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ユリア・カエサルの決断  作者: 遠藤遼
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ユリアの演説、始まる

 元老院の外には、思いのほか内部の様子が聞こえてこない。


 ローマ市民の喧騒はたしかにうるさい。しかし、堅牢な石造りの元老院は、それ自体が音を外に漏らさないようになっているのだと、このとき改めて実感した。


 ましてや、ユリアがひとりで演説をするのだ。いくらユリアが背も高く、声も凛々しいといっても、その声が外にまで聞こえてくるはずはない。


(ユリアの演説、立ち会いたかったな)


 打ち合わせの通り、きっとユリアは堂々たる論を張ることだろう。


 その勧告さえあれば誰であれ国家の敵として死刑にでき、しかもその人物の全記録をローマ中から抹殺し、未来永劫、罰し続けることができる「元老院最終勧告」。


 その恐るべき魔物に、十七歳の少女が挑みかかる。


 ユリアにとっても、ローマにとっても、記念すべき演説になるのだ。


 俺のいた世界の歴史では、カエサルの演説空しく、小カトーとキケロの演説によって「元老院最終勧告」は発動され、カティリナ一派は殺される。


 しかし、そうならないようにユリアとキケロは合意した。助命はなるはずだ。


 周りをぐるりと見渡す。歴史を変えようとしていることに対して、あの「絶望の吐息」が出現していないかを確認した。もう五度目だ。このくらいの歴史改変はいいのか。


「セイヤ、今日はずいぶん真剣なのです」


「まあな。ユリアの晴れ舞台だし」


「でも、ユリア様とケンカしてるのです? リヴィア、ちょっと悲しいのです」


「……ごめん」


 それもこれも、目的はひとつ。ユリアを無事に脱出させること――


 俺の知っている歴史では、『カエサル』の演説によって元老院議員たちは『カエサル』の「正体」を察知してしまう。「こいつは俺たちの敵だ」と。


 そして、外に出てきたカエサルを袋叩きにして殺そうとするのだ。


 それなのに――ほんとうに、ユリアがカテリーナを救ってしまったら、どうなるのか。


 肝心のユリアとは、彼女がキケロの家で機嫌を損ねて以来、あまり話せていない。


 今日のことを話そうとしてはすぐに怒鳴り合いのケンカになっていた。


 いっそ、洗いざらい話してしまおうかとも思った。しかし、それではダメなのだ。


(そもそもユリアが俺を信じてくれなければ、何を話しても聞いてはもらえないだろう)


 だけれども、何としてもユリアを守りたいのだ――

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