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未来の記憶と謎のチートスキルで人生やり直し物語、学生に戻ったと思ったらそこは、何かが違う異世界だった件  作者: ホワイトモカ2号
それは澄みきった空に浮かぶ穏やかな雲のような
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戦いの終わり、一時の休息

 亡霊たちはいつの間に姿を消していた。先程までの騒ぎが静まりシンとした静寂が支配する。傭兵たちは腰を抜かしていた。目の前で起きた摩訶不思議な出来事に。

 護符で作られた仁の式神が戦場を舞う。式神はふわふわと浮遊し飛び回る。その軌跡には虹のような光彩が煌めいていた。その光に触れた傭兵たちは次々と倒れていく。記憶を飛ばす術式。今日、ここで起きたことは公安が、国が必死になって隠している闇の部分だ。公塚の奴に怒られる前に先手を打っておく。

 同時に周囲に探索術式を展開する。半径1キロメートルに渡る超広範囲の探索術式。探しものは……。


 「ない……亡霊どもめ。」


 先程戦った怪物の死体が消えてなくなっていた。別次元の存在の欠片。厄介の種にしかならないので回収したかったが、亡霊に先手を打たれたようだ。まぁ……本気で亡霊を潰すつもりはないし、あれを使って悪巧みをするつもりなら、その時に皆殺しにしよう。

 ヘリが見える。バルカンが乗っていた。連中が持ってきたものを奪ったのだろう。はしごが垂らされたので、俺とレンは登っていった。


 「しかし、また派手にやったな仁、地図が変わるぞこれ。」


 バルカンは吹き飛ばされた山々を見て軽口を叩いた。


 「俺じゃねぇよ。喚び出された奴がやったんだっつーの。」

 「それで?無事、終わった感じか?」

 「やばかったけどな、レンのおかげで助かったぜ。」


 いるだけで大地を変質させ、大気を腐らせる魔物。ヘリの窓から戦場となった場所を見下ろす。派手なクレーターが残っているが、大地はもとに戻っていた。奴の対星術式テラフォーミングはただの術式ではなかった。持続し、増殖し続けるタイプであった。欠片でも残っていたら、星を少しずつ侵食していき、人類にとって死の星となっていただろう。最悪の事態は避けられた。大仕事が終わり俺は煙草に火を点け一服する。


 「悪いなレン、未成年なのは分かってるがこればかりはやめられねぇ。」

 「俺としてはヘリの中で一服なんて危険極まりないからやめてほしいんだけど?てか俺にも煙草くれよ!ずっと働きづめでもうおじさん、疲労たっぷりだぞ。」


 バルカンがうるさいので仕方なしに火を点けたタバコをやる。


 「ふぅー……なぁ仁?ついでだし温泉寄らない?登山の後と言えば王道じゃね?」

 「あー……いいねぇ。汗もかいたし裸の付き合いもありだな。だがレンは大丈夫かよ、外泊になるから親御さんの許可とってからだ。」


 レンはスマホで親と連絡を取り始めた。親か……当たり前のことだがそんな光景が俺には新鮮だった。親の愛なんて、ろくに受けたことがねぇからな。

 まだ決まったわけでもないのにバルカンは嬉々として龍賀野るがの温泉について語っていた。やれ名産がどうだの温泉の効能がどうだの……。そんなのレンの目の前で話してたら断りづらいじゃねぇか、空気読めよ。まぁバルカンのことだから狙ってる可能性が高いが。

 そんな俺の杞憂とは裏腹にレンの外泊許可が下りたらしく、バルカンの気分はいよいよ頂点に達し、ヘリはすぐに地上へと下りていった。


 

 龍賀野るがの温泉……龍賀野るがの山脈麓にある温泉街で、歴史ある温泉街だ。街並みも”らしく”していて非日常感と癒やしを味わいに都心から観光客が多く来ている。中央には大きな川が流れており、温泉も流れているため、少し色づいて湯気を発しており、これが龍賀野るがの温泉郷のシンボルマークとも言えるのだ。


 「しかしよぉ、突然来て宿の予約とかできんのか?結構人気スポットだろここ。」

 「分かってねぇな仁、こういう温泉街は金に糸目をつけなけゃ空き室は大体あるもんなんだよ。高級志向の宿ってのは客単価が良いから無理に満室にする必要ねぇからな。余裕だったぜ。」


