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第二十八話 重なる面影

ご覧いただきありがとうございます。色々考えさられた出来事があり更新がまた止まりかけましたが、投稿しました!

引き続きお頼みください!

大敷洲帝国

帝国領奉州

帝国軍第十一演習場

演習場では懲罰対象軍人の更生の一環として軍事演習が行われていた。訓練は順調に進んでおり国防軍の隊員や同胞の敷洲兵に対する反抗が殆ど無く指示も的確に従っているほか、彼らの中でも任務成績の良さから選抜された兵士達が日本側の最新戦術を学ぶことが厳重な管理下のもとで許可されているのか早速、旧式の日本製兵器を操っていた。


「総員、ガスマスクを装着せよ!これより危険地帯突破訓練を行う!」


「戦車及び装甲車はこの密集陣形を維持しつつ歩兵は残存戦力撃破せよ!」


警報音が鳴り響くと同時に帝国軍近衛機甲師団の精鋭達が軽微な威力の毒ガスを使用した危険地帯突破訓練で供与された50式装甲車(史実における60式装甲車)の後部ハッチからガスマスクを装着した歩兵達が飛び出すと同時に57式小銃の小銃擲弾を発射しつつ用意された標的に連射で命中させていく傍ら後方からやって来た50式戦車改三型が行進間射撃を行いつつ煙幕を展開して丘陵の防衛線を突破する訓練を行っており、普段から洗練された操作を行っている分、最大限現代技術の恩恵を受けた日本製兵器を扱えば手に取るようにして滑らかな動きでトーチカやハルダウンで防衛姿勢を取る戦車を模した標的を同軸機銃も発砲しつつ100mm砲から放たれる成形炸薬弾がこれらを粉砕し、二重に配された有刺鉄線を重厚な車体や履帯で踏みつぶしていく。


「精鋭の名に恥じない動きですね。敵が化学兵器を使用してくる事を想定した動きは我々と何ら変わりない動きだと思います」


「お互い毒ガスを使用する場面が多い世界であった分、息の合った動きが出来ると良いですね」


「おっしゃる通りです。帝国の情勢が落ち着きつつある今、本格的な共存共栄を強めていく事が大事かと」


「そうですね。我が敷洲としては不穏分子であった一部貴族による政権乗っ取り計画がクーデターを起こした帝道派によって暴露された混乱から立ち直りつつあるとはいえ、今回の処罰は非常に難しい橋を渡った感じになりますね」


少佐に昇格した黒田と美保が現代兵器を使いこなしている近衛師団の動きに安堵しつつ両国軍の連携に対して期待と今後の情勢について話し合っていた。

帝道派の荒川大将や松永大佐、越智少佐などの幹部クラスも軍法会議によって無期限の懲罰部隊配置が決定していた。

帝道派の面々はクーデターを起こしてまで腐敗分子を血祭りにあげていたものの無辜の一般市民や善良分類にあたる貴族及び政治家、大嵩内閣の閣僚は攻撃対象外かつ三者の犠牲が皆無だった事も合わさってか毒を以て毒を制す形になった事に加えて貪欲や無計画な侵略構想を練っていた腐敗分子の計画などが露見した事により帝道派軍人達の減刑を求める運動が全国に飛び火し、帝国議会の前では帝道派によって救われた市民たちが連日市民集会を行うなど複雑な状況が続いた中で帝道派軍人限定の懲罰部隊が創立されたのだった。


「しかし、懲罰部隊といえど大半が軍紀に異常はなく隊員の来歴も決起に参加した事を除いて善良な一般市民または将来の家計を充実させたい人といった人達ですけど、あの事件はそんな彼らを嘲笑う不穏分子の存在がデカかったと考えると時間を掛けて元の生活に戻せたら良いのですが」


「如何なる理由があったとはいえ、結果として全員悪人になっていますからその中の良心だと思うしかないですね」


「道を踏み外したといえど相手も相手という複雑な事情もありますからね。それに決起に参加した敷洲国民連盟の会員も徴用しましたから帝国軍主導で我が軍も交えた戦闘訓練も江口中佐の管理下で行われているようですが……あっちは何かすごいことに成ってるような気がするんですよね」


「黒田少佐の仰りたい事は分かりますよ。その……個性が濃すぎる人達が集まっているというか」


懲罰部隊に配属された殆どの兵士達が更生の見込みがある者達である事に期待しつつ、帝道派に呼応して国を憂いて決起した敷洲国民連盟の一部会員達も更正の為に徴用したうえで無期限の配属となり、「国を憂いるなら最期まで国に尽くせ」という意図も込められていた。



「く、黒田少佐!江口中佐が大橋大佐にジャーマンスープレックスいえ、直接指導を入れちゃってすごいことになりましたぁ!」


「まじっ?!立場に関係なく筋が通らない事が有ったらやっちまう所まで爺ちゃんそっくりだよ!島田大尉、ちょっと行ってきます!」


「分かりました。こちらでまとめておきます」


途中で江口が監査を務める懲罰部隊にトラブルが発生したのか、彼が危険人物として知られる大橋に対してバックドロップを決めちゃったという報告を自身の部下から受けた黒田は祖父の行動と一致している事に青ざめながら美保に場を任せてその現場に向かって行くのであった。




