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ユリア・カエサルの決断  作者: 遠藤遼
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初めてのローマは空からの落下

 どのくらいの時間がたったのだろうか。


 身体に現実の感覚が戻ったのを感じた。


 しかし、それは顔を、身体を襲う、強い空気の流れによってだった。


 覚醒したそこは、強烈な日差しを受ける青空と白く輝く雲。


 それらが急激に遠ざかっている――


「って、落っこちてるっ!?」


 空と太陽が遠ざかっているのではない。どういうことかわからないが、空中に投げ出されていて、いままさに落下運動の真っ最中じゃないか。


「うわああああああっ!」


 このままでは背中から落ちてしまう。必死の思いで身体をひねって落下方向を見ると、眼下に船が見えた。船と言っても木造で、いわゆるガレー船よりも小さいもの。その甲板に向けてぐんぐん落下しているのだ。


「誰かああああっ!」


 あとになって思い出しても、よく落下の途中で気絶しなかったと思う。


 急激に迫る木の甲板。そこには何人かの人がいた。剣を抜いて立っている人、憮然と座っている人、縄で縛られている人?


 みな、一様に驚愕の表情でこちらを見上げていた。


 縄で縛られて座らされている何人かの人のなかで、ひときわ目立つ金髪の少女のうえに、落下しようとしていた。


 甲板に激突する時間が迫ってくるにつれ、急に世界がスローモーションのように感じられた。このままではあの少女にぶつかってしまう。何とか避けようとするが、身体は動かず、もどかしくもその衝突を見ているしかなく――


 少女と目が合った。


 引き伸ばされた時間のなか、驚きで見上げるその美しく整った顔立ちが瞳に焼き付く。


 初めて会う女の子なのに、胸焦がす想いが頭をしびれさせ――


 俺は盛大にその金髪美少女に激突した。


「いたた……ん? き、きゃああああぁぁぁっ!」


 視界を遮られた状態で女の子の声がする。ラテン語だった。


「ひひひ、人の胸に、ななな、何で、顔、顔、顔~~~っ!」


 慌てふためく少女の声。たゆんという優しい感触。温かさと若干甘酸っぱい汗の香り。


「うわああぁぁぁっ! ごめんごめんごめんっ!」


 女の子の大きな胸から慌てて顔を上げる。目の前に羞恥と怒りとで真っ赤になって口をへの字にした美少女の半泣きの顔。女神ディアナと同じ金髪でも別人ではあったのだが、彼女があまりにもかわいくて、非常時なのに思わず見とれてしまった。


「おい、てめえ、何者だ?」


 ガラの悪い声が背後からする。振り返れば髭面の男が、短剣を構えて睨んでいた。


 もう一度、縛られている金髪の女の子に目を戻す。


「あいつ、敵?」


 なぜそんなことを問うたか、自分でもわからない。


 でも、腹の底から誰かが俺を突き動かしていた。この子は守らなければいけない、と。


 聞かれた女の子は一瞬「えっ?」という顔になったが、次の瞬間には目に燃える光を宿して言った。


「そうだ。あいつらは海賊で、私の敵だっ」


 胸の奥で何かがかちりとはまった。ならば、絶対に助けなければ――


「おい、てめえだよッ」と、さっきの男が俺の肩を掴む。


「うおおおおぉぉぉッ!!」


 腹の底からの声とともに、返事代わりに男の鼻面を殴りつける。


 ゴキリというイヤな感触。倒れる男。その手の短剣を奪い、次の海賊を目指す。


 蹴りつけ、怯んだところに奪った短剣で殴りつける。


 海賊たちの怒声。短剣がいくつも迫る。短剣で殴り払い、さらに左足で蹴り。


「縄を切ってくれッ!」と、金髪の美少女が叫んでいた。


 海賊を押し出し、彼女の縄を切る。隣りの男の縄も切る。怒号。振り返りながら、体当たり。殴り、薙ぎ払い、蹴り上げ、突き上げる――


 先ほどの金髪美少女が傷一つないのを見て、安心する。


(よかった。間に合った)


 安心した途端、いままで全身を突き動かしていた気迫が去っていくのを感じ――目の前が真っ暗になった。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークと☆の評価がもらえると嬉しいです。

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