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第五話 タゴル峠の戦い

久しぶりの投稿です。アルバイトが忙しく、中々手をつけられませんでした。

引き続きお楽しみください(^O^)

イタリ・ローマ王国

北東部・コリーナ

この地域はコリーナ平野によって構成され、国境に最も近い町、『タゴル』の付近になってくると緑豊かな丘陵が増えてくる。

この場所は実質的に防衛側となるイタリ・ローマ王国の方が圧倒的に有利であった。

王国の歴史から見てもこの丘は重要な役割を果たしていた。

強引な言い方ではあるが、ここのおかげで王国が全ての自衛戦争に勝利していた。

その一例として、百年前に北東部から雪崩れ込んできたルシア帝国の騎兵を丘に築いた陣地に布陣させた鉄砲隊や砲兵隊で殲滅し勝利した。

それは、かつて長篠の戦いにおいて織田・徳川連合軍が数や機動力に有利である武田軍に勝利したように丘で防衛し、結果としてこの丘には数万人規模のルシア兵の屍の山が築かれていたのであった。

そして今日、戦史に残る戦いがコリーナ平野周辺で起ころうとしていた。



総兵力約三万のボリシェ・コミン主義連合共和国軍地上軍が歩兵、車輌、火砲と共に国境を越えて進撃していた。

そんな中、国境から五〇〇キロメートル離れた場所に置かれた地上軍の司令部では、ある人物が浮かない表情で椅子に腰掛けていた。


「……クワモスの奴らめ、何を考えているんだ。謎の多いニホンという国のことをまともに調査せずに宣戦布告なんて……もし奴等が我々の世界ではありえないような兵器を持っていて、それを王国軍に供与していたらどうなると思うかね」


「そうですね。政府の判断は軽率すぎるかと私も感じます。私も大佐と同じ考えであります」


共和国地上軍大佐『ウラジーミル・ジュコーフ』は部下の『チェパロア』と共に政府に対する不満をこぼしていた。

こうして、百戦錬磨の大佐の心の中をドス黒い予感が這いずり回っているのであった。

そんな彼の考えを揶揄うかのように、ちょび髭を蓄えた肥満体型の男が声をあげた。

「ジュコーフ君、ちみは疲れているんじゃないか?敵は駆逐艦並みの主砲を持つ戦車だとか、発射速度が速い小銃を当たり前のように配備している敵だかなんだか知らんが数や火力そして、精強さに勝る我が軍の敵ではない。所詮敵は、図体がでかいだけで紙のような装甲しかない戦車と小銃ではなく、実は短機関銃だった。というハリボテの銃の可能性だってあるかもしれんのだぞ?共和国軍人がそんなことで臆してはならんぞ」

椅子にどっかりと腰掛け、高圧的な態度で葉巻を吸っているのは、共和国地上軍中将『ボラーゾフ』であった。


「しかし、中将。いくらなんでもニホンという国の調査もまともに行わず、王国や彼の国に宣戦を布告するのはどうかと……それにコリーナ平野を越えて、ナッポリやベネティア、王都ビザン・ティノプルなどの都市を制圧できたとしても、制圧した都市での反乱が懸念されます。

また、もう一つの敵たるニホンの海軍や空軍さえ把握していません。ですので、時期尚早かと」


「はぁ、ちみは慎重すぎるのだよ。我が国が建国して以来、一度たりとも戦争に負けたことがあるというのかね?

前帝政時代の連中を思い出したまえ、慎重すぎたが故に、どこかの島国や今となってはメスガキが治める王国にいとも簡単に敗れ去ったではないか。だからこそ、早いうちに芽を摘み取っておかないといかんのだよ」


だが、彼の豪語も虚しく早速その考えが愚かであるという事実が突きつけられるのであった。

ここで兵卒の伝令一人が、息を切らしながら司令室に駆け込んできた。


「中将っ!!大変です。先鋒の戦車部隊が壊滅しました」

「なん……だとっ?!」


「百二十両編成の戦車部隊が壊滅だとっ?!半日も経たないうちに壊滅などありえん。きっと何かの間違いだっ!!貴様、それは私に対する冷やかしか?」


ボラーゾフが、伝令兵に対して八つ当たりしながら問いただすが、無線室の慌ただしさを見ると紛れも無い事実である。


「………(コイツのように無責任な奴が、上層部にのさばっているおかげで未来のある若者が多く死んでいったのだぞ。ついに、例の計画を実行すべきか?いや、今は混乱を鎮めるのが先決だな)」


