第30話 能力の確認
「そうか。分かった。では明日試験をするとしよう。一回目の鐘が鳴る頃、冒険者ギルドに来てくれ」
一回目の鐘だと、だいたい朝の6時くらいか。確か鐘は3時間毎くらいに鳴っていた気がする。
「分かりました。では、またよろしくお願いします」
用事が済んだので、ノアには獣人へと戻ってもらい、俺たちは冒険者ギルドを後にする。ちなみに獣人から魔獣化する時に服が破れるのではないかと思ったが、何故か大丈夫なようだ。本人に聞いてもよく分からないって言われた。まあ……異世界だし、そういうものだと飲み込むしかない。別にハレンチなことを期待していた訳では無い。うん……
「試験は明日だから、準備はしっかりしないといけないわね」
「ああ、そうだな。この機に色々と試してみるか。新しく得た能力とかな」
検問を通り、王都からほど近い魔物が出現するエリアまで移動していく。
「んー、風が気持ちいいです♪」
「ノアは外が好きなのか?」
「んー? なんというか、心が落ち着くんです♪」
元々が狼だから、街などの人がいっぱい居る所よりもこういう自然の方が落ち着くのだろうか?
「よし、じゃあ早速試していくぞ」
「まずはアレですよね?」
「ああ、レベルが上がって使えるようになった意識同化とトレースだ」
早速俺は集中して、意識同化をしようと試みる。前回行ったのは才幹接続という、トレースの機能だが、今回は意識の同化をしようと思う。
「──接続」
まただ……頭の中に機械のような声が聞こえてくる。気の所為ではなかったようだ。これは一体なんだろうか? 俺は集中して接続することに意識を向ける。
「──失敗しました。接続には個体名«カンナ»、«ノア»の集中が必要です」
どうやらカンナとノアの集中が足りなかったらしい。俺は2人にもう少し集中するようにお願いし、再度接続を試みる。
「──接続──成功しました。個体名«カンナ»、«ノア»と意識を共有します」
「うぉっ!?」
いきなり頭の中に自分のとは違う思考が浮かんでくる。まるで、頭の中にそのまま喋りかけられたようだ。
なるほどな……意識を共有することは出来るが、その分雑念も増える。だから、その中から必要な情報だけを取捨選択して把握しなければならない。慣れるまでは接続に集中して、意識を割かないと使えないだろう。
「なんか不思議な感じです!」
「うぅーなんか頭の中がごちゃごちゃする」
ノアは少し煩わしいのか頭を抱えて唸っている。確かに慣れるまでは少し気持ち悪いかも知れない。まるで乗り物酔いのようだ。
「じゃあこの状態で1回魔物と戦ってみるぞ。戦闘の時、実際使えるかどうか、練習もしないといけないしな」
俺たちは意識同化をしたまま、魔物が出現する森へと入る。相変わらず空気が淀んでいて、嫌な感じがするな。
(いました!)
脳内でカンナの視界が共有される。
前方50メートルってとこか。ゴブリンが数匹いるのが見える。俺の視力じゃここまでは見ることは出来ないだろう。
まるで、マルチタスクのようにカンナの視界と俺の視界両方が見えている。
(俺は魔術でゴブリンの武器を封じるから、二人でトドメを刺してみてくれ!)
((りょうかい!))
