優しい王様が来る!?
「奴が来るぞ、どうする?」
「逃げるしかないだろ」
「逃げても意味ないらしいぞ」
「それでも逃げるんだよ!」
弱肉強食、それがこの世界の掟だった。強い者が弱い者を食らう、野蛮でどこにでもある話だ。
それでも人はそこまで残酷な生き物じゃない、せいぜい弱い者から食い物を奪ったり搾取するぐらいだ。
その構図が変わってしまったのはいつからだろう。
新しい王様、どこからかポッと現れて平等とかいう理屈を振り回し、世の支配者たちをなぎ倒してしまった謎の男が現れてからだ。
何でも違う世界から来たとかでとんでもない力を持っているらしい。
それでもそいつはどんな悪人も殺したりはしないという、そんな奇妙な行動からそいつは優しい王様と呼ばれていた。
俺たちはただの小悪党だ、近隣の村から僅かな食料を掠め取って生きている。でも決して裕福な暮らしじゃない。
魔物との縄張り争いや役人どもへの賄賂と、資金的にも肉体的にも切り詰めるている。
だがその魔物たちやクソのような役人どもも優しい王様とやらにやられてしまったのだと。
その事には少しばかり清々したが、今更俺たちみたいな悪人が村人に混ざって呑気に農業なんて出来る訳がない。そんな事は少し考えれば分かる事だ。
例え本人にその気があっても、誰が今まで偉そうにしていた奴と肩を並べて仲良く稲撒きしてくれるっていうんだ。せいぜい優しいリンチに会うのがオチだ。
復讐を覚えた人間っていうのは手が付けられない、こんな暮らしをしている連中なら俺でなくとも知っている。従順なフリをして少しでも隙を見せようものなら背後からグサリ、だ。
あの優しい王様ってのは相当にタチの悪い奴らしい、これならいっそ殺された方がマシかもしれない。
「お前らか、悪党っていうのは」
やって来たのは善良そうな顔をした男だった。どうやら近くの”か弱き”村人たちにそう告げ口されたらしい。
俺の仲間たちはその見た目に騙されて戦う気満々らしいが、俺にはそいつのやばさが痛いほど分かった。こいつは自分の事を一切疑っていない、相当タチの悪いタイプだ。
世の中っていうのは不平等だ、どうしてこいつにそんな力が与えられたのか。
平等、か。そんな事を言うならせめて俺たちがこんな道に身を落す前に言って欲しかった……。
「こいつ、化け物か……!?」
仲間が二度目の逃走を開始する、だがそれも無意味だろう。
もし生まれ変わったら、俺もそんな凄い力とやらを手にしてみたいものだ。