第二十六話 皇国の行くべき道
ご覧いただきありがとうございます!今回は分かる人には分かる政治ネタを入れてみました。引き続きお楽しみください!
日本皇国
首都 東京
首相官邸
首相官邸の危機管理センターでは中渕総理をはじめ安藤官房長官や谷岡防衛大臣、黒岩警察庁長官、海軍大将も兼任する『川崎英作』統合参謀本部議長といった危機管理のスペシャリスト達が大敷洲帝国内で起きたクーデターを鎮圧している際の映像に目を通していた。
映像には機動隊が軽武装の暴徒を鎮圧すべく状況に応じてゴム弾を用いて帝国軍の兵士と共に催涙弾攻撃を行っているほか、別の暴動発生地域ではLRADといった音響兵器を装備する装甲車が盾代わりになって帝国軍の援護を行っているなど重軽傷者を多く出しながら死者を出すことなく鎮圧に成功していた。
一方、国防軍の方も反乱軍側の戦車隊を鎮圧する際は撃破ではなく歩兵戦闘車と攻撃ヘリコプターによる履帯破壊や動力部損傷を目的とした機関砲掃射など帝国軍のサポートメインの鎮圧を展開したため、幸いにも帝国内における日本の印象は最大限の人道的配慮を施したとして好印象だった。
「今回のクーデター鎮圧でも我が軍の犠牲を出さずに反乱軍も軽微な損害のままに済みましたが、我々は帝国からの要請が無い限りこれ以上の干渉は控えましょう。彼らも気高き正義心を持っているとはいえ、私達日本人とは違った魂を持っているかもしれませんから慎重な対応を続けて帝国の今を見守りましょう」
「私も総理の仰る通り、彼らの正義を信じて次の要請を望むまで慎重な姿勢であり続けるべきだと思います。我々もこの世界と向き合っていく方針に修正を加えていかなければいけませんね」
状況が好転して安定しつつあるとはいえ中渕や川崎は同じ言語を使用していても大敷洲帝国が持っているであろう独自の意志を尊重し、これ以上の干渉は極力控えるべきだという結論に至った。
「総理、これから我々が解決していくべき問題は我が国内の急進的勢力に対する牽制だと思います。現に西條議長のもとで大人しくしていた党内の急進派も共和国との戦争に加えて今回のクーデター鎮圧を口実に国防軍のさらなる増強を声高にすることでしょう。特にかつて西條議長との総裁選に敗れて離党した大沢党首の改進党や我が党きってのタカ派として知られる伊藤総務会長や谷崎選対委員長、古井広報本部長辺りが騒ぎ立てるかもしれません」
「確かに安藤長官が言うように、あの三バカ達をどうにかしなきゃいけませんね。森本が和泉幹事長達と一緒に睨みを効かせているとはいえ、我が国は民主主義国家ですからこの複雑な情勢を国民の皆に知ってもらうべきだと思います」
「絶倫拓ちゃん……じゃねえや、谷崎選対委員長は国内の右翼団体と仲が良いっていう噂があるとか無いとかですから梶原国家公安委員長とも話し合ってみます」
現在の与党である民自党の情勢としては、結党以来揺るぎない中道右派的な人事で固めているものの総務会長の『伊藤紘三』や選挙対策委員長の『谷崎拓磨』、広報本部長の『古井慎』といった急進的な右派勢力が西條内閣において閣僚だった時の功績や日本が転移してから得た戦果を口実に大衆の目を引く独自の強硬政策を打ち出しかねない状況にある。
しかし、そんな彼らを抑えるために文部科学大臣の『森本嘉男』と党幹事長の和泉をはじめとした他の議員たちが共に三人を牽制しているほか、民自党の出世コースから外れた大沢一派が党を離れて結成した改進党への懸念を示していた。
「これは早急に国民の皆さんに今の状況を正確に理解してもらうためにも政府や各放送業界が連携して日本の立場や敷洲に情勢に関する情報を積極的に伝えるべきでしょう。安藤君、本日も報道陣の相手を頼んだ。私は谷岡さんと臨時放送の準備を進めるから」
「かしこまりました。国民の皆さんならきっと敷洲の独自性を理解して我が国が持つべき正義の本質を理解してくれる事でしょう」
中渕は日本を愛する総理として国民に寄り添う事や日本に歪んだ正義心を持たせない為に自ら国民に説明することを兼ねて国内のタカ派を抑える事を選択したのだった。
