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第二十五話 敷洲列島燃ゆる 後編

ご覧いただきありがとうございます。今回でクーデター鎮圧となります!引き続きお楽しみください!

大敷洲帝国西部地方

大和府太城京市

帝都の南部に位置する太城京市の中心部では帝道派軍人やそれに付き従う決起部隊が展開して一時的に待機しているほか、帝道派の決起と同時に彼らに同情した地元の議員などが彼らと現在と今後の話し合いを継続するなど中立的な意見を持ちつつも複雑な心情で彼らと穏和な接触を行っている。

そんな中、越智少佐が率いる戦車大隊が貸切っているホテルでは腐敗した貴族及び財閥から没収した金品や食糧を生活に困窮する市民に配給している他、各地で捕縛した腐敗分子を地元のメディアを呼んだうえで簡素な裁判を開き明確な証拠を開示した後にその場で斬首または銃殺刑など自身の正当性と帝国内の悪について公表していた。


「少佐、市民からの反応は良好ですが。西部の浪速府の府境では睨み合いが続いており、同地域まで進んだ別の歩兵大隊が現在、府道八号線で府警の警官隊に護衛された府知事と話し合うなどしています」


「同じ敷洲人で殺し合う事に躊躇いがあるのは同じなんだな。だが、悪党共への鉄槌が功を奏したのか東武地方は若干の睨み合いが続いていても殆ど我々に同調している。このまま帝都まで進撃すれば皇帝陛下も我々の正義をご理解される事だろう」


「越智少佐!ご無礼を失礼申し上げます!ま、ま、優仁第一皇女殿下がここにおいでになり少佐との御会見を望まれております!」


「そうか……優仁殿下をお招きするんだ。藤森、席を外してくれ」


「了解いたしました」


越智は藤森大尉からの状況報告を受けながら軍刀を丁寧に拭い手入れしていたが、兵卒の一人が血相を変えて飛び込んでくると同時に思わぬ来客の訪問に対して少し驚くものの副官である彼を退室させてから、兵卒に連れられて来た第一皇女の『優仁(まさひと)』を招き入れる。

恐らくこの混乱に乗じたのか、女性ライダーに変装して帝都から大和府まで走り抜けて来たことを示すかのように若干2ストロークオイルの匂いもするものの視認するものを全て優しく包み込むような瞳に濁りは無かった。


「信広君、貴方から多くの血の匂いがするよ……ここに来るまで色々背負って来たんだね」


「……相変わらず殿下には頭が上がりません。しかし、此度の決起に際して殿下のお気持ちを害した事を重々承知しております。ですが、現在の我が帝国に必要なのは弱者救済と伝統的敷洲主義の保護、平和的繁栄そして皇帝陛下や殿下をはじめとした聡明なる皇族の皆様による親政であると考えている所存でございます」


「そうなんだね……ごほっ……国を愛し護ろうとする意志は大事だけど、この決起が失敗しちゃえば……ごほっごほっ……信広君の命が……だから今す……」


「っ?!殿下っ!殿下っ!衛生兵っ!!殿下の御容態が悪化されたぞ、救護を頼む!!」


優仁は面と向かっても自分達の大義の意義を述べてそれを体現しようとする越智の身を特に心配し、尊王的思想を持つ彼らの思考を把握した上で決起中止を呼びかけようとしたもののここに来て彼女自身の幼少期からの病弱さが祟りそれを知っていた彼は衛生兵や看護婦などを呼びつけ、自室のベッドに寝かせて看護させると優仁の容態は安定したのか静かな眠りについた。


「越智少佐、日本軍が自国の警察や帝国軍と共に我々への鎮圧を開始したそうです。それにたった今、ラジオでも皇帝陛下が……こちらをお聞きください」


『帝国の内情を憂いて此度の決起を断行した勇猛果敢なる諸君に告ぐ、諸君らの憂いに気付くことなく賊徒同然と化していた一部貴族を殺めさせてまで諸君らが決起した事に対して私は非常に申し訳なく思っている。しかし、このまま諸君が抵抗を続けるのであれば逆賊とみなした上で私自ら近衛師団を率いて諸君を征伐せねばならない事に加えて諸君の身を案ずる父母兄弟は国賊になりかねないだろう。今からでも遅くない、その場で武装を解除して直ちに投降するように。私からは以上だ』


「これが陛下のお気持ち………なのか」


「信広君、父上は気持ちは本気だから今すぐに武装を解除して……このまま信広君や他の皆が傷つくのは嫌だっ……」


「殿下……」


「少佐、我々帝道派は元来から皇帝陛下のお考えを尊重し、敬愛する同志達が集って出来た存在。その陛下がお言葉にされた以上はもう大義が無くなったも同然です。どうかご決断ください」


