表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

第二十七話 憂国者たちへの審判

ご覧いただきありがとうございます。今回で初めて転生者が登場する形になります。

引き続きお楽しみください!

日本皇国

首都 東京

民政自由党本部

民自党本部の空気は二分されていた。総理を務める中渕が独自性の強い対外政策を盛り込んだ談話を発表した事で今後の外交政策は共存共栄路線が強まる形となったのだが、民自党議員の中でもタカ派で極右と呼ばれる部類に該当する伊藤や谷崎、古井は臨時放送を見て自分達の予想とは大きく違う政策の方向性を示されたため啞然としていた。


「いやいや、これは……チャンスを捨ててるというか」


「ちょっと反乱軍の処遇を使って向こうの国民の支持を取り付ける事も出来るだろうに」


「中渕総理、あなたは何でそんなに甘いの?敷洲を拠点に外部勢力の芽を摘むぐらい出来るかもしれないんだよ!まさか、森本文科大臣と裏で……」


「くそっ!やられた!」


「俺達が次の総裁選や衆参ダブル選挙で使おうと思っていた敷洲問題が……これを見越してこんな事をするなんてこれ以上怒らせない方が良いかもしれんな」


森本が嘯きながらチーズと缶ビールを持ってインタビューを行う記者に対して「干からびたチーズ」などと言って誤魔化していることを見抜いた古井や伊藤、谷崎は完全に置いてけぼりを食らった事に気付くと同時に目先の打算で動こうとしていた事も中渕によって見通されたため彼に対して言い知れぬ恐怖を感じていた。


「伊藤総務会長もいらっしゃいましたか。中渕総理からの要請で一週間後に、衆参ダブル選挙対策と対外援助政策の策定といった公約作成を視野に入れた両院議員総会を開きたいというご連絡を頂いたのでお伝えいたします」


「野高副総裁……中渕総理のこれはどうなんですか?両院議員総会を開くといっても、今後の政策は決まったようなものだし意味ないと思いますが」


「まあ、私も驚きましたよ。しかし、決定したといっても補完すべき提案や公約実施のシュミレーションを行えばいいでしょう?和泉幹事長と太田政調会長もそう思いませんか?」


「そうですね。日本は独裁国家じゃないんだから総理に直談判したり総会までにネタを練ったらいいんじゃないの?それに不満は幹事長である私に色々言ったらいいじゃないか」


「国防軍増強は和泉幹事長も一致されているじゃありませんか。妥協はさらにまずいですよ!」


「古井広報本部長、政策なら私が可能な限り相談に乗りますよ。保守リベラル政党とはいえ住人十色で色んな政策案を聞くのも私の仕事ですから」


両院議員総会の開催を同じ民自党幹部である副総裁の『野高広武(のだかひろむ)』や幹事長の和泉、政務調査会長の『太田博志(おおたひろし)』の三人に対して伊藤や谷崎、古井らが中渕に対する不満を口にしているものの野高が同情しつつ和泉と太田も彼らの不満を受け入れる気で一旦説得した。


「……分かりました。で、でも和泉さん的にも迫力が欲しいと思いませんか?」


「そうそう。日本がまた共和国みたいな奴らに舐められてしまわないためにもこの機会を!」


「三人の気持ちは分かるけど、損して得取れというやつで別の機会を待てばいいじゃないか。今慌てふためても今度の選挙で野党がラッキーパンチを出しかねないから考える時間を設けるのも大事だと思うんだけどね」


「そう……ですよね」


「だが、言われると選挙は何事にも代えがたいよな」


次に伊藤と谷崎は党内の盟友的存在である和泉に対して更なる同情を求めるが、彼はこれまで民自党内においてTII(谷崎・伊藤・和泉)トリオと呼ばれた事を若干惜しむかのように打破すべき現状について述べるとともに興奮しかけていた二人を説き伏せた事で党内の混乱は一時的に収まった。





