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Light in the abyss   作者: 木耳 五郎
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 『深淵に射すヒカリ』 2


 『求>蝗狩りクリア済の廃人 出>『MMO初心者』の羨望の熱い眼差し』



 課金アイテム『ワールドメール』にて一斉送信したショートメールが世界を巡る。


 とは言え、超過疎だ、釣れるまでは時間が相当掛かるだろ魚ォォオオオッ!?



 余りの速さと着信の連打に語尾が(うお)になってしまった。釣りだけに。何かヤバイウイルスでも入ったかと思う程、視界を覆いつくす小窓に一瞬仰け反ってしまう。


  「休み期間とはいえ、まだ朝方だぞ廃人どもめ…」


  「ジグさん? それ、自分も含まれます…よね?」


  「特大ブーメランありがとうございましたァッ!」


 中々ツッコミが鋭いなヒカリは…。あ、いやヒカリ自身の事かな? …判らんがまぁ、とりあえず大量のショートメールを処理しないとだな。俺は雪崩の如く押し寄せた小窓を右の人差し指でスススと移動、見やすいように整理し、順に見ていく。



  『釣りか? PKKするぞ時愚テメェ!』


 却下&放置。


  『お久しぶりですねジーク。あ、今は時愚かでしたか。然し『本当に』初心者さんが? だとしたら枠は何が開いてますか? コチラは稼働18名全枠対応可能ですよ♪ byギルド『蝗の佃煮』



 いきなり大物釣れたな。蝗ストーリー攻略メインで構成された廃人中の廃人ギルド。そのギルマス『メイギス』からの返答。ちなみにジークは俺のメインの名前。


  

『お久しぶりで御座います。支援ならば我等『ブックス』にお任せを。稼働6名です。ps 君の所のクガイちゃんなんとかして下さい。図書館に麻痺毒まき散らして高笑いしながら分厚い辞書の角でPKしてくるのですケド…』


 

 ひっでぇ殺り方しやがる。精神的にフルボッコにしてやるなよ…。サーセン、あとでキツめに叱っときますサクラさん。


  『おうジークん! 初心者とかマジか!?マヂなのか!? 俺達『完璧(パーフェクト)戦士(ウォリアー)』。マッスルすぐる&マッスルぐれいと 蝗狩り参加希望だ。魅せてやるぜ俺達の超 必 殺 を』


  

 うわ…ネタビルドタッグまで釣れたか。まぁ、これはこれでアリなのかも知れないし、そうで無いのかもしれない。


  

  『アタシ等は強制だと思うけど、一応参加表明しとくわねー? ていうかマジモンの初心者なのね』


 ウチの二人も参加…と、おいおいおいヲイィィィィイイイイイッ!!



  『やっほ♪ ジークちゃんおひさ! 最後だし、良いよね? 運営規則無視して暴れてもいいよね!? と言う事でGMレミングウェイとGMフェルティエスが参加希望だよーっ!』


 GMまで釣れただと…最早なんでもアリか(ごくり) こりゃ蝗狩りの後は盛大にGMキル大会だな。



 と、僅かな時間で錚々たるメンバーが釣れてしまった。これでウチの奴等とヒカリを合わせて32名。枠は満タンとなった。正直おおよそ全てのプレイヤーは全ての職を網羅しているだろうしな。編成はどうとでもなる。…ちらりと手持無沙汰にしているヒカリを見て、視線をショートメール欄へと戻す。実質31名で初心者を何が何でも守り切るという制限付きになる。シビアではあるがそもそもクリア済の経験者ばかりの上にGMまで混ざるからまぁ、行けるだろ。


