勇者伝 操り人形
「はぁぁっ!」
──ブンッ、大きく剣を振りかぶり──ガッ! 火花を散らす。
「うおっ! あぶねっ」
「ちょっと! 真面目にやりなさいよ。私たちは魔王を倒さないといけないのよ?」
「ああ、わりぃわりぃ。ちょっとボーっとしてたわ」
「全く、男子ったらすぐサボるんだから。学校での行事でも騒ぐだけ騒いで片付けもしようとしないし、こっちに来てからの訓練でも最初は、「俺つえー」とか言いながら訓練もまともにやらずに自分の能力で遊び始めるし……
私たちは魔王を倒すという使命があるんだからちゃんとしないといけないのよ!」
少女が少年たちに向かって小言を言うが、少年たちは全く気にしていない。
「うぉぉぉ、すげーな!!」
「だろ? カッコイイだろ?」
「ああ、めっちゃいいなコレ!」
「まじで、このクリエイトゴーレムって能力いいよな。自分のイメージ次第でどんなやつでも創り出せるしな! しかもロボみたいに乗って操縦できるし、まるでガンダムみたいなんだよ」
ついさっき、少女に怒られたばっかの少年たちは既にふざけ始めていた。
「はいはいそこの男子! そんな歳にもなって土遊びとかやめなさい」
「ちがいますぅー、これは土遊びじゃなくて訓練ですぅー」
──カチン、そう頭の中で響いたのだろうか?少女の眉間にシワが寄せられる。
「だいたい、そんな土いじって何になるのよ。確かにデカいし、攻撃力は高いけど水魔法弱点だし、広い所じゃないと効果発揮しないし、何よりすっっごいノロイじゃない! それより魔術制御とか剣術の練習したら?まだあんた12体しか同時制御出来ないんでしょ?」
「てめぇ! 男のロマンをコケにしやがって! 12体って結構凄いんだからな! この世界では3体同時制御でもなかなか出来る人いないんだぞ!」
「でも前、翠にボコボコにされてたじゃない」
「ぐっ、あ、あれはアイツがおかしいんだよ! なんでも切断出来る絶対切断とかいうチートスキルだしな」
「でもゴーレムの数を増やすとか、工夫次第で勝てる可能性はあるでしょ? そうやってサボるから全然上達しないのよ」
「あぁん? なんだと!?」
そう、3人が言い争いをしていると、それを止めようとしたのか、転移してきた少年少女を纏めている近衛騎士団長であるドライヴァーという男性が駆け寄ってきた。
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて! 確かに岸本くんの男のロマンってのも分かるし、凛子くんの言い分も分かるけど、ちょっと落ち着こうな?」
「えぇ、そうね。ちょっと取り乱してしまったわ。ごめんなさい」
「さーせん……」
「みんなそろそろ休憩にしようか。いつもの食堂で待っているよ」
「おっしゃ、飯だ飯だ〜」
「おい足森、走るとコケるぞ」
「大丈夫だって──いだぁ!」
「ほら言わんこっちゃない」
そう柱にぶつかった青年を蔑むように、青年の友達である他の青年が言う。
ここ、エルガレフト神国の副神都バルエルの城内で勇者達が訓練をしていた。
誰もがイメージするヨーロッパの豪華で立派な感じではなく、ここの城は戦いに特化した戦闘重視の城だ。国境も近いため何時でも対応出来るように常備兵は多いし、騎士や魔術師のレベルも高い。まさに勇者の訓練にうってつけなのだ。
なぜこんな国境近い都市が副神都になるほど成長したのかというと、ここは非常に交通の便が良いからだ。交通の便が良ければ人も集まり、経済が活性化する。経済が発展するとさらに人が集まってくるという好循環が起こっている。
「あー食った食った」
「そういえば、アイツはどうしたんだろうな?」
「アイツって楠木のことか?」
「そうそう、無駄に顔だけは良いんだけど、なんか取っ付きにくかったんだよな」
「まあ、あの時は可哀想だと思ったが、下手に首を突っ込むと次は俺らがああなるかもしれないしな」
「まあ、無事生きてればいいんだけどなぁ。絡みがなくても、流石に知り合いが死んだとなればいい気はしないからな」
