第29話 冒険者ギルドとノア
「そういえば、ノアを冒険者ギルドに連れて行かないといけないな」
学園での決闘から数日たった。俺たちは召喚獣をギルドマスターに連れてこいと言われたので、冒険者ギルドへと向かっていた。絶対驚かれるよな。まあいるって言った手前連れていかない訳にはいかないし、後からバレるかもしれないから……。
「ノアちゃんは、表向きは獣人で通せそうだから、冒険者登録も出来そうね」
「確かに出来そうだな」
いつものように冒険者ギルドへと入り、カウンターへと向かう。
「今日はどうされましたか?」
「ギルドマスターのエルフィンさんに用があって来ました。召喚獣と伝えて頂ければ分かると思います」
「分かりました。少々お待ちください」
用件だけを伝えてもらい、取り次いでもらう。
しばらくすると、カウンターのお姉さんが戻ってきて、俺たちをギルマスの部屋へと案内してくれた。
「やぁ、君たちか。今日は召喚獣を見せてくれるのかい?」
「はい、それについてなんですけど、実は僕の召喚獣はかなり特殊なんです。だから他の人に情報を漏らさないようにお願いしたいんです」
「ふむ……絶対にとは約束は出来ないが、出来る限り他言無用にすると誓おう。仕事柄、王などに問われれば流石に黙り通すことはできないからね」
逆に絶対と言われるよりは信用出来るな。確かに上司にあたる王様に問われれば、黙り通すことは出来ないだろう。仕方ないので、その条件で手を打つか。
「……分かりました。では、別の広い部屋に案内して頂けませんか? ここだと少し余裕がないので……」
「ほう、分かった。案内しよう」
俺たちはエルフィンさんの後をついて行く。階段を降り、地下へと降りていく。確か地下に訓練場があるとかなんとか聞いたから、たぶんそこへと連れて行ってくれるのだろう。
「Aランク以上の冒険者しか使えない訓練場だから、たぶん今使用している者は居ないだろうね」
「王都には今、Aランクの冒険者はいないんですか?」
「全くいないわけではないが、多くの高ランク冒険者は今エルダイ大森林の調査に向かっているんだ。君たちが遭遇したアンデットゾンビウルフの他にも異変が起きているかもしれないからね」
なるほど、高ランクの冒険者は調査をしに行ってるのか。なにかありそうだし、ちょっと俺達も受けてみようかな?
「それってどんなランクでも受けれるんですか?」
「いや、流石に危険だからね。最低でもCランクのパーティー以上じゃなければ、その依頼を受けることは出来ないよ。低ランクの冒険者が行っても、いたずらに死体を増やすだけだしね」
エルフィンさんは少し自虐気味にハハッと笑いながらそう言った。もしかしたら、エルダイ大森林の調査で凄い忙しいのかもしれない。
「さぁ、着いたよ」
そう言いながら、訓練場の扉をギギギと開ける。中はかなり広くて、まるで地下とは思えない。まるで森みたいなフィールドや、岩だらけのフィールドもあるので、地形に合わした訓練が出来るようだ。天井は10メートルはあるだろう。
……地下にこんな広い空間作って地盤陥没とかしないのかな?
