第25話 事情聴取と犬耳ちゃん
「失礼します」
コンコンとドアをノックし、部屋へと入る。部屋には執務用であろう机と、応接用のテーブルとソファのようなものがある。まるで社長室のようだ。
「おお、君たちか。すまないが色々と話を聞かせてもらうよ。私はここのギルドマスターのエルフィンだ」
部屋の中にはギルドマスターであるエルフィンさんと、ブレンダン先生がいた。
ギルマスであるエルフィンはエルガレフト神国バルエルのギルマスと違って筋肉隆々なわけではない。どちらかと言うと政治家みたい雰囲気だ。まあここは王都だから執務が得意なタイプがギルマスになるのだろう。
ブレンダン先生は帰ってきてから一睡もしてないのか、辛そうな表情をしている。
「まぁ、座りたまえ」
俺たちはL字型になっているソファに腰をかける。ギルマスはL字型のソファと向かい合うように配置された1人用のソファに座っている。
「呼ばれた理由は分かるかね?」
「ええ、アンデッドゾンビウルフについてですよね?」
「ああ、そうだ。もう少し詳しく言うと、なぜ死の大地から離れているこの地にアンデッドゾンビウルフが出現したのかについてだ。アンデッドゾンビウルフは死の大地周辺に生息しているCランクの魔物だ」
ギルマスはそういうと1枚の紙を手渡してくる。アンデッドゾンビウルフについて書かれた紙だ。紙は若干分厚くてザラザラしている。やっぱり日本に比べると製紙技術はそこまで発展していないのだろう。
「紙に書いてある通り、アンデッドゾンビウルフの生息地は死の大地周辺、細かく言うと死の大地とその周りにはある土地との境目にいる魔物だ。死の大地付近の魔物の中では脅威度は低いが、それは死の大地周辺での話だ。ここら辺ではDランクの魔物でも珍しいので、Cランクの魔物は十分に脅威があると言える。
それにアンデッドゾンビウルフは集団で行動をするため非常に厄介だ。そのため単体の脅威度はCランク程度だが、集団に置いてはB、数が多ければ脅威度はAランクにも達するだろう」
俺たちが遭遇したときは結構の数居たよな? 割と危なかったんじゃないか?
「そこで実際に戦った君たちに異変を感じなかったかどうか聞きたいんだが、何かないかね」
ギルマスは手を組み、獲物を捉える鷹のように鋭い目で俺たちを見る。思わずたじろぎそうになる。
「私は特に感じなかったわね、カンナとトウマはどう?」
そうリアンが最初に発言する。元貴族令嬢なのでこういう場に慣れているのだろうか。
「そうですね……僕は特に違和感は感じませんでしたね。と言うより初めて対峙する魔物だったので、違和感がないと言うよりは分からないと言った方が正しいかもしれないです。ゾンビ系の魔物は初めて見たのでとてもグロテスクでしたね」
「んー私もあまり分かんなかったです」
なにも違和感がないと言えば嘘になる。あの不明だった称号についてだ。だが、鑑定が出来ることは隠しているので教える訳には行かない。今でも十分目立ってしまっているが、これ以上目立つ訳にはいかない。
「ふむ……そうか。それならば仕方ないか。そういえば、アンデッドゾンビウルフ達から逃げてきたのではなく討伐してきたのだったな? どうやって討伐したのだ?」
うぐっ、痛いところを突かれたな。カンナも俺もステータスを弄っている以上、もう一度ステータスを確認されたらきっとバレてしまうだろう。
「私とリミルと生徒たちです。主に相手を倒したのはカンナとトウマの召喚した召喚獣ですね」
「ふむ……カンナと言ったか? 君たちは確かEランクだと記載されていたがどうなんだ?」
「はいっ! そうですよ」
「ふむ……Eランクにしておくには惜しいな。ランクアップ試験を検討しておこう」
良かった、強さとステータスが不釣り合いだと思ってくれたようだ。ランクしか伝わってないようだし、ステータスまでは情報がいってないのかな? それとランクアップ試験か……これも後で色々情報を集めないといけなそうだな。
ちなみにあの回復術士はリミルさんというそうだ。
「次に君か……Cランクの魔物を倒すことが出来る召喚獣を従えてるというのは本当か?」
「はい、僕の召喚術によって召喚しました」
「確か召喚術によって召喚出来る魔獣は1番強くてもCランク程度で、Cランクの魔物8体とはやりあえるほど強くないのだが……召喚したのは1体だったのだな?」
「ええ、そうですね。1体だけです」
「ふぅむ、例外もある……か」
なんか勝手に勘違いしてくれたようだ。ラフォーレウルフは神聖召喚魔術で召喚したんだけどな。まあ召喚術には変わりないから嘘はついていない。
「今度その召喚獣を連れて来たまえ、Cランクの魔物の群れと戦えるほどの力を持つ魔獣をギルドの認可なく連れ回すのは少し問題があるのでな。こちらとしても問題を起こさないように召喚主がちゃんと制御出来ているかを見る必要があるのだ」
まあそりゃ危険な魔獣を野放しには出来ないだろう。日本でも銃持つ猟師とかは厳正な審査がされたりするからな。それと同じような感じだろう。
「ふむ……では聞きたいことは以上であった。疲れてるだろうから後はゆっくり休みなさい。こちらの事情で足を運んでもらって済まなかったな。また呼ぶことになるかも知れないがその時はよろしく頼む」
「分かりました」
俺たちは席を立つと一礼をしてからドアを開け、外へと出ていく。
ちなみにブレンダン先生はそのままのようだ。可哀想に……
「意外と早かったですわね」
ギルドマスターの執務室がある部屋から出るとそこにはジェシカがいた。
「ああ、実際に戦ったと言ってもあの時は必死だったし、じっくり観察している余裕はなかったからな。あまり話せることはなかったんだ。そういえばリアンはどうして待っていたんだ?」
「ブレンダン先生を待ってるのですわ、少し気になることがありましてね」
「気になること?」
「ええ、アンデッドゾンビウルフたちが群れでいたことよ」
どういうことだ? アンデッドゾンビウルフは元々集団で行動する魔物だから別におかしくもなんともないんじゃないか?