帝国領奉州・在敷洲国防陸軍奉州駐屯地

駐屯地の本部兵舎内にある第一機甲師団司令官室に呼び出された黒田が、何事かと思い部屋を訪ねてみると上司である藤田の他に大敷洲帝国の第三皇女である愛里寿に同行した側近の美保も大きなソファーに腰掛けておりただ事ではないことを察して一国の皇女を目の前に固まっていると、藤田が柔らかい調子で声を掛けた。


「いきなりすまんの。愛里寿殿下と話し合ってみて取り決めたことなんやけどな、共和国との戦争と今回の件を評価した上でお前さんを陸軍少佐に昇格させた上で近衛師団直轄の懲罰装甲師団の共同監査委員長を務めてもらえるか?その名の通り監査委員長は日本側と敷洲側の二者で担うから、反乱に参加した隊員達の更生に関する任務を執行部会議で協議しつつ訓練を合同で行ったりするんやが」


「畏まりました。私に異存は無いのですが、大敷洲帝国側の監査委員長には誰が?」


帝国内で発生した帝道派主導のクーデターに参加した師団や様々な部隊に所属する隊員や指揮者たちを含めたクーデター参加者全員を近衛師団管理下の懲罰部隊に配属することでありこの処分には、国を本心から憂いるが故に一線を越えた者を更生させる事に加えて悪く言えば死ぬ気で這い上がって来いという意図が込められていた。

また、日本と敷洲の両軍の士官を登用することにより同じ言葉が通じる利点を活かして合同の執行部を設けて彼らを軍務に従事させ続ける事を選択したのだった。


「それやけどな。江口英吉陸軍中佐がその任に就くことに成っとるから粗相の無いようにするんやで、中佐はそろそろ到着するんやが……あっ来たわ。どうぞ、入ってください」


「失礼致します。只今、到着いたしました」


「え?……あっ失礼いたしました」


「ん?あんた何処かで会ったか?まあ、いいや。よろしく頼むぜ」


「あっはい!よろしくお願い致します」


しばらくして帝国軍側の監査役を務めることになった『江口英吉(えぐちえいきち)』陸軍中佐が司令官室に入ると同時に愛里寿や美保、藤田に敬礼すると同時に丁寧な挨拶を行うが、彼の容姿を目にした黒田は亡き祖父『黒田英吉』の姿と瓜二つである事に動揺が隠せなかった。

江口は黒田が驚いている事に気付いたのか、少々含みのある表情で柔らかくも友好的な態度で言葉を返しつつ右手を差し出すとともに握手を交わす。


「江口中佐、お疲れ様です。この度は監査委員長の任を受けていただき感謝御礼申し上げます」


「同じく私も感謝御礼申し上げると共に就任をお祝いいたします」


「とんでもございません。こちらこそ殿下及び島田卿からご厚意を頂き恐縮でございます。今回の事件を通じて一線を越えた同胞達を必ず更生させてみます」


「相変わらず江口中佐は頼もしいお方ですね。姉上が目に掛けている越智少佐や父上も心配されている大橋大佐の担当をよろしくお願い致しますわ」


「お二方の補佐として私もご一緒させて頂きます」


愛里寿と美保は年齢が若干離れている江口と普段から信頼し合っている事に加えて、彼も年下で階級も自分より低い大尉である美保に対して謙虚に言葉を返している。

帝国軍側の監査副委員長として美保が就任した理由に関しては、皇族と近く帝道派の攻撃対象外だった善良な貴族出身ということもあり抑止力としての役割も込められていた。


「という訳で役者がまとまりましたので後日、懲罰師団の編成が固まり次第本格的な更生支援任務開始していく事にしますか。改めて黒田少佐、貴官に更生支援任務を命ずる。同胞と何ら変わりない敷洲軍人に誇り高き精神を思い出させるように!」


「了解!謹んでお引き受けいたします」


こうして緩やかに決起した帝道派軍人達を全て執行猶予付きで懲罰師団などに編入し、政治情勢の不安定によりクーデターを起こさざるを得なかった事情を配慮して厳重な監視のもとで更生させる事で彼らの末路を憂いる国民感情に最低限配慮した結果となった。

