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知られざる真実、暴かれた全て

 とある場所、世界から隔絶された空間。そこに彼女はいた。有栖川リサ、その人である。

 計画は台無しになった。境野連は仁の記憶を通して、自分の存在を知ってしまった。更に今までどんな悪行を積んでしまっていたかも。終わりだ。もう彼が向ける自分の目線は軽蔑や怒りの感情はあったとしても、決して親愛は当然のことながら、同情すらないだろう。


 「どうして……どうしてこんなことになったの……?」


 計画は途中まで万端だった。仁という懸念していた最大の障害も取り除いた。もうこれで万事上手くいく……そう思っていたのに。狂い始めたのは高校二年生、班決めの時だった。本来なら境野連は2班に所属するはずだった。そして自分と親密な関係を築き上げるはずだったのだ。そうなるように、あらゆる仕込みをしていた。だというのに、その全てがまるで、運命が否定するかのように完全に無視されて、『境野連は6班に所属する。』という結果だけが残り続けた。わけがわからない。


 そもそも6班のメンバーも異常だ。6班というのは本来落ちこぼれ集団のはずだというのに、蓋を開けてみたら夢野とかいう根暗以外、全員がハイレベルな実力者だ。まず磯上、表向きはただの学生だがその正体は亡霊の頭領。尋常ならぬ力を有しているくせに下手にアタッチメント自体はレベルが低い。だが亡霊という組織の頭領なのだから6班に当たり前のように居座らないでほしい。次に剣だ。こいつも厄介だ。剣の所属している組織の都合上、レベルが低いのは分かる。分かるが、それを補うフィジカルで大半のアタッチメントは蹴散らせるだろうに。


 特記すべき能力者はあの二人だ。だが他のメンバーも錚々たる顔ぶれだ。伊集院は伊集院家のお嬢様だ。レベルも本来はハイレベルのはずなのに、なぜか低レベル扱いされて6班にいる。だがお嬢様なんだから家の権力を使って無理やり6班に所属しないよう根回しすれば良いだろうに何でそんな簡単なことをしなかったのか。高橋は札付きで本来ならあいつだけが6班で警戒する相手だった。予想とは別方向で殺したくなるほど憎たらしい動きをしてくれた。今でも思い出すだけで腸が煮えたぎる。


 つまるところ、そんな学内でもハイクラスのエリート集団が集まったのが6班の正体だ。おかげで迂闊にレンに手を出せなくなった。それでも少しずつ出していたのに、その全てが徒労におわったのだ。まともなのは夢野くらい……未来予知なんて見かけ倒しの……。

 いや、本当にそうなのか?あれだけおかしなメンバーが集まって……夢野だけ本当の落ちこぼれだという話はあるだろうか。それは直感だった。もしかすると、という根拠のないこと。だがその直感は、見事に的中する。

 

 「なによ……これ……。」


 夢野について調べると、とんでもない情報が次々と出てくる。小学校入学の時点でレベル100オーバー、将来を約束された神童、神に愛された少女、そしてその後の顛末……。


 「あの根暗ブス……!!」


 全部、騙されていた。手のひらに踊らされていた。私の力すら及ばない能力。未来改変能力。影響力だけで言うならそれは仁ですら遥かに凌ぐ能力。今まで上手くいかなかったのではない。全てこの陰湿根暗ブスに、潰されていたのだ。あぁ、そういえば最初の試験中やたらべたべたしてたし、試験が終わったあとも、やたら仲良く一緒に食事も……。

 空間が割れる。歯を食いしばり、歯ぎしりを立てる。激情的感情、強い怒り、かつてないほどの憎悪が、私を支配した。


 「すぅーっ……はぁぁ……。」


 冷静になろうと深呼吸を繰り返す。一回、二回、三回……。


 「ふざけんな、あの醜悪陰湿根暗ブスがッッッッッッ!!!!」


 机を叩きつけた。壁を叩きつけた。イラつきが収まらない。全部、全部全部あのクソ女のせいだった。私が苦労してレンにアプローチをかけようとしていたのを、陰で全部潰して、独占していたッッ!!


 「……殺す。苦しめて殺す。そのあとで、またやり直す。」


 夢野は絶対に殺す。未来改変能力者を殺す術があるのかどうかは置いといて、いかなる手段を用いても絶対に殺すと、かたく胸に誓った。




 ザリガニと協力することになってから数日が過ぎた。現時点で有栖川の居場所はザリガニの力をもってしても分からないらしい。有栖川は俺たちがいる次元と別の次元を行き来する力があるという。故に彼女が本気で逃げているときは捕まえることは不可能だという。仁ですらそれは不可能だった。俺もよく知っている。だが逃げ続けるには限度がある。有栖川にも目的がある以上、いつまでも逃げてはいられないのだ。しかも今回は、俺が目的だということが分かっている。

 一度、ザリガニと顔を合わせて話をしないかという提案もした。仁は盗聴を警戒していた。同じようにザリガニとの会話を聞かれてはまずいと思ったからだ。だがザリガニはこう答えたのだ。


 「勘違いするなよレン。僕が君を信用するのは仁が君を信用していたからだ。レンがその周りにいる連中を信用するのは勝手だけど、僕が信用するのは仁が信用した君だけだよ。君自信を信用しているわけではない。」