帝国軍第十一演習場西部

演習場の西部では江口や小棚木、蝶野が訓練を見守っていると突然人だかりが出来ると同時に懲罰戦車隊の方から大橋の怒号が聞こえて来たのだった。喧嘩が起きたのだろう三人がそこへ向かうと、大橋と越智が睨み合っておりお互い掴みかかりそうな勢いだ。


「おい越智!何でとろくさいお前が先頭を仕切ってんだよ。ぶっ飛ばさねえと欠伸が出るから俺達に先頭を譲ったらどうなんだ?」


「大橋大佐、あなたは唸る直管で闇夜を裂きたい年頃の人ですか?私は日本の戦闘様式に習って戦車の装甲に身を任せて突っ込むのではなくいつでも見敵必殺できるよう如何なる戦場でも臨機応変な対応をしやすいように動いているのですが?」


越智が忠実に日本式の機甲戦術を実践して50式戦車の車高の高さを活かした稜線射撃や高確率での一撃確殺を重視した低速での行進間射撃といった生存性向上を主眼においた行動を取っていたのに対し、大橋の方は懲罰対象となった部下と共に慎重な行動を取る彼らを置いていくかのように高速で行進間射撃をしているほか、戦車でドリフトをするような動きを行うなど戦場を砲弾が飛び交うサーキット場のように捉えているのだろう突撃重視の動きをしていた。

大橋は越智の動きが気に食わなかったのか不満気に因縁を付けて行動隊長を譲る事を要求するが、越智は若干あどけなさが残った顔立ちに似合わない苛立ち交じりの表情と言葉で言い返す。


「大佐、悪いけど信広の行動に誤りは無かったぜ。装甲に身を任せてばっかじゃ敵がラッキーパンチを当てた時にどうすんだよ。この前の戦争でも日本の装甲車がボ連の戦車に突っ込まれて搭乗員が負傷した事例も有るんだから」


「あ?そうさせない為に日本から来た強い戦車でどんどん敵を轢いて運悪く散っても勝利の為の犠牲になるんだからいいでしょうが江口委員長……ちっ(若造が、殿下からご厚意を頂いてるからってつけ上がりやがって)」


「あのね。いくら兵器が強くても気合でどうにかなるものじゃないから近代化に合わせた帝国軍の戦術改革は今の課題だから全体的に協力していかないと、それに戦争の犠牲は何も生まない事の方が多いんだからそれを減らすための方針転換なんだよ」


「それは海や空の話であって俺達のように歩兵を守る戦車隊には関係ないだろうが!それに味方の盾になって強い武器や誇り高き敷洲魂、自己犠牲の精神が合わされば最強の民族だって証明出来てるようなもんだから碌に激戦地も行ったことが無い若造が偉そうに語るんじゃ……ぐはぁ!」


江口が大橋に対して面と向かって注意しつつ軍の戦術改革の必要性について合理的な理由を交えて説明するものの長らく自己犠牲や勝利を至上としてきた現場寄りの大橋は、若くして改革的な知識を持って昇進を果たして来た彼への不満をぶちまけて激昂する。

それと同時に大橋が江口に掴みかかろうとするが、避けられると共に背後を取られてから腹を抱えられて宙を舞うかのように後頭部が少々埋まるくらい地面に叩きつけられて反撃される。


「佐官だからって図に乗るんじゃねえぞてめえ!!」


「大佐に何しやがるんだこの野郎!!」


「おう。まとめてかかって来いよ。ただし全員素手で来い!!」


当然、第二戦車連隊から懲罰対象となった兵士達は上官である大橋が階級が一つ下の江口にジャーマンスープレックスをお見舞いされて無力化されたことに怒りの声を上げながら彼に掴みかかろうとしたものの平均的な体系とは思えない怪力でフックや顔面へのストレート、拘束した一人を束になって掛かって来た兵士達に向かって投げ返してボウリングのピンのようにバタバタとなぎ倒していたせいか、一人で二十人近くの兵士達を気絶させていた。


「あばばば……参りました」


「素直でよろしい。束になって掛かって来たお前らは、さしでならいつでも掛かって来なさい」


「きゅう~……ず、すびまぜん」


この騒ぎを止めに入ろうとした国防軍の隊員達は、江口がまんざらでもない様子で身体を小刻みに震わせている兵士の頬を右手でぺちぺちと軽く叩きながら彼らを起こしていく光景を見て何もされていないのに戦慄するのであった。


