第六話 ベネティア沖海戦
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最前線にある地上軍司令部では、各部隊の隊長を中心に反乱が起きていた。ジュコーフに率いられた兵士達が司令官たるボラーゾフ中将に対して銃口を向けていた。
「ジュコーフ。貴様、私に対してこんなことをしたらどうなるのか分かっているんだろうな?」
「こんなこととは?こういうことか」
ジュコーフはホルスターから拳銃を抜き取ると、ボラーゾフの右太腿に向けて拳銃を撃った。
「うぎぁっ!」
彼は痛みのあまり叫び声をあげて右太腿を抑え込もうとするが、ジュコーフは容赦なく蹴り倒す。
「私からはこれくらいにしてやろう。チェパロア君、彼を」
ジュコーフが側にいたチェパロアに指示を出すと、彼は一旦部屋を出た。
すぐに戻ってきたかと思うと、チェパロアは車椅子に乗った顔や足に包帯や絆創膏を貼った青年を連れてきた。
「あぁ……あぁっ!」
ボラーゾフはさらに怯え出した。
「この下士官兵は負傷しながらも二人の少年兵を救出し、敵の情報をもたらしてくれたにも関わらず。貴様の理不尽な八つ当たりによって重症を負った者だ。そして、私からも言わせてもらうが、貴様のように無能怠惰で私腹を肥やすことしか脳みそにない豚どもをこれ以上野放しにできないのでね」
チェパロアに連れてこられた下士官兵はボラーゾフを親の仇を見るような目で睨みつけていた。
「君、もうこの男は用済みだから君の好きなようにしたまえ」
ジュコーフは右手に持っていた拳銃を青年に手渡した。
「た、た、頼むっ!撃たないでくれぇ。私には一人息子が居るんだぁ!」
この辺りでボラーゾフが泣きじゃくり、命乞いを行うが、車椅子の青年は無表情のまま拳銃を構えると、弾薬が尽きるまでボラーゾフに向けて銃を撃った。
三発目までは呻き声を上げていたが、四発目以降は声を上げることもなく、身体の動きすらなかった。
「死んだか。安心しろ、お前のドラ息子の悪事は間も無く世間に知れ渡ることだ。地獄で楽しみにしていろ」
ジュコーフは、ボラーゾフの屍をゴミを見るような目で見つめるとそう言った。
「ジュコーフ大佐、綿密に計画したクーデターを実行する時がやって来ました。海軍や空軍の同志たちには、今伝えるべきでしょうか?」
共和国海軍の第三艦隊は今、ベネティア攻略に向かっている。しかし、ジュコーフ達反体制派からすれば、好機と言えるだろう。今、ラコ半島の先端にある都市、『ゴルバ・グラード』の軍港で待機している第一艦隊は潜在的反体制派の人間が集まって編成されているとも言える存在だ。
また、他にも同じ港で待機する第六、第七艦隊が反体制派の同志と言えるだろう。空軍に関しては、政府派の人間と半分半分な感じで反体制派がいる感じだ。
幸いにもジュコーフ達王国攻略軍が今いる要塞の近くにある飛行場に駐屯する部隊は反体制派であった。しかし、現実は甘くはなかった。
政府に対して狂信的な連中が集まっているといっても過言ではない軍の部隊が首都のクワモスを囲むようにして駐屯しているのである。
さらに厄介なことにこれらの部隊の装備はすべて最新鋭の兵器が配備されているのであった。
「隣接しているイタリ・ローマ王国かあるいは……ニホンに助けを求めるべきか?」
「大佐、ここは思い切って交戦中の両国に話を持ちかけてみるべきでしょう。交渉中に周辺地域の住民をこちらの味方につけ、現政府の腐敗ぶりを人々に伝えるべきです」
「そうだな。さっきの戦闘であちら側の捕虜になった者も少なくないはずだ。チェパロア中尉、王国軍とニホン軍との交渉に向かってくれないか?私は別部隊への呼びかけと周辺地域住民の保護に赴きたいからな」
「了解」
チェパロアはジュコーフと敬礼を交わすと、護衛の兵士達を連れてタゴルへと向かっていった。
イタリ・ローマ王国とボリシェ・コミン主義連合共和国との間にある公海
タゴル峠で陸軍戦車隊が共和国地上軍を撃破した頃、海でも戦火は絶えなかった。
共和国海軍は戦艦『ボリシェツキー・ソユーズ級』を旗艦とした第三艦隊がベネティアに向けて航行していた。
この艦隊は戦艦二隻、巡洋艦五隻、駆逐艦七隻、水雷艇十隻、掃海艇八隻の計三十二隻の編成である。
「ついに、我らがジュガーリン総帥閣下は怠惰たるイタリ・ローマ王国の攻略を命じられた。各員、敵の怠惰の象徴たるベネティアを火の海に変えるのだっ!!」
共和国海軍第三艦隊の司令官たる『マカロフ』中将は、無線機を通じて各艦船に訓示を言っていた。
この提督が率いる第三艦隊は共和国内の評判とは裏腹に、ジュガーリンの鮫と呼ばれるほど狡猾さを持ち合わせており、残忍さでも地上軍よりタチが悪いほどである。