 そう言って断られたのだ。確かにそのとおりだ。ザリガニは今も命を狙われている。下手に他人と接触するのはリスクが伴うのだ。今までは仁が守ってくれていたのだろうが、今はもういない。一人で自分の身を守らなくてはならないのだと思うと、その反応は当然ともいえる。

 だから結局、その日は連絡先を交換するだけに留まり、解散の流れとなった。


 そういえばふと思った。仁の記憶に出てきていた、バルカンやメスガキ……彼らの力を借りることは出来ないのだろうか。仁は二人の戦闘能力を高く評価していたし、俺自身も一緒に温泉街を観光した仲だったようで、知らない関係ではない。メスガキは龍星会……偶然にもハオユが所属していた組織だ。バルカンは喫茶店に行けばいつでも会えそうだ。二人が今、何をしているのかは知らないが……会いに行く価値はあるのかもしれない。

 スマホのチャット通知が届いた。確認をしてみると、夢野がメッセージを送っている。


 『たすけて、怪物がずっと襲ってきます。』


 メッセージを見た瞬間、俺は外へと駆け出した。場所は夢野の邸宅。取り返しのつかないことになる前に。

 夢野の家は特に目立ったものはない、普通の家だった。一般的な家庭を彷彿させる。襲われていると聞いたが、周辺には何もないし、家が破壊されたあともない。俺はインターホンを押した。しばらくすると夢野が玄関を開けて、早く中に入るように促してくる。


 「ご、ごめんなさい……急な呼び出しみたいなことして……失礼でしたよね……。」


 夢野は酷く憔悴した様子だった。目の下には隈ができており、寝ていないように見える。


 「全然、そんなことないさ。けど襲ってくるというのはどういうことなんだ?今は平和そのものだけど。」

 「三秒後に現れるんです……今はその……何とか出てこないように牽制してるんです。境野さんが来れば来なくなるので……ご、ごめんなさい。」


 夢野の能力は確か可能性のある未来をも予知する筈だ。なるほどだから、メッセージを送り俺に助けを求めたわけだ。そうすることで襲われるという未来を回避できるのならお安い御用だ。


 「でも変です……いつもなら高橋様が執拗に襲われるんですけど……わ、私なんかにこんな来るなんて……うぅ……いつまで続くんですかこれ……。」


 確かに夢野だけが狙われるのは初めてな気がする。ただ、ちょっと引っかかる言い方だ。


 「どういうことだ?俺が来たことで未来は変わってないということなのか?」


 夢野は頷いた。だとしたら面倒な話だ。何かしらの対抗策を考えなくてはならないということか。


 レンは知らない。夢野には隠された能力があるということに。未来改変能力。レンには伝えていないが、三秒後に襲ってくる怪物たちという未来を、夢野はひたすら改変し続けているのだ。だが一向に終わる気配はない。明確な悪意。薬の影響で夢野が改変できる範囲は三秒間のみ。故に睡眠などで意識がなくなったとき、完全に無防備の時が来るのだ。

 夢野がレンを呼んだのはつまり、そうなる前に何かしら対策をとる必要があるからにほかならないのだ。


 「まぁとりあえず夢野は休みなよ。俺が見ておくから。」

 「だ、駄目なんです……私が寝たら……襲って……。」

 

 夢野は既にふらついていた。表情を見れば分かる。きっと丸一日寝ていない。一人で耐えて耐えて、限界を迎えたのだろう。恐らく有栖川は休みの日を狙ったのだ。学校なら俺含めて周りの人たちが助けに入る。だが休み、家で一人のときならば、戦闘能力のない夢野はただひたすら耐えるしかない。


 「大丈夫だよ夢野、例え襲ってきたとしても、指一本触れさせないから。」


 夢野はついに限界を迎えたのか、バランスを崩す。それを俺は受け止めて、優しく目を覚まさないように、リビングのソファに寝かせて上着をかけた。

 三秒後、ドアを叩く音がする。窓ガラスが割れる音がする。どこから湧いてきたのか知らないが、たった一人の女の子に、ここまでするか?有栖川が何を考えているのか知らないが、少なくとも、今やってることに正当性は微塵も感じない。

 足音がする。中に入ってきた。例のごとく釘を大量に打ち付けられた怪物たちだ。


 「上等だよ有栖川、お前がその気なら、俺も徹底的に戦ってやる。」


 俺は拳を構えて、迎撃体制をとった。

 大量になだれ込む怪物たち。それを俺は殴り飛ばす。一人一人は大したことがない。数は多いが、この程度なら夢野をかばいながら処理できる。

 その時、スマホが突然鳴り出し、勝手に通話モードになった。


 「身構えるんだレン、爆撃が来る。」


 ザリガニの声だった。俺は反射的に夢野を庇う。瞬間、爆音と衝撃波が襲いかかってきた。

 それは突如やってきた。空に奇妙な鳥たちが飛んでいる。鳥たちは何か奇妙なものを掴んでいた。球体状のそれは、一見すると鞠のようにも見える。それは、夢野の邸宅の上で一斉に落とされた。そしてその球が屋根に接触した瞬間、大爆発が起きた。夢野の邸宅を中心とした爆撃が行われたのだ。巨大な火柱が立ち上がり、爆音とともに熱風が辺りを吹き飛ばす。半径数十メートルが一瞬にして瓦礫の山となった。街の住民のことなど、構いなく。




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