「こ、小棚木中尉。黒田少佐が言った通り怒らせるとヤバい人ですね……」


「本人かどうか分からないけど、体系と釣り合ってない筋力だぞコレ」


「小棚木さんと蝶野さん、迷惑を掛けてすみません。このやんちゃ坊主達を起こすのを手伝ったくれないか?」


特に黒田から祖父の話を聞かされている小棚木と蝶野は、話の内容に上げられた江口の行動パターンと合致していることから驚きを隠せずにいた。

それに加えてクールダウンが早いのか、彼は何もなかったかのように二人に対して丁寧に無力化した兵士達を起こすように指示する。


「江口中佐、私が解決すべきなのに申し訳ございません」


「気にしなくていいよ。こういうお堅いおっさんはこうしてドカンと派手にぶちかまして分かってもらうのが一番だからな……さあ、一日も早く表舞台に戻れるように頑張ろうぜ」


「……はいっ!ありがとうございます」


「いい返事だ。優仁殿下も首を長くして待っているからこの調子で他の者も導いてくれよ」


江口は騒動に巻き込んでしまい申し訳なさそうにする越智に対して励ましの言葉を掛けつつ自身が融通も利かない一部の人間達に対して抱いている心情について語ると、彼が元気よく返事すると共に深々と頭を下げた。




在敷洲国防陸軍奉州駐屯地

懲罰対象兵の訓練が夕方に終了すると、黒田は非が無いとはいえ騒動に巻き込まれた越智を駐屯地の本部兵舎に呼び出して事情聴取を行っていた。やはり若くして佐官まで上り詰めたこともあり教養も高いのか紳士的な対応で彼が調書を作成するうえで伝えておくべき情報を伝えている。


「今日、揉め事を起こした大橋大佐は強硬派の中でも存在感が強くて指揮力も抜群で先鋒に立って切り込み役を果たす事がよくあるんですね。何というか折角の指揮力を柔軟な所に活かして欲しいですね」


「黒田少佐の仰る通りです。今回、我が帝国を転覆せんとしていた国賊共を血祭りにする際は用意周到にしていたのに勿体ないです。確かに勝利の為の犠牲はやむを得ない場合もありますが、私からするといたずらに兵器の性能に頼りきって従来の戦術で臨んでも宝の持ち腐れとしか言いようがありません」


「敷洲軍人の越智少佐から見ても我々の戦術をもとにした戦術改革は必須と考えているのですね。今は懲罰中ですが、名誉を取り戻される事を願っております」


「そう言っていただけると嬉しいです。黒田少佐も江口中佐のように懐が深いお方ですね。私が日本人として生を受けていたのなら貴官と共に組んでみたいとつくづく実感しています」


「こちらこそありがとうございます。もしそうなっていたら越智少佐が俺の上司の一人であったかもしれませんね」


黒田から見た越智はクーデターに参加したうえで帝国転覆を企てていた腐敗分子を血祭りにした一人と思えないほど打ち解けやすい人物であるという印象であり、対する彼も黒田の事を江口と重ねつつ友好的な態度で接しておりお互いの考えを肯定しつつ敷洲帝国軍の改革や二人の出会い方について談笑している。


「このような事を申し上げるのもどうかと思うのですが……黒田少佐は輪廻転生は信じていますか?」


「生まれ変わりの事ですよね?うーん個人的に曖昧な感覚なのですが、あり得るなら歴史上の人物に会ってみたいですね。こちらの世界に来て感じたのが、貴国の大嵩首相は我が国の平和を守った一人である池田勇人元総理に驚くほど似ていたりしますから本当にそうだったら良いなと思っています」


「私も会えるなら生まれ変わった人に会ってみたいですね。今度、機会が有れば日本の歴史を教えていただけませんか?実は転生を研究するのが趣味だったりしますので」


「機会が有ればそうさせていただきます。しかし、越智少佐も楽しい趣味をお持ちですね丁度日本の文学文化の一つとして転生を題材とした作品が流行していますよ。という訳で時間を掛けちゃいましたが事情聴取は終了です。お疲れ様でした」


「お疲れ様です。私のような者に親身になっていただき、改めてありがとうございました」


「こちらこそ紳士的な対応と友好のお気持ちを示していただきありがとうございます」


この二人は意外なところに江口や大嵩という転生者がいる事に気付く間もなくお互いの国の文化や歴史について語り合っていているが、越智の趣味からして教養人である事も伺えた。

事情聴取とは思えないど二人の和やかかつ友好的なやり取りは終わりを迎え、このやり取りを要約するかのように越智の更生状態欄に「良好」の判子が押されていた。

ありがとうございました!次回は第二十九話を投稿する予定です。ご感想や評価、ブックマークなどお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。大変なことがあったようで心配しましたが、お待ちしてました。 戦車のみの突撃戦術など見てもまだ戦術面での旧態依然の部分が目立つ感じですね。やっぱり中国やボ連との紛争経験が少な…
[一言] うわー。 戦車だと死角が多いために対戦車兵器を排除するための随伴歩兵が間違いなく死ぬやつ。>単騎突撃 感覚が戦訓無しのWW1相当初期で止まってない?>装甲で守るとか戦車だけで突撃とか ある…
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