   「うん。中々面白そうなことになったな」


   「何がどうなったんでしょう…」


   「あー…」


 いまだに空に浮かぶ監獄島を見上げて一言。


   「この世界を愛する馬鹿野郎(廃人)達が君に魅せてくれるってよ」


   「むむ…何をでしょう?」


 俺は空へと指をさした。



   「エンドコンテンツ級ワールドクエスト『世界の終焉(おわり)嘲笑(わら)う者』。掻い摘むとワールドクエスト最終章、ラスボスだラスボス。ネタバレですまんが」


   「ふぇ…凄そうです。何時頃でしょうかっ!」


 その言葉にすぐさま返事はせず。いや、勿体ぶっているわけでは無い。恐らくは皆、同じ思いだろう。ワクワクと期待を胸に目を輝かせるヒカリを見つつ、目を閉じて言葉を選んだ。


   「そう…だな」


   「わくわく…」


 口でわくわくって言ってるぞこの子。まぁ、それはそれとしてだ。クエスト名の中身とは別の意味で俺達がそうでありたい。ならば出来れば最終日に行うとして、最高の一戦とするべく最高のメンバーを厳選していこうじゃないか。


   「決行日は24日後の昼。つまりこのゲームのサービス終了日だ」


   「サービス終了日…お別れの日に…ですね」


 少し寂しそうな表情を見せたヒカリだったが、大きく頷いた。それに対し、俺も頷く。


   「じゃ、メンバー厳選で色々と調整が必要なので失礼するよ。決行日に会おう」


   「はい! ありがとうございます! すっごく楽しみにしていますね!?」


   「お。おぅ。任せとけ」


 最後にとてつもないプレッシャーを与えられた俺は、その場を去り、アジトへと戻ってショートメールを確認する。クリア可能な性能・プレイヤースキル。そこは最低限度だ。加えて華やかさ、ネタも含めた遊び心も吟味しつつ、初心者を守り通す鉄壁の布陣も必要…。



 取り合えず『蝗の佃煮』『ブックス』『完璧戦士』『GM二人』は確定として…。


   「ちょっとジグー? アタシはブックスと顔をあわせにくいんだけどー?」


  ゴン。と、強めの鉄拳をクガイの脳天へと落とす。


   「アイタッ!」


   「麻痺させて辞書の角で、それも高笑いしながら殴り殺すとかやめとけ」


   「だって暇なんだもーん?」


 もーん? と、可愛らしくテヘペロしてるが反省の色無し。とりあえずもう一発クガイの頭を爆撃し、再び編成を考える。そんな中、遅れて二通のショートメールが届いていた。



   『やぁやぁジーク君。面白そうだね。それが『本当』なら我等『イナゴンキラー』も是非参加したい。派手なフィナーレを共に飾ろうじゃないか』


  蝗に例えられたドラゴンが混ざりに混ざって出来た呼び名『イナゴン』そのイナゴンを倒す事ばかり考えてる奴等が集まったギルド…確か今の稼働人数は8名…うーん。


   

   『…久しいなジーク氏。最後まで孤独を貫くつもりでしたが…最後くらいは、共に』


  おおう。ソニアまで釣れたか。これは…悩むなぁ…うん? そういば。



  俺はある一文を思い出し、GMレミィ(レミングウェイの愛称)へとショートメールを送った。


   『お久しぶりです。ついに名作『エンシェントロア』がサ終…悲しくなります。そして、運営規則ブッチしての参加ありがとうございます。つきましてはお願いが―――』


  運営規則の一つにストーリー進行の手伝いをしてはならない。とあるらしい。


  基本的にはイベント進行以外では干渉が認められないのだが、怒られる事は覚悟の上なのだろうし、それならばもっと豪快にブッチして貰おうかと画策。ショートメールを送り、返答に日数をかなり要したあたり、運営上層部に直談判してくれたらしい。


  その結果として五日後にレミィからのショートメールが送られてきた。



   『お返事遅れてすみません! 結論は…OKですよ♪ 上の人も赤字覚悟の最後のイベントとして大いに盛り上げて下さいと申されておりました♪』


  そうか。そうかそうか。俺は返答を幾度も読み返しながら頷き、大空を見上げた。


   「最後に、良い思い出を作ろうじゃないか…皆で」




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