「ほら、ここは死の大地から結構離れていますわよね?」
「ああ、そうだな。だけどそれがどうしたんだ? 別におかしくもなんともないんじゃないか?」
「魔物には魔物のテリトリーがあって基本そこから出ることはありませんわ。なので、そのテリトリー外で発見されるはぐれ竜などはそのテリトリーから意図せず、単体で外れてしまうことがほとんどですわ。それなのにも関わらず、今回は8匹もの群れをなしていました。これがどういうことかわかりますか?」
「──ッ!? ……つまり、誰かが意図してそこに放した、もしくは自然にポップしたってことか?」
「ええ、テリトリー外でポップすることはとても珍しいので、8体同時は考えにくいのですが、誰かが意図してそこに放したことは十分に考えられると思っていますわ」
なるほど……そういう見方もあるのか。にしても一体なぜ……?
俺は心当たりがないか色々と思い出してみる。
まっさきに思い当たるのは、エルガレフト神国の教会の奴らだ。
だが、そんなこっちに来てから日にちも経っていないし、そう簡単にあんな魔物を運ぶことは出来ないだろうから、エルガレフト神国の仕業とも考えにくい。
うーむ、誰の仕業なのだろうか……?
リアンと別れたあと、俺たちは寄宿舎に戻ることにした。
「わふっ!」
「うお!」
ああ、そういえばラフォーレウルフをそのまま放置していたな。
うーむ、今度連れてこいと言われたし、送還は出来ないなぁ。
もういっそ名前をつけてウチの子にするか?
うーん、食費とか目立つことを考えると悩み事ではあるけどな。
まあ、金銭面では辺境伯から貰った大金貨のおかげでだいぶ余裕があるのだが。
「どうするの? この子。流石にこのまま放置は可哀想よ?」
「うーむ、そうなんだけど、大きさ的に家に入らないしなぁ」
流石に家の中には入れないよなぁ、どうしたものか。
そう思っているとラフォーレウルフはその大きな尻尾を振りながら、こっちを見て、何かを伝えようとしている
「わふっ!」
「ん? なんか解決策でもあるのか?」
「わふっ!」
うん、そうだよ! と言わんばかりの鳴き声に思わずクスリと笑ってしまった。
「よし、どうなるか分からないけど、とりあえずやらせてみるか」
「ワオォォーン!!」
ラフォーレウルフはが遠吠えをすると、周りには光の粒子のようなものが周囲に立ち込み、淡い光に包まれる。
「ふぇっ!?」
リアンは驚いたのか、可愛らしい声をあげる。
「ひ、人になった!?!?」
淡い光に包まれて出てきたのは1人の少女。
まず目を引くのはライトグリーンの髪色であろう。肩に届くか届かないかの長さで切りそろえられた髪は、サイドを編み込み、毛先は内向きにゆるやかなカーブを描く。編み込みのやや上側にちょこんと添えられた犬耳のようなものがとても可愛らしい。
髪色と同じような緑色のクリクリとした瞳は見るものを魅了する。そのまだ幼いあどけない顔にを見て、顔の表情が緩まない者はいないだろう。
身長は若干低めで、140センチくらいなのではないだろうか? まるでなりたての中学生のようだ。
とてもあの大きな狼だったとは思えない。
「ご主人さま! これからよろしくお願いします♪」
うぐ、こんな小さくて可愛い子を外に放置してたとなると心が痛むな……
急に罪悪感が……!




