第14話 呼び出し
なぜか凄いpv数とポイントが増えてて驚きました(笑)
引き続き執筆頑張ります!
「お待ちしておりました。私はバトラーのスミスと申します」
「は、はぁ、どうもありがとうございます」
「屋敷にてファウンダー辺境伯がお待ちですので、この馬車にて案内させて頂きます」
現在、俺たちの目の前には、如何にも執事って感じのダンディな壮年の男性がいた。お爺さんぐらいの執事をイメージしていたが、結構若いな。って言っても30代後半から40代前半だと思うが。
後からわかったのだが、バトラーというのは上級使用人、執事のことをさしている。使用人にもフットマンなどいろいろな職種があるようだ。
そのままスミスさんの言われた通りに馬車に乗って街道を進んでいった。しばらくすると、明らかに周りの建物とは規模が違う大きな屋敷が見えてきた。分かりやすくいうと東京駅くらいの大きさだろうか。
「足元にお気を付け下さい」
馬車から降りて玄関口へと向かう。
リアンは堂々としているが、カンナは若干緊張しているのか目が泳いでいる。昨日あの後に一応辺境伯に会うんだし、こんな格好では行けないだろうと思い、多少様になる服を買ったつもりだ。
割と高くて懐が傷んだが、まあこういう服を着る機会もまたどっかであるかもしれないしな。まあ面倒事には巻き込まれたくはないんだけど。
「では、トウマ様、ファウンダー辺境伯がお待ちです。こちらへ」
「はい、お願いします」
俺たちが案内された場所はいわゆる応接室だった。
机越しに向かい合ったソファに、部屋の端に置かれた花瓶や、壁に飾られた人物画。部屋の端にはメイドが立っている。
お待ちです、とは言われたがファウンダー辺境伯はまだ来ていない。
まあこういう身分が下の者が訪問する時は、後から来るのが一般的なのかもしれないけどな。
さあ、どんな事を言われるのやら。万が一戦闘になる事も考えて服の下には目立たない程度に防具を着込んでいる。武器はアイテムボックスのなかだから一瞬で出せる。もちろん、カンナとリアンにも万が一戦闘になった時の行動は伝えてある。
そんなことを考えていた時、俺たちが入ってきた扉とは逆の扉からあのデブ貴族の父親とは思えない程の威厳のあるがっしりとした男性が入ってきた。口周りの髭、所謂サークルがダンディで、イケオジ感を醸し出している。
「君たちか、うちのバカ息子を止めてくれたのは。感謝する」
「え? あ、はい」
第一声は何を言われるのだろうかとヒヤヒヤしていたのだが、全く予想をしてなかったことを言われ、戸惑ってしまった。
てっきり、キレられると思っていたからな。
「まあ、座りたまえ」
「は、はぁ」
そう、辺境伯が言うと同時にメイドが紅茶らしきものを出してくれた。
「あのバカ息子は手がかかる奴でな。何回注意しても聞かなかったが今回痛い目にあって多少自粛するだろう。それにしても申し訳なかったな、そこのお嬢さんたちも怖かっただろうに」
「ええ、気持ち悪かったわね」
「はい、気持ち悪かったです!」
おいおい、そこまで言うのは流石に……。
「ハッハッハッハ! 面白いな、君たちは。儂を辺境伯と知っているのに、その物怖じしない姿はまるで彼奴のようだな」
「彼奴とは?」
「儂の元部下の男でな。過去に色々あったのだよ。今はどこで何をしているのやら……。そうそうお詫びと言ってはなんだが……スミス、あれを」
若干、気になりはしたが、すぐファウンダー辺境伯が話題を変えてしまったため聞くことが出来なかった。ファウンダー辺境伯が手を叩くと、執事が金色の糸で刺繍した巾着みたいな物と紙を持ってくる。
「その袋の中には大金貨が入っておる。それとこっちの書類はラノリア王立学園の推薦状だな」
「ラノリア王立学園の推薦状……ですか?」
