第七話 同志たちによる反乱
前回から三ヶ月少々の間隔があいてしまいましたっ!今回もご覧いただきありがとうございます!
ボリシェ・コミン主義連合共和国
首都・クワモス
前帝政時代の皇族が使用していた宮殿改め、国家総帥官邸では、ジュガーリンが国内情勢についてまとめられた報告書を怒りに任せて破っていた。
彼の側にいたヤーベリは恐る恐る次の報告書を彼に手渡した。
「ヤーベリ君。反乱勢力はジュコーフだけでなく、前帝政派もいるそうじゃないか」
「はっ!帝政派の奴らは極東の工業地帯である『トフロス』や共和国五大穀倉地帯の一つ、『ムルモンスク』を支配下に置いており、極東艦隊の殆どを掌握しているようです。
また、ジュコーフ地上軍大佐は自由革命軍を自称し、『ゴルバ・グラード』や『ハブロスク』を拠点に周辺の部隊に協力を呼びかけているようです」
ジュコーフに加えて、帝政派の人間達もクーデターを起こしたとあってはたまらない状況である。
しかも、帝政派の連中がいるということはジュガーリン達共和国社会党にとってジュコーフより厄介な存在であった。
さて、ここから時系列を遡ることになる。
四十年前に起きた革命の際、社会党は皇帝を始めとする貴族達を処刑していたが、比較的に善政を行なっていた貴族や皇族などは国外追放のみで済ましていた。
だが、それが仇となってか革命前後から未だに皇族や貴族に対する忠誠心が高い一部の国民達が突然姿を現した皇帝の次男を担ぎ上げたうえに、共和国が保有する陸海空軍の約三割も掌握し、首都に迫りつつあった。
さらに厄介なことに、ジュコーフが率いる共和国自由革命軍と元皇帝の次男が率いるルシア臨時政府軍が不可侵条約とは名ばかりの同盟を締結し、政府に対して包囲網を形成しつつあることだった。
ジュガーリンとヤーベリとしては、三つ巴の戦いに持ち込んで弱った方を鎮圧するという戦略を取り、クワモス郊外にある共和国最大の工業地帯と農業地帯を頼りに徹底抗戦を取るつもりであった。
そうすれば、軍や自分達を支持する国民を飢えさせる確率はかなり低く、指揮統制を強めることもできるのである。だが、包囲される形となった現在。どう考えても『敗北』の二文字しか浮かんでこなかった。
「ヤーベリ君、ひとまずニホンとイタリ・ローマ王国に休戦を呼びかけるのだ」
「はっ!承知致しました」
ヤーベリは急いで部屋を出ようとしたが、自身が部屋の扉を開ける前に共和国空軍の元帥が駆け込んできた。
「た、大変です……総帥閣下。ニホンのものと思しき航空機による爆撃で郊外の工業地帯が半壊しました。人的被害は無かったのですが、復興までに約半年は掛かるかと思われ……」
「ば、馬鹿なっ!我々の首都から奴らが拠点を構えるイタリ・ローマ王国の飛行場から飛び立って来たとでも言いたいのかねっ?」
「そ、それが機体の補足すら出来ず、敵が飛行している高度は少なくとも……一万メートルいや、それ以上あるかと。また、王国方面爆撃隊も戦果をあげることなく壊滅したそうです」
ジュガーリンも最初は何かの冷やかしだと思っていた。
だが、普段から信頼できる軍の元帥の言うことだから紛れもない事実であることが理解できてしまった。
かつてボリシェ・コミン主義連合共和国は、帝国政府の腐敗に抗った後に建国された。
しかし、今となっては腐敗に対して不満が爆発した軍人や民衆、皇族や貴族の生き残り達による武装蜂起により最後の国家総帥、ジュガーリン達を含めた共和国政府は風前の灯火であった。
人は過ちを繰り返すとは、よく言うものの。この異世界において初めてそれを体現してしまい、共和国は皮肉な最期を迎えつつあったのだ。
一方、タゴルの町ではジュコーフに代わって国防軍や王国軍との交渉に訪れたチェパロア中尉は敵地に赴いたにも関わらず、安心とカルチャーショックが入り混じった気分になっていた。
自身の護衛と共にタゴル峠に着いた際、峠の麓で警戒に当たっていた二ホン軍と王国軍の警戒部隊に拘束されるかと思っていたが、彼らは親切に自らの拠点に案内してくれたのだった。
さらに、これだけでなく。投降した同胞たちに栄養価の高い食事をふるまわれていたり、手厚く怪我の治療が施され、好待遇を受けているというものであった。
「これが異世界から来た国の軍隊か・・・」
「中尉、二ホンという国だけでなく王国もこのような待遇を行っていますよ」
チェパロアが王国軍に介護されている同胞のほうを見ると、やはり同じように好待遇を受けているのであった。彼としては同胞が好待遇を受けているのは嬉しいものの、同時にどうなっているんだと言いたいほどであった。
