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この星の真実、歪んだ人類史

 この星には神話が残されている。それは古代から口伝で残された神話。子供でも知っているおとぎ話へと今に残り、愛されている。最初と結末だけ、意図的に抜かされた状態で。


 有栖川リサがこの世界に転生したとき、あることに気が付いた。この世界の人類と呼ぶ者たちは、自分の知る人類と少し異なる。転生したときに、チートスキルの一つとして、物事の本質を見ることができる慧眼を授かった。その目に映る人類は、二つの魂が同居していた。

 濁っている。最初の印象はそれだった。まるでたくさんの水彩絵の具を溶かした水のよう。有栖川リサの、いや普通の人間の感覚で言えばそれは、あまりにも醜いものだった。


 注意深く観察すると理解した。この世界の自称人類は、脳に何かが寄生している。寄生という言い方はおかしいかもしれない。むしろ寄生している何かが本体で、肉体はただの器に過ぎない。その寄生体は自称人類が繁殖を行う過程で分裂していき、増えていった。

 一つの仮説を立てて産婦人科の病院に向かった。おかしいのは周りなだけで、きっと異常な事態が起きているのだ。つまり、産まれたばかりの子供ならば、きっと中身は純粋に決まっている。自分は少女ということもあって簡単に中に入り、見学が出来た。私の仮説が正しいのならば……いやただの妄想にすぎない。そんな思いで新生児室へと向かう。新生児室とは文字通り新生児を扱う部屋。たくさんの赤ん坊がベッドで寝かされている。


 「──────。」


 悪夢を見た。新生児室で寝ている赤ん坊は確かに私の知っている赤ん坊であった。だが中身はまるで違う。別物。人の皮を被っているだけのナニカ。私は嫌悪感が溢れた。あれは赤ん坊ではない。気味の悪い猿だ。醜いものを見た。看護士の一人がそんな私を見て声をかける。


 「お嬢ちゃん、ひょっとして赤ちゃんを見たのは初めて?ふふ、全然違うからびっくりした?大丈夫、少し成長したらお嬢ちゃんみたいにかわいい姿になるのよ。」


 私は駆け出した。怖くて怖くて、ここはどこなの?私は一体、どこへ迷い込んでしまったの?悪夢の世界。気持ちが悪い気持ちが悪い。


 見慣れぬプレートを見た。

 「再誕室」

 病院にあるまじき名前だ。ガラス張りになっていて中の様子が見える。大人たちが並んで見ている。中にはあの気味の悪い猿がたくさんいた。


 「おやお嬢さん、妹か弟の顔でも見に来たのかな。ほら見なさい、そろそろ始まるよ。」


 大人の一人が指を指した。その先にいるのは気味の悪い猿。中に祭祀服を着た大人の人がいた。そして猿たちに何かを与えていた。それは遺体だった。生き物の遺体の破片。遺体は猿の中に取り込まれ一体化した。

 猿たちは突然奇声をあげ始める。猿の内、一人の背中から突然ビリビリッ!と音を立てて手が生えてきた。大人たちは歓声をあげる。あれは……アタッチメントだ。予想としては第三の手が使える能力といったところだ。

 周りを見る。同じような光景が広がる。少年少女が次から次へと、まるで蟲の羽化のように、アタッチメントを覚醒させる。大人たちの中には歓喜のあまり涙を流しているものもいた。


 まともなのは、私だけか。


 この世界に人類なんていなかった。いたのは人類を自称する気持ち悪い寄生虫ども。この星に群がる吐き気のする蟲。



 神話には続きがある。


 かつて、この世界には楽園と呼ばれた場所があった。楽園とは即ち、生命の存続が約束された場所。いつか来るであろう迎えを待つ安息の地。


 だがそれは終わりを迎えた。


 楽園の動物は新天地へと旅立った。そして待っていたのは、虐殺だった。


 なぜ我々が殺されなくてはならないのか、我々は何もしていないのに、なぜこの星の生き物はこうも攻撃的なのか、我々はただ……ただ生きるためにお前たちの持つ住み家と食糧がほしいだけなのに。なぜ、そんなささやかな願いも聞き入れてくれないのか。