「ああ、こっち方面にくる若い旅人の目的は、殆どがラノリア王立学園に入学することだろう? 君たちには素質があるようだし、迷惑もかけたから辺境伯の名前を使って推薦してあげようと思ったんだ」
なるほど、ちょっと話が見えてきたぞ。ようはこのナイスミドルは、俺たちがそのラノリア王立学園に行こうとしてると勘違いしているのだ。
「なんで、それを俺たちにくれようと思ったんですか?」
「理由と言われると迷惑をかけたからとしか言いようがないのだが、まあ普通ならそれだけで推薦はせんな。本音を言うなら勘だ。儂の直感が君たちに恩を売っとけ、と訴えかけてくるんだよ」
「は、はぁ」
勘だけで推薦状を出すなんて凄い博打だな。これで辺境伯家が俺達の後ろ盾になるってことだから、普通は勘だけでアクションを起こすことは出来ない。なかなかに怪しい行動ではある。なにかあるのではないかと勘ぐってしまいそうだ。
あとで聞いた話なのだが、ファウンダー辺境伯は1代で男爵から辺境伯へと成り上がったそうだ。
なんでも、自分の勘が高確率で当たるスキルみたいなのを持っているらしい。
だからこんなことを言ってきたのか。俺たちに恩をうろうっていう魂胆だな?
「どうだね? 受け取って貰えないかね? 学園に入学せずとも、お守り代わりにはなるぞ。悪用さえしなければいい」
「そうですね……ありがたく頂いときます」
これが絶対学園に入れ! だったら面倒だから要らないけれど、入らなくても良いなら頂いとこう。貰えるものは貰っとく主義なのである。
「ハッハッハ、そうかそうか。では、ここまで君たちの名が届くのを楽しみに待っておるぞ」
「あの、期待はしないで下さいね」
「儂の勘は当たることが多いからな、存分に期待して待っておるぞ! ワッハッハ」
もうここまで期待をされたら苦笑いしか出来ないものである。
誰でも1回は経験するであろう、酔っ払いのだる絡み。
俺の場合は親戚のおじさんだったんだが、人生とは何かと延々と説かれたときと同じような気持ちになる。
ファウンダー辺境伯と別れたあと、俺たちは昨日に引き続き冒険者ギルドに来ていた。ここにも本があるようなので情報収集をするためだ。
「ええっと、これか」
まず最初に俺たちが得たかった情報……それはもちろんラノリア王立学園についてだ。
比較的最近書かれたようで表紙は傷も少なく、特に破れているページなども見当たらない。
ふむふむ、どうやらこのラノリア王立学園はこの大陸でも三本指に入る名門で、剣術、魔術、魔工学に加え、貴族向けの王政学といった様々な学部があり、多くの学生が研鑽を積んでいるらしい。
「なるほどなぁ、そういえばリアンはラノリア王立学園について何か知っていたりするか?」
「そうね……風の噂でしか聞いた事がないわね。有名な学校としかわからないわ。私の場合は学園じゃなくて家庭教師だったから……」
まだまだこの世界について知らないし、何よりファンタジー世界の学園とか面白そうだとは思う。
ただ1つ懸念があるとすれば、女神からのお願いについてだろう。学園でのんびりしていたら、世界が滅んでいたとか笑えないからな。この世界に俺がきた理由でもあるし、早急に原因を取り除く必要がある。
「まあ、一旦保留かな」
「ええ、まだ分からない事が多いものね。もう少し調べてから決めるべきだと私も思うわ」
あれだな。適当に決めて後から後悔するとかしたくないからな。まるで高校受験で学校選びをしている気分である。
いや、選ぶ学校1つしかないんだがな。
ギルドでの調べ物が終わった俺たちは、依頼を受けることにした。
「えーっと、これなんてどうだ?」
「えーなになに? 地下水路に現れるスメルフロッグの討伐……!?」
「ん? どうした?」
「カエル……やだっ! むりむり!」
いつもは凛としているリアンが若干涙目になりながら頑なに拒否をする。