「凄い広いですね!」
「ああ、ここは空間を拡張する魔道具を使っているんだ。時空魔術の属性を持った魔石を使うとこういう事が出来るんだ。まあかなり希少だから、この王都でもこの部屋にしかないし、他の都市にはないだろう」
魔石って結構有能なんだな。もしかしたら水魔術の属性を加えたら水が出てきたりするのか? いろいろと調べてみるのも面白そうだな。
「じゃあ、召喚獣を召喚してくれたまえ」
「あ、いや。もう召喚しているんですよ。目の前にいるこの子です」
「ノアですっ♪」
「……は?」
エルフィンさんは鳩が豆鉄砲を食らったように驚いて、固まっている。まあ、やっぱり驚かれるだろうなとは思ったよ。
「は、ははっ……悪い冗談はよしてくれ。で、召喚獣はどこにいるんだい?」
「だからこの子ですよ。今は獣人に変化しているんですよ」
「は? 獣人に変化……?」
理解が全く追いつかないのか。ポカンと口を開けている。
「すまない。少し取り乱してしまったようだ。それで、召喚獣はどこにいるんだい?」
ダメじゃん……もう理解放棄してるよ。
「まあ、実際見た方が理解出来ますよね。ノア、変化解いてくれ」
「りょーかいです♪ うわおーん」
全く迫力のない可愛らしい声で叫ぶと、ノアの周りには光の粒子のようなものが周囲に立ち込み、淡い光に包まれる。
「ワオォォーン!!」
光に包まれて出てきたのは、紛うことなきあのラフォーレウルフだった。その流れるような深みのある緑青色の毛並みに、可愛らしいノアからは想像も出来ないような、凛々しい顔をしている。
「な、なななにが起こったんだ!?!?」
「ノアに元の姿に戻って貰ったんです。これがノアの本来の姿です」
「こ、こんなとこが有り得るのか……? 魔獣が獣人の姿をする……? これは大きな発見だぞっ!」
あ、広めちゃダメですよ? 最初に約束していて良かったな。この興奮具合だったら絶対話していただろうな。
「……他言無用でお願いしますね?」
「……ああ、分かっているとも。分かってはいるが、ああー!こんなに心躍ることを共有出来ないのか。くそっ!」
余程悔しいのか、キャラが完全に崩壊している。
「……まぁ約束だから仕方がないね。じゃあ次はどの程度のことが出来るか見せてもらおうか。実際にアンデットゾンビウルフを倒すだけの攻撃が出来るのか試させてもらうよっ!」
エルフィンさんがそう言うと壁の一部が崩れ、少し大きめのゴブリンの姿が見えた。あれはホブゴブリンだ! ゴブリンの上位種でゴブリンとは比べ物にならないくらい強い。Dランク上位くらいの強さはあるだろう。
「さあ、これに攻撃して貰おうか」
ノアがチラリとこちらを伺い、指示を仰ぐ。
「じゃあ、ノア。まずは暴風檻で拘束。その後は牙か爪、もしくは魔術で止めを刺せ!」
「ウワォォン!」
ノアの周りに風が吹き、砂埃がたつ。
「ギギャッ」
ノアから放たれた風はホブゴブリンを捉え、風の檻へと投獄する。
必死にもがき、抜け出そうとするが、一切身動きが取れないようで手足をバタバタさせている。
「ガァゥ!」
ノアの爪撃により、ホブゴブリンは腹から緑色の液を出しながらドサリと倒れた。
「……こんな簡単にホブゴブリンを倒すとは……これは、更に面白くなってきたぞっ!」
エルフィンさんは1人で感動に打ちひしがれいるのか、わなわなと身を震わせ、顔を上気させている。傍から見たらただのヤバい人だよ……
「そういえば、君たちも実力はあるんだよね? どう? Cランク昇級試験受けてみないか?」
「いきなりCランクですか……」
「まあDランクまでは依頼をこなしてたらそのうちたどり着くからね。Cランクからはランクごとに試験があるんだ」
「試験ね……」
「ああ、試験というのは要は対人戦をしてもらうことだ。ここ、まあここだけではないのだが、街の外には多くの山賊や盗賊が居着いている。その賊たちを殺るのがCランクの試験だ。厳しいようだが、いざと言う時に人を殺せないようでは更に上のランクの依頼をこなすことは出来ないだろう」
「人を殺せるかどうかの試験ってことですか?」
「ああ、その覚悟を持っているかどうかを見させてもらう。試験官としてAランクの冒険者が付き添いをするが、決して油断をしないように。相手は人で知恵を持っており、集団だ。1歩間違えればこちらが殺されることになる」
果たして俺に人を殺す覚悟があるのだろうか……? ふと、リアンとカンナをチラリと見る。2人とも覚悟を決めたように正面を見据えている。
そうだよ。この世界に来て生き抜いてやるって決めたじゃないか。今更俺は何を言ってるんだ?
生き残るためには何でもする。例えそれが汚れたことであろうとも。
やらずに後悔するより、やって後悔する方が100倍マシだ。こんなことで尻込みするようじゃ世界を救うなんて、できっこない。
覚悟を決めろ。出来る出来ないじゃない。やるしかないんだ。
「……分かりました。その試験受けさせて下さい」