「分かった。聡明なる皇帝陛下ならびにお身体を顧みずにお出ましになった殿下のお気持ちを尊重して、私の指揮下に入る同志達の武装解除を解除せよ。責任は全て私にある為、手出し無用と厳命するように」


「了解、早速伝達致します」


藤森が部屋の中に有るラジオをつけると紛れもなく本物の義仁皇帝の肉声が部屋中に響き渡り、決起を起こした帝道派軍人を説得する趣旨の演説をしていた。

だが、腐敗していたといえど政府が認めた貴族を処刑しながら帝都目前まで進んできた事に対する怒りを皇帝が表すことなくそれに対して自身の過ちを認めると同時に自ら軍隊を率いて帝道派である自分達を征伐しなくてはならない事実を伝えた最後に、自分達を信用しようとする皇帝の言葉を耳にした越智が皇帝の本意を聞いて意気消沈していると、容態が安定して目を覚ました優仁が自分より少し背が低い彼を抱き寄せながら本心を口にした。

そして、越智は忠誠を誓った二人の意志を尊重して藤森に対して武装解除を指示するのであった。




同時刻

西京都中央区金座

一方、金座においても腐敗財閥の幹部の会合を狙って幹部達を殺害することに成功していた帝国陸軍第二戦車連隊を率いる『大橋明五郎(おおはしめいごろう)』大佐は、義仁皇帝が自ら放送したラジオ放送を聞き終えると酷く激怒していた。彼の場合、越智のように皇族の一人が説得に来たわけもなく他の地域でも議員たちが帝道派の兵士達を説得していたのに対して決起から一日が経過しようとした頃に皇帝からの武装解除通告だった。


「馬鹿なっ?!陛下が武装解除を通告されるのか……しかも、いいところまで来ていた越智まで投降だと……こんなもの日本の奴らが皇帝陛下を恫喝したに決まっている!!総員、西京タワーに軟禁されているであろう陛下の解放に向かうぞ!!」


「し、しかし。皇帝陛下は日本との友こ……ぐふぅっ!」


「貴様、上官である俺に向かって説教を垂れるのか?皇帝陛下はな、この俺を認めてくれた御方なんだぞ!!いとも簡単に慈悲を注いでくれた偉大な御方を見捨てろって言うのかこらぁ?」


「申し訳ございま……ひっ」


「おい、また皇帝陛下を愚弄されたり見捨てるような事を言ったら三年前に俺が挽肉にしたデコ助共みてぇにしてやろうか?」


この大橋という男は本心から帝国や皇族そして、一番に皇帝を敬愛し軍務に忠実であるものの今のように自分に対して意見した部下に対して平気で口の中に拳銃の銃口を押し込むなど非常に短気でヒステリックなうえ、常軌を逸した行動を起こしては軍歴の三割を真っ先に前線に立たされる懲罰部隊の隊長として過ごしてきた。

中でも彼を印象付ける出来事として挙げられるのは、三年前に懇意にしていた近所の子供が警官が乗る酔っ払い運転のパトカーによりひき逃げされたものの辛うじて命が助かったという知らせを聞いた際にはこれでもかというほど激怒して二九式軽戦車(史実における九五式軽戦車)でその警官や同乗していたほか三人の警官もその日の内に見つけ出し、徘徊を続けていた彼らのパトカーに戦車で体当たりをしたうえ、搭乗しているにも関わらず戦車でパトカーごと踏み潰して殺害するといった行動を起こしていた事から大切なものを傷つけられると何をするか分からない危険人物として扱われて来た。

ある時、大橋が義仁皇帝の護衛任務に当たっていた際はその戦闘性や可能性に目を掛けられるなど敬愛する人物から認めてもらえたが故に歪んだ正義や君主への愛を持つようになったのだ。


「押忍、隊長!!全車輛及び隊員達の気合も入っています!!このまま日本やあっさり投降した越智のボケ共も粉砕しましょう!!」


「おう。今から皇帝陛下解放作戦開始だっ!!全員、精神力と敷洲魂をありったけ高めて死にに行くぞ……皇帝陛下万歳っ!!大敷洲帝国万歳っ!!」


『『皇帝陛下万歳っ!!大敷洲帝国万歳っ!!』』


そんな大橋の性格及び指導を色濃く受けた第二戦車連隊は、同じ陸軍内から戦車"愚"連隊大橋連合などと言われるほどの別の気合の入り方をしているものの敷洲の為に決起した事実に変わりなく、意図しないすれ違い故に彼らは鉄獅子の大群で甲高いエンジン音や履帯の音を轟かせながら摩天楼の街を走り抜け、大橋は帝国軍が導入したばかりの四〇式特重戦車(史実におけるオイ車)に乗り込んで愛する皇帝陛下を助け出すべく走り出した。