俺は、最近覚えた石弾を同時に数個展開しようとする。
すると、頭に激痛が走り、視界が少し歪む。
「ぐあっ」
「どうしましたか!? ご主人様!?」
「大丈夫だ……問題ない。石弾!!」
「ギギッ!?」
ゴブリンの武器を持っている手が吹き飛び、奇声を発する。
「おりゃぁ!」
カンナの斬撃にゴブリンに直撃し、緑色の血が流れる。
「ほい♪」
ノアは獣化すると、その巨大な爪でゴブリンを切り裂く。
あっという間に戦闘は終了してしまい、俺たちはゴブリンの討伐部位を回収する事にした。
「やっぱり、ゴブリンだと手応えないわね」
「ああ、そうだな。でも不慣れな事をするから安全マージンを多く取っておいた方がいいだろ?」
「まあ、それもそうね。それで、何かわかったのかしら?」
「ああ、まず俺の意見から話すとするか。接続中はやっぱりもの凄い集中力がいるし、精神的に疲弊するな。あとは接続中に魔術を展開しようとしたら、頭に激痛が走った。推測としては、脳が思考を処理しきれなくて起きたものだと思う。メリットとしては感覚が研ぎ澄まされるし、カンナとの視界共有のおかげで敵にいち早く気づくことが出来たな。それに指示を出すのも容易だった」
「メリットもある分、デメリットもありそうね。カンナはどうだったのかしら?」
「うーん、私も概ねご主人様と同じですね。慣れるまではかなり疲れますし、あまり長時間使うことは出来ないので、非常時と訓練の時だけ使うのがいいと思います!」
「確かに使用する場面は考えた方がいいな。魔術の同時展開も苦労するしな」
「ノアも同じです♪ 確かに疲れるけどご主人様と繋がれて嬉しかったです♪」
繋がれて……うれしい……煩悩退散! 煩悩退散! 危なかった。接続切ってて良かったな……
「明日の試験のときに使えるかと思ったけど、少し厳しいかもな」
「そうね。慣れてない状態で使うと何が起こるか分からないし……そういえば、トウマの能力について余り知らないのだけど、この機会に教えてくれない?」
「ああ、いいぞ。今の俺に出来る能力はさっき試した意識同化とトレース、あとは召喚だな。ランクAレベルまでの人や亜人、魔物を召喚し、使役することができるっぽいぞ。ランクが高くなればなるほど必要魔力量は大きくなるし、既存の召喚した個体でも魔力を追加することでランクAまであげることができるらしい。
過去に存在していたが既に絶滅しているものなどは魔素で生成することが出来るけど、過去にいた人物の記憶までは再現することは出来ない」
「んー、なるほどね。そういえばカンナとノアちゃんは確かBランクだったかしら? どうしてAランクで召喚しなかったの?」
「あー、Aランクに出来なくはないけど、出来ない状態なんだよ」
「どういうこと? 出来るのに出来ない?」
「ああ。リアン頭の中にコップをイメージしてみてくれ」
「え? いいけど、それがどうしたの?」
「まあ聞いてくれ。そのコップが今のカンナとノアだ。そして注ぐ水は、俺の魔力だ。コップをなみなみまで注いだとする。それが今のBランクのカンナとノアだ。そこで、俺がさらに魔力を注ぎ、Aランクにしようとする。そうすると、どうなると思う?」
「うーん、今の状態でなみなみなら、溢れてしまうんじゃないかしら?」
「そう、正解だ。注ぎ続けることはできるが、溢れてしまう。それは二人にも同じことが言える。許容量以上の魔力を得たことで、自分を制御が出来なくなり、暴走状態になる」
「それって……」
「ああ、見境なく周りを攻撃し出すかもしれない。俺はそれを止めることができないし、何かしら被害が出てしまうかもしれない。だから、出来るけど出来ないんだ」
あくまでこれは俺の予想だ。暴れ出すかどうかは分からないが、これ以上注ぐと反発するので、なにかしら問題があると見ている。
「なるほど……そういうことだったのね。あ、あと、MPは1日で回復するからもっと召喚とかしたりしないのかしら?」
「ああ、俺が管理できる以上に召喚するつもりはない。それに守るべき存在が増えると動きにくなるからな。どうしても召喚したカンナやノアのように情が移ってしまうから、安全な場所を確保出来るまでは無闇に召喚に頼る気はない。召喚は形勢を逆転させるほどの能力だが、逆に俺たちを危険に晒したりするかもしれない諸刃の剣なんだ。ノアを召喚したのも必要に迫られたからだしな」
「確かにそうね。私も仲間に手を出されたら許せないし、もう大切な人を失ったりしたくないわ」
「仲間が増えるのは嬉しいことだけど、同時にリスクも上がるからな。まあそう簡単にカンナやノア達がやられることはないが、万が一ってことがあるし、目の届く範囲で行うのがいいと思う」
それに、俺たちが倒そうとしている組織にも、行動が大きいとなにか勘づかれるかもしれないからな。
「よし、今日は疲れたから明日に備えて、もう今日はゆっくり休むことにしよう」
「ええ、そうね。装備の点検もしないといけないし」
「私は美味しいご飯作ります!」
「ノアも手伝いたいです♪」
明日の訓練も無事何事もな終わるといいが……。
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