなかった。それは楽園などでは決してない、滅びに向かう奈落の底であったことに。
異変に気づいたときには手遅れだった。それは狡猾に、最も楽に確実に終わらせる方法をとった。
耐え難い屈辱だった。誰もが理解できなかった。まるで玩具のように、弄ばれ、嬲られ、穢されていった。
希望に満ち溢れていた彼らの思いは今や一つ。憎悪と怒り。願いを託す。いつか必ず現れるであろう我らの思いを継ぐものに。例え肉体を失っても、思いは残り続ける。
彼らの名はノア。無限ともいえる旅の果てに見た光景を、いつまでも思い続ける。
そして俺は堕ちていく。復讐のために。喜んで悪に堕ちる。
その先には何もない。ただただ沈んでいく。奈落の底に、深海へと。
救いのない物語。それが楽園を目指した彼らへのせめてもの償いだった。





