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プロローグ
雨が降っていた。
暗闇の中で、私は走っていた。
なぜ?
息があがって、胸が苦しい。頭の中はこんがらがって、ぐつぐつに煮えたお鍋のようだった。
顔がぐしゃぐしゃに濡れているのは、雨のせいなのか、涙のせいなのか、もう分からない。
なぜ?
言葉にならない感情の元を辿ろうとした時、私はつまづいて、ぽかんと口を開けた闇の中へ放り投げだされた。
そうして私は、忘れてしまった。
なぜ?
理由を思い出しそうになる度に、私は何度もつまづいてしまう。
そんなに思い出したくないなら、思い出さなくてもいいのだろうか。
欠けてしまった記憶は、時間が経てば経つほど、どうでもいいことのような気がして。
いつしか私は、欠けたものを探すのをやめてしまった。