第九話 出会い。そして込み上げる怒り
ご覧いただきありがとうございます!今回は人間と異なる種族との接触編です!
引き続きお楽しみください
国防陸軍第十一戦車連隊所属の黒田大尉は、もはや職務上の愛車と化したといっても過言ではない10式戦車に乗車し、
砲手の伊丹や操縦手の富田らと共に自身が率いる第五中隊の戦車を引き連れて自身が所属する第一機甲師団の斥候も兼ねて近くの小規模な町に向けて走行していた。
日本の道路でいう所の幹線道路のように、道幅が広く。黒田車を先頭に楔形陣形を組んで前進していた。編成は、10式戦車が四輌、90式戦車が五輌、61式戦車改(史実における74式戦車そのもの)が二輌そして二輌の50式戦車改三型といったパレードのような編成である。
何故出来たのか、それは異世界のそれも一世紀近く離れた世界だからできる編成だ。特に50式戦車改三型に至っては、転移したために第二の人生を無理やり歩まされたといっても過言ではない。
何故、大戦終結直後の戦車が現代戦車に混ざって組み込まれているのかという理由についてはイタリ・ローマ王国政府と日本皇国政府との間で成立した日イ技術支援協定の一環として王国軍の精鋭部隊に供与される装備の一つの予定のためだ。
搭乗員は国防軍の戦車隊員ではなく、精鋭の一つである王国軍第一近衛機甲団の隊員が試用を兼ねて乗車していた。
「クロダ大尉。こちら、メッセ少尉車。これより先は茂みや集合住宅といった障害物が多くなるため。徐行されたし。町に敵勢力の確認が出来なければ、住民の保護及び説得に当たりたい。そのため、私ともう一輌のティーポ50のコルティ曹長と共に周囲を警戒しておきますから。大尉殿には周囲の捜索をお願いしたい」
「こちら黒田。了解。是非メッセ少尉とコルティ曹長には周囲警戒をお願いしたい。他の皆も周囲の警戒に当たってくれ。町の中央広場に着いたら俺と伊丹、富田の三名で中央にあると思われる教会を回りながら周辺住民の捜索に当たる」
黒田は王国軍戦車兵の一人、『ジャン・メッセ』少尉との交信を終えると。一気に大型トラック二台分の幅まで狭まった道路を抜けて大きな噴水がある広場まで来ると黒田車の三人が降車し、伊丹が左側に伸びる大通りで富田が右側に伸びる大通りを散策することになった。
そして黒田は単身教会に向かうのであった。彼は車内に装備されていた74式5.56mm小銃(史実における89式小銃そのもの)の折曲銃床型を持って教会の扉を開ける。
「伊丹の奴が言ってたみたいに。異世界らしいな」
彼は教会に入ってすぐ至る所に飾られた装飾品に圧倒されていた。その奥にある祭壇と思われる部分には、人間の女性と犬を掛け合わせたような人型生物と普通の人間の男性が抱き合ってそれぞれの手で聖火のようなものを手に持っているという石像が飾られていた。
テーマは愛に種族は関係ないというべきだろうか。それに類似した絵画が二階の渡り廊下や一階の壁に飾られている。
思わずそれに感心し、見惚れていた黒田は周囲の警戒など忘れてそのまま奥へ進んでいくと、右斜め後ろから鳥類が羽ばたくような音が聞こえる。
「………天使か?いや、ナイフを持ってやがるっ!!」
ふとそれに気付き。後ろを振り向くと、姿は人間の女のようだが、天使の翼のようなものが背中から生えている。しかし、その女の目は殺意に満ちており。その証拠に細くも色白な右手でナイフを持っていた。
この一瞬が黒田の判断を決めた。
呆気なくそのまま見惚れていると、あえなく首の付け根辺りを走る頸動脈を掻っ切られて血を飛び散らすかそのまま心臓を突かれて口から血を吐くかの二択である。
自然と身体が動き、回避行動を取ると同時に小銃のセレクターを「タ」から「レ」に切り替えてトリガーを引いて旋回しようとする有翼人の女に向けて連射で発砲するが。
全て外れる。その最中に女と目が合った。
女は当初殺意に満ちた目つきだったが今度は申し訳ないことをしたという表情になる。黒田の格好と左右の腕に付いている日章旗のワッペンをこの間に視認したのか。彼女はナイフを捨てて左手を上げる。
「何だ。敵意が無いのか?ゆっくりこっちに降りて来るな……」
女はそのまま彼の前まで降りて来ると、そのまま銃を下ろせという意味のジェスチャーを彼に送る。
よく見ると、彼女は自分と同じ歳頃であろうという雰囲気であり。身長もそれほど変わりなかった。そして、彼女の口が開く。
「あなた。共和国政府軍?」
「いいや違う。何言ってるか分からないかも知れないが俺は日本皇国国防軍、国防陸軍大尉の黒田浩一だ」
黒田は、彼女に聞き取りやすいようにルシア語で彼女に軽く自己紹介する。彼をこの言葉を聞いた女は安心したのか。
優しく語り始めた。
「クロダさんね。私の名は、アーニャ。本当の名前は『アナスタシア』っていうの。あなたが政府軍の連中じゃなくて良かったわ。さっきはごめんね」
「いいさ。俺もアーニャさんを撃たなくて良かったよ」
出会い方こそ最悪だったものの二人の男女は早速打ち解け合っている。しかし、続けて今度は先程とまた同じ方向から誰かが走る音がする。
二人がその方向を向くと、白銀色の髪を持ち。猫の耳のようなものを生やした少女がアーニャが捨てたものと同じナイフを持って黒田の方へと走っていた。
アーニャと違ってその表情は憎悪に満ちており。狂犬に近いかそれそのものであった。
「待ってカリーナ!この人は悪い人じゃないからっ!!」