それから二日後、黒田は奉州駐屯地から西に五キロ離れた奉州鉄道の海四楼駅の貨物ターミナルにおいて郷土自衛軍の偵察中隊の隊長になったアナスタシアの到着を待っていた。

遠く離れた敷洲の地において自衛軍の偵察中隊も合流する理由に至っては、戦闘経験が豊富な帝国軍や国防軍との訓練を行う事に加えて日本がボ連に攻勢を仕掛けた際に接触した戦闘員の中でも戦果を挙げたレジスタンス上がりの隊員達も混成で組み込むことで日本型の最先端戦術の混合も検討されていたのだ。


「お待たせ!無事で良かったわ!」


「おう。アーニャさんも元気そうで良かったよ!心配して来れてありがとう、俺のお古にも乗って来たんだね。ははっ」


コルク半ヘルメットを被り、甲高い排気音を上げるYAMAHA・XJR400に跨ったアーニャが貨物列車の貨車から降りて来ると同時に目を輝かせながら黒田の目の前で止まる。

彼女からの心配を喜びつつ彼が高校時代に乗り回して来た単車に乗って来たことに懐かしさを感じながら迎え入れた。


「クーデターが起きたって聞いて心配だったけど、クロダさんなら上手い事やってくれるって信じていたわよ」


「そう言ってくれると嬉しいよ。俺の実力より10式が守ってくれたと思うけど、こうしてまたアーニャさんと会えて良かったと思うよ」


二人の男女は日本から送られて来た物資が集荷されて陸海空軍それぞれの拠点に運び出される中、お互いの健在を喜びながら会話を弾ませるのであった。




大敷洲帝国

帝都 西京

宮都城

宮殿の中にある第一皇女優仁の部屋では、陸軍中佐の江口が奉州に移送された越智に代わって彼女と会っていた。傍から見れば妹の容態を心配する兄にも見えなくもない光景であり、江口は優仁が心配する越智の身柄について耳を傾けていた。


「優仁殿下、越智少佐に至っては心身共に問題なく。殿下からのご厚意に応える為に一日も早く表舞台に戻ると言っていました」


「そうでしたか、ご報告ありがとうございます江口中佐。あの子の為に近衛戦車大隊のポストを用意して迎えたいと考えています。なのでここだけの話ですが、貴方が前世において『黒鬼』の異名を誇った中佐の軍人魂のもとで他の方も支えてあげてください」


「畏まりました。ははっ失礼ながら、その名は何処でお伺いしたのでしょうか?」


大敷洲帝国において限りの有る者のみが知る秘密の一つである江口の正体は黒田の祖父であり日ソ戦争時に起きたある事件をきっかけに黒鬼とも呼ばれ、その戦闘性から20代前半で中佐に昇格して第二次世界大戦中は戦場の暴走族として恐れられた牛鬼隊を率いて多くの歩兵を守って来た。


「大嵩首相から全て聞きました。愛する人を失った憎しみを正義の爆発力に変えて多くの敵を殲滅し、弱者を守って来た貴方なら必ず出来ると信じています」


「そう仰って頂けると嬉しい限りです。池田さん……いや、大嵩首相も口が軽いなぁ。しかし、今の私には違う世界からやって来た孫も居ますから精進させていただきます!」


そんな彼は大敷洲帝国に転生すると前世の記憶を頼りに、軍でのスピード出世を果たして現在二十五歳にして陸軍中佐に昇格した事が他に居る転生者たちの目に留まったのか今や皇族からの好感度が高い士官として敷洲を守っているが、孫の浩一が祖父本人である事に気付くのは少し先の出来事であった。


ありがとうございました次回は第二十八話を投稿する予定になります。皆様のブックマークやご感想、評価などお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 >懲罰部隊 てっきり軍籍剥奪の上、処刑かと考えましたがそうきますか。これが良かったかどうか罪を償えるかとなると今後次第としか言いよう無いかな。更正を促すより使い潰す運用…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