第21話 勇者の昔話
──カンカーンと学園の1番高い塔から鐘の音が鳴り響く。どうやら授業終了の合図の様だ。
「……よっしゃー、授業終わったァァ!」
「おい、待て。お前は補習があるから居残りだぞ」
「そ、そんなぁ!」
両手を上げてガッツポーズをしていたフィリップが先生の一言で分かりやすく唸垂れる。
午後は魔物の種類や、生息域などの授業で、大まかな生息域を知ることが出来た。その中でも気になったのが死の大地についてだ。フューズ王国から東にある山脈を挟んだ先にある死の大地と呼ばれる場所にはAランクの魔物が徘徊しており、熟練の冒険者、Sランク冒険者であっても1度立ち入れば無傷で帰還するのは困難な場所らしい。
「リアンは死の大地の話は知っていたのか?」
「ええ、結構有名よ。昔話にも出てくるしね。まあ私もどんな話かはあんま詳しく知らないわ。有名な本だから、ここの図書館にもあるんじゃないかしら?」
Aランクが徘徊してるとか明らかに何かありそうだし、神様が言っていた生物兵器に何か関係があるかも知れないしな。調べてみる必要がありそうだ。
授業が終わったあとは個々で勝手に帰っていいらしいので、俺たちはそのまま図書館に向かうことにした。
「──うぉ……すっげぇ……」
「ここまで蔵書数が多いところは見た事ないわね」
天井近く三階まで設けられた書棚と、そこに整然と並ぶ膨大な数の本。天窓のステンドグラスや、吹き抜けの天井に吊り下げられたシャンデリア、二階、三階の足場を支えている西洋風の装飾がされた柱、光沢を放つ机と椅子、そしてほのかに香る独特な紙の匂い。
それらがすべて共鳴し合い、芸術的な美しさを生み出している。
まるでファンタジー映画の中に登場する図書館のように、どこまでも神秘的な光景が目の前に拡がっており、静寂が世界を支配してようにさえ感じ、思わず息を呑む。
一体何冊の本がここにあるのだろうか? 本は確か結構高価なはずなんだが。
「ほう、見かけない坊や達ね? ここに来るのは……初めてかい?」
「はいそうなんです。……凄いですね、ここは」
「そりゃ、この国でも1番大きい図書館だからね……国立図書館でもあるんだよ」
司書であろうおばさんがそう話しかけてきた。なるほどな、国立図書館ならこれだけの本が集まるのも納得だろう。
「そういえば、坊や達はどういう本を探してるんだい? これだけ本が沢山あると探すのも大変だからねぇ……私に聞いた方がはやいよ」
「えっとですね……死の大地の起源について書かれている本を探しています」
「あれなら確か……どこだったかな」
そう言いながらおばあさんは首を傾げる。
「そうそう、確かここら辺だったような……あったあった。これだね」
そう言って手で埃をはらいながら1冊の『 勇者モトユキの冒険記』と書かれた古びた本を手渡してきた。
「ありがとうございます」
「また、何かあったら話しかけてちょうだい、私は毎日そこに座っているからね」
そう言いながらカウンタのようなところを指さしていた。
流石に3人同時には読めないので、声に出して3人で一緒に読むために図書館から持ち出す許可を貰い、寮へと戻ってリアンに読んでもらう。
「これは、まだ私が小さかったころ叔母から聞いた話である」
その1文から勇者モトユキの話の始まった。
勇者モトユキ……名前を聞くに恐らく日本人であろう彼は、フェルナンド王国、今のフューズ王国の東北部に位置している教会で異世界から召喚された。
当時、この世界に突如出現した邪神トレートルは、圧倒的な武力を背景に世界に恐怖と破壊、混沌をもたらした。
つまり、勇者モトユキは、邪神トレートルを倒すために召喚されたのだった。彼は数人の従者と共に、各国に出現した邪神の眷属である魔物を退治しながら、力を付けていった。
そして数年後、邪神の眷属を全て倒し、邪神を追い詰めた彼は、邪神の居城へと向かった。
数時間に及ぶ邪神との激しい戦いの末、見事、勇者モトユキは邪神を討ち取った。しかし、仲間であり、想い人でもあった治癒師のユライラは帰らぬ人となってしまった。
勇者モトユキは酷く悲しみ、その地にてユライラを追って自害したと言われている。
悲しい悲しい勇者の物語だった。
無事邪神を討伐することは出来たが、邪神の力全てを封じ込む事は出来ず、世界の真ん中である大地が汚染されたままになった。それが死の大地と言われている場所らしい。
「……スンッ……かなしい物語ね……」
そう鼻をすすりながら、リアンが本を閉じる。結構長いお話だったな。
「世界を救ったのに報われないなんて可哀想そうです……」
いつも笑顔で元気なカンナも今は悲しそうな顔をしている。