 そしてしばらく歩かされて、バルカンは指を指した。あれが俺たちの今日泊まる宿だという。立派だが派手すぎず奥ゆかしさと歴史を感じさせる玄関でありながら、最新のリゾートホテルよろしく清潔感溢れる綺麗な外観。温泉街を見下ろすような配置。それでいて中心部からのアクセスも悪くない。ホテルエントランスは広く、壁面がガラス張りとなっているところもあり、自然豊かな景色を見下ろすことができた。少し見てみるとちらほら別館に向かう道があって電飾のようなものが見える。おそらく夜は夜景を楽しめるのだろう。


 「ほら仁、チェックインは済ませたぜ。お前の部屋の鍵だ。」


 バルカンはいつの間にか受付を済ませて俺に鍵を投げつけた。鍵番号を見るとかなり高い階層だ……スイートルームか?


 「て、部屋を分けるのか?よくそんなに空き室があったな。」


 バルカンとレンはエレベーターへと向かっていったので俺も追いかける。


 「いや俺とレンは一緒の部屋だよ。ほれ、同じ階だが少し離れてるけどな。気にすんな、今回お前が一番疲れたんだろうからよ、存分に癒やされてほしいっていう俺の心遣いよ。中には個人用露天温泉もあるらしいぜ?」


 そりゃあ楽しみだ。

 バルカン達と別れ俺は部屋に入る。なるほど確かに豪華な部屋だ。豪華すぎて一人ではちと寂しいがな。クローゼットを開ける。浴衣にバスローブまである。外国人も安心だな。まぁ俺は浴衣派なので浴衣を取った。余計なことは考えない。



 俺は大浴場へと向かった。個人用温泉は確かにあったが、俺はそもそも大浴場で広々と浸かりたいのだ。開放感があって良い。大体予想どおりだが、大浴場には人一人いなかった。まぁマナーの悪いおっさんと一緒に風呂に入るのは嫌だし前向きに見よう。


 「ふぅー……。」


 急な予約だったので当然だが食事はないのが普通だ。だが何故か不思議なことにこの宿は時間こそはとるものの食事まで用意してくれるらしい。不思議ダナー。

 貸切状態の露天風呂に浸かっていた。日はすっかり暮れて夜空が見える。まるでこの世界には俺一人で、誰もいないような、そんな錯覚に落ちるような、そんな空虚な景色だった。虫の鳴き声だけが聞こえる。たまに風がなびいて草木を揺らす。あぁ……この感覚……都会の喧騒を忘れ、ゆったりとする感覚……大好きだ……。


 「まぁそんなわけで、もう堪能したから良いよ。出てきやがれ。」


 俺はずっと目をそらしていた現実と向き合うことにした。俺の言葉に観念したのか、こそこそと隠れていた人影が姿を現した。


 「えへへ……来ちゃった❤」


 龍星会のメスガキだ。知ってた。バルカンの白々しい態度、何故か予約出来た高級ホテル、何故か人の気配がないホテル内、何故か用意してくれる食事、何故かクローゼットにあったサイズが一回り小さい女性用の浴衣とバスローブ。何故か部屋にあるキングサイズのダブルベッド。気づかない奴がアホだろこんなの。というかホテル周辺をマフィアどもが囲んでやがるし。


 「ここ、男湯なんだけど?」

 「仁、そんなの分かってるよ。わたしが仁以外の男に裸体を見せるわけないじゃん。心配してくれたの?ちゃんと誰も入らないようにしてるよ。えへへ、嬉しいなぁ。」


 何食わぬ顔で俺の隣に来て湯船に浸かってきた。身体を洗ってから入りやがれクソきたねぇ。猫なで声で今日のことや物騒なマフィア話をしてくるメスガキをとにかく無視し、俺は疲れを癒やすことに集中した。実のところ今日は本気で疲れたので、メスガキを回避する気力もなく、バルカンの温泉提案は素直に良かったのだ。とりあえず、風呂から上がって食事をしたら……メスガキは物理的に拘束して俺に夜這いをかけてこないようにだけ対策はしておこう……。手錠とかないし、登山用に持ってきたザイルで適当に縛れば良いだろ。こいつ丈夫だし。


 最後の最後で台無しだったが、ひとまず召喚は阻止した。後はもう一つ、ザリガニに依頼していた、天満月教授と話していた亡霊の女の素性……今日いた亡霊連中の顔を全員確認してないのが痛いが、まぁザリガニの調査でハッキリするだろう。レンを召喚した目的……そして帰還する方法についてようやく本腰を入れられるってわけだ。


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