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レストランの話

「ああ、こちら星月、異常はなし、どーぞ」


「君ストーカー行為結構楽しんでるよね、どーぞ」

 

 ノリノリで建物の陰に隠れ、とんでもない笑顔でストーカー行為に励む星月さん。

 

 こういうノリのいいところは嫌いじゃないしむしろ好き。


「まあまあ、休日なんだから楽しまなきゃ損じゃない、どーぞ」


「どんな理論だよ、それ……あ、角を曲がるよ、追いかけなきゃ……あ、どーぞ」

 

 楽しそうに角を曲がる2人にバレない様に慎重に追いかけていく。開発中の街だから隠れるところが妙に多い。

 

 角を曲がればそこは最近できた高級レストラン街、学生がいけるような場所ではない。

 

 そのレストラン街の一角に、2人は入っていった。


「あのレストランに入ったわね……よし、私たちも潜入しよう」


「まてまて、ここがどういうところか君わかってるの?」


「うん、高級レストラン街でしょ。大丈夫、私それなりにお金持ってきてるから!」


「そういう理由じゃないよ! こういう高級レストランでは大体ドレスコードがあるって聞いたことがある! 僕たちの服装を見てみてよ……絶対にドレスコード通らないよ!」

 

 僕はパーカーにジーンズ、星月さんも同じような格好……確実にドレスコードがあれば止められちゃうよ!


「え、ここドレスコードとかあるの⋯⋯盲点!」


 そう言って星月さんはゴソゴソとかばんを探る。


 取り出したのはさっきのサングラス。


「サングラスかけたら高貴に見える! これで行こう!」


「⋯⋯そこじゃないけどね」


 やっぱり抜け加減がハンパない。


 ドレスコードきたらしょうがないと諦めよう。


 ☆


「なんとかレストランに入れたね……やっぱりサングラスは偉大だ!」


「そうだね……ていうか黒田さんたち結構ラフな格好だったし、ここはドレスコードなかったんだろうね」


 レストランには普通には入れました。そもそもここは高級レストラン街だけど「気楽に行ける!」がモットーだったのでそんなところは心配じゃなかったようだ。反省反省。


「それに、結構いい席に座ることが出来たね! この席ならみーちゃんたちをしっかり観察できるよ。取りあえず、私たちも何か頼もう」


 そういってメニュー表を広げた星月さんの体が固まった。


「どうしたの……げっ」

 

 メニュー表をのぞき込んで僕は思わず引いてしまった。目の飛び出るような……とまではいかなくても学生には絶対に手の出せないような高級品のコース料理がずらりとメニューには並んでいた。値段もお高い。これお水でお金取られるてきなお店じゃない? ていうか今昼だよ、ランチだよ! これディナーで出る値段のやつじゃないの!?


 財布をのぞき込む。中には2500円とポイントカード。舐めてるのかな? 

 

 ふええ、こんなんじゃこのお店に人権はないよー……


「……星月さん、お金持ってる?」


 そう聞くと隣の星月さんはにっこり笑いながら首を横に振る。そっか、持ってないかぁ……


「……ていうかなんで隣座ってるの?」


「え、あ……ほら、ここに座った方がみーちゃんの事よく見えるでしょ! それになんだかカップルっぽい!」


 後半はよくわからないけど、とりあえずきれいな笑顔の前にはどんな理論も無敵なので、僕も無敵の笑顔で返す。


 そんな風にふざけている内に黒田さんたちはメニュー(多分コースメニューなんだろうな……)を注文している。


 都合がいいことに背中側に座っていることで表情はわからないがたぶん楽しそうにしているんだろうな。彼氏さんも優しそうな笑顔を浮かべて、黒田さんの楽しそうに肩を揺らしているように見えて、もうベストカップル賞受賞案件だ。こりゃあ、僕らがストーカーして見張る必要ないわな、今日はせっかくだから見張るけど!

 

 横を見てみると星月さんはうんうんうなっている。そんなに僕の考えに納得したのだろうか? いや、口には出してないはずだ、思考盗聴された!?


「うん、うん。みーちゃんたちはやっぱりベストカップルだね! それじゃあ私たちも今日は楽しもう! へい、店員さん、この一番安いオレンジジュースを2つ!」


 そういってよくわからないテンションで店員さんを呼ぶ星月さん。絶対そういう雰囲気のお店ではないと思うけどもうめんどくさいから黙っておこう。

 

 ていうか僕たち結構騒いでいるけど他のお客さんにどう思われているんだろう? 

 

 そう思ってキョロキョロしているとめんどくさそうな顔で注文を取りに来る店員さん。多分バイトさんなんだろう、今にもあくびがふわーっと出そう。


「すいません、このオレンジジュース2つください!」


「……! 少々お待ちください」


 星月さんが注文すると店員さんの目がカッと見開き厨房の方へ下がっていった。どうみても注文を取っている人の目つきではない。なんだろう、秘密の暗号的なものを言ってしまったのだろうか。どうしよう、サングラスかけてるしなんだかそれっぽく見えてしまう!


「ねえねえ、伊織君、あの人すごい顔で厨房の方に戻っていったけど……もしかして秘密のミッションかな! ワクワクするね!」


 星月さんもその匂いを感じ取ったのか、期待にあふれたキラキラした目でこっちを見てくる。忘れてほしくないのは僕たちも黒田さんのスト……警護をしているということ。このままだと二重スパイになっちゃう、興奮するね!


 わくわくした空気が二人の間に漂う中「すいません」という神妙な声とともにさっきの店員さんが白髪のダンディーな仲間を引き連れて帰ってきた。おやっさん、今度のミッションは何ですかい?


「そのー、大変申し訳ないのですがお客様方は退店、という形をとらせていただくことになります」


『……へ?』


 仲間の店員さんが放った言葉はミッションの依頼でも秘密のコードでもなく、無慈悲な「帰れ」のコールだった。えっと……僕ら何か悪いことしましたっけ? 


「失礼ですがお客様、お金、持っていませんよね?」


「本当に失礼ですね……持ってませんけど!」


「それならおかえりください……当店はあなたたちのようなサングラスでイキリ散ら

 かした子供がくる場所ではありません。金を持っていないお客様は神様ではありません。もう少し身の丈に合った場所でお食事するなりデートするなりをお勧めします」


 そういうとぺこりと深いお辞儀をし、ついでに出口の方へ指をさす。


 ……いやいや帰らないよ、目的が遂行できないからね! こんな理不尽な扱い、もちろん僕らは抵抗するで、表情で!


 星月さんとアイコンタクトをとると、二人で顔をぷくーっと膨らませて無言の抵抗。オレンジジュースを出してくれるまで、僕たちはほっぺを緩めません。


「……強硬手段には出たくなかったのですが仕方ありません」


 その言葉とともに「パチン」と店員さんの指が鳴る。


 その音を合図にかなり大柄な外国人のスーツをきた男性がバックヤードから登場した。


 大柄な男性がニカッっと笑う。日に焼けた肌と白い歯のコントラストが眩しい威圧感を放っている。やばい、これはやばい。


「あ、あいむそーりー……」


 僕らはそういっておなじようにニカッと笑った。


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