第17話 道中
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「次の方どうぞ。おっ、ライアンさん久しぶりです」
「おっす、2ヶ月ぶりくらいだな。こっちの様子はどうだ?」
「いえ、特に変わらないですね。いつも通り騒がしいです」
どうやら憲兵さんとライアンさんは知り合いのようで何やら喋っている。
城塞都市ガルゾディスを出てから3日がたち、ガルゾディスと王都の間にある街の1つ、リカリスに来ていた。
リカリスは人口2000人くらいの小さな街である。
「ライアンさんはよくここに来ているんですか?」
「来ているというか俺の故郷だな。特に特産品や、名所がある訳でもないが、みんな親切でな、良い所だぞ」
なるほど、ここはライアンさんの故郷だったのか。道理で道行く人に声をかけられたりしている。
俺たちはライアンさんの知り合いのやっている宿屋に行くことになった。
「ちっす、おっちゃん。久しぶり」
「おお、ライアンか。久しぶりだな?調子はどうだ?」
「まあまあかな。それより今日は泊まりに来たんだが、部屋は空いてるか?」
「何部屋か空いているぞ」
どうやら宿屋のおじさんとも知り合いらしい。
ライアンさんが俺たちの代わりに部屋をとってくれたようだ。
なんかニヤニヤしていて嫌な気がするんだが……
「あんまり、大きな音出すなよ。寝れねぇからな」
そう言いながらライアンさんはニヤニヤしている。
宿泊客の名簿みたいなのを見てみると、俺、カンナ、リアンが同室になっている。
ちっ、してやられた!
別に嫌なわけではないが、ニヤニヤされると物凄くムカつくんだよな。あれだ、好きな人について茶化されるみたいな感じだわ。
宿屋のチェックインを済まし、俺たちはご飯を食べた後皆で酒を飲んでいた。
「ゴクッ──、んーやっぱこれだな!」
「プハァ!やっぱり、エールは最高だな」
ライアンさん達はエールをグビグビ飲んで恍惚とした顔をしている。
「甘くて美味しいですね!」
「そうね、やっぱり蜂蜜酒が1番好きだわ」
カンナとリアンは蜂蜜酒という甘めのお酒を飲んでいた。リアンは結構お酒が好きなようで四、五杯飲んでいる。前も結構飲んで酔っていたんだけど、今回は大丈夫だろうか。そう思って見ていたのだが……
「ねぇーねぇー、とうまぁ?」
まるで甘えるような甘い声に、トロンとした目でこちらを見つめてくる。
あ、これもう完全に酔ってダメなやつだ。
てか、可愛すぎてこっちもダメになるんだが。
「ん、なんだ?」
「んー?呼んでみただけっ」
そう言いながらリアンがにやにやしている。
破壊力が半端ない。
ライアンさん達はヒューヒューとは言わないものの、ニヤニヤしながら酒を煽っている。いや、酒のつまみにすんじゃねぇ!
そのあと酔い潰れて寝てしまったリアンをカンナと一緒に部屋に連れて行く羽目になった。
「うーん、頭痛いわね……」
「そりゃ、昨日あんなに飲んでいたからな」
「うーん、昨日の記憶あまりないのよね……そんな私飲んでたの?」
「結構飲んでたぞ。合計で6杯くらい飲んでいたんじゃないか?」
「うーん、今度からは意識があるうちにやめないといけないわね……お酒は好きなんだけど、そこまで強いわけじゃないし、次の日頭痛くなるし」
「まあ、なにごとも程々にだな」
階段を降りると、丁度ライアンさん達も降りてきたようで目が合う。
「よう、昨日はお楽しみだったか?」
「からかわないでくださいよ!何も無いです!」
「面白くねぇなぁー」
「別に面白くなくていいですよ!」
そう言い争いながら席へと着く。
朝食はステーキだった。よう、1週間ぶりだな!朝からステーキ(笑)
これは、なんの肉だろう……豚ではないんだが、牛でもないし、鳥でもない。なんだろう、こうねっとりした感じだ。結構癖になって美味しい。
「これってなんの肉なんですか?」
「ん?ああ、これか。多分カウフィッシュだぞ。川で釣れるやつだな」
カウフィッシュ……牛と魚ってことか?むちゃくちゃだな。
朝食を済ませたあと、俺たちは街を出て街道を歩いていた。
木が茂る森の中を進んでいたのだが、道端の茂みからガサガサと音がする。
カンナのほうを見ると、頷いている。どうやら敵が潜んでいるらしい。
魔物だろうか?
