弾劾裁判 傍聴席のクララ
議会場のいちばん後方の席で他の議員を見下ろしながら、クララは演説を聴いていた。
彼の演説に心を動かされる議員は、彼の派閥以外でも少なくなかった。
しかし、小カトーの派閥に属する議員たちの拍手以外は反応が返ってこない。
押し黙ったまま席に戻る小カトーを見ながら、クララは足を組み直した。口の端に笑みが上るのを押さえるのに苦労する。
他に発言者もなく、ばらまいた買収資金はきちんと仕事をしてくれているようだった。
(ユリアと仕事をするようになって、お金の力を実感するわ)
はっきり言って、楽しい。
小カトーの言っていることも、分からないではない。正論もある。
(だからって元老院が勝手に人を死刑にしてはいけない)
そこまで元老院が傲慢になってはならないとクララも思うのだ。
同じように他の議員も思っているから、買収が功を奏しているのだろう。
(でも、悔しいけど、小カトーも演説は上手よね)
商談なら負けないつもりのクララだが、政治の場であの演説をひっくり返す自信はない。
だから、ユリアなのだ。今日、ユリアは華々しく小カトーを否定するだろう。
ふと、セイヤの顔がクララの脳裏をよぎる。
キケロの家でユリアとケンカしたくせに、あの異世界人は何度もクララの家に来ては彼女にユリアのことを頼むと頭を下げていたのだ。
きっといまも、外でオロオロ待っていることだろう。容易に想像がついて、笑える。
(まったく、ユリアもセイヤもバカだ)とクララは思う。
ユリアはセイヤが危険な目に遭ったと腹を立て、セイヤはユリアの身が心配でケンカしているのだから。ちょっと妬ける。でも、いままでも不利な商談をひっくり返してきたことは何度もあるのだから、まだ自分がセイヤを手にするチャンスは残ってるはずだ。
(大丈夫よ、セイヤ。万事順調そのもの)
クララの仕組んだ買収工作にはもう一つ裏があった。
それは発言の順番を、小カトーを先にしてユリアを後にすること。
これはセイヤが提案したことだった。絶賛ケンカ中のユリアには内緒だったが、「人間、後から聞いた話の方に影響されるものだから」とセイヤが言い張ったからだった。
小カトーは正義に燃えて発言を求めたように見えるが、実は最初から最後までこちらの思惑通りに事が運ぶようお膳立てされているのだ。
(でも、お膳立てはあくまでもお膳立て。ユリア、やっちゃって頂戴!)
傲慢な小カトーの鼻っ柱を、思い切り折ってやれ――
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