「さぁ、飯も食ったことだし、あれやるか!」
「足森、こっちに来てからもずっとそれやってるよな、タップダンス」
「ああ、こっちに来てあの能力を得てから更にやる気が出たしな! 俺がタップダンスをするだけで味方の身体能力が5倍になるんだからな。まあ音がならないとダメとか色々制限があるんだけどな」
「それでもなかなかにぶっ壊れだと思うがな。効果は半径10キロメートル以内の味方と判断している奴にかかるし、正直どっかで芋ってたらバレない限りずっと俺たちは戦ってる間身体能力5倍になるんだからな。まあその場面を想像したらシュール過ぎて笑いそうだが」
「言っとくけど、本気でやってんのに誰も見てくれない状況で1人ダンスとか、俺からしたらなかなかの苦行だからな?」
「わりぃわりぃ」
「ちょっと俺は部屋に忘れもんしたからとってくるわ」
「おっけ〜」
俺は足森にそう言うと、自分の部屋へ向かうため、城の中に入っていく。
◆ ◆ ◆
俺たちは一人一人に個別の部屋がある。
俺の部屋は比較的奥の方だったのだが、途中、ある部屋から耳を疑うような会話が聞こえてきた。
「どうだ?。もう使えそうか?」
「はっ! 何人かは洗脳に成功したかと……。日に日に力をつけていってはいますが、まだ時期尚早かと」
洗脳……? なんのことだ?
「早めに仕上げてくれよ。次の戦争ではちゃんと働いてもらわないと行けないからな」
「……にしてもカルロス殿は鬼畜ですな。あんな人も殺したことないような少年少女に殺し合いをさせようなんて」
「世の中そんな甘くないからな、使える物は使わないと生きていけないのだよ」
ガキってまさか俺達のことか? なんで俺たちが戦争をやることになっているんだ??
「ハハハ、確かにそうでしたな」
「まあまだガキたちは自分たちがいいように使われてることも知らないから可哀想とは思うがな! まあ頑張ってくれ、近衛団長殿」
「ハハハ、なんだかむず痒いですな。子供の頃からの仲なのにこう呼ばれる日が来るとは」
「公の場では君とこんな砕けた話はできないからな」
なんてことだ……
部屋からドライヴァーさんが出てきそうだったので、俺は慌ててその場を離れた。自室には戻らず、足森の所へ急いで向かった。
「……っていうことがあったんだ」
「くそ! 俺たちは良いように操られてたってことか……」
「……ああ」
「でも、戦争で俺たちを使う為に訓練させてるって言ってるが、みんな嫌がるから意味ないんじゃないか?」
「そりゃ、そんなどストレートに言わないだろ。情に訴えかけるようにけしかければ、そりゃみんななびくだろ?」
「まあ、それもそうか……」
重苦しい空気のなか沈黙が時間を支配する。
「なあ……これからどうする?」
「……どうするって?」
「ここに居ても操り人形のままだろ? いっそここから逃げ出さないか?」
「……そうだな、でもみんなを説得出来るのか?」
「いや、難しいだろう。みんながみんな信じるわけないと思うし、俺らがそれを知ってる事が近衛騎士団長にバレたらこれかもしれない」
そう言いながら、足森は自分の首に手を当てる。
「二人で逃げるしかないのか……せめてアイツを連れてくのはダメか?」
「アイツ……? ああ、凛子か? そういえば幼馴染だったよな?」
「ああ、アイツとは腐れ縁なんだよな。ただしっかりしてるし、何よりいざって時に頼りになるんだ」
「まあうるせーけどな。……てか、そこじゃないだろ? お前凛子のこと好きなんだろ?」
「ち、ちげーよ。ま、まあ、取り敢えず凛子にも言ってみようぜ」
「そうだな……ダメ元で説得してみるか!」
「ああ」
その翌日の夜、闇に抱かれるように城を抜け出し、俺達"3人"は呑み込まれるように森の奥へ消えた。
今回は勇者側の三人についてのお話でした。これからの本編の方にも出て来る(予定)と思います。あ、あとブックマーク100人いつの間にか超えてました!!有難うございます!




