第三話 ボリシェ・コミン主義連合共和国という国
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イタリ・ローマ王国とボリシェ・コミン主義連合共和国との国境
そこは、何の変哲のない平野であった。
辺り一面には草原が広がり、緩やかな小川が流れ、スズメやウサギといった小動物なども確認できる。
あたかも生命の集う楽園のようであるかのようだった。
しかし、今となっては夥しい数の銃弾や砲弾、爆撃機から投下された爆弾または、これらを踏みにじるかのように、兵士達の靴や自動車のタイヤ、戦車の履帯が緑の平野を抉っていった。
こんなことを半日以上繰り返し行われたせいか、自然が豊かであった平野が一瞬にして石や土だけの荒野に成り下がったのである。
これらは全て、ボリシェ・コミン主義連合共和国軍による軍事演習によるものであった。
何故、彼らがここまでして軍事演習を行うのかというと、日本が隣接するイタリ・ローマ王国と同盟を結んだからだった。
これだけではない。王国に潜伏させている密偵の情報によれば、技術交流や貿易の開始まで話しが進んでいるらしい。
共和国としては、ちょっと待てと言いたいのだが相手のニホンという国は、王国に隣接しているというくらいしか情報がない。
そして、共和国は嫌がらせ程度に軍事演習を行うに至ったのであった。
「なぁ、これだけ軍事演習をやっているんだ。ついに隣のお嬢ちゃんの国に攻め入るのか?」
「たしかにそれはあり得るかもな。もし、そうだったらヘタレなイタリ兵なんざコテンパンにしてオイラはあの国の女の子達からチヤホヤされたいね」
「でも、一筋縄ではいけないだろう。二日前に、王国と新たに同盟を結んだニホンコウコクとかいう国の軍隊を見た偵察部隊の奴から聞いたんだが。奴らは駆逐艦の主砲並の砲を持つ戦車とか、機関銃よりも速く弾を撃つ小銃を持っていたりするらしいぜ」
「おいおい、お前ビビってるのか?俺たちには偉大なる指導者様がいらっしゃるじゃないか。あのお方なら異世界からやってきたよそ者なんかコテンパンにしてくれるはずだよ」
このように、前線の一翼を担う兵士達は楽観し、浮かれていた。
演習は更に激しさを増していく。それに同調するかのように、兵士達の士気も増していった。
彼らの貪欲さを彩るかのように、銃や火砲が鳴り止むことは明け方までなかった。
ボリシェ・コミン主義連合共和国
首都 クワモス
ボリシェ・コミン主義共和国はこの世界で四〇年前に現在の国土を支配していたルシア帝国という国で革命が起きた結果出来た国家であった。
肥沃な土地や機械を上手く利用して行われる大規模国営農場での農業と豊富な鉱山資源を諸外国に輸出し、大量の無職者を雇用しての地方開発などを行っていた。
政治経済面では計画経済や市場社会主義とほぼ同じものを採用し、国際情勢を観察しながら経済のメカニズムを切り替えていくことによって国体を保っていた。
しかし、この国が掲げる『コミン主義』を国民に強要し、これ反対する者や他のイデオロギーを提唱した者達は、人民の敵という名目で収容所送りにして、強制労働を行わせるという恐怖政治を行なっている背景も存在していた。
そして、今日も共和国の首都であるクワモスにそびえる前帝政時代に皇族が使用していた宮殿の内部ではその恐怖の根源とも言える人物が部下からの報告に耳を傾けていた。
「ジュガーリン総帥閣下。二週間前にイタリ・ローマ王国南部に位置する『大東洋』の近海に現れたニホンコウコクという国に関する情報です。
彼の国は王国と同盟を結ぶに至ったようです。また、我が国の国境付近で、彼の国と王国は合同で演習を行っていた模様です。いかがなさいますか?」
執務室の椅子に腰掛ける筆のような髭をたくわえた男、『ヨセフ・ジュガーリン』国家総帥はワインを飲み干すと、ナプキンで口元を拭いながら言った。
「ヤーベリ君。別の情報で知ったことなのだが、ニホンを名乗る国は、駆逐艦の主砲並みの武装を持つ戦車や機関銃以上の発射速度を誇る小銃を前線の兵士に当たり前のように持たせているそうじゃないか。
もし、この国と我が国が戦えば勝算はいかなるものだ?」
「そうですなぁ。所詮は資源と治安の良さしか取り柄がない国の隣の海に浮上した島国ですから。陸軍の圧倒的兵力による人海戦術や空軍による絨毯爆撃、艦船による艦砲射撃で事足りるでしょうな」
ヤーベリ副国家総帥が自信満々に答えると、ジュガーリンは満足そうに笑い声を上げる。
「ヤーベリ君。会議を招集したまえ。今こそあの英雄気取りの小娘の国を"解放"する時が来たようだ。
ついでに南の海に現れた未開人どもに教育してやろうじゃないか」
総帥は自身の机から最後通牒と思われる文書を取り出し、副総帥に差し出す。
「承りました総帥閣下。ただ今より我が共和国はあの小娘を王の椅子から引きずり下ろすために行って参ります」
ヤーベリは不気味な笑みを浮かべながら文書を左手に持つと足早に総帥の執務室から去っていった。
「王座から引きずり下ろした後は、私の欲求を満たす道具にでもなってもらおうか。
清浄無垢で生意気な小娘よ……貴様の処女を食い破るのはこの私だ」
副総帥は、長い渡り廊下を渡りながら気味の悪い笑い声をあげるのであった。
だが、愚かなことにこの国の連中は水面下で王国が力を蓄えているという事を知る由が無いため、完全に浮かれていた。
次回は第四話を投稿する予定です。
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