「アーニャさん危ないっ!!ぐはぁっ?!」
アーニャが『カリーナ』と呼ぶ猫型獣人族の少女に対して。呼びかけるもその勢いは止まらない。アーニャは黒田の前に立って制止しようとしたものの。
逆に彼が彼女の盾となり。少女が握りしめていたナイフの刺突を腹部に受ける。
「……っ?!政府軍じゃない。あ……あぁ」
「はぁ……はぁ……大丈夫……俺は君の味方だ」
「あっ!クロダさんっ!!」
「大尉!!ご無事ですかぁ!!」
「大尉が怪我しているっ!!衛生兵、来てくれっ!!」
カリーナはようやく黒田が敵じゃないと認識したのか。驚きながら彼の顔を見つめるが、彼は腹から血を流しながらも敵意がない事を伝える。
その次に騒ぎを聞きつけたのか。伊丹と富田が黒田のもとへ駆け寄って彼を介抱するが。彼は気合を振り絞ったのか。アーニャに対してこう言った。
「アーニャさん。この子のことを叱ったりぶったりするのはしないと今ここで俺と約束してくれ。この子は何も悪くない」
「ええ分かったわ。すみません私も手伝います。カリーナおいで」
「……っ……っ……ごめんなさい」
黒田は三人に介抱されると、そのまま合流してきた衛生科の救護車に連れ込まれて手当を受けるのであった。
この騒動の後に、この町は有翼人であるアーニャをリーダーに共和国軍に対して反旗を翻した非ヒト種種族や一部のヒト種族が寄り合ってゲリラ化した場所であることが分かったのだった。
アーニャと治療が終わった黒田の二人は国防陸軍第一機甲師団団長の藤田少将と面会することになったのだった。
「クロ、怪我の具合はどないや?」
「いいえ。大したことはありません。それよりもアーニャさんを呼んだわけとは?」
「せやな。軽い事情聴取ってやつや。アナスタシアさんいうたか?横に座ってるクロの事をブスリやってもうた子のことについて聞かせてくれるか?勝手な憶測かもしれやんけどやな。ワシは深いわけがあると踏んでる」
「………実はあの子の両親はこの戦争が始まる前、ヤーベリという共和国副総帥の変態野郎にお姉さんを連れて行かれて。それに抗議しようとした両親が目の前で射殺されてしまって……以来、私や一部の人以外とは口を聞こうとしないで。特に軍人の男の人を酷く怖がっているんです。それにこのヤーベリという男、色んな地域で権力の傘を振り回しているんです」
当初は冷静な態度で彼女の話を聞こうとした藤田であったものの。カリーナが憎悪を剥きだして黒田をさした理由を知った途端。
手に持っていたボールペンを握りつぶし、口から零れ出そうな怒りを堪えながらアーニャに言った。
「そらそうなるわな……なあ、クロよ。ワシは今、そのヤーベリとかいうド外道のロリコンをこの手で晒し首にして公衆の面前に晒上げたい気分なんやけど……乗ってくれるか?」
「ええ。藤田少将、その話乗りますよ。俺的には、戦後裁判でじっくりとなぶった後、負の歴史に名を連ねてやるのが良いと思うのですが」
「それも名案や。という訳でまだ生きてるかもしれんカリーナちゃんのお姉ちゃんの救出も兼ねて『外道消毒作戦』を敢行したいと思うんやけど。まあ、表向きには拉致被害者救出作戦ということで上には言っとくわ」
二人の軍人の怒りの炎は一気に燃え上がる。宣戦布告されて苛立っている事に加えて非人道的行為を行っているヤーベリは自身の知らないところで皇国国防軍による解放作戦の引き金になるとは、思ってもいなかったといえよう。
藤田は先程の経緯を聞いて胸糞が悪くなったのか。宿営地近くの小川で遠くに見える満月を眺めていた。
結局どの世界にも残虐非道な人間がいることに対する怒りを鎮めながらも孤児となったカリーナとその姉のその後について考えていたりしていた。
藤田少将は、今年四十六歳の玄人軍人の一人で二十数年前の第三次アメリカ戦争や第二次イギリス=アイルランド戦争で様々な戦場を経験したことから肉親を失った孤児のこの後の事が頭を這いずり回っていたのだった。
悲惨な末路を辿る者も居れば、第二第三の人生を歩む者もいる。しかし、長く軍人生活に勤しんで来た藤田は初めて孤児というものを目の当たりにした。
「なあ。嬢ちゃん、さっきからワシの近くに隠れてたんは知ってるで。怖がらんと出ておいで」
「………」
カリーナは誰かの手作りであろう。ウサギのぬいぐるみを抱えて現れた。アーニャから聞いたように軍人である藤田に怯えている様子であったが
程なくして静かに近寄って小さな口を開く。
「将軍の叔父さん。さっきのお話、私ずっと隠れて聞いてたんだ。私のお姉ちゃんを助けてくれるの?」
「そこまで聞いとったんか。せや。おっさんが嬢ちゃんのお姉ちゃんを絶対助け出して。お嬢ちゃんのお父ちゃんとお母ちゃんを殺した外道をいわして来るからな」
「………約束だよ。叔父さん」
「おう。任せとき。せや、チョコレートはいらんか?」
「………ありがとう。私、チョコが大好きなんだ」
一人の将官と少女は一つの約束を交わす。こうして後日、友軍のイタリ・ローマ王国は勿論、新たに味方となった自由軍やルシア臨時政府軍は日本皇国という国に軽々しく弓を引いた愚かなるボリシェ・コミン主義連合共和国の末路に導いた者の一人となった藤田誠也少将の戦闘性を目の当たりにするのであった。
ありがとうございました。次回は第十話を投稿する予定です。
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