なるほどな、死の大地の起源にはそんな悲しい話があったのか。
しかし、数百年前に出版された本で、しかも、村で口頭で語り継がれてた話だからどこまで正確かは分からないけれどな。
いつか現地に行く必要がありそうだ。邪神とか勇者とか絶対なんかあるだろ。
ただ、相当危険らしいからもっと力を付けてからだな。
そろそろ、リアンには神様うんぬんの話をしないとな。
「リアン」
「スンッ……なに?」
「リアンに話があるんだ。カンナとの出会いの経緯について。聞いてくれないか?」
そう、俺はリアンに聞く。
「え? ……ええ、いいわよ」
若干、驚きながらも真剣な表情になるリアン。
「ええっと、まずどこから話そうかな……んー、最初はまずカンナの正体について喋るか」
俺は一息ついて喋り始める。
「簡単に言うと、カンナは俺が召喚したんだ。神様から貰ったスキル、神聖召喚魔術でな」
「ふぇ? ──ぇえ!? どういうこと!? カンナを召喚した? 神様?」
「ああ、一旦落ち着いてくれ、一個ずつ話すから」
思いっきり動揺しているリアンが落ち着くのを待ってから再度喋り出す。
「まず、最初にリアンはエルガレフト神国で勇者の召喚があったのは知ってるか?」
「ううん、知らないわ」
「じゃあ、そこからかな。俺はエルガレフト神国のある教会で魔王を倒す為に、勇者として召喚されたんだ。クラスメイトと共に一緒にな。だけど、俺だけは勇者の称号がなくて、それは犯罪者だからじゃないかって濡れ衣を着せられて追い出されたんだ」
「それは酷いわね。まだ会ってからそんな経ってはいないけど、トウマはそんな人じゃないってのは知ってるわ」
「まあ、勇者の称号がないのも女神様が仕組んだことだったんだけれどな」
「どういう事かしら?」
「実は、女神様が俺を救世主としてこの世界に召喚したんだ。人の戦争によって滅ぶ世界を救うために神託が下されたのだけれど、エルガレフト神国の教皇が聖女をそそのかして『 魔王を倒すという神託を下された』ということにしてしまったんだ。神託通りじゃなかったのが原因でクラスメイトも巻き込まれてしまったんだ」
「なるほどね、でも、それと勇者の称号がないのはどう関係あるのかしら?」
「もし俺が勇者の称号を持ってたらどうなってたと思う?」
「それならもちろん魔王を倒す為に……はっ、そういうことね。勇者の称号があれば、教会から追い出されないわけだから、魔王と戦わされて女神様の神託通りにいかなくなってしまうわね」
「ああ、そういうことだ。女神様が魔王と戦うためだけの駒にされるのを防ぐため、俺に勇者の称号を付けずに追い出されるように仕向けたらしい」
「なるほど……神様から貰った力なら2人が異常だったのが納得いくわね……」
「まあ、そういうことだ。カンナは俺が女神様から貰った力で召喚した感じだな。まあ、ざっとこんな感じだ」
「はぁ……理解出来るけれど、理解出来ないわ」
リアン何やら哲学的なことを言っている。一気に喋っちゃったから頭がパンクしかけてるのだろうか?
「まあ、すぐには理解出来ないだろうしね。どちらかと言ったらこんなにすぐ信じてくれるなんて思わなかったな」
「そりゃ、初対面で言われたら信じないけれど、あんな規格外なことされたらそりゃ誰でも信じるわよ」
そのあとリアンからの質問責めにあって、リアンが理解出来るまで喋り続けた。
◆ ◆ ◆
「……ふぅ、疲れたわね」
「そうだな。……なぁリアン」
「なに?」
「無理だったら断ってくれてもいいから聞いてくれ」
「リアン、俺はこれからもリアンと一緒に冒険して行きたいと思ってる。もちろん世界を救うために旅をするから危険なこともあるだろうし、大変なこともあると思う。だけど、俺はリアンと一緒に旅をしたいんだ。……だから、一緒に着いてきてくれないか?」
「グスッ……なに当たり前のこと言ってんのよ……。もちろんこれからも仲間なのに変わりはないし、その気持ちは変わらないわよ」
そう言いながらリアンは瞳から流れる雫を拭った。
「これからもよろしくな!」
「ええ、もちろんよ!」
「よろしくです!」
「カンナもよろしくね!」
そう言いながら3人で握手をする。
リアンの顔は、まるで雨上がりにかかる虹のように、希望を感じさせる明るいものだった。そのはにかむ様な笑顔は、彼女自身を七色に彩っているように見えた。
「じゃあ、お腹も減ってきたし、ご飯でも食べに行くかぁ!」
「えぇ、そうね! もうお腹がペコペコだわ」
「ジュル、ご飯が待ってるです!」
これからも、ずっと一緒と誓う3人であった。
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