スメルフロッグというのは汚いところを好み、さらに自身は周りに悪臭を放つ迷惑な魔物だ。
「あいつのキモさと言ったら……考えるだけでも耐えられないわ」
そうか? カエルとか意外と可愛い顔をしてると思うが。女子はやっぱり、昆虫とか爬虫類は得意じゃないのだろうか?よっぽどゴブリンの方が醜悪だと思うんだが。
「じゃあ……そうだなぁ、これとかどうだ?」
俺が手に取ったのは、近隣の村に出現するというワイルドボアという魔物の討伐だった。
もちろん農業は城塞都市内ではできないので、周りに村を拓いて農地を耕しているのだが、そこでワイルドボアというイノシシの魔物が畑を荒らしたり、人に襲いかかったりするらしい。
「そうね、これならいいと思うわ」
「よし、じゃあこれを受けるか」
俺はその依頼をカウンターに持っていく。
「かしこまりました、ワイルドボアの討伐ですね。ワイルドボアは非常に好戦的で突進を食らうと大怪我をする冒険者もいるので気をつけて下さいね」
確かにイノシシにタックルされたら、そりゃ大怪我するだろうな。
俺達は依頼を受注したあと、城壁の外の村に向かった。
せいぜい数匹ぐらいを想像していたのだが……。
「ん? なんか数多くないか? 思っていたのと違うんだが……」
そう、俺たちの目の前には驚くべき光景が映っていた。
「フゴッ、フゴッ」
「プギッ」
そう畑を埋め尽くすイノシシの大群、パッと見だけでも20匹は居るだろう。
「いっぱいいますね……」
「ええ……いっぱいいるわね……」
人間を見ても全く隠れようとしないイノシシたち。フゴフゴ言いながら作物であろう芽が出たばかりの小麦らしき植物を牙で根こそぎにしている。
うーむ、これで報酬が5000ゴールドと言うのは詐欺といっても過言ではないだろうか。まあ、依頼には何匹とは書いてなかったから咎めようもないと思うが。これからはそこらへんまで確認しないといけないな。
◆ ◆ ◆
「はぁぁっ!」
「ふんっ!」
「水刃!!」
「プギャァァァ!!!」
「ふう、やっと最後の1匹を仕留められたか……」
「えぇ……疲れましたね……」
「もう足がパンパンだわ……」
イノシシのすばしっこいことこの上ない。
最初は好戦的でこっちに向かってくるので、割と楽だったのだが、勝ち目がないことを悟ると一気に散開して森へ向けて逃げだした。
そうして、森の中での追いかけっこが始まったわけだが、足場が悪いわ、変な体勢で剣を振るうから致命傷は与えれないわで大苦戦を強いられた。
魔法でズドーンでもいいんだが、1番殺傷力の高い火魔術は森の中で使うと山火事になる可能性があるので使うことはできない。
なので、追いかけっこを繰り返してちまちまと数を減らしていった。
疲労困憊だったのだが、村長に依頼達成の報告しないと行けない。森から戻る道すがら、村の入口ら辺で数人の少女たちが駆け寄ってきた。
「これ……あげる」
「私たちで作ったの」
手には、花で作ったであろう花の冠があった。恐らく彼女たちなりの感謝なのだろう。
少し不格好ではあったが、頑張って作ったのだろうその花の冠はとても綺麗だった。
「ありがとう」
「うん!! おにいさんたちもありがとう!!」
少女たちははにかむ様に笑った。
そして、そのままタタタッと村の方へとかけていく。
この依頼を受けてよかったかも知れない。確かに依頼は大変だったが、おかげでお金では買えないものを得ることができた。
「可愛らしいですね〜」
「ああ、そうだな」
久しく感じてなかった人の暖かみを久しぶりに感じることができたと思うと、胸の中につっかえていたものが溶けてなくなっていくように感じた。
俺も心のどこかで不安でもあったのだろうか、この世界を救うという使命を持っていることに。
俺がこの世界を救うことを再度誓った瞬間であった。