相手がどう出てくるのかと息を潜めていたのだが。
「おい、痛い目に遭いたくなきゃ荷物を置いてきな。ついでにそこの女二人もだ」
茂みから男達が現れ、そう俺たちに言ってくる。
一瞬俺の頭はパニックになった。こいつらは馬鹿なのだろうか?冒険者がいる場合は戦闘になることが確実なのに、なぜわざわざ冒険者が護衛している馬車に手を出そうとするのだろうか?しかも、不意打ちではなく、降伏勧告をしようとするとは。それに、男の声は若干震えている。
ライアンさん達は無言で剣を抜き、構える。
「っち、やる気か。後悔しても遅いからな!」
「ちょっと、トウマ君たちは馬車の護衛をしていてくれ。俺達が片付けてくる」
──数分後
「うわぁ!」
そういい残し、最後の男が地面に倒れる。
「ふぅ……久しぶりですね、こんな胸糞悪いことをやっている奴らを見るのは」
「ああ、本当に許せないよな」
「えっと……どういうことですか?」
「ああ、君は知らないのか。ほら、さっきの男の声といい、行動といい、違和感を感じなかったか?」
「ええ、少しだけでしたけど、怯えてるように感じました」
「実はな、こうやって襲ってきやがる盗賊連中には、奴隷っつーことで無理やりやらされちまってるのもいるんだ。ほれ、見てみな」
ノーマンさんはそういうと、男の服を捲る。
現れた男の身体は痩せ細っていて、骨が浮かび上がっていた。
「こうやって、奴隷を胸糞悪い使い方をしている奴も一定数いるんだ。本当は、こういう事は禁止されているんだけどな。犯罪者を奴隷にして罰を与える名目なのに、その奴隷に犯罪をさせるとか可笑しい話なんだよな」
どうやら、奴隷は首輪の拘束力によって、主人の言う事を聞かないといけないらしい。それを利用して犯罪をさせる人もいるようだ。
「この人達はどうするんですか?」
「……残念だが、俺たちにはなにも出来ることはない。こいつらを連れて行くことも出来ないし、こいつらに盗賊行為をさせた奴も懲らしめることもできない。相手は貴族だろうからな……。つくづく自分が嫌になるよ。なにも出来ない自分が」
俺たちはささやかな食べ物を置いてその場を去った。
◆ ◆ ◆
「うぉー、綺麗だなぁ」
「綺麗ですね!」
連なる山々は夕陽の光に照らし出され、さながら世界でここだけに火が灯ったような錯覚まで引き起こさせるようだった。
普段はいつも青く茂る自然の景色も、今だけは遠くどこまでも赤く染まって、まさに別世界のような光景だ。
その雄大な景色をみると、自分の悩みがちっぽけに見えてくる。
地球にいた時も旅行はそこそこ行ってはいたが、ここまで感動することはなかった。
「世界って広いんだな」
「ああ、広いぞ。俺はまだ行ったことはないが、遠くの方には街を飲み込むような、大きな水溜まりがあるらしいし、龍の住む山もあるらしい。俺は自分の目で世界中をみるために冒険者になったんだ」
一息ついて、再びライアンさんが口を開く。
「この世の中には楽しいこともあるし、同じくらい辛いこともある。自分ではどうしようもないと感じたり、努力をしても報われないときもある。ただそれでも諦めずに、がむしゃらに頑張ってこの世界を見てやろうって誓ったんだ。今日を生きれなかったアイツの分までな」
「ってか、俺はなにを話してるんだろうな。よし、取り敢えず完全に暗くなる前に野営の準備を済ますぞ!」
誤字報告とても助かっています!