 彼らは祈った。どうか、どうか我々を助けてください。我々の祈りが届いているのならば、どうか、我々に……もう一度、楽園にいたあいつらにした時と同じように。


 ある日のそら。それはいた。そらから振り降りてくる者たちが。彼らの邪悪な祈りは届いたのだ。彼らの祈りが、"それ"をそらからよびだした。


 ”それ”は地上に降り立とうとした瞬間、異常に気が付いた。身体が分解されていくことに。この星に適合してない。”それ”は思案し、一つの結論に至った。


 ”それ”は楽園の動物たちを次々と虐殺していった。ただの虐殺ではない。的確に急所、頭部を狙う。脳を破壊された楽園の動物たちに”それ”は歪に身体を変形させて動物たちの頭蓋骨に入り込んでいった。そして肉体をこの星で活動するために最適化、再構築していった。その姿は、皮肉にもかつて楽園にいた人類の姿と瓜二つだった。こうして"それ"と動物は融合し、後に人類と呼ばれる存在となった。


 神話には続きがあった。それは歪なかたちで出来上がった人類史の起源。果たして人類と呼べるのか、甚だ疑問ではあるが、それがこの世界の成り立ちであり、今に至る人類だった。


 別に隠された事実ではない。伏せられた内容は、過激であるが故に大衆化の際に削除されていただけだ。有栖川自身、図書館に行けば簡単に神話の続きを読むことができた。嫌になったのは、この神話が史実として認識されているのが、この世界の常識で、私自身、それが間違っていないと調べれば調べるほど確信するからだ。


 奴らはこの星の生命に寄生することで支配を目論んだ。でもそれは結局終わりを迎えようとしている。だって実際に寄生したのはもう遥か前の話で、今はただ分裂していってるだけ。だから彼らは、新しい器がほしかった。新しい血がほしかった。

 有栖川の肉体は確かにこの世界で誕生したものである。だが魂は清麗そのものだった。何も混じっていない、純粋な器。異世界からの使者は、奴らにとって格好の"えさ"だったのだ。



 ───結局、最初から人類なんてのは自分一人で、異世界転生だなんて舞い上がっていたけれども、体の良い生贄に過ぎなかった。

 男たちの見る目が気持ち悪い。友人たちの親愛の眼差しが気持ち悪い。家族の慈愛に満ちた眼差しが気持ち悪い。そこに真実なんてない。奴らにとって私は、テーブルに置かれた美味しそうな料理でしかないのだから。


 高台から夕焼けに沈む街を眺める。この場所は街を一望できる。茜色に染まる空と夜の帳が交わる時間。月と星が眩い光を放ち、街の夜景と夕焼けがコントラストになって、幻想的な光景が広がっていた。


 「こんな光景が永遠に続けばいいのに───。」


 初めて、この世界に転生した時、私は同じ場所で同じ景色を見た。世界はこんなにも美しくて、希望に満ち溢れていると、人生をやり直せると思っていた。でもそれは違っていた。欺瞞に満ちているこの世界に真実なんてものはない。夜景は人々の営みだ。その光一つ一つが、懸命に今を生きる人たちの魂の灯火なのだ。だからこそ、美しいんだ。でも、この光は寄生虫の蠢きだったんだ。吐き気がする。

 あの時見た光景と同じもののはずなのに、どうしてこんなにも違う感想を抱くのか。私はこの世界で誰にも理解されず、結局一人ぼっちで、心から他人を愛することだって出来ないで、消えていくんだ。


 本当の自分を見てくれるのは……本当の自分を知ってる人間だけだ。


 ふと思いついた。自分が異世界転生してきたというのなら、こちらから、狙いの相手を喚び出すことができるのではないかと。この世界は自分のいた世界と良く似ていた。同じような人間がいた。並行世界という言葉が浮かんだ。ならば、こちらの世界にいる彼を媒介にして本物の彼をこちらに喚び出すことはできないか?


 その日から、私の人生の目標が決まったのだ。


 あとは知ってのとおり、境野仁を触媒にして、彼と平行世界の同一人物である境野連を喚び出して、作り出した人形に魂を召喚したのだ。


 そして始めたのだ。この星に住む蟲を駆除して、正しい人類史を作るために。


 有栖川の言葉には不思議な説得力があった。まるで話していることが、自分で経験したことのように、脳内にあふれかえる。


 「そんな世迷い言を……信じろと言うのか?」

 「違うよ境野くん。信じる信じないじゃない。事実なんだよ。それは境野くんが今、その頭で実感しているんじゃない?」


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