ジュコーフは、上司に対して侮蔑の視線を浴びせると同時に、静かな怒りを露わにするのであった。


「君、戦車隊が壊滅したのは今かね?」


「は、はい。急に無線が来たかと思うと、受信機が音割れするほどの悲鳴や爆音が響いた後、各車からの反応がなくなりました」


「通信室、歩兵部隊や砲兵部隊と通信はできるかねっ!!」


「今、通信を行なっているのですが。タゴル峠付近に到着したのを最後に全く繋がりません……」


「そうか……くそっ」


ジュコーフは、あたふたとするボラーゾフの後ろ姿を睨みつけると、他の作戦部隊の指揮官達がいる部屋へと向かっていった。




国境方面から攻勢に出た地上軍部隊の編成は、 歩兵師団が約十三個師団と砲兵師団が十個師団、戦車や装甲車を主とする装甲師団が七個師団であった。

始めの攻勢には、歩兵師団、砲兵師団、戦車師団の計三個師団が偵察がてらに出撃し、順調に進んでいた。

国境に最も近い町『タゴル』の郊外、タゴル峠に差し掛かると、戦車の後ろから続いていた砲兵隊が立ち止まって野砲の照準を町の方に合わせるなどして発射の準備を整える。

「同志諸君、平和ボケをしているイタリ人共に戦争の味を思い出させてやるのだっ!!」

『了解、ジュガーリン総帥閣下の為にっ!!』

砲兵達は、ジュガーリンに対する忠誠の言葉を声にあげると射撃体勢に入るが、目の前のカーブから巨像にも比する迷彩柄が施された乗り物が突然姿を現した。

「無駄な小細工をしやがって。砲兵、あのデカブツを叩きのめせっ!」

砲兵たちが野砲を正体不明の乗り物に向けて発射するものの、砲弾がいともたやすくはじき返されたのであった。

そして、鉄の塊が主砲と思われるものを砲兵の側にいた中戦車に向ける。

そこから『バンッ!』と甲高い音を立てたかと思うと、中戦車の傾斜装甲は原型すら留めておらず。車輌全体が炎に包まれており、周囲には生存者はいなかった。

「こいつはまさか……ニホンという国の戦車か?」

指揮官が動揺する間も無く、同じような乗り物が十台ほど一気に増えた。





「全車、射撃開始っ!ソ連もどきを押し返せっ!」


黒田による指揮の下、国防軍側の90式戦車や10式戦車が敵に向けて一斉射撃を開始した。

敵は見たことがない兵器でもあるのにも関わらず、困惑せず勇猛果敢に反撃をはじめる。

だが、彼らの持つ銃火器や火砲による反撃では無意味であり、いとも容易く弾かれていった。


「伊丹、そのまま敵戦車に向けて射撃を続けろ。富田、邪魔をする奴には容赦するなっ!」


『了解』


黒田の指示を受けた二人は、素早く行動に移した。

伊丹は自身の視界に映る敵の数を精密機械のように数えると、一番大きい中戦車から順番にロックし、照準を合わせて発射トリガーを引く。

一二〇mm滑腔砲から放たれたJM12A1対戦車榴弾が次々と敵戦車に命中していった。

現代兵器から放たれた砲弾は威力が大きいせいか、敵戦車は瞬く間に弾薬庫や燃料タンクに引火し、爆炎をあげて沈黙していった。

富田はアクセルペダルを最大まで踏み込み、ハンドルを敵がいる方向に向けて回した。

黒田が率いる戦車中隊は立ち塞がる敵兵を轢き殺しながら抵抗を続けている戦車や火砲を殲滅してゆく。

ここで初めて、敵が国防軍のことを尋常じゃない存在と認識したのだろう。一部の敵が元来た道に向いて逃げていった。


「全車、撃ち方やめっ。周囲の生存者を探せ」


『了解っ‼︎』


一瞬にして敵部隊が崩壊したためか、まだ敵車輌からは火が上がっている。夥しい数の亡骸もそこら中に転がる結果にもなった。

敵とて一人の人間だ。戦力の差を目の当たりにした敵兵の中には、素直に投降する者も少なくはなかった。

恐慌状態になった者は撃破された火砲の側で膝を抱えて座り込んでいるか、国防軍兵士の呼びかけにも応じず顔を伏せたままの者もいた。

すると、町の方から自動車が近づいてくる音がした。黒田は何かを思い出したかのように叫んだ。


「藤田少将がこられたぞっ!捕虜を集めている者以外は整列っ!!」


黒田は周りの兵士達に呼びかけて、散らばっていた兵士達を集める。

整列する前に一台の53式小型トラックが停車すると同時に、車から降りてくる自身が所属する師団の団長、『藤田 誠也(ふじた せいや)』少将に黒田達は敬礼した。


「みんなご苦労さん。黒田大尉、敵の捕虜はどれくらいおるんや?」


「はい、今確認が取れているだけでも百人以上は居ます」


「おっ。ばり捕まえてるやん。あとは、退却したんか……深追いはせずにタゴルまで後退や。周辺の地理や国境周辺のインフラ状況を調査し終えるまで町で待機するで。というわけで総員撤収っ!」


藤田が指示を出すと、隊員たちは投降した捕虜を連れてタゴルの町に戻って行った。


ありがとうございました!

次回は第6話を投稿する予定です。

評価やご感想などお待ちしています!

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