こうして一つの国家が持つべき正義を見誤れば自国や諸外国を破滅に追い込みかねないため、新たな対外姿勢を工夫するという事が日本皇国の新たな課題となった。
大敷洲帝国
帝国領奉州
駐屯地の前には多くの敷洲人達が詰めかけて国防軍に対するクーデター鎮圧の感謝として多くの特産品を差し入れているほか、帝国軍の幹部も感謝の為に警視庁外派機動隊の仮設庁舎に訪れるなど穏和な空気が流れており国防軍と帝国軍共同のクーデター鎮圧を見守った大敷洲帝国側の報道機関が日本側による帝国軍のサポートを重視したクーデター鎮圧方法を良い方向に捉えて発信したため、大事には至らなかったものの駐屯地の傍では帝道派の決起に対する処罰を緩和するために日本にも同情を求めるデモが発生していた。
「日本皇国政府も帝道派勇士に慈悲ある決断を!!」
「正義の国、日本皇国なら帝道派勇士の意志が理解が出来るはず!どうか処罰を軽くするように協力を!!」
「帝道派勇士の処刑反対!!国民を守るために国賊共を成敗した帝道派勇士を守れ!!」
今回の決起は帝国の外地国民にも正義対正義の両方正しいという風に映ったのか、一部の市民が拡声器を持って一時間前から市民集会を開いていた。
駐屯地から出て来る軍の車輌を見かけてはその近くまで行って土下座し、決起に参加した兵士達の行動を称えたりしながら必死で彼らに対する処罰を回避するように呼び掛けている。
「すごい事に成ってるな……今のところ市民同士の乱闘になってないとはいえ、ここまでされたら敷洲帝国政府も我が国に対して何らかの要請は行いそうですが。中渕総理なら国家間のバランスや帝国の国体に配慮して干渉はほぼない形になりそうですね」
「せやな。それに民自党内や野党のタカ派連中を黙らせてから答えが返ってくるかもしれんけど、あの人も鬼じゃないはずやから多少厳しくても良い塩梅にはなると思うで」
「確かに敷洲帝国の情勢を鑑みれば厳しい処分だけどマシな感じになりそうですね」
「まあ、その時が来たらまた何らかの指示を出すと思うから頼むで」
やはり今回のクーデター鎮圧に参加した黒田と藤田も軍人である以上、帝道派の行動を若干理解しつつも妥協してはいけない決断を静かに待ち続ける事にした。
日本皇国
首相官邸
中渕は国民に向ける臨時放送を通じて政府としてあるべき立場のメッセージを伝えるべく官邸の記者会見室に向かおうとしていたが、会見前に文科大臣の森本と雑談を交わしつつ党内のタカ派への対応について話し合っていた。
森本は文教族でありながら今や中渕と共に保守派の重鎮として国内の極右に睨みを効かせて来た政治家の一人で中渕の後継総理に最も相応しいと目されているものの本人にその気は無く、彼と共に若手人材の起用を早い段階で計画しているほど公私ともに関係は親密だった。
「中渕さん、何も貴方が汚い役を演じることはないじゃないですか。伊藤達なんか俺や野高副総裁に任せればいいかと……」
「いいえ。森本さんのように先見性がある豪胆な方は真っ先にあの人達の標的にされかねませんから、民自党総裁でもある私も往年の親友の為に動かない訳にはいきません。そこでこのミモレットチーズと缶ビールを使って一芝居打ってくれませんか?」
「なるほど…あんまり馴染みがないこのチーズは国民から見れば直前の打ち合わせで提案した案を蹴られた挙句、冷ややかな対応をしている様に見せかける事や中渕さんの意志は揺るがない様に見せる事が出来るわけですね」
「その通りです。そうすれば党内にいる盛んな人達もあぶり出す事が出来るうえ、国民の皆さんもとい有権者の皆さんに対してもその意見を問う形になりますね。それに、こうでもしないと現実が見えていない人たちから国や党は守れませんからね」
「分かりました中渕さんの健闘を祈ります。さて、俺は純粋すぎるマスコミ諸君に少し刺激を与えてやりますか」
普段は温厚な人柄として知られる中渕もいざ国のターニングポイントが来れば、国家や組織の為にも心を鬼に変えて先見性の無い打算で動こうとする者達には情け容赦のない対応をする事を世間に知らしめるの事に狙いを定めていたものの、ここでも彼の人柄が生きているのか共に芝居を行う森本に被るであろう泥を出来る範囲で跳ねのけた上で自分を悪役に見せようとする友情も垣間見えた。
