デート(追跡)開始!
僕の住む千田市は緑が多い町だ。
自然と人の融合が市のモットーだったような気がする、覚えてないけど。
だから基本的には山だったり緑が多かったり閑静な住宅街だったりするんだけど、駅周辺だけは別。
ここだけとんでもないペースで開発が進められているせいで今では駅周辺だけ異様に発展が進み、なんかスタバやらなんやらが立ち並ぶ街になっている。
だから、友達と遊ぶ時は駅前集合というのが基本だ。
ということで僕たちも駅前で待ち合わせをしている。昨日真帆ちゃんに見繕ってもらった服とお気に入りのジーパン、それに探偵御用達のトレンチ帽!
黒田さんの私服や休日の過ごし方を妄想して出てくるワクワクや興奮を顔に出さないようにきりっとした顔を心掛けて、しっかり目に焼き付けるのが目標です!
「あ、伊織君、時間ぴったり! おーい!」
聞き覚えのある声に振り返るとトレンチ帽子にサングラス、デニムに猫のパーカー姿のラフな姿の星月さんがいた。今日はふとももが見れなくて悲しいです……いや、なんでサングラスしてんの?
「え、探偵ってサングラスが当たり前じゃないの⋯⋯?」
「探偵事情詳しくないからわからないけど当たり前じゃないと思うよ。目立つし」
「は! 確かに!」
やっぱ星月さんちょっと抜けてるとこあるよね。トレンチ帽被っちゃたし。
「いやはや、サングラスはない方がいいのか、じゃあ眼鏡だね、伊織君のも持ってきてるから⋯⋯それより伊織君、今日の服デート感が出ていていい感じだね! お揃いっぽいのはちょっと恥ずかしいけど……」
「やっぱり! 妹とお母さんが選んでくれたんだ!」
「そういうことはあまり言わない方がいいと思うよ……」
「……みーちゃんと彼氏が来たよ」
その言葉に前を見ると黒のサロペット?っていうんだっけ、あの美術の時に着るつなぎみたいなオーバーオールをふんわりさせたのを着た、いつもと全く雰囲気の違う黒田さんがいた。
清楚できれいでそれでいてふわふわでもはや神々しい。ロングヘアの隙間から覗くうなじがすっごくキュートだ。多分これが外での初デートなのだろう、初々しく照れている姿も実にそそられる。やっぱり最高の天使様だ。
「……ああ、やっぱみーちゃんは可愛いな!」
隣の星月さんもかなり興奮している。
ていうか黒田さんの私服は見慣れてるだろ、そっちは正気であれよ。気持ちはわかるけど。
「へへへへ……は、コホン……それで彼氏の方の見た目はどう思う、伊織君」
そういわれて彼氏の方も見る。
楽しそうに黒田さんと話す、パリッとした服に身を包んだ彼氏さんは長身で男の僕から見てもイケメンで……なんというか売り出し中の若手イケメン俳優、もしくはバリバリの若手社長、といったような見た目をしている。
つまり勝ち組、僕とは人種が違う人間だ。これには勝てません、はい。
「……写真で見てたけどやっぱ実物はすごいイケメンね。」
「うん、男の僕から見てもイケメンだ……あれ、星月さんなんで僕の方そんなに見てるの?」
「え、あ、その、べっつにー何にもないですよーだ……それよりみーちゃんたちが移動するから追いかけよう! 見失ったら終わりだよ!」
その言葉通り、黒田さんとその彼氏さんはどこかに移動を始める。
その後ろを木陰などに隠れてひそひそと追いかけていく。完全に不審者だけど見つからないためには仕方がない。
「そうだ、このプロジェクトの名前を決めていなかったね……「雅のドキドキ初デート」なんて名前でいい? ……何その目は、言いたいことがあるならちゃんと話してよね」
くそださ抜きげー風ネーミングセンスに少し引いてしまった。
僕の周りは安直にしか名前を付けられない人しかいないのかしらん。そもそもこの追跡行為に名前を付けること自体がわからない。
まあ、とりあえずプロジェクト「雅のドキドキ初デート(笑)」ここにスタート!
さーて、どんな可愛い黒田さんが見れるか今から楽しみだ!
「大丈夫かな……?」