艦隊の悪行は数え切れないほどであり、この艦隊に狙われた国の都市や島々は容赦なく蹂躙され、非戦闘員たる住民を恐喝し、財産を巻き上げ自分たちの懐に入れ、殺人や強姦などといった重大犯罪も隠し通すほどである。
どうしてそこまで出来るのかというと、副国家総帥のヤーベリの息がかかっているからである。
その見返りとして、艦隊は占領地で美少女を見つけては拉致し、ヤーベリに献上するのである。
「者共よ、作戦成功のあかつきには金銀財宝や娘どもの徴収を許可しよう。ただし、男は皆殺しにしてからだ」
この一言で全艦隊の兵士達は貪欲にまみれた雄叫びをさらにあげる。
狂気に満ちたテンションのまま第三艦隊は共和国と王国の間にある公海を抜けて王国の領海に侵入するのだが、彼らを待ち受けていたのは、想像を絶するものであった。
突如、旗艦の隣を航行していたもう一隻の戦艦と二隻の巡洋艦が耳を引き裂くような爆発音と共に船体が真っ二つにへし折れ、爆炎に包まれたのであった。
恐らく、この戦艦や巡洋艦の乗組員達は己の身に何が起こったのか理解しないまま死んでいっただろう。
辛うじて生き伸びた者達は、重油まみれになり、飛び散る火の粉が身体に燃え移り、火だるまになりながら漆黒の海に沈んでいくのであった。
「な、何が起きたんだ一体。しかも、敵の艦すら見えていないぞっ!!どうやったらそんな距離から撃てるというのだっ!」
「マカロフ中将大変ですっ!爆雷によって撃破された潜水艦が残した最後の電文にこんなものがっ!」
マカロフは伝令兵が持ってきた紙を震える右手で受け取ると、さらに恐怖のどん底に叩き落されるのである。
「よ、四十六センチ以上の三連装主砲を装備する巨大戦艦だとっ?!巨砲という次元では済まされないぞ……そいつは化け物だっ!!直ちに、母港に帰港しろっ」
第三艦隊にさらなる追い討ちが降りかかった。
今度は空から空気を引き裂くような音が聞こえるのであった。
マカロフは何事かと思い、双眼鏡で空を見つめると彼の目を疑う光景が飛び込むのであった。
「プ、プロペラのない国籍不明の飛行機が十四機こっちに来ているぞっ!最大船速にして逃げろっ!」
彼は、無線機に怒鳴りつけながら指示を出す。
国籍不明の戦闘機……国防海軍航空隊所属の73式艦上戦闘機(見た目は史実におけるF-14そのもの)は艦隊に対して空対艦誘導弾を浴びせはじめた。
無論、誘導弾というものに対抗する手段を持ち合わせていない第三艦隊の艦船は撃滅されてゆく。
しばらくして73式艦上戦闘機による対艦攻撃が収まった頃にマカロフは気づいた。
残存している艦が自身が搭乗するボリシェツキー・ソユーズ級戦艦のみであるということに。
彼が周囲を見渡すと、さっきの戦闘機はもう飛んでいなかった。見えるのは、遠くで撃沈された味方の艦船のみである。
『ふぅ。助かった……』
こんな感情がこの艦全体を支配したときが、第三艦隊にとって恐怖のショーのフィナーレの幕開けであった。
イタリ・ローマ王国海軍第十二潜水艦隊司令、『マリオ・テセイ』中佐は潜水艦隊を率いて目の前の獲物に容赦なく魚雷を浴びせていた。
「ようやく獲物が来たと思ったらとんでもねぇデカブツだったな。俺たちの故郷を汚す奴らを生きて帰すなよ」
テセイは指示を出しつつ味方の戦果が書き込まれた報告書を読んでいた。
「ニホンから譲り受けた戦艦ヤマトいや……今はグランデ・ロマーナによる戦果とニホン海軍のクウボとかいう艦から発進した戦闘機による戦果は素晴らしいものだ。これだと味方の死傷者が皆無なのも頷けるな」
彼は戦果に釘付けであった。
同時に、これからの戦いにおいて参考にできるものはないかと考え込むのである。
彼が報告書を読み終える頃には、敵の戦艦が鉄くずと化し、暗い海中へと沈んでいくのであった。その中を潜水艦隊は母港に戻って行く。
総括すると、ボリシェ・コミン主義連合共和国海軍は日本海軍と王国海軍による包囲殲滅に遭い、壊滅した。
戦艦大和こと、戦艦グランデ・ロマーナの四十六センチ砲が放った六発の零式通常弾により共和国でも最新鋭の艦が一撃で轟沈され、退却しようとした。
だが空母武蔵から発艦した約十四機の73式艦上戦闘機による対艦攻撃にさらされる。
かろうじて対艦攻撃から逃れた戦艦ボリシェツキー・ソユーズは、公海に潜伏していたテセイ中佐率いる潜水艦隊により、マカロフ提督と運命を共にしたのであった。
こうして、ベネティア沖海戦は日本海軍とイタリ・ローマ王国海軍の勝利に終わった。
次回は第七話を投稿する予定です。
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