三十分後、腹を括った中渕は真剣な表情で自分の一言をまとめようるために集まった各社の記者たちの前に立った。
『国民の皆様こんばんは、内閣総理大臣の中渕恵二です。国民の皆様にお伝え致しますが、現在我が日本皇国にとってかけがえのない存在である大敷洲帝国はクーデター発生という未曽有危機を我が軍や警察と共に乗り越えてきましたが、情勢は目まぐるしく変化するばかりです。我が国もこの危機に対してクーデター鎮圧後も様々な形での援助は惜しみませんが、今回の事件では反乱軍や国内情勢に対して不信感を抱き暴徒化した一部市民などを中心に多くの逮捕者も出しました。しかし、同時に我が国が取るべき立ち場について理解が深まった機会であったと考えております。自らの力で再生し大きな発展が望める国に対しての干渉は避けるとともにその成長を見守り、危機が訪れたときは大東亜戦争の時の我が国のように勇ましい解放国家としての誇りを思い出して全力を尽くして民族繁栄を守るべきである事から、諸外国の民族性や伝統を遵守する外交政策を展開する事と致しました。私からは以上です』
現在の情勢としては混乱の隙をついて敷洲帝国政府への政治干渉は十分に可能であり、その先にある日本の経済拡張や外交地位の増大といった世界の警察化も現実的だ。
しかし、その先に待っているのは良き民族文化を踏み躙り破壊し尽くしかねない恐ろしい国としての日本の姿だった。
中渕はかつてのナチスドイツやアメリカ合衆国のように恩着せがましいが故に衰退したという轍を踏まないためにも敢えて穏和な姿勢を貫く事を選択し、国内に一定数居るであろう解放国家と呼ばれる事に驕れ酔いしれる一部の政治家達や異世界の国々を利益向上の手駒として見ている偽善者達への警告としての意味を込めて今回の談話を発表した。
「森本文科大臣にお伺いいたします。たった今、中渕総理が発表された今後の外交政策についてどうお考えですか?」
「それがね。色々と危なっかしい考えとかまた色んな対策を考えるって言ってたんですけど、びっくりしてるんだよ俺」
「という事は総理の独断構想という事でよろしいのでしょうか」
「まあ、そうなるんじゃない?さっき遊びに行った時なんか。この干からびたチーズとビールしか出さなかったから何か苛立ってるような気がしたんだけど、お前たちのイケイケ過ぎる言う事は聞きませんってことかね?俺はそう思えるけど……あの人も怒ると怖いからな(後は頼みますよ中渕さん、このまま日本を侵略国家何かにさせないでくれ)」
森本は官邸の外で談話に飛びついてきた記者たちと他愛もない雑談を交わしつつ、打ち合わせの演技通りミモレットチーズを干からびたチーズと言いつつ缶ビールを怪訝な表情でカメラに見せつけながら内心で中渕に対する期待と共に談話が成功した事に喜んでいた。
ありがとうございました。次回は大敷洲帝国内の動きをメインに投稿致します。ご感想や評価、ブックマークへの追加などお待ちしております!
↓未登場のキャラクターも居ますが、中渕内閣の閣僚と民自党の人事になります!
内閣総理大臣(民自党総裁)・中渕恵二
副総理兼防衛大臣・谷岡秀平
財務大臣・大川昭郎
外務大臣・吉生太一
内閣官房長官・安藤晋介
法務大臣・鷲尾邦正
文部科学大臣・森本喜男
総務大臣・菅原義久
特別統治地域担当大臣・福井康晴
経済産業大臣・亀田静雄
国土交通大臣・山垣禎人
農林水産大臣・石倉茂雄
警察庁長官・黒岩哲也
厚生労働大臣・橋井龍一郎
宮内大臣・額田幸太郎
環境大臣・町田孝志
官房副長官・石澤伸光
官房副長官・川野太平
官房副長官・岸部文成
国家公安委員会委員長・梶原清六
②民政自由党幹部
民自党副総裁・野高広武
民自党幹事長・和泉純吾郎
民自党総務会長・伊藤紘三
民自党選挙対策委員長・谷崎拓磨
民自党政調会長・太田博志
民自党国会対策委員長・赤木幹人
広報本部長・古井慎