西京タワー通り

通りでは最後の反乱勢力である第二戦車連隊を鎮圧すべく、国防軍の第一機甲師団や帝国軍第一近衛師団といった精鋭が展開していた。

国防軍と帝国軍に護衛される形で、帝都のシンボルである西京タワーで自らラジオ放送を行う事により決起部隊の鎮静化を図ろうとしたものの近衛師団隷下の竜騎兵隊による偵察で大橋が搭乗している四〇式特重戦車を先頭に中戦車や軽戦車が魚鱗陣形で西京タワーへの突入を図ろうとしている事が分かった。

黒田や小棚木、蝶野の第一機甲師団三羽烏は彼らを誘う受ける形で防御態勢に徹しており空から第四攻撃ヘリコプター隊のヘリが催涙剤を散布すると同時に、あえて機関砲掃射による履帯破壊など軽微な被害に留めさせる逮捕者確保重視の作戦である。


「もう敵さんが見えて来たね。あれがオイ車かよ……異世界クォリティ怖いね」


「ですね。あっ中戦車がガンガン撃ってきてますよ」


「それでも全弾弾いてますけど。金属音がヤバいです」


三人が10式戦車が我慢している傍ら、三輌に対して行進間射撃を行いつつ接近しているが全弾弾いている。そんな中、上空からヘリコプターのローター音が聞こえて来たため作戦は一気にフィナーレへと差し掛かって来た。

五機の87式観測ヘリコプターが第二戦車連隊に向けて催涙ガスを散布した直後、入れ替わるかのように65式攻撃ヘリコプター改が戦車の背後に回り込んで履帯やエンジンを狙うなど軽微な被害を続出させて足止めを開始した。


「第一機甲師団三羽烏……突撃に前へっ!!」


「「了解っ!!」」


攻撃ヘリコプターの機関砲掃射に併せて一気に距離を詰めていくものの、四〇式特重戦車の主砲から発射される榴弾が装甲を掠めては後方で大きく爆発するほか、副砲から発射される徹甲弾が10式戦車の装甲に連続して直撃し、堂々と三輌でスラローム走行で距離を詰めていく事で気を引かせていく内に近衛師団の歩兵達が喊声を上げながら戦車に飛び移って戦車兵達を引き摺り降ろしていき、最後まで気を取られていた大橋達も拘束された事に加えて後続の戦車中隊なども鎮圧を開始した他の部隊により、足止めされる形で投降した。


「むぅ……もはや未練などないっ!!殺せっ!!」


「大橋よ、待って居たぞ……」


「なっ?!へ、へ、陛下っ!!」


「派手に暴れたのか怪我人ばかりだな……だが、私はお前たちが命を落とさなくて良かったと思うぞ。そしてここまで追い詰めてしまった事を後悔している。無論これは本心だ」


「……陛下、私はどの様な処遇でも甘んじて受ける所存でございます」


「そうか……今は父母より授かったその身を綺麗に治せ」


義仁皇帝は近衛兵達に護衛されながら10式戦車の後方より姿を現すと、手錠を掛けられて項垂れる大橋に対して目線を合わせつつ彼に対してクーデター鎮静化が本心であるという事を直接伝えつつ自身に対して忠誠を誓い続ける大橋を励ます一言を掛けた。

大敷洲帝国における帝道派によるクーデターは敷洲帝国軍と日本皇国国防軍や警視庁機動隊が協力して鎮圧したものの、敷洲人がお互いの正義を信じたためか帝道派によって殺害された腐敗分子を除いて重軽傷者多数という結果に終わり、クーデターを指揮した荒川大将や松永大佐も東武地方において皇帝の肉声を通じた放送を聞いて決起部隊に武装解除を命令した上で政府軍に投降した事で彼らによるクーデターは終わりを迎えた。

ありがとうございました。次は帝道派幹部の処遇や日本国内の動きについての話になる第二十六話を予定しています!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 クーデターは鎮圧、クーデター側が排除したかった人間は揃ってお亡くなりにと。国内の癌は一掃され実行部隊も降伏、 敷洲政府の不安定勢力は多くがとどめを刺された状態でしょうね…
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