魔人達の狂宴、悍ましき召喚術
そして俺たちはこうして、断崖絶壁、大自然のブランコを堪能することになったわけだ。
「おいレン、バルカン!!大丈夫か!!」
「大丈夫だ仁!!今、登るー!!」
突然、ゆさゆさと音がした。これは……地震だ。非常にまずい。嫌な予感しかしない。
「待って、待って待って。もう少し踏ん張れ!頑張れ、お前ならいけるって!!」
俺の激励は無意味に終わり、重力に従い巨大な荷物が落下してきた。
「やばいやばいやばいって!ラァァァク!!!!」
俺の真正面に巨大な荷物が、視界が埋まる。術式を展開しないとまずい。だが、折角の努力が無駄に終わってしまう。俺の頭の中でどうすべきか脳がフル回転する中で、突然荷物が止まった。
「仁、バルカン……大丈夫か~?」
荷物に結ばれていたロープをレンが掴んでいた。普通は支えきれない巨大な荷物だが、レンのとてつもない膂力がそれを実現している。
「最高だぜレン!俺が女ならハグしてキスしているところだ!!」
「おっさんにハグされても気持ち悪いだけだぞ~。」
下でバルカンが茶々を入れる。こうして俺たちはロープを伝い、無事空中ブランコから脱出できたのだ。
「ふぅーいやほんと助かった。凄いなレン、仁は一体どこでこんな有能見つけてきたんだ?てかさっきのアタッチメント?」
バルカンは飄々とした態度でレンに絡む。さてレンのナイスプレイはそこまでにしておいて……俺は地図とコンパスを取り出した。……大分降りてしまったが、現在地は特定できた。術式を使えば一発なのだが……それは遭難してからだ。
そこは雑木林というよりもはやジャングルであった。獣道すらない、草木生い茂る森の中。
「うひゃあ~南国行った時を思い出すな仁、あの時ほど蒸し暑くはないが、この国もきついぜ。毒虫とかいんの?」
「あー南国ほどやべぇのはないけどな。虫には気をつけとけ。ダニやヒルは……諦めろ。もし肌に付いてたら帰った後に俺が術式で殺しておいてやる。」
こういった密林で危険なのは何よりも毒虫である。猛獣や毒蛇は言うまでもない。だがそれらは目視できる分、避けることも簡単だ。だが虫はどうしようもない。注意してもいつの間にか肌にまとわりつく。それだけなら良いのだが、毒を持ってるのも多い。この国では致命的な毒を持つ虫は少ないが、それでも高熱や皮膚病に繋がる。
密林をそんな調子で抜けると開けた場所に出た。ここからは慎重に行かなくてはならない。
「まぁ……そりゃいるよな。」
こんな山奥に似つかわしくない銃を持った傭兵たちが彷徨いていた。
「尾行するか?」
「いや、全員始末しておこう。こいつらはただの哨戒だ。」
気配を殺し、背後から忍び寄る。開けた場所とは言え遮蔽物の多い場所だ。ゲリラ戦で各個撃破すれば装備や数の差など問題はない。ナイフは使わない。血の匂いが目立つ。首を絞めて落とす。可能であれば折るのが確実だ。
「こいつらよえーなぁ、龍星会連れてくれば一瞬で制圧できたんじゃねぇか?」
俺と別れて行動していたバルカンは余裕綽々とした態度で全滅させた傭兵団を評価した。
「精鋭は儀式周辺を警護してんだろ。あと龍星会は絶対声かけない。メスガキのことだから列車止めて温泉宿宿泊コースとか提案しやがるぞ。」
というか実際、過去にされた。用意した車も全部ぶっ壊す徹底ぶりだった。しかも宿は予約済みだった上に鬼門に位置する部屋だったから、ありあわせの道具じゃろくな結界も組めず仕方なしに一睡もせずに、あの手この手で俺の自由を奪い押し倒そうと画策するメスガキと睨み合っていた。
「それに、メスガキが付いてきたらこういうこともできねぇだろ?」
殺した傭兵団の装備を剥ぎ取り身につける。一見すると傭兵三人部隊の出来上がりだ。誤魔化し切るつもりはないが、今の格好だと明らかに部外者であり、遠目で敵とすぐに認識されるよりマシだろう。
傭兵団に変装して、足跡を辿るとその先に祭壇のようなものが目に入った。
「ヘリで運んでるのか。派手に動きやがる。」
「最低限の迷彩はしてるみたいだけどな。ありゃあ山岳救助隊のヘリだ。見かけ上はな。」
流石に山中というだけあってヘリポートはないので上空から資材を落としているようだ。生身でヘリと戦うのは勘弁して欲しかったし助かる。まぁ目を凝らすとバズーカだの迫撃砲だの重機関銃だのが見えるが。あいつら戦争でもすんのか?
「仁よぉ、相手さんの装備に感動するなら今降ろしてる荷物見てからにすると良いぜ。」
バルカンに双眼鏡を渡されたので、ヘリが降ろしている荷物を見た。あれは……。
「レーニング二式……しかも後期カスタム品かよ。こいつはいよいよ戦争でも始めるみたいだな。」
レーニング二式とは重戦車のことだ。当たり前だが重戦車を輸送するにはそれなりの軍用ヘリが必要で、山岳救助隊ヘリに偽装するのには限度がある。だがレーニング二式はその構造を簡略化することで輸送を可能な限り簡略化したのが特徴だ。要するに現地に工兵さえいればパーツを分けて輸送したものを現地で組み立てられる代物。まぁ当然そんなものだから普通の重戦車より耐久性に難はあるんだが、奇襲性でいえば圧倒的に有利に立てる。また今回みたいに戦車の侵入が難しい場所にも配備できる強みがある。
「倒せんのあれ?」
バルカンは俺に問いかける。
「余裕。だが術式は……。」
「できるだけバレないように、だろ?目的は召喚の阻止……仁、頼むから術式解放するタイミングだけはしくじんなよ?」
言われなくても分かってる。そのためには逃走経路も確保しなくてはならない。当初の計画から多少狂ってしまったが問題はない。
「バルカンとレンは後方支援にまわれ。俺が単独で潜入する。逃走経路の確保、忘れんなよ。」
バルカンとレンは黙って頷いた。危険な仕事は俺の領分だ。まぁこの程度、危険の内にも入らねぇがな。今のところは。
祭壇には五人の魔人がいた。暗がりでよくわからない。だが全員から凄まじい力のようなものを感じた。空気がここだけ違う。これが亡霊……いやただの亡霊ではない。仁が今まで見たことがある亡霊とは格が違っていた。おそらく連中はこの召喚のためだけに召集された……最高幹部たち。中央には若々しい少年がいた。年齢はレンと同じくらいだろうか。だがその見かけからは想像もできないほどの実力者であることは明白である。
仁は更に祭壇に捧げられたものを見た。最初は何か分からなかった。何かのオブジェクト……だろうか。あまりにも規模が大きすぎて。だが全体を見ると、それは理解できた。これは召喚石だ。細長くまるで巨大な槍のオブジェのように象られた召喚石の先には、等身大の人間を模した人形があった。連中はレンと同じことをするつもりだ。