すると、チェパロアたちがいる部屋のドアが開き、服装や雰囲気からして二ホンの将官と思われる男と王国の近衛部隊の士官と思われる男が二人ほど入って来ると同時に二ホンの将官がチェパロアに声をかけたのであった。
「初めましてチェパロア中尉殿、話は伺いました。私は日本皇国国防陸軍大将、『今村 季一郎』と申します。私の隣におられますのは、近衛第五軍情報科指揮官の『アレッシオ・ロンドーニ』少佐であります。さて、ロンドーニ少佐。中尉にあの話を」
「実は、東方にある『大敷洲帝国』の支援を受けたアレクノフ朝の嫡子殿が穀倉地帯のムルモンスクなどを拠点に民衆や軍の支持を受けて蜂起したそうです。
また、敷洲帝国も民衆解放の義を重んじる形で共和国に宣戦布告いたしました。
率直に申し上げますと、我が国や二ホン、貴国のジュコーフ閣下。そして、嫡子たる『バグラテオン』皇太子殿下は今や圧政に苦しめられている人々の開放を望む同志というわけですから。共に戦いましょう」
ロンドーニは、チェパロアに知っている情勢や状況をテキパキと話した後に、フレンドリーな素振りを見せた。一連の流れを理解した彼も素直に手を差し出し、ロンドーニや今村と握手を交わしたのであった。
こうして、昨日の敵は今日の友といえる状況に持ち込んだことでこの戦争は一気にジュガーリン達政府軍不利に転がり込むのであった。
大敷洲帝国
帝都 西京
大敷洲帝国は、ボリシェ・コミン主義連合共和国の極東部に位置する島国であり、共和国がある『ヨーラシア大陸』や『南大洋』には複数外地が存在している。
また、外地の『奉州』と『朝麗半島』や『泰湾』、『サウス諸島』などに住まう先住民族の自治権が現代におけるアメリカ合衆国の各州の権限のように大幅に高かかった。
そのため敷洲帝国軍の外地部隊には内地民はもちろん、心からこの帝国に忠誠を誓った外地住民や先住民族も多く志願していた。
この帝国に住まう国民の生活水準は比較的に安定しており、社会保障制度なども存在し、現代日本のものとほぼ同じである。こちらと違う点は、内外人平等ではなく敷洲国籍を有する者または、帰化した者のみが適用される。
政治体制においては、立憲君主制を取り入れているが、この帝国の君主たる歴代の皇帝達や現在の皇帝は民衆をはじめとして外地民の意見を積極的に聞き入れ、これをヒントに国政を運営する摂政たちのおかげもあってか体制に反対する者は殆ど居なかった。
軍事面においては、海軍力がこの世界一であり、古くなった艦船であっても時代に適応しそうなものは近代化改修を怠らないほどであった。
陸軍に関しては、島国のため戦車の開発が先送りになる時もあったりするが、歩兵部隊は自動車化されつつあり、他国に負けず劣らずである。
空軍面に至っては、空中戦艦を多数保有しており。戦闘機すら寄せ付けない武装を施し、最新鋭の要塞ですら木端微塵にできる力を持っており、戦闘機や攻撃機、爆撃機などの性能もこの世界の基本水準より少し上といった具合である。
さて、そんな国の君主たる皇帝『義仁』と彼を支える首相『大嵩 喜代是』は今日も帝国の未来のために政に勤しんだ疲れを癒すついでに宮廷の中を歩き回っていた。
「さて、我々と同じ言語を話す仲間との接触はどうだね?大嵩摂政よ。余は彼の国との邂逅が楽しみであるぞ」
「そうですな。西機関の情報によると、二ホンという国は我々と同じように平仮名やカタカナ、漢字そして同じ言語を使用しているため、向こうの書物は大変読みやすかったそうです」
「では、二ホンは我が国と生き別れた兄弟みたいなものだな。二ホンの文化や歴史など、余の二ホンに対する関心が高まるばかりであるぞっ!」
「ははっ、皇帝陛下はいつも私が言おうとしていたことを先に言われますなぁ。私もまだまだでございます」
二人は談笑しながら宮廷をあっという間に一周していた。
二人はそれぞれの務めを思い出すと、互いが友人のように手を振り合いながら別れていった。
皇帝は間もなくして玉座の間に着くと、玉座に腰掛けながらこう言うのであった。
「余は、病弱で結局何にもしないまま。日本から輪廻転生し、新たな生を受けて今ここにいるわけだが。前世のように、国民の皆の迷惑にならないように皇帝の座にいられることほど幸せなことはないなぁ。そして、国民がいきいきとしていられることもまた余の幸せの一つである」
彼は宮廷の窓から、活気があふれる帝都の街を見つめながら自身の務めに戻るのであった。
次回は第八話を投稿する予定です。
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